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アルミ缶リサイクルマーク方式に無限強化される魔王~経験値の時代は終わった。戦わなくても自分を食べて笑顔でレベルアップ~ 作者:あかまろ
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第5話:魔王の子と剣聖

 俺とツキカゲ様の前に現れたミューレット・アルクレアと名乗る勇者の少女。青い髪を風になびかせてローグ村を進む俺達の前に立ち塞がる。
 ……なるほど、こいつがこの村から感じていた圧力の正体か。勇者は通常の人間とは違う特別な気配を発している、元々索敵を得意とする俺であれば相手が勇者かどうかなど名乗られなくても一目で分かる。だが村の外までその存在を認識させる勇者は稀だ。たかが少女と侮るのは危険かもしれないな。
 俺は勇者の少女から視線を外さないまま口を開く。

「盗賊? 私達は今この村に着いたばかりでなんの事だかさっぱり」

 これは本当の話だ。相手の情報、この村の状況、そしてこちらがボロを出さない為には真実を交えて話すのが最も効果的だからな。それにこいつは俺達の事を盗賊と言った。つまりは俺達以外の敵がこの村にいる可能性が強く、その勘違いを正してやれば案外懐柔も容易かもしれない。何も勇者と正面切って戦う必要はない、刺すなら後ろからだ。
 勇者の少女は案の定、口に手を当ててしまったという表情を見せる。

「えっ? そうだったですか?」

 ふん、ちょろいな。俺は心の中でほくそ笑む。

「そんな悪人顔なのに盗賊じゃないんですか!?」

 おい、鋭いけど失礼だな。

「我々は別の大陸から来たので肌の色などがこの地域の人と少し違いますからね。奇異な目で見られても仕方がないですよ、それと顔は生まれつきです」

 俺は咄嗟に話を合わせて応対する。勇者の少女は申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。

「すいません、私ってば勘違いしてて」

「いえ、それよりも村の様子がおかしいとは思っていましたが何かあったのですか?」

 大体察しはついているがな。
 俺は惚けたフリをして勇者の少女に尋ねる。

「はい。実はこのローグ村の近くに最近盗賊が住み着いちゃったみたいで。村の人達は怯えて皆家に隠れているんですよ」

 やはりそんなところか。人間とは実に愚かな生き物だな。我々魔王軍が手を下さなくても勝手に争い、その数を減らしていくのだから。

「なるほど、それで勇者のミューレット・アルクレア様がこの村を救いに来たというわけですね」

「いいえ! 実は私、空腹で倒れている所をこの村の人達に救ってもらいまして。そのお礼をどうしてもしたくて盗賊を取っ捕まえようと思い立った訳なのですよ!」

 恥ずべき失態を元気よく答える勇者。大丈夫かこいつ? ……まあ、どうやらこちらの行動が勇者に漏れていたという訳ではなさそうだ。ひとまずは安心だな。
 ほっと胸を撫で下ろし、俺は情報収集の為に続けて勇者に尋ねる。

「それは大変でしたね。そして義に厚いのは素晴らしい事です、流石は勇者様。それにしてもなぜ行き倒れに? 仲間が一緒ではなかったのですか?」

「私友達いないので」

 青い髪をくしゃっと触りながら言いにくそうに呟く勇者。友達の有無を聞いてはいないのだが……それにしてもアルクレアか、どこかで聞いた事がある名だな。

「二人は仲良しそうで羨ましいです。えーと……そういえばお名前聞いてなかったです。なんてお呼びしたらいいですか?」

 名前か……シゴック様の威光が強すぎて俺達の名前などほぼ認知されてはいないだろうがあえて本名を言う必要もないな、ここは適当に……

「そいつはヒルポチさ」

「!?」

「そして俺の名はツキカゲ。花と緑を愛する心優しき男さ、人間の女さん」

 いつの間にか右手に一輪の花を持って片膝つきながらカッコをつけているツキカゲ様が話に割って入って来る。
 ちっ、腐っても魔王の血筋か。確実に喉を潰したはずなのにもう回復していやがる。しかも本名をペラペラと……!
 俺はこれ以上失言をしないようにとツキカゲ様の首根っこを捕まえてコソコソと耳打ちする。

「(ちょっとツキカゲ様! なに本名を明かしているんですか)」

「(黙れポチ! この裏切り者め。一人だけ人間の女と楽しそうに喋りやがって! 俺も混ぜて下さいお願いします!)」

 ヘッドロックを食らったまま必死にお願いしてくるツキカゲ様。

「(楽しそうに喋ってなんかいないです。話聞いてました? あの女は勇者です、我々の敵なんですよ!)」

「(馬鹿者ぉ! そんな狭い視野で物事を考えてどうする。彼女は勇者である前に女なのだぞ! )」

 えぇ……

「何話しているんですか?」

 コソコソと話していた俺達を勇者がひょいっと覗きこむ。その言葉に尋常でない力で俺のヘッドロックから抜け出し膝をパンパンと払いながらツキカゲ様が答える。

「いやぁ、ゴメンゴメン。待たせちゃったね……あ、今日はいい天気だね」

「あ、はい。いい天気ですね」

「えーと……て、天気が良くて気持ちいいね」

「? そうですね」

「あの……その……て、天気が……」

 話しのボキャブラリー少なっ! 人間の女が好きそうな話題を夜な夜な勉強したんじゃないのかよ。
 初めて人間の女を前にして緊張からかツキカゲ様はしどろもどろのパニック状態になっていた。背中からは滝のように汗が噴き出ており目には薄っすらと涙が溜まっていた。

「ポ、ポチィィーー!」

 堪らず泣きついてくる魔王の愚息。俺はツキカゲ様の頭をよしよしと撫でながらあまりの情けなさに溜息を漏らす。

「さっきまでの威勢はどうしたんですか、はぁ……本当にしっかりして下さいよ」

「う、うるさい! だってあの勇者、顔も小さくて可愛いしその上なんだかいい匂いまでするんだぞ。そんなん普通に話すなんて無理やん」

 産まれたての子馬のように足をガクガクと震わせて必死に俺に掴まっているツキカゲ様の目は興奮からか焦点が定まっていない。

「あの〜大丈夫ですか? なんだか震えているみたいですけど」

「いやコレの事は気にしなくても大丈夫です、その内慣れるでしょう。それよりもミューレット様には仲間はいない、そう言いましたね」

「あ、はい」

 つまり相手はこの小娘一人。ならばいかに勇者といっても造作もないな。殺ってしまうか……今、ここで。
 泣きつくツキカゲ様越しにキョトンとしている勇者を見つめながら右手に力を込める。

「ゆ、勇者様ぁ〜〜」

 その時、村の奥からかすれた声が聞こえてくる。声の方向に目をやると年配の男が杖をつきながら懸命に駆けてくる姿が見えた。

「村長さん、どうしたんですか?」

 すぐに破れてしまいそうな生地の布を纏ったみすぼらしいその老人はどうやらこの村の村長らしい。しかしその姿に村を統治する威厳は微塵も感じられない。

「はぁ、はぁ……ゆ、勇者様、盗賊の居場所が分かりましたのじゃ……」

「えっ!? 本当ですか?」

「はい、村の最後の男手であるハンスが奴等のねぐらを突きとめてくれました。これで連れて行かれた村の女子供の安否も確認できるやもしれませぬ」

 ピクッ……
 顔を伏せ泣きじゃくりながらも女と言う言葉にしつかり反応するツキカゲ様。

「勇者様。こんな事を頼める義理ではないのですが、盗賊を追い払い村の住人を連れ帰って来てはもらえぬでしょうか」

 勇者はその言葉にドンッと胸を叩いて答える。

「あったり前じゃないですか! 村長は命の恩人です。それに困っている人を助けるのは当然ですよ」

「おぉ……勇者様」

「任せて下さい! 剣聖アルクレア家の名において必ず村の人達は助けだしてみせます!」

 ……! 俺は剣聖という言葉にハッとなる。
 思い出した! 剣聖アルクレアか! その剣は地を裂き海を割ると言われ、かつてあのジゴック様に一太刀を入れた剣の名家。こいつ、その子孫だったのか!?

 そうなると話は別だ。世界に数人しかいないジゴック様に手傷を負わせた勇者の末裔。安易に敵意を見せたらこちらが危ない。
 ……しかし、ここでふと疑問が湧く。この勇者の少女、見たところ剣を持っていない。と、言うよりも丸腰だ。どこかに仕込んでいるのか?
 俺はこちらの意図を察しられぬように慎重に勇者に尋ねる。

「なんと……ミューレット様はあの有名なアルクレア家の人間だったのですね。気付かずに失礼しました」

 頭を下げながら勇者が纏う白い法衣を観察する。短めに編みこまれたその法衣は動きやすそうではあるが武器を隠すスペースはないように思えた。

「いえいえ、私は家を出て来た身なので正確にはアルクレアと名乗っていいか微妙なんですけどね」

「……? そうなのですか?」

「はい、私が家から持って出たのは小さい頃から習っていたアルクレアの剣術と剣聖たる証である命よりも大事な聖剣ファフナールだけです」

 聖剣ファフナールか……やはり剣を隠し持っているのだな。

「……そうですか、しかし見たところ今は剣を所持されていないようですが、宿にでも預けてあるのですか?」

 もしそうなら今は殺るチャンスか? いや、だが他の力も未知数だし……

「いえ、売りました」

「……は?」

「あ、だから食うに困って売っちゃったんですよ。いや〜案外売値が安くて二ヵ月分の食費くらいにしかならなかったんですけどね」

「命よりも大事な聖剣なのに!?」

 勇者の驚愕の発言に自分の耳を疑い身を乗り出す。

「いやだなぁヒルポチさん。命よりも大事って言うのはそれくらい大事なんですよ〜っていう比喩であって本当に剣が命よりも大事な訳が無いじゃないですかぁ。餓死するくらいなら当然売りますよ」

 当然売るんだ……
 もしかしてこの勇者、殺す価値もないボンクラなんじゃ……

「話は聞かせて貰ったよ村長」

 呆気に取られていた俺とは対照的にいつの間にか平静を取り戻していたツキカゲ様が仁王立ちで雄弁に語りはじめる。

「盗賊に囚われている女……いや村人を助ける為に俺達も一肌脱ごうじゃないか。一肌脱いだお礼に助けた女で人肌祭り……な〜んて事はまったく考えてはいないよ? いやマジで」

 とち狂った事を言い始めるツキカゲ様。

「本当でございますか旅のお方!?」

「ああ、任せてくれ! もう考えただけで鼻血が出てきそうだ」

「わぁ〜! じゃあ私達盗賊を懲らしめる為のパーティーですね!」

 嬉しそうにポンッと手を叩く勇者。ツキカゲ様は益々上機嫌で声高らかに宣言する。

「よぉ〜し! この世に悪がある限り俺達に平穏はない。いざ行こう、光り輝く至福の未来は自らの手で切り開くのだ!」

「お〜〜♪」

 勇者もその場でぴょんと飛び跳ねて拳を突き上げる。
 こうして本来の目的からは大きく逸脱し盗賊討伐へと向かう事になった魔王の息子と剣聖の勇者、そしてそのお供である俺……前途は実に険しそうだ。
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