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アルミ缶リサイクルマーク方式に無限強化される魔王~経験値の時代は終わった。戦わなくても自分を食べて倍々レベルアップ~ 作者:あかまろ

ツキカゲ編

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第2話:魔王の退屈

「ジゴック様、お呼びでしょうか」

 俺は魔王の間につくと片膝をついて敬礼する。リエリアとダルニャンもまた同様に大魔王様の目線よりも顔か低い位置に来るように跪く。そんな床についた俺の膝にはグチョリと腐臭のする液体がこびりつく。少し顔をあげるとそこは血の海だった。ジゴック様の説得にあたり命を落として行った魔物の骸がそこらに転がっており赤い絨毯は青や緑の血を吸い取り黒ずんでいる。ジゴック様は気にする様子もなくいつものようにお気に入りの椅子に深々と腰掛けて退屈そうに虚空を眺めていた。

「申し訳ありませんジゴック様、すぐに片付けます」

 ちっ……
 魔王の間を血で汚した主君に背いた馬鹿共に怒りさえ覚える。こんな汚れた場所にジゴック様を座らせておけないと率先して魔物の残骸を片付けようとする。

「よい、ヒルポチ。お前達を呼んだのは掃除をさせる為ではない」

 そのままゆっくりと椅子から立ち上がったジゴック様、ただその場で腰を上げたけなのにピリピリとした圧力が頭越しに伝わって来る。これが魔の王、決して俺達には踏み込む事ができない領域。
 目の前にいるお方は姿形だけなら初老の男性と見間違う程に人間に似ている。だが100年、100年だ。長きに渡り人間との戦いに勝ち続けて来た絶対的な王は一目で全てを超越した存在であると分かる。それは魔物でも人間でも家畜でも虫でさえも否応無しに理解してしまうだろう。いや、造型など無意味であると言いたいが為に今のお姿なのかもしれない。

「わしの子等は元気に育っておるか?」

 ジゴック様は自慢の長く伸びた白い髭を触りながら俺達に語りかけてくる。これは珍しい事だ。ジゴック様は基本子育てに関して放任主義というか、一定の決まり事だけ俺達に指示して後の育成は一任されていたからだ。
 まあそもそも魔王が子孫を残すという事自体が異例ではあるのだが……

「はい、それはもう順調に育っております。流石は大魔王様の子です、特にルナプリ様の潜在能力は素晴らしい。力の使い方を覚えればすぐにでも比肩する者のいない魔力を備えた立派な魔王になりますでしょう」

 ここぞとばかりにリエリアがルナプリ様のアピールを始める。この糞サキュバスめ……

「そうか……エルローシュはどうだ? ダルニャン」

 リエリアの報告に対して一瞬目を細めたジゴック様は続けてダルニャンに問う。

「エルローシュ様の実力はすでに魔王軍でもトップクラスですにゃ。後数年もしない内に大魔王様に次ぐ力を手に入れるでしょうね。ただ……」

「ただ、なんじゃ?」

「いえ最近エルローシュ様がなにかを思い悩んでいる節がありますにゃ。我輩にも話してくれにゃいので少し心配です」

 飄々とジゴック様に報告する化け猫。馬鹿かこいつは、最も魔王の座に近い位置に居る長男の不安要素をこの場で露見する意味がどこにある。指南役として自らの無能を吐露しているようなものだ。

「まあ思春期ですから色々多感な時期なんだと思いますけど」

 挙句不安要素を思春期で片付ける化け猫ならぬ馬鹿猫。これもいつも通りの事とはいえやっぱりこいつとは相容れない部分があるな。

「ふむ、そうか。引き続きエルローシュの事は頼むぞダルニャン」

 ……? 俺はここで初めてジゴック様の様子がおかしい事に気づく。今ジゴック様はダルニャンに対して「頼む」と言った。大魔王様のお言葉には何人も抗う事はできない、これは自分の考えに異を唱えた者は全て抹殺して来たジゴック様だからこそ言い切れる真理なのだ。
 故にジゴック様は頼み事などしない、頼まずとも逆らえる者などこの地上にいないのだから。

「ジゴック様……?」

 違和感を覚えたのは俺だけではない、言葉を掛けられたダルニャンも隣にいるリエリアもいつもと何かが違うと感じながらもそれをどう表現していいか分からず困惑しているようだった。

「ツキカゲの様子はどうだ? ヒルポチ」

 ジゴック様は俺達の動揺など気にする事もなくツキカゲさまの話題を俺に振ってくる。そうだ、ジゴック様の御心等俺たち凡夫に伺えるはずもない。今、俺がやるべき事はアピールだ。話しの流れからしても後継者に適しているのは誰かを見極めているに違いない。

「ツキカゲ様は翌月には人間の村に連れて行く予定です」

「ほう、そうか」

「はい。今までは城内での勉学が中心で危険が及ぶ実戦からは遠ざけておりました。しかしツキカゲ様は無限の可能性を秘めているジゴック様の息子です。ジゴック様が引退される今、少しカリキュラムを早めて立派な魔王になるよう私の全てを賭けて尽力する所存です」

 俺はあえて魔王という言葉をツキカゲ様を指して使った。無駄な足掻きかもしれないが少しでも可能性があるのであればツキカゲ様を次期魔王にしたい。そうすれば俺は最強の父を持つ魔王の右腕……一生安泰だ。

「ふむ、オッケー」

 こちらの熱とは裏腹に指でOKマークを作り軽めの返事が返って来る。
 くっ、やはりツキカゲ様はあまり期待されていないのか? これは駄目かもな……

「では三人の子供達の中からわしの後継者を選びたいと思う」

 ジゴック様の口から核心に迫る言葉が発せられる。ついに来たか……場に緊張が走る。ツキカゲ様の勝算は薄い、だが何かの間違いが起こってくれないかと祈るような気持ちで次の言葉を待つ。

「次期魔王の座は……」

 ゴクリ……

「一番強い奴な」

 ……へ?
 ジゴック様の発表に俺達は一瞬言葉を失う。これは遠回しに長男のエルローシュ様に継がせると言っているのか? いや、ジゴック様はそんな面倒な言い回しをするお方ではない。

「ジ、ジゴック様。一番強いというのはその……何を基準にしているのでしょうか」

 恐る恐る尋ねる。

「だから一番強い奴じゃよ。魔王の条件なんてそれだけじゃろ? なんならお前達の誰かが魔王になってもいいぞ? わしの子等に勝てる自信があるならな」

「い、いえ滅相もない……です」

 少し言葉に詰まったのは自分の限界を決めてしまった未練があるからだろうか。いや、自信のある無しではなくこの場で「じゃあ魔王やります」なんて言える訳がない。
 そんなたじろぐ俺を横目にリエリアがずいっと前に出て発言する。

「仰る事はよく分かります。しかしジゴック様のように全てにおいて他の追付いを許さぬ一番というわけにはどうしても……あっ、ですが魔力ではルナプリ様が一番というのは確定的ですね。これからの時代はやはり武力より魔力、そういう意味でもルナプリ様が次期魔王には相応しいですわ!」

 白々しくルナプリ様を推して来るリエリア、本当にいい根性をしている。

「実際戦ったらやっぱりエルローシュ様が勝つと思うけどにゃ〜」

「黙りなさいダルニャン! 贔屓が過ぎますわよ!」

 ここは俺もツキカゲ様推しで割って入りたい所……だが長男、長女に比べてここぞと推せるものは今の所ない。いや! この機を逃せば次はない、ここは虚言でも前に出て行くべき時だ!

「それならばツキカゲ様だって……」

「だから殺し合えばいいじゃろ?」

 へ?
 俺の言葉はジゴック様の突飛な発言にかき消される。

「武力でも魔力でも軍事力でも運でもなんでもよい。結局強い者が生き残る、そういうものじゃ」

「にゃ〜でもそれはあんまりじゃにゃいですかね? 特にルナプリ様とツキカゲ様は仲が良いですし」

 ダルニャンが口を挟む。呑気な顔をしている化け猫だかジゴック様に意見する意味が分からない奴ではない。……消されるぞ!?

「何を言っているのダルニャン? ジゴック様の素晴らしいご提案じゃない。魔王の血筋は一人で十分、そういう事ですねジゴック様」

 リエリアは逆にこの提案に乗り気だ。いや、乗る以外の選択肢は俺達にないと言う方が正しい。あえて口を出しているのはダルニャンを助ける為に、というのは考え過ぎか。
 ……それに俺にとっても悪い話ではない。俺はダルニャンの肩をポンと叩き下がるように合図した後、ジゴック様に最終確認を取る。

「良いのですね、仮に我々の誰かがご子息を殺すような事になっても」

「良いぞ。ヒルポチ、お前が魔王を目指すか?」

「分はわきまえているつもりです。大魔王様の血筋に勝てる者などこの中にもいないでしょう、ですがご子息同士を争わせるという事はそういう可能性がある事を御理解頂きたい。我々はそれぞれのご子息の指南役なのですから」

 ジゴック様を前にこれ程強い口調を使ったのは初めてお会いした時以来かもしれないな。それでも言質は取っておきたかった、誰が魔王になるにせよ実質的な魔王軍のトップはジゴック様である事に変わりはないのだから。

「だから良いと言っておるだろう。リエリアもダルニャンも我が子相手でも手を抜くような真似はするなよ」

 ジゴック様は俺達三人に念を推すとゆっくり右手を自分の首筋に当てる。

「さてと……」

「……? ジゴック様」

「じゃあそういう事で後は任せたぞ」


 ブシュゥゥゥゥゥーーーー! 

「え……」

 ……その瞬間は何の前触れもなく突然やって来た。
 床には恐怖し敬愛したジゴック様の首がゴロリと転がる。主人を失った胴体からは勢いよく鮮血が飛び散り血染の絨毯をより黒ぐろと色付ける。稀代の大魔王と呼ばれたジゴック様の最後は実に呆気ないものだった。

「な……んで」

 突然の事にその場で膝から崩れ落ちる。その時不意に目に入ったのは無造作に転がるジゴック様の首、それは死して尚退屈そうな表情だった。

 あぁ……そうか。
 俺はその顔を見てやっと理解する。ジゴック様は飽きていたのだ。魔王業だけではない、子育てに、歯応えのない勇者に、自由しかない不自由なこの世界の全てに……
 だがジゴック様の死を悲しむ権利は俺達にはなかった。傀儡のようにつき従い退屈を提供し続けた俺達もまたジゴック様を殺した加担者なのだから。
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