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アルミ缶リサイクルマーク方式に無限強化される魔王~経験値の時代は終わった。戦わなくても自分を食べて倍々レベルアップ~ 作者:あかまろ

ツキカゲ編

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第1話:魔王引退宣言

「わし魔王辞めるから」

 一夜にして難攻不落といわれた城を落とし、片腕一本で歴戦の勇者を十組纏めて葬りさる。武勇伝を挙げればキリがない、そんな後世に語り継がれる稀代の大魔王ジゴック様の突然の引退宣言から三日。魔王城内では必死にジゴック様への説得が続いていた。
 魔王の間からはこの三日間数えきれない程の魔物達の断末魔の叫びが聞こえてくる。まったく馬鹿な奴等だ。ジゴック様が自分の意思を変えられるはずがない、そんな事も分からぬ愚物が哀れにも不要な使命感を持って主君の機嫌を損ねては消されていく。ご苦労な話だ。
 この俺、ヒルポチはそんな愚行は犯さない。理不尽なまでの強さと性格を併せ持った大魔王様に長く仕え、陰ながら助力して来たその経験から分かるのだ。苦もなく落とせる城塞都市、他愛もなく紙くずのように引き裂かれる希望の勇者、あまりに突出した存在である為に不自由になれないジレンマ、満たされ過ぎてしまう欲求……
 近くで見て来たからこそ分かるのだ、ジゴック様は魔王業に飽きたのだと。

「ちっ、しかし貧乏くじを引いたな……」

 俺は目に入りそうな程に伸びた銀髪をかきあげながら深い溜息を漏らす。愚痴も出ようというものだ、ジゴック様から厚い信頼を得ていた俺は幼きご子息の世話役兼指南役に任命されていた。しかしよりにもよって俺が受け持っていたのはジゴック様が人間との間に作った子供、ツキカゲ様。
 ジゴック政権が続くのであれはそれで問題はなかったが今の状況では話が別だ。ジゴック様の説得は無理……となれば今のご子息の中から次期魔王を選ぶ事になる。そして俺は立場上ツキカゲ様を推していかなければならない、つまりツキカゲ様と俺は一蓮托生なのだ。

 はぁ……
 魔王の後継ぎは年功序列ではない。しかしやはり武勲に優れた長男のエルローシュ様が後継者の筆頭だろう。そして血筋の観点からも最も可能性が低いのがツキカゲ様……これが溜息を漏らさずにいられるか。

「相変わらず冴えない顔をしているわね、ヒルポチ」

 そんな俺に小憎らしい口調で声を掛けて来る女が一人。つり上がった目尻に整った顔立ち、派手な金髪、そして不必要にでかい胸、背中では小さな悪魔羽をバタつかせ指南役とは思えない色気をふりまくこの女は夢魔サキュバスのリエリア。魔王の長女ルナプリ様の指南役で俺の同期でもある。

「リエリア、お前も楽観視していられる状況じゃないぞ。近くジゴック様から正式に発表があると思うが十中八九後継者はエルローシュ様だ。俺達は大魔王ご子息の指南役から魔王の血縁者の側近に格下げだ」

「あら、ルナプリ様は最近メキメキと力をつけて来ているのよ、エルローシュ様にも負けないくらいにね。きっとジゴック様も見ていらっしゃったんだわ、だからこそこのタイミングでの引退なのよ。つまり格下げが確定しているのは貴方だけ。もしルナプリ様が魔王になったら私は魔王の右腕……今度から私には敬語を使って頂戴ね」

 勝ち誇ったような顔をするリエリア。少しだけ魔王に選ばれる確率が高いルナプリ様の従者であるだけなのにこの自信はどこから来るのか、嫌な女だ。しかしジゴック様も女に甘い節があるからな。もしかして本当にルナプリ様を……もしそうなったら、むぐぐ……この女の下につく事だけは死んでも御免だ。

 想像したくない未来の絵が脳裏をよぎり歯ぎしりをする。そんな時、魔王城の長い廊下をコツコツと音を立てて歩いて来る男が一人。巨大な体躯に長さの揃わない三本髭、クリっとした黒目、茶色い毛むくじゃらの体を覆うように年季の入った皮のボロ鎧を身に纏った小汚い化け猫。この猫……いや、この男はエルローシュ様の指南役ダルニャン、つまりは今一番魔王の右腕に近い男だ。このダルニャンも同期なのだがリエリアとは別方向で指南役に適していない風貌である。
 俺は近づいて来るダルニャンにトゲトゲしい言葉を浴びせる。

「なんだよダルニャン。言っておくけどお前がどんな立場になっても俺は絶対お前に敬語は使わないからな」

「敬語? 何を言っているヒルポチ。我輩は大魔王様が呼んでいると伝えに来ただけにゃ。リエリア、お前もにゃ」

「ジゴック様が? 何か御用かしら……はっ!? もしかしてルナプリ様を後継ぎにする相談!?」

「馬鹿言うな、俺も呼ばれてるだろ。多分力を合わせてエルローシュ様を盛り立てていってほしいとか、そういう話だろうよ」

 俺は半ば投げやりに吐き捨てる。

「内容は我輩もまだ聞いてないにゃ。とにかく大魔王様を待たせるにゃ、行くにゃ二人とも」

 先導するダルニャンの姿が今の立ち位置を表しているようで面白くない。俺はせめてもの意地とばかりにダルニャンを追い越し率先して魔王の間へと歩を進める。

 俺は魔物の中でも亜人種と呼ばれ、銀色の髪と黒褐色の肌それと右耳から生えた角以外は人間とほとんど見た目に変わりがない希少魔族。当然下等種である人間とは身体能力も魔力も桁違いの差があり似て非なる存在と言える。そう、自分が唯一無二の強者だと思っていたのだ大魔王様と出会うまでは……
 井の中の蛙、俺にぴったりの言葉だと思った。それ程までに大魔王様の存在は圧倒的で俺の価値観は一変した。この人に付いて行きたい、初めて憧れその強さに思い焦がれて魔王軍に志願したんだ。好きでもない子供の世話役も下っ端の雑用も数十年に渡る自らの研鑽の日々も、全てはジゴック様の為……

(あぁ、そうか……)

 長い魔王城の廊下を歩きながら俺はやっとモヤモヤしていた自分の気持ちに気付く。止まらない溜息の理由、それはなにも今の自分の立場を嘆いているという事だけではない。
 誰よりも大魔王様を理解していると言いながら子供のように拗ねていたんだな。俺を置いて全盛期の力を保ったまま現役を退くジゴック様に……
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