挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
アルミ缶リサイクルマーク方式に無限強化される魔王~経験値の時代は終わった。戦わなくても自分を食べて笑顔でレベルアップ~ 作者:あかまろ
1/19

プロローグ

「ツキ~! 早くしないと見つかっちゃうよ」

 魔王の長女ルナプリは急かすように弟ツキカゲに向け手を伸ばす。

「ルナ姉ちゃん、待ってよぅ……」

 ツキカゲは半べそをかきながら必死に姉の手を握る。まだ小さなツキカゲにとって魔王城の庭園はあまりに広大で世界の全てだった。その世界を超えた先には何があるのだろうか、胸に去来した外の世界への思いを世話焼きの姉に口にしたのが事の発端であった。

「男の子なんだからしっかりしなさい。ほら、もうすぐだよ」

 お姉さんぶってツキカゲを引っ張るルナプリもまた小さな子供であり城の外に一人で出る事は固く禁じられていた。それでも弟の好奇心を満たす術を魔女の血を引く彼女は持ち得ていたのだ。
 魔王城を南へ突っ切ると太陽すら隠してしまいそうな巨大な白い壁が庭園を覆うようにそびえ立っている。いかなる武力もいかなる魔力も弾き返すといわれるこの真っ白な壁は魔王の子供である幼き二人にとって最強の盾であり外への興味を掻き立てる引き金でもあった。

「あった! ここだよ、ツキ」

 ルナプリが立ち止まったのはそんな白い壁についた小さな傷の前。

「ここはね、前に『ゆーしゃ』が攻めて来た時についた傷なんだって。お父様が珍しく感心していたから覚えてるの」

「ほんとだ、ここだけちょっと黒っぽくなってるね。でもルナ姉ちゃん、ここからお外なんて見えないよ?」

「大丈夫。お姉ちゃんにまっかせなさい」

 得意気に胸を叩き、城壁の小さな傷跡に自分の右手で触る。
 魔王城を囲う城壁は武力も、魔力も弾き返す。生半可な練度でぶつかれば怪我だけでは済まない、壁は生きているのだ。生きて魔王を、魔王の子達を守っているのだ。しかしかつて魔王城に乗り込む所まで辿り着いた歴戦の勇者がつけたその小さな傷の周りには魔力を跳ね返す壁の力に僅かな歪みを引き起こしていた。綻びとさえ言えないその矮小な魔力帯の変化。それを感じ取る事ができるのは魔王城の中でも魔王と魔女の血を引くルナプリだけであった。
 ルナプリは己の魔力を右手から壁に伝わらせる。すると徐々に白壁は薄く透き通って行き、壁の向こう側が視認できるようになる。

「わぁ~~! ルナ姉ちゃん凄い!」

「へへ、この場所の事皆には言っちゃ駄目だよ。ツキと私の秘密ね」

 ツキカゲにとって初めて見る城以外の世界。小高い山に立てられた魔王城から見る景色は全てが刺激的で輝いて見えた。

「ルナ姉ちゃんあれは!?」

「あれはね、海って言うの。たま~にお城にもクラーケンちゃんたちが挨拶に来るでしょ。その子達はあそこに住んでいるのよ」

「へ~凄いなぁ。あんなに綺麗な所に住んでいるんだ……僕たちのお城もお引越しすればいいのにね」

「う~ん、でも海の中では息ができないらしいよ。海で息ができるのは元々そこに住んでいる魔物以外はお父様くらいだから私達にはちょっと無理だね」

「そっかーーあっ! ねぇルナ姉ちゃん、あれはあれは!?」

「あれは山よ。庭園にも木がいっぱい生えているけど山にはもっともっといっぱいの木が生えているの。そこにはワイバーンさんとかが住んでいて一生懸命その場所を守っているの」

「へぇ~~凄いなぁ」

「それにね、私達が住んでいるこのお城も同じように山の中に建っているのよ」

 ツキカゲは姉の言葉に目を丸くして驚く。いつも目にしていた白壁よりも遥かに高い、それこそ雲を突き抜けそうなあんな場所に自分が住んでいる何て考えもしていなかったからだ。ツキカゲははしゃぎながら目に見える全ての新鮮を姉に嬉々として尋ねて行く。

「ねぇねぇ! じゃああれは!?」

 透明になった白壁越しにツキカゲが最後に指差した場所。その場所は遠くに離れてはいたが薄暗くなった空とは対照的に地上の太陽のごとく灯りをともしていた。無垢な笑顔で尋ねてくるツキカゲに一瞬ルナプリは言葉を詰まらせる。

「あ、あれはね……」

「あれは『村』だよ。ニンゲンが住んでいる場所だ」

 ツキカゲの質問は背後から現れた少年によって解を成す。色素の抜けた白い髪に鋭い眼光、そして竜を連想させる鱗に覆われ鋭い四本の爪を携えた右腕。その異形の腕も相まって年端もいかぬ少年とは思えぬ風格。声をかけて来たのは魔王の長男エルローシュであった。

「あっ、エル兄ちゃん!」

「そして俺達が滅ぼすべき場所、相手でもあるな」

「ちょっとエル兄!」

 ルナプリは白壁にかざしていた手を離してエルローシュへと詰め寄る。魔力により透過されていた壁はその効力を失い徐々に元の白さへと戻って行く。

「なんだルナプリ、何を怒っている?」

「そういう言い方ってないじゃない。ちょっとはツキの事も考えなよ!」

 三兄弟は母親の顔を見たことがない。それでも自分の母親がどういった種族であるのかを父親である大魔王ジゴックからは聞かされていた。だがそれは子を想う愛などではない、自分の血が何に適して何を期待され生まれて来たのかを自覚させるために必要な作業、ただそれだけの事であった。
 そして竜の血を引く長男、魔女の血を引く長女、これはまだいい。過程や思惑は抜きにして魔王側の種族であるからだ。しかし人間の血を引く次男ツキカゲ、彼だけは魔王軍の中でも異物の扱いであった。
 当然大魔王の手前表立って批判する者はいない。しかし何の取り得もない人間に子を産ませ、育てているこの事実は魔物にとっても不可思議な物であり、その異質な立ち位置から敬遠されて来た。

「ツキカゲの事を考えていないのはどっちだ。お前とここの魔物達だよ」

 エルローシュは呆れた表情で言い放つ。

「ツキカゲは魔王軍の重要な戦力だ、誰から生まれたなんて関係ない。それは俺にも、そしてルナプリお前にも言えることだ」

「っ……!」

 何か言いたそうなルナプリを素通りし、訳も分からず白くなってしまった壁を名残惜しそうに見つめていたツキカゲの傍まで来ると、次男の髪をくしゃっと掴んでエルローシュは語りかける。

「いいか、ツキカゲ。ニンゲンは大した力も持たないくせに俺達魔王軍に楯突く忌むべき相手、敵だ。奴等は数だけは立派にいやがるからな、世界にはああいった村がまだいくつも残っている。父様の手助けをして害虫であるニンゲンを根絶やしにする事が俺たちの役割だ。分かるな?」

「う~ん、よく分かんない。けど、あんな光ってる場所に住んでいるニンゲンっていうのに僕も会ってみたいなぁ」

 ツキカゲの答えに微笑を浮かべるエルローシュ。

「会ってみるといいさ、いずれな。だが忘れるなお前は俺達の兄弟で偉大なる魔王の血を引く戦士だ。一緒に魔物達の住みよい世界を作っていこうぜ」

 そう言ってまだ小さなツキカゲの肩をポンッと叩く。

「もう! エル兄はでりかしーってものがないのよ」

 一人蚊帳の外になっていたルナプリがたまらずツキカゲとエルローシュの間に割って入る。彼女も兄が言っている事は正しいと理解していた。だがそれとは裏腹に配慮が足りない突発的な発言に物申したい気持ちがあったからだ。

「ん? 俺が何か間違った事を言ったか?」

「う~~そういう事じゃなくてぇーーーー!」

 今の気持ちを上手く言葉に言い表せないルナプリはプンスカと地団駄を踏む。

「ツキカゲ様~~! ルナプリ様~~! どこにいらっしゃるんですか~~!」

 遠くから聞き覚えのある声が聞こえて来る。とっくに門限を超えているのに戻って来ないツキカゲとルナプリを探しに出て来た指南役のヒルポチの声であった。

「あっ、ポチの声だ」

「ヤバッ! もうこんな時間!? 早く戻らないとこの場所がバレちゃう。エル兄もここの事は絶っっ対に内緒だからね!」

 慌ててツキカゲの手を引くルナプリと悠々とその場を離れて行くエルローシュ。性格は違えど、母親は違えど、魔王の血を引く三人だけの兄弟。こうして魔王城内では平凡とも幸せともいえる時間がいつものように過ぎて行った。

 大魔王ジゴック引退宣言の十年前の出来事である。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ