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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

謎の遺跡編

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脱出

「ゆっくりでいい。これを飲むんだ」

 そう言って、虚脱状態にあるセリエに、少しずつ「気付けポーション」を飲ませる貴大。あまりの恐怖に呆然自失であった彼女は、気付け薬の舌を抉るような酸味と苦味によって、徐々に己を取り戻していく。

「アルティ。お前はどうだ? 体に違和感はないか」

「あ、あぁ、ない……」

 駆け付けた貴大がかけた【ハイ・ヒール】によって、既にアルティの怪我は完治していた。温かな治療光を浴びた体は、常よりも軽く感じるほどだ。ぐっぐっ、と手を握っては開き、軽く足踏みをして返事をする。

 それを受けた貴大は、キリリと引き締まった顔で、「そうか」と短く呟いた。

(こいつ、ネズミだよな……?)

 アルティが知る貴大は、いつも締りがない顔つきのだらしがない人物のはず。それが、どうだ。彼女の目の前に立つ男は、周囲の空気すらピンと張り詰めさせるほどに鋭い気配を纏い、開いたMAPに視線を落としている。その姿は、まるで熟練の冒険者のようで……。

 いや、通路を埋め尽くすほどの数多の魔物を一瞬で屠るなど、どんな冒険者だって出来はしないはずだった。少なくとも、アルティはそのような実力者を知らない。国内最強の彼女の父親ですら、瞬く間に一掃することは不可能だろう。

 ならば、この男は何なのか。

 腑抜けて「何でも屋」になる前は、サポート役として優秀だとは言われていた。レベルも150と、それなりには高い。しかし、彼は臆病者の「ネズミ」のはずだ。魔物に出くわせば、付かず離れずの位置で高みの見物を決め込むような男だ。

 そのようなネズミが、彼と同レベル帯の「ハイスクール・ゴブリン」を中心とした魔物群を、駆け抜けざまに切り捨てる……アルティにとって、とても信じられる光景ではなかった。

 しかし、彼女がそんな光景を目の当たりにしたのは、これで二度目……「憤怒の悪鬼」出現の際の、強大なユニークモンスターの首を切り落とす彼の姿は、強烈にアルティの脳裏に焼き付いていた。

 加えて、今回の戦闘だ。彼女の胸の内に以前から燻り続けていた疑惑は、確信へと変わりつつあった。

「な、なあ……」

 もう、ここで直接聞くしかない。アルティはそう思った。自分たちの目の前で魔物たちを片付けてみせた直後であれば、いつものようにのらりくらりと誤魔化されはしないだろうと。

 疑問をそのままにしておくほど、彼女は控えめな性格ではない。だからこそ、貴大の実力について問いかけようとしたのだが……それよりも早く、貴大が口を開いた。

「よし、付近にモンスターはいないな。回復も済んだ。とりあえずの安全は確保できたと言えるだろう……アルティ」

「な、なんだっ!?」

 いきなり名を呼ばれたことで、思わず問いかけを中断して返事をするアルティ。そうさせるだけの妙な圧力を、貴大は放っていた。そして、立ちつくすアルティへと、貴大は言葉を放つ。

「これから、地上への扉がある西館三階に向かう。同じく、西館三階の「理科室」が探索系スキルを受け付けないため、エルゥはそこにいるか、すでに脱出したものと思われる。「理科室」に立ち寄り、地上への脱出……分かったか?」

「あ、あぁ……」

 有無を言わせぬ貴大の通達に、素直に頭を縦に振るアルティ。言っている内容自体も、必要な情報が端的にまとめられて無駄がない。だが、彼女が聞きたいことはそれではない。アルティにとって、最も関心が高いことは……。

「間違えるな」

 なおも貴大の強さについて聞こうとするアルティを諌めたのは、鋭い針のような響きの声だった。

「お前が何を聞きたがっているのかは分かる。だが、俺たちは今、護衛任務の最中だ。優先すべき事柄を間違えるな。聞きたいのならば、地上に出てからにしろ」

「っ! ……あぁ、すまん。そうする」

 その言に、ハッとさせられたアルティ。そう、目前の危機は去ったとはいえ、ここは危険な迷宮内であり、セリエやエルゥを守るという仕事は依然続行中なのだ。足を止め、おしゃべりに高じている暇などない。

 護衛依頼を受けた冒険者であるのならば、優先すべきは自身の興味や関心ではなく、護衛対象の安全だ。そこを履き違えていたことを恥じ、彼女はパンと両の頬を叩いて気持ちを切り替えた。

「さあ、西館に行くにしても、オレは何をすればいい? 前衛か?補助か?」

 立場としては「ペア」のリーダーに当たる貴大にそう尋ねるアルティ。自分はしくじったという負い目と、先ほどの圧倒的な光景が、彼女を常よりも幾ばくか素直にさせていた。そうでなければ、「ネズミ」と蔑んでいた相手に役割分担など決めさせはしないだろう。

 その問いに対し、早くも指示を出す貴大。彼の頭の中で、すでに確固たる方針は出来上がっているのだろう。その言葉を発する際も、一切の淀みはなかった。

 その、アルティに伝えられた言葉は、こうだ。

「セリエのパンツを替えてやれ」

 魔物が巣食う迷宮を脱出しようと、心機一転、気分を切り替えたアルティの努力は台無しだった。



(うおおおおおおお!? やべえやべえやべえ! 遂に実力がバレるようなことしてもうたぁぁぁああああ!! どうする……!? どうする!?)

 度を超えた恐怖により失禁してしまっていたセリエのパンツを取り替えに、アルティが付き添いで中央館二階のトイレへと姿を消してしばらく。貴大は、頭を抱えて廊下の片隅で蹲っていた。

(ああ……! 面倒なことになりそうだぞ……! あ~、も~、どうやって誤魔化そう……)

 幸いなのは、250という異常なレベルが明らかにはなっていないことだが、それでも、弱い部類とはいえ迷宮の魔物を一掃したのだ。アルティやセリエが発した言葉が、口から口に伝わる内に、どのような尾ひれが付くのか分かったものではない。

 焦りは止まることを知らず、言動には余裕が無くなっていく。アルティは、そんな彼を「油断なく、張り詰めた緊張感を纏っている」と評したが、実際は心身ともに切羽詰まっているだけだ。

(アルティは何か聞きたそうにそわそわしながらこっち見てるし……! あ~、どうするどうする!)

 アルティが口を開くたび、無駄にMAPに目を落としたり、これからの方針を伝えたりと、彼女の問いかけを必死に封じてきたが、それもどこまで持つか……。

 やっちゃった感が否めないが、それでもあの時、貴大が本気を出さなければ今頃アルティたちは肉塊と化していたはずだ。人命と自身の安寧な生活を秤に乗せれば、流石の貴大も迷わず前者を選ぶ。だからと言って、後悔するかどうかはまた別問題だ。

 彼は、「助けなければよかった」などとは思ってはいないが、実力を晒さなければならない事態に陥ってしまったことへの悔恨の念は確かにあった。

「おい、パン……いや、準備できたぞ」

 何ら解決策は見出せていない。それなのに、セリエに服の裾を掴まれたアルティが戻ってきてしまった。貴大には、もうどうしていいのか分からなかった。

「行くぞ。魔物は俺が受け持つ。セリエの身の安全は任せた」

 だから、その場から逃げ出した。足を止めればまた追究されてしまうという思いに駆られ、言葉も短く役割を告げ、早足に歩き出す貴大。少女たちは慌てて彼の背中を追う。

(ギ、ギルドから面倒臭い依頼が来たら絶対断ってやる!!)

 魔物が一掃された中央館二階廊下をズンズンと進んでいく貴大。ひたすらに前へ向けて歩きながらも、彼の頭の中は後ろ向きな考えで埋め尽くされていた……。



「はっ、ふっ!」

 目にも止まらぬ早さでナイフが振られると、後に残るものなど何も無い。

 貴大らの現在位置は、「西館三階廊下」。特別教室が並ぶこの階にたむろしていたレベル140の魔物、「スクール・オーガ」は既に全員斬り伏せられ、魔素の粒子と散っていた。その内の一体がドロップしたアイテム「スク水」すら、何故か微塵に切断され、欠片も残ってはいなかった。

「圧倒的過ぎる……!」

 その瞬殺劇を見ていたアルティは、何度目になるか分からない言葉を呟いていた。隣に立つセリエなど、先ほどまでの恐慌がまるで無かったかのような様子で、ポカンと口を開けて立っている。

 それも無理はない。中央館二階から、目的地である西館三階まで来るまでに現れた魔物はみな、「スクール・オーガ」と同じように鎧袖一触、意にも介さずに倒されてしまったのだ。そのような非現実的な光景を見てしまえば、放心状態にもなるというものだ。

 進むにつれ、次々と強い魔物が姿を見せた。この迷宮におけるフロアリーダー格と思われた「ハイスクール・コボルト」ですら、西館では何体も現れた。更なる上位種と思わしき「バンチョウ・コボルト」なる魔物が現れた時は、アルティでさえ「果たして目的地に辿り着けるのか?」と一抹の不安さえ抱いたのだ。

 だが、それらは一体も残さずに駆逐された。貴大のナイフが彼らの首、胴体、リーゼントを一瞬にして切り飛ばし、次々と魔素の粒子へと変えていったのだ。それは、西館三階に至る全フロアにおいて、加勢する間もなく行われた。仕掛けられた罠ですら、先行した貴大が全て解除していた。

 アルティとセリエは、ただ、彼の後について歩くだけだ。それだけで、目的地へと辿り着くことができた。その間の所要時間、わずか十分。迷宮を進む早さとしては、あり得ないものだった。

「よし、お前ら、「理科室」に入るぞ」

 貴大がそう告げた時、少女たちは何のために自分たちがここまで来たのかを思い出した。未だ姿を見せないエルゥの安否を確認するためにここまで来たのだ。

 自分たちの理解を超えた戦闘に呆けてしまい、頭を白くした状態で機械的に歩いていた彼女らは、ここが目的地だということにようやく気が付いた。

「おい、シャキッとしろ。呆けている場合じゃねえぞ」

「す、すまん」

「すみませんっ!」

 これから、探索系スキルを受け付けない部屋へと入るのだ。たいてい、そのような場所には、一筋縄ではいかない魔物が待ち受けている。心身を鈍くしたままでは、咄嗟の事態に対応できないと、貴大は彼女らを叱った。

 並外れたレベルの魔物がいるのか、それともモンスターハウスなのか。はたまた、ユニークモンスターが発生する場所なのか……いずれにせよ、このような部屋には細心の注意が必要だ。

 「気を引き締めろよ」。貴大がそう言おうとしたところで、それは聞こえてきた。

「ゥゥッゥゥ…………」

 「理科室」から聞こえてくるのは、くぐもった唸り声……その尋常ならざる響きに、貴大らの顔は青く染まる。苦しげなその声は、まるで誰かが責め苛まれているようで……誰か? この場合、該当する者など一人しかいない。

 自分たちと同じく、ワープトラップに飛ばされて、迷宮内にいる可能性があるエルゥだ。

 MAPでは生体反応すら伺えない部屋。そこから漏れ出てくる苦悶の声。未だ姿を見せぬエルゥ。

 ネガティブなイメージを浮かべさせる材料しかない。

「踏み込むぞっ!」

「「おお(はい)っ!」」

 中の様子が分からない部屋だからとて、最早、躊躇などしていられない。同行者の返事もそこそこに、貴大は「理科室」の扉を開け放つ。

 そして、エルゥを助けるために「理科室」へと飛び込んだ彼らが目にしたのは……。





「ふむ……木属性のスキルでは反応が薄い。この迷宮の魔物は魔法なら何でも良く効くものだと考えたのだが、仮説が外れたな……なら、これはどうだい? 【フレイム・バーナー】」

 シュボッ!

 黒髪のエルフの指先から、青白い灼熱の炎が鋭く噴き上がる。射程を調整しているのか、やがてそれは十cmほどの長さまで縮められ……机に縛り付けられた、白衣のゴブリンの二の腕へと押し付けられた。

「ムグ、ムオオオオオオオオオオ……!!!!!!」

 裂いた布を噛まされているにも関わらず、くぐもった叫び声は部屋中に響き渡る。魔物の両手両足を縛るロープがピンと張り詰める。

 何らかのスキルで強化されているのか、はたまた魔物が衰弱しているためか、戒めは解かれる兆しもない。唯一自由になる首を左右に激しく振っているのは、拒絶の感情の表れか、肉を焼かれる痛みを紛らわせるためか。

「おぉ、炎が弱点なんだね? なるほど、そこは普通のゴブリンと変わらず、か」

 その凄惨な様子を前にして、同じく白衣を纏ったエルフはにんまりと笑う。手元のメモ帳に何かしらを書き込んでは、満足そうに頷くのだ。

「「サイエンス・ゴブリン」君……君は実に良い研究材料だ。君は王立図書館の魔物事典には載っていなかった。それどころか、「@wiki」にも載っていないことを考えると、私のレベルでは閲覧不可能の領域に記載されているのだろう。そんな魔物のデータを採る……これも研究者としての楽しみだよ……ねえ?」

 そう囁きかけて、火傷を通り越して炭化している傷口に【ヒール】をかけるエルフ。その暖かな治療光にすら、「サイエンス・ゴブリン」は首を振って拒否反応を示す。

 彼は、分かっているのだ。この治療は、次なる残虐な実験が始まる合図なのだと。

 その証拠に、エルフのしなやかな指先からはいつの間にか雷光が迸っている。【ライトニング・ボルト】。接触した相手に電流を流すスキルだ。ただし、状態異常を与えることが目的の【スパーク・ボルト】とは違い、こちらは肉が焼け、血液が沸騰するほどの威力を備えている。

 音を立てて飛び散る青白い電光に、魔物の目は釘づけになる。恐怖の対象が近くにある時、生き物は目を離すことができない。それは、魔素のみで生命を維持できる魔物とて同じだ。疲弊しきったゴブリンに、雷光放つ悪魔の手から顔を背けることは最早不可能だった。

 ただただ、くぐもった声を上げて涙を流す魔物。それを意にも介さず、笑顔のエルフは【ライトニング・ボルト】を纏った手を押し付けようとして……。



「や め ん か !」



 我に返った貴大に、勢いよく頭を叩かれた。

「あいた~~~~!? タ、タカヒロ君!? いきなり何をする!?」

 予期せぬ衝撃に【ライトニング・ボルト】が解けたのか、叩かれた箇所を両手で押さえて蹲るエルゥ。そんな彼女に、貴大の視線はどこまでも冷ややかだった。

「どこにもいないと思ったら、こんな所でお子様の目には毒にしかならんことやってたなんてな! 見ろ! セリエがショックで倒れたんだぞ!」

 彼が後ろ手に指し示す先には、「理科室」の入り口で顔を青くして倒れているセリエの姿があった。気丈なアルティですら、あまりにも惨たらしい光景に固まってしまっていた。それでも、エルゥは憤慨して言い返す。

「目に毒? これは立派な実験だよ! 時には残酷な行いもする必要がある。それで気を失うようでは、研究者としてだね……」

「はいはい、ご立派ご立派」

 エルゥの講釈を聞き流し、サクッと「サイエンス・ゴブリン」の胸にナイフを突き立てる貴大。高レベルの彼の一撃により絶命したゴブリンは、どこか安堵した表情で魔素の粒子となり、消えていった。

「あーーーっ!? やっとの思いで捕獲した貴重なサンプルに何をするんだ!?」

「何をするんだも何もねえよ! 遺跡と思っていた場所が、実は生きている迷宮でした、なんて訳の分からん状況になったら、まずは脱出が先だろうが! 出口の目と鼻の先で何やってんだ、お前!」

「だって、ここは程よいレベルの魔物で一杯で……しかも見たことがないものばかりだったんだよ? 研究者の血が騒いで当然、って痛い痛い痛い!」

 自分勝手な言い訳に、今度はエルゥの頭を鷲掴みにして力を込める貴大。昂ぶった感情が籠っているためか、先ほどよりも激しい痛みを伴うおしおきに、流石の彼女も白旗を上げた。

「痛いっ! 痛いよ、タカヒロ君!? わ、分かった、私が悪かった。まずは脱出だね? 君の言うとおりにしよう」

 貴大の手から逃れ、そそくさと「理科室」の机に散らばった荷物をまとめ始めるエルゥ。その後ろ姿を見つめる貴大の目はどこまでも虚ろで、「なんでこんな奴のことを心配していたんだか……」と過去の自分の心境を空しく思っていた。

 やがて、バックパックに調査機器や魔物のドロップアイテムなどを押し込め終えたエルゥ。どうやら、準備はできたようだ。

 未だ気を失ったままのセリエを背負い、棒立ちのアルティの肩を叩いて正気に戻す。そして、「理科室」から出て、出口への短い行程を歩き始めたところで……。

 後ろから不穏な発言が聞こえてきた。

「あ~あ、残念だなぁ。まだまだ試してみたいことはたくさんあったのに……このボタンだって、結局何の機能を持っているのか分からなかったし……ええい、どうせもうすぐここから出てしまうんだ。今、押してしまえ。ポチっとな」

「何してん……」

 振り向いた彼の目に映るのは、廊下に張り付いた真っ赤な非常ベルのスイッチを押し込むエルゥの姿……そして、盛大に鳴り響くベルの音とアナウンス。



『自爆スイッチが押されました。ダンジョン・コアの臨界まで残り三分。179、178、177……』



「何してんだ、お前ーーーーーーーっ!!!?!?」

 好奇心に緩んだ笑顔のままに硬直するエルゥと、混乱するアルティを両脇に抱え、出口である「西館三階・屋上への扉」への階段を駆け上がる貴大。そのままの勢いで、体当たりをするように外界へと転がり出る。

「あっ! ご無事でしたか! 突然、扉が開かなくなったので心配しまし……」

「いいから逃げろぉぉぉぉ~~~~~~!!!!!!」

 鬼気迫る貴大の様子にただならぬ何かを感じ取ったのか、調査隊護衛騎士の隊長が慌てて撤退命令を出す。

 すると、そこは訓練された者たちだ。命令が発せられると同時に、四名ほどの騎士たちは、迷宮出入口から500メートルほど離れた場所に設置されたキャンプへと、我先に逃げ出す貴大の後を追うように走り出した。

 そして、全員がキャンプとの中間地点を通過したところで……地面がズンと鈍く揺れ、迷宮入口が火を噴いた。

「あああああ! もう爆発しやがった!? 逃げろ逃げろ逃げろぉぉぉぉ!!!!」

 更に走るスピードを上げる貴大。彼の背後に見える迷宮の入り口は、地下からの爆風で遂には吹き飛んだ。それだけでは収まらず、盛大な爆炎が開いた穴から噴き上がる。まるで、小規模な噴火のようだ。

 異変に気付いたキャンプに駐留する騎士たちが防御スキルで結界を張り、飛んでくる岩や瓦礫から、逃げ出す者たちやキャンプを守る。爆音で目を覚ましたセリエが、背後の立ち上がる火柱を見て再び気を失う。貴大と並走する騎士たちが、「ちくしょう、こんな所で死にたくねえよ!俺には結婚を控えた幼馴染が……!」、「帰ったら一杯奢ってやる!だから、走れ!」と不吉なことを口にする。

「なんでこうなるんだよぉぉぉ~~~~~!!!?」

 そんな貴大の叫びも、断続的に鳴り響く爆音でかき消されてしまった……。



「で、おめえのデタラメな強さは何なんだ?」

 迷宮の爆発も収まり、ダンジョン・コアの完全消滅も確認された後、調査隊と護衛騎士たちは帰路へとついていた。その途中、馬車の中でのことだ。一息ついたアルティが、貴大を問い詰めていた。

(あああ……! ついにきた……! ドサクサに紛れてうやむやにできるかな~、って思ってたのに、こいつときたら……!)

「あっ、あ、あの、私も気になります……」

 セリエも、おずおずと遠回しに問いかけてくる。

「強さ? そういえば、「サイエンス・ゴブリン」をスキルも使わずに造作もなく倒していたね」

 荷物にもたれかかって本を読んでいたエルゥも、興味を引かれたのか、眼鏡を光らせて身を乗り出してきた。

 目撃者、計三名。誤魔化しがきくような数ではなかった。

「さあ!」

「さあさあ!」

 気が付けば、馬車の端へと追いやられている貴大。その周りを、探究心を瞳に燃やす女たちが囲む。決断が迫られていた。

(ええい、もう、こうするしかねえ!)

 追い詰められた貴大が選んだ行動は……真実を話すことだった。

 【エア・ウォール】で音が漏れ出るのを防ぎ、とつとつと語り出す貴大。その内容は、彼女らにとってあまりにも衝撃的なものだった。

「実は俺……レベル250、なんだ……けど……」

「「「はっ?」」」

「いや、だから、俺のレベル。に、250なんだ」

「「「え?」」」

 それでも、すぐには信じようとしないアルティたち。いくら迷宮内で猛威を見せつけたといっても、目の前のパッとしない男が、ユニークモンスターですら鼻で笑うことができるレベルだとはどうにも信じられずにいるのだ。

 仕方なく、貴大はステータス表示を偽装する【ジャミング】を解き、【スキャン】で己のレベルを確かめるように言う。すると、声なき声を上げ、アルティたちは腰を抜かしてしまった。



「おめえのレベルについては分かった。でも、何でそれを隠してんだ?」

 貴大のレベル250という事実が明かされてからしばらく、ようやく混乱から立ち直ったアルティが、当然とも言える疑問をぶつけてきた。

 彼女の常識からは、高いレベルを持つ者が実力を隠し、「ネズミ」などという蔑称を甘んじて受けるなど、考えられないことだった。

 そもそも、ヒト種でレベル250など、聖女や勇者といった、雲の上の英雄的存在だ。それらと同等の力を持つ者が、下町で何でも屋家業……納得できる理由が、自分ではとても考えられなかった。

「何で、かぁ……そうだな、面倒だからだな」

「面倒……?」

 釈然としないのか、訝しげな顔で続きを待つアルティ。その表情を見た貴大は、ふ~、とため息を吐いて続ける。

「察してくれよ……レベル250なんて高レベルを明かしちゃうと、利用しようとしたり、面倒事を押し付けようとしたりする奴がたくさん出てくるんだよ……こいつみたいになっ!」

 そう言って、振り向きざまに伸ばした手を、地を這うように払う。すると、いつの間にか彼の背後へと忍び寄っていたエルゥの足が宙に浮き、彼女の体は横向きに馬車の床へと打ちつけられた。

 すかさず、投げ出されたモデルのように長い脚に自らの脚を絡め、4の字に固定して力を込めていく。

「痛い痛い痛い痛い! 脚が砕ける!!」

 床をバンバンと叩き、全面降伏の意を示すエルゥ。それでも、固められた脚は解かれず、貴大の眼は冷淡なままだ。

「何をしようとしていた……!」

「ヒト種のレベル250は初めて見たから、サンプルを採取しようとだね……なに、十、いや、ニ十本ほどの頭髪があればぁあぁあァぁァアアーッ!!」

 しばらくして、心優しいセリエが止めに入ったことにより、エルゥは地獄の戒めから解放された。息も絶え絶えにうつ伏せに横たわる彼女へ、「下手なマネをしたら「@wiki」は二度と見せんからな」と念を押し、再び貴大はアルティへと向き直った。

「と、まあ、こんな奴がいるから、俺は低過ぎず高過ぎないレベル150ってことにして、人生だらだら生きているわけだ」

 ここまでの顛末を見て、アルティもなるほど、とは思う。だが、一個人としてではなく、冒険者としての彼女はそれでも異を唱えていた。

「でも、おめえが冒険者として働きゃあ、みんな喜ぶぞ? どうして……」

 その言葉を飲みこんだのは、貴大が掌を突き出していたからだ。「これ以上は聞きたくない」と言わんばかりに。そして、アルティが口を噤んだのを見て、貴大は持論を言って聞かせた。

「出る杭は打たれるってわけじゃないけど、あんまり目立って知らない所で恨みを買うのは嫌なんだ。俺、前は帝国にいたんだけど、「お前が活躍するから仕事が減った」って他の冒険者にネチネチ絡まれてなぁ……ああいうのは勘弁してほしいんだわ」

 それだけ言って、なおも食い下がろうとするアルティと、エルゥを介抱するセリエに向かって、「どうせ証拠を見せなきゃ誰も信じんだろうけど、あんまり言いふらしたりすんなよ」とだけ言ってごろりと横になる貴大。

 そんな彼を、アルティは複雑そうな顔をして見つめていた。



………………
…………
……



「酷い目にあった……」

 調査すべき迷宮が木っ端微塵に吹き飛んだために、予定よりニ日も早く街へと戻ってこれたけど……何だろう、すごく疲れた。

 「明志高等学校」を模した迷宮といい、あからさまに俺を狙ったトラップといい、アルティたちに強さがバレたことといい……考えることが多過ぎて、頭の芯が鈍く痛む。

 特に、「明志高等学校」については腰を据えて調べようと思っていたのに、エルゥに跡形もなく爆破されてしまった。これでは、謎は謎のままだ。

 何とも言えない疲労感に襲われ、自室のベッドに仰向けに倒れ込む。もう、このまま眠ってしまいたい……だが、その前に確認すべきことが一つ。

「なぁ、あの迷宮、お前らの仕業なのか……?」

 システムメニューのウィンドウを手元で開き、「フレンドリスト」を選択する。すると、いくらかの人物の名前が表示される。当然、「フリーライフ」のメンバーもそのリストの中にあった。

 迷宮からの帰り道にも、何度も「フレンドリスト」を開いた。それでも、確認せずにはいられない。アイツらが、今、どこにいるのかを。

「……やっぱり、変わらず、か……」

 何度見ても変わらない。「明志高等学校」によって期待は高まったが、それでも「フレンドリスト」に変化はない。

 「フリーライフ」のメンバーの名前は、相変わらず、「ログアウト状態」を示すグレーのままだった……。




            _ .. _
          /    \
        /, '⌒ l.r‐-、.`、
       / (   八   ) ヽ
       (   ー-'  `ー-'  ノ
        ー┐ (_八_)┌-'
           `ー┐┌┘
       -======' ,=====-
         -====' ,=====-
          -==' ,==-
______ ,r-‐   -‐、_______三┏( ^o^)┛

まさかの爆発オチ……流石エルゥさん。

さ~て、次回からはしばらくシリアスはお休み!

ラブってコメます!

次章にて、貴大が屋台を出します。

食べ物と言えばあのヒロイン!

「激闘!屋台街編」、お楽しみに!
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