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アルミ缶リサイクルマーク方式に無限強化される魔王~経験値の時代は終わった。戦わなくても自分を食べて笑顔でレベルアップ~ 作者:あかまろ
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第3話:ツキカゲ

 これは罰だ。
 ジゴック様が死ぬ間際に残した「任せた」という言葉は呪いのように頭にこびりつく。ジゴック様のお側にいながら何一つ期待に応えられていなかった俺達は償う術を持たない咎人。
 ジゴック様が健在であるならばあるいはダルニャンが己の命と引き換えにでも魔王の血筋同士での争いを反対したかもしれない。血気盛んなリエリアはその場ですぐご子息同士の決闘を提案したかもしれない。そして俺は魔王の子達の寝首をかき俺自身が魔王を目指すという選択をしていたかもしれない。
 だがそれも全てはジゴック様あっての選択肢。現実的には大魔王を失った魔王軍は危機に立たされており早急に次期魔王を選ぶ必要がある。しかし人選と時期は慎重を要するのだ。

 まず人選だがこれはもう三人のご子息に絞られる。仮に俺がまだ成熟しきっていない魔王の子達を倒した所で誰も俺を次期魔王とは認めないだろう。最も強い者が魔王に相応しい……俺もそう思う。だがそれは真に最強であったジゴック様の言葉だからこそ真理と成り得るのだ。その言葉の後ろ盾はもうない。ジゴック様亡き今、魔王軍を混乱なく纏めて行くには魔王の血筋という代え難い説得力が必要なのだ。

 次に時期、これはすぐにという訳にはいかない。ジゴック様を失い更に次期後継者争いで魔王軍内の戦力が疲弊すれば勇者達の思う壷。そんな危険を冒してまでまだ幼い魔王をすぐに主君として据えるのは人間達に滅ぼしてくれと言っているようなものだ。

 最後に魔王の血筋が一丸となって魔王軍を立て直すという選択肢、一番堅実で正しいと思われるこの選択……これだけはあり得ない。そこについてはリエリアもダルニャンも同じ気持ちだっただろう。
 何故なら俺達は後継者争いをジゴック様に任されたのだ。子同士の争いを口にされた時のジゴック様は今までに見せた事がないような嬉しそうな表情をしていた。それを為す事は俺達が最後に与えられた免罪符、ジゴック様への変わらぬ忠誠を示す唯一の方法……

 こうしてジゴック様の死は俺達三人の秘密として後継者である魔王の子供達を争わせる事になる。選ぶ道など他にない、我らの永遠たる主君の御言葉は全てにおいて優先されるのだから。


――――「ポチ、どうした?」

 目元まで伸びた黒い髪、ぱっちりとした大きな瞳もまた吸い込まれそうほどに黒い、そして対照的に雪のように白い肌。背丈もさほど大きくはなく父親以上に人間と区別がつかない容姿は小憎らしくすら感じる。そんなツキカゲ様の呼び掛けにハッとする。考えごとをしているとつい没頭してしまう俺の悪い癖だ。

「いえ、なんでもありません。それよりも見えて来ましたよ。あれがローグ村です」

「へぇ〜〜あれが『むら』か……」

 俺は当初の予定通りツキカゲ様を研修の為に人間の村へと連れて来ていた。事情は変わった、だがツキカゲ様に実戦経験を積ませなければならない理由は以前の比ではなく大事なものとなったからだ。
 人間と森を抜け目の前に現れた小さな集落を前に魔王の次男はふるふる震えていた。

「ひゃっほーーーーう!! 『むら』だぁ! 夢にまで見た『むら』に遂にやって来たぞ俺は」

「ツキカゲ様、ここはもう人間達の領内ですあまり大声を出されては……」

「はっはっはーー! 待っていろよ人間の女ども! 今魔王の血を引くツキカゲ様が会いに行くぞぉ!」

 おい、誰かこの馬鹿をなんとかしてくれ。

「魔王軍はゲテモノばかりで可愛い子なんて一人もいなかったからな。ポチ! 場合によっては俺は住む! この『むら』に住むぞ!」

 こいつ……ジゴック様の子でなければ百回は殺している。幼い時には無垢で可愛かったのだがどこで道を踏み外したのか……
 自分の怠慢が招いた結果とはいえ反吐が出る。ツキカゲ様にはこれまで過保護ともいえる教育しかして来なかった。それは俺が大魔王様の息子に厳しくしすぎて指南役を外されたくないという打算的な思いと、その血統から魔王軍内でも兄や姉ほど期待されておらず俺自身も本腰を入れて教育しようという気がまるで無かったからだ。
 俺と大魔王様を結び付けるただのシンボル……それが俺にとってのこれまでツキカゲ様の位置付けだった。だがその偉大な大魔王様はもういない。そして俺は任されているのだ、事がどれだけ深刻か粒さも考えていないだろうこの呑気な糞ガキを。

「ゲテモノばかりとは随分な言い草ですね、リエリアが怒りますよ。それにルナプリ様もいるではないですか」

「馬鹿者! 姉に欲情する弟がいるか! それにリエリアはいくら顔が良くても駄目だ、あいつは怖いからな。この前もルナ姉ちゃんのパンツを被って遊んでいたら危うく殺されかけたのだぞ!?」

 ……お前、マジで何やってんだ。
 むしろそこで始末されてくれれば今俺はこんなに悩む事もなかったのに。

「ツキカゲ様、女性のパンツを被るのは今後二度とやめて下さい、約束ですよ。もし破ったら……」

 俺は右手を大きく広げてツキカゲ様の顔を覆うように掴みそのまま力を込める。

「ぎ、ぎゃああぁぁ! い、痛い! 何をするんだポチ!?」

「もう悠長に遊んでいる暇はないのですツキカゲ様、貴方にはこれから魔王として相応しい立ち振る舞いと実力を備えて貰わないといけないのですから」

 そうだ、このツキカゲ様の惨状も俺の咎。とんなに困難であろうとも必ずツキカゲ様を次期魔王にしてみせる。
 強い決意からついつい指に込める力が強くなる。

「痛ったぁぁぁぃぃぃーーーー! ポチ、顔が取れる、顔が取れるからやめてぇぇ」

「あ、すいません。つい」

 俺は思い出したようにツキカゲ様を掴んでいた右手を離す。ツキカゲ様は自分の顔をさすりながらぶつぶつと呟く。

「もう、痛ったいなぁ。なんだかポチ最近厳しくね? もしかして親父からなにか言われた? 厳しくしろーーとか」

「……いいえ」

 ついツキカゲ様から目線を逸らす。この愚息がジゴック様の死を知ったらどうするのだろうか。泣くのだろうか、黙っていた事を怒るのだろうか、それとも……
 いや、今はそれを考える時ではない。ツキカゲ様は真実を知るにはまだ幼稚すぎる。まずはこの村でその資質、見極めさせて貰いますよ。
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