愛の差なんて
【第72回フリーワンライ】
お題:
主人公を「キミ」と二人称にする(カタカナのまま使用)
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
#真剣文字書き60分自主練編
キミはもしかすると、それほどボクのことが好きではないのかも知れない。少なくとも、ボクがキミのことを好きなほどには。
キミの態度、言葉の端々から読み取れる感情は、取り繕ってもわかるものだ。
けれども構わない。見返りが欲しいわけではないのだから。
キミのことならなんでもわかる。好きな食べ物、嫌いな習慣、最近親しげにしている人がいることも。
キミのことならなんでも知ってる。キミが朝起きる時間、キミが帰ってくる時間、散歩のタイミングや長さまで。
そら、もうすぐキミが帰ってくる。ボクにはわかる。感じることが出来る。何かいいことがあったんだろう? 曲がり角を踏むステップがいつもより軽い。
キミがドアを開けるのをボクはじっと待つ。こっそり抜け出てきたのだ。驚くだろうか。
いや、驚いてもらう。
キミがポケットから鍵を出して、今――
「ただいま――きゃあ!」
急に飛びついたせいで、キミはバランスを崩して倒れる。尻餅に顔をしかめながら、キミはボクを引きはがそうとする。
「ちょっと! お母さん!」
構わずのしかかる。体格差があって、ボクの方が随分軽いけれど、押し倒してしまえばそうそう逃れることは出来ない。
キミのほっぺたをぺろりと舐める。
「やん、ちょっとやめ――お母さん、シロはちゃんとサークルに入れといてよ! あたし反対したのに押し切ったんだから、世話まであたしに押し付けるのやめてよね!」
子犬のボクを持ち上げて、キミは恨めしそうにそう言った。
『愛の差なんて』了
第72回(先週)の分は第73回(今日)の前に終わらせましょう、ということでリアルタイム不参加だったのをやっつけ気味に時間外投稿。
果たしてこれは二人称小説なのか? そも二人称小説というのがよくわからない。変形一人称のようなつもりで書いてみたが。