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アルミ缶リサイクルマーク方式に無限強化される魔王~経験値の時代は終わった。戦わなくても自分を食べて倍々レベルアップ~ 作者:あかまろ
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第10話:新魔王誕生

「あれ、盗賊達は?」

 ツキカゲ様の吸引力で引き寄せられた武器や木片が散らばる中、勇者ミューレットがきょろきょろと辺りを見渡す。しかし賊の姿は当然のように見つからない。

「賊ですか? 賊ならば私とツキカゲ様で追い払っておきましたよ」

 ふっ、お前が戻って来る前に賊達の死体は見つからないように処理させてもらったよ。
 血が沸騰して絶命している死体など発見されてはいくらこの馬鹿勇者でも疑問に思うだろう。そして疑いの目は必ずこちらに向けられる、お前にも死んでもらうが何も正面から戦ってやる事はない。背後から一撃でその首を落とさせてもらうとしよう。

「ほんとですか!? 結構な人数がいたのにツキ君もヒルポチさんも凄い!」

「いえ、あの程度の賊なら数など関係ありません、私達も伊達に世界を旅してはいませんから。それよりも村人達は?」

 俺は会話を続けながら勇者ミューレットの隙を伺う。先ほどの賊を倒した動きがこいつの何割程度の力なのかは不明だが相当な手練れである事に違いはない。油断した所を仕留める……それが一番確実だ。

「村人さん達は盗賊に見つからない別の道から逃げてもらいましたよ。でも盗賊を追っ払ってくれていたならそのまま連れて来ても良かったですね。お礼も言いたがっていましたし」

「ほう、お礼とな? 詳しく聞こうじゃないか」

 話に割り込んで来たのはツキカゲ様。顎に手をやり興味深そうに勇者ミューレットに問いかける。

「そのお礼というのは酒池肉林? 酒池肉林なのかな? やはり英雄に感謝を示す方法って酒池肉林しかないよね? ね?」

 冷静を装いながらも鼻息は荒く頭の中が透けて見えるようだ。人間の女にどうしてそこまで興奮できるんだか、まったく理解に苦しむ。

「しゅちにくりん? って何ですか?」

 きょとんとする勇者ミューレット。俺はその疑問に対してコホンと咳払いを一つ入れ答える。

「酒池肉林とは酒と肴が贅沢に並んだ宴の事です。ここで言う肉とは女体の意味では決してありません」

「……えっ、マジで……嘘だろ!?」

 途端に引きつった表情で硬直するツキカゲ様。

「どうしたんですか、ツキカゲ様も当然豪勢な宴を用意して欲しいという意味で仰られたんですよね? ミューレット様の前でそんな下劣な発言をするはずがないですものね?」

「は、はは。当然さ。当然だよぅ……」

 ツキカゲ様の声は小さく、目の下には涙が浮かんでいた。


「お礼はどうなるか分かりませんけど取りあえず一度村まで戻りませんか? 村の人達に盗賊を追い払った事伝えてあげなくちゃ」

 勇者ミューレットの提案に俺は小さく頷く。
 異論はない。本来の目的であるツキカゲ様の資質を探るという作業は完了した、それは予想以上の収穫で新しい王として君臨する事ができる驚異の能力。いくつか検証したい事もあるしさっさと魔王城へ戻るとしよう。

 殺風景な廃墟を後にして俺達は帰路につく。ツキカゲ様は酒池女肉林酒池女肉林と新しい単語を呪文のように呟き時おりだらしない顔で笑っている。勇者は勇者で戦利品である木の棒を大事そうに頬ずりしてとても幸せそうだ。だが一番気分が高揚しているのは俺だろう。それほどまでにツキカゲ様の能力はでたらめだった、それはジゴック様と初めて会った時の衝撃を思わせる程に……

 もう夕暮れも近いのに随分と日が高く感じ、荒れた砂利道も何故か足取りは軽い。俺は自分の浮つく気持ちを自制するように静かに目を瞑りスゥッと息を吸い込む、ゆっくりと開けた瞳に映るのは少女の勇者。そう、俺にはここでの最後の仕事が残っている

(村人達との約束を無事終えた帰り道、勇者の気が緩んでいる今が頃合いか……)

 俺は前方を歩く勇者ミューレットの首に照準を合わせ、右手を剣のように硬化させてその時を伺う。

「そういえばミューレットは次どこに行く予定なの? もし決まってなければ良かったら俺ん家来ない?」

 はぁ!?
 唐突に勇者を魔王城(ウチ)へと誘うツキカゲ様。 
 馬鹿ですか!? どこの世界に勇者を魔王城に誘う魔王がいるんだよ! 

「う~ん、お誘いは嬉しいけどちょっと無理かも。私一応勇者だから、魔王を倒すために魔王城を目指しているんだ~」

 利害一致しちゃったよ!

「そ、そうか! なら丁度い……ぐふっ!?」

 俺の左拳がまたしてもツキカゲ様の腹部へと突き刺さる。しかしツキカゲ様は気を失う事はない。ちっ、防御力が上がっていやがる。
 仕方なくそのままツキカゲ様の耳元で囁く。

「(ツキカゲ様、いい加減にして下さい。この女は勇者なのです、一緒に帰れるわけがないでしょう!)」

「(い、嫌だ。折角仲良くなれたのにこんなところでお別れなんて嫌だ! 一緒に帰れないなら俺はここに残る、そしてここで温かい家庭を築いていくよ!)」

 こいつ……頭の中はまるで強化されいないだと!?
 その時だった、勇者ミューレットの声が響く。

「あっ! 魔物!」

 勇者ミューレットの言葉は俺にとって予想もしていないものだった。

(魔物だと? 今この近辺の魔物には演習中につき俺達に近寄るなと指示を出しておいたはずだぞ?)

 空を見上げる勇者ミューレット、その視線の先には鳥の魔物が低い高度で上空を徘徊している。あれは……ヘルガルーダ!? 馬鹿な、魔王城を守護する怪鳥ヘルガルーダだと? 海を越えてここまでやって来たというのか!?
 よく見るとヘルガルーダは所々に傷を負っており、疲れ果てた表情をしている。

「あ、あれって確かヘル……むぐっ!?」

 俺はツキカゲ様の口を手で塞ぎ小声で伝える。

「(いいですかツキカゲ様、私は少しヘルガルーダと話をして来ます。その間に勇者に余計な事を喋るんじゃありませんよ)」

 そう念を押したあと、勇者ミューレットにも声を掛ける。

「ミューレット様。ここは私に任せて下さい、あの鳥の魔物を始末してきましょう」

「え? でも……」

「大丈夫です、私は遠距離戦闘が得意なので……ここでツキカゲ様と一緒に待っていてください」

 俺はそう言うと上空にいるヘルガルーダに視線で合図を送る。
ここから半里程進んだ場所に森がある。誰にも気づかれないように降りて来い……と。



「ヘルガルーダよ、何をしている。魔王城の守護はどうした?」

 森の中にひっそりと降り立ったヘルガルーダは疲れ果てていた。恐らくアルガスト大陸からこのノブル大陸まで休まずに飛んで来たのだろう。

「クェェェ……」

 消え入りそうな声で鳴くヘルガルーダ。責任感が強いこの鳥が守るべき城を離れてこんな場所まで……

 ザワッ…… 
 俺は得体の知れない胸騒ぎを感じる。

「クェクェ……クェクェクェ……エルローシュサマ……」

 !!?
 ヘルガルーダが悲しそうに絞り出した声に俺は驚愕する。何故ならそれは絶対にあり得ない事だったからだ。

「エルローシュ様が……ジゴック様を殺害し魔王になった……だと!?」

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