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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

マイホームパパ編

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心配娘と子どものお世話

「カオルちゃ~ん、タカヒロちゃんが困ってるみたいよ~? うりうり、どうするの?」

 タカヒロが下級区のブライト孤児院の世話を任されてニ日目、お母さんが私をつつきながら変な事を言い出した。

「困ってるって……なにが?」

 子どものお世話は大変だと思うけど、しっかり者のユミィちゃんも付いているんだ。それに、孤児院に住んでいるクルちゃんもお手伝いしているはずだ。よっぽどのことがない限り、困ったことにはならないはずなんじゃ……?

「それがね、お母さん、さっき朝市で大荷物抱えたタカヒロちゃんと出会ってね。もう、びっくり! ブライト孤児院なんだけど、子どもが十九人もいるんだって!」

「ええっ!?」

 そんなにいたの!? クルちゃんしか見たことないから、いても十人ぐらいだと……十九人って、大家族どころの人数じゃないよ!

「タカヒロちゃんもね、なんだかぐったりしてて……誰か助けてくれないかな~、って言ってたよ」

「タカヒロが……」

 気だるげなのはいつものことだけど、十九人の子どもたちのお世話となると、本当に疲れているんだろう。お爺ちゃんのところにいたころは、叔父さんの子どもたちの面倒をみていたからよく分かる。タカヒロとユミィちゃんだけでどうにかなるとは思えない。

「わ、私、ちょっと見てくるね!」

「は~い、行ってらっしゃ~い」

 にやにやにと笑うお母さんをそのままに、居ても立ってもいられなくなった私は家を飛び出していった。



(きっと、ご飯なんて適当に済ませちゃってるんだ。洗濯はしてるのかな。掃除だってしなくちゃいけないのに……)

 自分のこともままならないタカヒロが十九人もの子どものお世話をするなんて、正直、不安でたまらない。しっかり者のユミィちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど、あの子だってまだまだ小さい子どもだ。一人じゃ面倒を見切れないだろう。

(なんでそんな依頼受けるかな~……)

 これだけ大きな仕事だ。従業員のユミィちゃんじゃなくて、店主であるタカヒロが直々に受けたものだろう。ユミィちゃんは、受けた仕事はきっちりこなすタイプだ。タカヒロが持ってきた仕事を、断るに断れなかったに違いない。こういう時は、素直に頼ってくれてもいいのに……。

(えっと、ここを曲がればすぐだよね)

 ブライト孤児院は、どうやら下級区ではそれなりに有名らしく、屋台のおじさんたちに話を聞いて歩くだけですぐに辿り着くことができそうだった。大通りから外れ、今いる住宅街の通りの中ほどを曲がれば、孤児院はすぐそこだという。

 それにしても、下級区は中級区よりもゴミゴミとしているイメージがあったのだけど、そんなことは全然ない。今も、小太りなおじさんがドブをさらっては綺麗にしている。漁港が近いからか、磯臭さや魚臭さは少しばかり強めだけど、私だって下町の人間だ。そんなに気にはならない。

(思ってたほど酷くはないのね)

 この街に越してきて一年も経っていないからあまりよくは知らなかったけど、下級区って言っても話に聞くスラムみたいなものじゃないんだ。クルちゃんたちはそんな所に住んでて大丈夫かな、って思っていたけれど、これなら心配ないだろう。

 ここに住んでいる子どもたちが笑いながら走り去っていく。おばさんたちがおしゃべりしながらたむろしている。どこからともなくピッ、ピッって、規則正しい笛の音が聞こえてくる。きっと、港に届いた魚をどこかへ運んでいるんだ。こんな雰囲気、私、好きだな。

 なんだか焦っていた心が穏やかになっていく。そうだ、こんな場所なら、みんな助け合って生活しているだろう。きっと、タカヒロたちも大丈夫。

 そう思って、孤児院へ続く曲がり角を曲がった。すると、私の眼には、和やかな孤児院の風景が……。





 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。

「……ケビン、手が止まっていますよ」

「はい……」(ガタガタ)

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。

「……ニーナ、もっと丁寧に」

「は、はいっ!」(ビクッ!)

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。

「……タウ、手間取っていますね。手伝いましょうか?」

「だ、大丈夫!」(ブンブン)

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……。





「あ、あれ?」

 目の前に広がった孤児院の前庭は、魚やイカを吊り下げた物干し台がずらりと並んでいた。奥では、肉も干しているようだ。子どもたちが、一糸乱れぬ動きで干物とするものを並べていく光景は壮観と言える。

 で、でも、何だか、子どもたちの目が死んだ魚のような……?

「……こんにちは、カオルさん」

「ひゃっ!? あ、あぁ、ユミィちゃんね、こんにちは」

 いつの間に傍に来たのか……首からホイッスルを下げたユミィちゃんが、相変わらずの無表情で立っていた。

「え、えっと、ユミィちゃん、これ、何やってるの?」

「……はい、冬の仕事の保存食作りです。ブライト孤児院において、十より上の子どもは、全員この作業に従事する決まりだそうです」

「そうなの……」

 私はてっきり、強制労働の現場かと……言われてみれば、十九人もの人数を抱えた孤児院だもの。肉や魚が安い内に買い込んで、冬に干しておくのはそう間違ったことじゃない。お爺ちゃん家にいた頃は、私だってドライフルーツ作りを手伝っていた。でも……。

「保存食作りって、もうちょっと楽しくやるもんじゃないの?」

 仕事じゃなくて、家庭での保存食作りは、おしゃべりしながらわいわいと作るもののはず……だよね? ここ、工場とかじゃないよね? 目の前の光景に、いまいち自信を持って断言できない私に、ユミィちゃんはこう言う。

「……それが理想的なのでしょう。ですが、いつまで経っても作業が進まないので、遺憾ながら私が指導役となりました。その結果、作業効率は四倍まで上がりました。これで保存食には当分困りません。素早くやり終えれば、空けることができた時間で楽しく遊ぶこともできるので、子どもたちも満足だと思います……ですよね?」

「「「はい、ユミエルさん!」」」

「……と、いうわけです」

「え、あ、う、うん……いや、ダメだよ!?」

 妙な説得力に流されそうになるけど、ここは否定しておくべきだ。ちっちゃい子相手に、効率なんて求めるものじゃない。長い目で成長を見守ってあげなくちゃ。

「……ダメ、ですか? 一体何が……?」

 ユミィちゃんは悪気のなさそうな顔をしている……いや、いつも同じ表情だけどさ! それでも、悪意を持って子どもと接しているようには思えない。きっと、本当によかれと思ってやっているのだろう。

「いい、ユミィちゃん。まだ子どもばっかりだもの。楽しくおしゃべりでもしながらやった方が、この子たちのやる気も上がると思うよ? 無理やりやらせたらそりゃあはかどると思うけど、それじゃあダメなの。きっと、お手伝いが嫌いな子になっちゃうよ」

「……なんと」

「確かに、所々でビシッと注意してあげるのは必要だと思うけど、ずっとその調子じゃあ気疲れしちゃうよ。だよね?」

 ぶんぶんと首を縦に振る子どもたち。それを見て、ユミィちゃんは僅かに目を見開く。

「……そう、だったのですか。それならもっと早く言ってくれればよかったのに」

 あぁ、子どもたちの顔が引きつってる……「怖くて言えなかったんだよ!」って言葉が伝わってくるようだ。ユミィちゃん、仕事の時は厳しいからねえ……。

「さって、みんな、おしゃべりぐらいならしててもいいよ? でも、お手伝いはちゃんと終わらせること! いい?」

「「「は~い!」」」

 そして、呪縛が解けたように砕けた様子で、思い思いの場所へと移動していく子どもたち。うん、しゃべりながらもお手伝いをしようとしている。これなら大丈夫だろう。

「……カオルさん、教えてくださってありがとうございます。私はどうにも一般常識に疎くて」

「ううん、しょうがないよ」

 奴隷だったんだから、という言葉は言わない。本人にしてみたら言われなくても分かっていることだし、今のユミィちゃんはタカヒロの家族だ。常識が足りていないのも、これからゆっくり覚えていけばいい。

 それが言葉にしなくても伝わるように、小柄なこの子の頭を優しく撫でてあげる。

「……なんですか?」

「ううん、なんでも。そうだ、タカヒロって、今、どこにいるの?」

「……ご主人さまですか。それなら、一階のリビングで小さい子たちの面倒を見ておられます。玄関から入って突き当たりです」

「そっか、ありがと」

 最後に一度、なでなでしてあげてから玄関へ向かう。一階突き当たりね、よーし! きっと、タカヒロはちっちゃい子のお世話にあたふたしていることだろう。早く行って助けてあげよう。どこか頼りない感じがするからなぁ、タカヒロって。



「やめてくれぇぇ~……!」

「きゃはは! へんな顔~!」

「おうまさん、ちゃんとはしって!」

「わんわん!」

「クルミア、おまえデカイんだから、のっかるなよ~!」

「ゴルディとどっちがはやいかきょうそうだ~」

「わん!」

「助けてぇ……!」



 あぁ、うん。

 想像以上に混沌としてた。

 総勢九人(+ゴルディ)ものちっちゃい子たちに纏わりつかれたタカヒロが、木張りの床に転がっている。その顔をわんこたちがぺろぺろと舐めまわし、四肢や胴には子どもたちがしがみついたりのっかったりして動くに動けない状況だ。

「あ、カオル、助けてくれ!」

 仰向けのまま、私へと視線を向けるタカヒロ。どうしようもなく情けない顔をしている。まったく、もう……。

「はいは~い、あなた達、ちょっとどきなさ~い」

 一人一人、タカヒロにしがみついたちびっ子たちを抱え上げて外していく。クルちゃん以外は初対面だ。きょとんとして、見慣れない私を見上げている。

「ふ~、助かったわ……」

 やがて、むくりと起き上るタカヒロ。ボサボサの髪を更に乱れさせ、顔中よだれでべとべとだ。

「も~、なにやってるの」

 見てはいられず、ぴょこぴょことはねた髪を撫でつけてあげ、ハンカチで顔を拭ってあげる。タカヒロは「いいよ、これぐらい」と逃げようとするけれど、子どもたちの前だ。あんまりだらしがない姿は見せるべきじゃないと思う。

「はい、おしまい」

 ささっと、見苦しくない程度に整えてあげた。うん、これなら大丈夫かな……ん? 狐みたいな耳の女の子が、服の裾を引っ張ってくる。何だろう?

「ね~ね~、お姉ちゃん、お兄ちゃんのおよめさん?」

「なっ!?」

「およめさん」って、あの「お嫁さん」!? おにいちゃんってタカヒロのこと!?

「ち、違うよっ!」

「え~、だって、仲いいでしょ?」

「タカ、ケッコンしてたんだ~!」

「わぅ!? わんわん!」

 やいのやいのと騒ぎ出す子どもたち。私が否定すればするほど、面白がってからかってくる。タカヒロも、「あ~、違うぞ、お前ら」と言ってはいるけど、誰も聞いていない。

 わいわいと、思い思いに考えたことをそのまま口にする子どもたち。この騒ぎは彼らが飽きるまで、ずいぶんと長いこと続いた。

 あ~、なんだか妙に焦っちゃった……ふぅ。

「で、朝ごはんはちゃんと食べさせてあげたの?」

 ここから、本来の目的の始まりだ。ちゃんとお世話はできているんだろうか……心配だ。しっかり確認しなくては。

「あぁ、ユミィとガキどもが、雑穀のポリッジ作ってた。あっ、俺は昨日ちゃんと飯作ったからな! ホントだぞ? な~?」

「な~?」

 膝の上に乗せた、七歳の男の子(テオって名前だそうだ)が嬉しそうに頷いているところから、本当のことなんだろう。

「じゃあ、洗濯は?」

「さっき済ませた」

「掃除は?」

「ユミィたちが済ませた」

「むむむ……」

 なんだ、案外ちゃんとやってるみたいだ。これなら、私が来た意味が……。なんだか、拍子抜けしちゃった。

「は~、じゃあ、お昼の準備もできているよね?」

 これだけきっちりやっているなら、当然、出来ているんだろう。もう、帰ろうかな……。

「昼……? やべっ、もうこんな時間か!?」

「ん?」

 昼、と聞いたタカヒロの顔が、段々青くなっていく……あれ? もしかして?

「ガキどもに弄ばれて、全然準備してねえ……や、やべえ、ユミィに殺される……! た、助けてカオルも~ん!」

 テオを脇にどけて平伏するタカヒロ。あぁ、やっぱりこの人はどこか抜けているなぁ。いざという所で頼りないというか……うん、しょうがない。元々そのつもりで来たし、助けてあげよう!

「はいはい、さっさとご飯作るわよ」

「あ、あれ? ホントに手伝ってくれるのか? 店は?」

「お母さんが、さっき【コール】で、今日はタカヒロを手伝ってやれって……」

「マジでか! うおお! ケイトさん大好きー!!」

「むっ、手伝ってあげるのは私なのに……」

「おお、カオルもありがとうな!」

 なーんか適当なお礼……まぁ、いつものことか。さっ、料理だ、料理!

 場所を移して、ここは孤児院の台所。大人数の食事を賄うためか、まんぷく亭の台所よりも広い。これは、料理のし甲斐がありそうだ。

「それで? 何を作るつもりなの? 買い物は済ませてるんでしょ?」

「あ~、市場でやっすい貝やら魚やら買ってきたけど、まだ何も考えてねえわ」

 「冷えるんボックス」の中を覗くと、確かに海産物が所狭しと詰まってはいるけど……何を作ろうと思って買い揃えたのかいまいちよく分からない組み合わせだ。サバやアンコウ、ホタテでどんな料理を作るつもりだったんだろう。

 お母さんが、「主婦は何を作るかだいたい考えてから買い物するけど、男はその時の気分で買い物するから無駄が多いの」って言ってたのは本当のことだったんだ。うん、やっぱり任せておけない。

「決まり! タカヒロはお湯を沸かして、野菜の下ごしらえをしてて! 魚と貝は私が捌いとくから!」

「お~、了解。まあ、任せるわ」

 さて、料理屋の娘の腕前、見せてあげる!



「おいしい~!」

「わぅ~……」

「ダメよ、クルちゃん、野菜も食べなきゃ」

「おかわりー!」

「ああ、ホタテは一人一個だからね」

「パンも……?」

「パンはたくさんあるからね~」

 わ~、やっぱり、十九人もいたら、お昼ご飯を食べるのも一苦労だ。さっき私が作ったのは、「ホタテの醤油バター焼き」と、「人参とスナップエンドウの塩茹で」、それと魚のアラで作ったスープとライ麦パンだ。

 幸い好評なようだけど、お皿をひっくり返したり、スープにむせたりと、私がご飯を食べる暇もなくドタバタとしている。

 子どもたちは元気なもので、ご飯が終わったら外で駆け回って、疲れ果てて戻ってきたと思ったらお昼寝だ。干物や洗濯物を孤児院の中に取り込んで、夕ご飯の下ごしらえをしていたら、「ケガしたー」って泣きながら飛びこんで来たりもした。

 夜は豪勢に、羊肉を焼いたものと玉ねぎやレタス、トマトと一緒にパンに挟んだものを食べたんだけど、ここでも、上手に食べれない子や、野菜をこっそり抜こうとする子のお世話に駆け回った。

 そして、お腹一杯になって一息ついたら、今度はお風呂だ。男の子たちはタカヒロに任せて、ユミィちゃんと一緒に女の子をお風呂に入れてあげる。私やユミィちゃんも含めて十人ぐらいの人数でいっぱいになっちゃうような埋め込み式の浴槽で、ちびっ子たちをあっためさせる。

 木の枠で囲まれた直径20cmほどの金属球、【ウォーム】が込められたマジックアイテム・「テキオーン」(開発者直々のネーミングだそうだ)はうまく働いているようで、子どもも嫌がらないちょうどいい温度だ。

 ほどよくあったまったら、どこでもはしゃごうとする子どもたちをふんづかまえて石鹸で体や髪を洗わせる。クルちゃんが洗いっこを始めたことによって子どもたちがまたはしゃぎだして、みんな泡だらけになってしまったけど、まぁ、結果オーライということで……。

 そして、お風呂上がりの子どもたちの体をタオルで拭いてあげ、牛乳を飲ませていたらもう夜の八時だ。あ、あっという間だった……!

「じゃあ、そろそろ帰るね」

 そう言って、帰る準備を始める。何だかんだで夜もお店を休んじゃった。今から帰ったら、片付けと明日の仕込みぐらいは手伝えるだろう。そう考えて手早く手荷物をまとめていると、子どもたちが縋りついてきた。

「え~、やだやだ! もっといてよ~!」

「くぅん、くんくん」

「え、でも……」

 困ったな……どうしよう。背中にお腹にと抱きついてくる子どもたちを引き離すのは簡単だけど、どうにも保護欲をくすぐられる。

「ねぇ~、泊まってってよ~」

「そうだよ、そうしてよ~」

「ううん……そう、ね……ね、タカヒロ、どうしよう?」

 タカヒロに助け船を求めてみる。すると、彼は両手をパンと合わせて、頭を下げてきた。

「すまん、カオル! 今晩だけでいいから、こいつらの面倒、一緒に見てやってくれ。昨日もなかなか寝なくてな……ユミィとニ人じゃ大変だったんだ」

「そうなの……」

 確かに、これだけいたら何をするにも一苦労だと思う。眠ってしまっても、トイレに起きてくる子もいないことはないはずだ。その付き添いで、ろくに眠れなかったんじゃないだろうか。……よし、しょうがない! 最後まで手伝ってあげよう!

「うん、わかった。じゃあ、今晩は私も泊まっていくね」

「おぉ、ありがと!」

「「「やった~!」」」

 ふふ、あんなに喜ばれると、満更でもない気分。それに、保存食作りで「指導」を受けた年長組も、ユミィちゃんをチラチラ見ながら懸命に「もっといてよ!」と頼んでいるしね……ユミィちゃん、「指導」はほどほどにね……。

 そんなこんなで、ブライト孤児院にお泊まりすることとなった私。あれよあれよと事が進み、今はちっちゃい子用の大部屋で、タカヒロやユミィちゃんと一緒に子どもたちを寝かしつけている。

「ねぇ、もっとおはなしして?」

「う~ん、もう寝なきゃダメだよ」

「もっと聞きたい~」

 半分くらいの子どもたちはもう寝ているんだけど、お話し好きな子たちがもっともっととせがんでくる。でも、もうすぐ夜十時だ。子どもはもう寝なくちゃいけない。ここは少し、脅かしてみようか。

「早く寝ないと、お化けが来るんだよー」

 う、う~ん、我ながら捻りがない……ほら、子どもたちだって笑ってる。

「おかあさんが、いい子はかみさまが見ていてくれるからおばけなんて大丈夫、って言ってたよ」

「だいたい、お化けなんていないよ!」

 だ、ダメだ。私の話じゃあ、子どもたちを怖がらせることもできない。ちっちゃい頃に聞いたお爺ちゃんの怪談話は怖かったんだけどなぁ……それを聞いただけで怖くなって、布団かぶって一生懸命寝ようとした覚えがあるのに。そうだ、あの話をしてみよう。

「それがね、いるんだよ~。ウブメっていう、いつまで経っても寝ない子どもをさらっちゃうこわ~いお化けがいるのよ」

「う、うぶめ?」

「そう、ウブメ。黒髪の痩せた女の人のお化けでね。悪い子をひゅ~、ってさらっちゃうの」

 聞き慣れない響きにちょっぴり怖くなったのか、布団をぎゅっとつかんで互いに身を寄せ合う子どもたち。特に、先ほどまで話を催促していたバルド君なんか、顔を青ざめさせて微動だにしていない。ちょっと驚かせすぎたかな?

「ねぇ、お姉ちゃん……ウブメって、黒い髪の女の人……?」

「え? え、えぇ、そうよ」

 そんなに気になるのかな? 確認するかのような口調で、問いかけてくるバルド君。

「それって、あの人みたいな……?」

「え? 誰のこと?」

 あれ? 私のことじゃないよね? バルド君は、私の右後ろを指差している。

 んん? そっちには窓しかないのに……? 何気なく振り返ってみる。うん、やっぱりカーテンがかけられた窓だ。ちょっとだけカーテンに隙間ができている。直しとこっと。

 そう思って、窓に近づいて……気づいてしまった。

 いる。

 窓の外に何かが。

 それは黒髪の女性だ。病的に白い肌に緩やかに波打つ髪を垂らし、ガラスに掌を張り付けて、部屋の中を伺っている。ギョロギョロと動く眼球は、焦点を結んでいないように思える。

 やがてソレは、窓の脇に立つ私に気づいたのか、ギン、と睨みつけてきた!

「きゃああああ~~~~~!?!?」

「「「ああああ~~~~~!!」」」

 そこからは大変だった……幽霊、いや、エルゥさんだったんだけど、彼女に気づいた子どもたちが、私の悲鳴に呼応するかのように泣き出してしまい、それを収めるのだけで小一時間ほどかかってしまった。

 騒ぎを聞きつけて、孤児院のみんながやってくるわ、それでまた騒ぎになるわでほんっとーに大変だった……。

 今はタカヒロが、「『@wiki』を読みにだね……いや、ブライト孤児院まで読みに来いって君が……」と弁解するエルゥさんを連れ出して説教している。

 「時間を考えろ!」だの、「【コール】で事前連絡しろ!」だのときつく叱っている声が聞こえてくる。あちらは、彼に任せよう。

 問題はこっちだ。泣き疲れて眠る子たちが、私やユミィちゃんにしがみついて離れない。無表情に横になるユミィちゃんの、両脇、お腹、頭に子どもたちがくっついてて、とってもシュール。いや、私も同じような状態なんだけどね。

 これじゃあ、下手に見動きできないよ……寝る前にトイレ行こうと思ってたのに……。

 やっぱり、子どものお世話って大変だ~……。




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