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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

学園編

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甘い話には棘がある

 王都が誇る教育機関、「グランフェリア王立学園」。下は六歳から上は十八歳まで、貴族や上級区の子弟が通う由緒正しきエスカレーター式の学校である。

 レベルとスキルが物を言う「アース」において、個人の武力・知力は、財力、権力とは異なるある種のステータスだ。

 強いから偉い。モンスターの襲撃から人々を長年守り抜いた男を祖とするイースィンド王国では、その意識が未だ根強く残っている。なので、幾ら金や権力で身を固めようとも、強くなければ一人前の人間とは見られないのだ。

 そのような風潮が蔓延る王国において教育機関に求められたのは「レベル上げ、スキル習得」だ。名門グランフェリア王立学園も例外ではなく、日々、金持ちや貴族の子どもたちが鍛錬に励んでいる。

 その子どもたちの登校に交じり、眠たそうに足を引きずって歩く男がいた。

 名を、佐山貴大。グランフェリア王立学園の臨時講師である。

「先生~、おはようございます!」

「はいはい、おはようさん」

「おはようございま~す!」

「あ゛~、おはよう」

 初等部の児童たちの挨拶へとだるそうに答え、ふらふらと歩く貴大。身なりだけは使用人に正されたのか、パリッと糊が効いたシャツにネクタイを締めている。それでも、生気あふるる若人たちと比べれば、その顔は人生に疲れ果てた中年のようだ。まだ二十歳なのに。

(なんでここにいるんだろ……俺……)

 今日は週に一度の臨時講師の日。貴大は丸一日、学校に備え付けられたダンジョンに生徒を引率しなければならない。

 終わるのは17:00を予定しているが、今までの座学は時間どおりに終わった試しはない。向上心豊かな学生たちが帰してくれないのだ。

 座学でそれだ……ダンジョン実習にかかる時間など、予想すらできない。そのことを思っただけで、体中から気力が失われていく。

(ほんと、なんでこんなことになったんだろ……あ、自分のせいか……ははは……くそっ)

 しがない何でも屋「フリーライフ」の店主。それがなぜ威光に輝く名門校の臨時講師をしているのか。きっかけは、一ヶ月前に遡る。



………………
…………
……



 あの日は、とても暑い日だったのを覚えている。運よく何の依頼も無く一日を終えた俺は、「まんぷく亭」でよっく冷えたビールを飲んでご機嫌だった。近頃は俺が何もしなくても、日本人好みの一品料理が出てくるので楽でたまらない。教えた甲斐があった……。

 酒はそんなに飲まない方だが、今夜はなんだか気分がいい。楽しく酔いたい感じだ。ついつい、二杯めのジョッキをカオルに頼んでしまった。まあいい。どうせ明日は休日だ。酔い潰れても構わんさ。

「はい、お待ちどうさま!それと、これはおまけね♪」

「おお、すまないな!」

 なんと、揚げ出し豆腐のサービスだ。これはいい。実に楽しい夜になりそうだ。そんな予感に、グッと勢いよくジョッキを傾けた。咽を刺激する炭酸と苦みがたまらない。次は趣向を変えて甘いお酒でも飲もうかな……ん?



「どうしよう、どうすれば、ああ、あああ……」



 俺が座ったカウンター席の端で、金髪眼鏡のインテリ然としたお兄さん(二十前半ぐらいか?)が頭を抱えてぶつぶつ呟いていた。何やら、相当切羽詰まっているようようだ。目の前に置かれたビールの泡は抜け、料理も温くなっていることにすら気づいていない。

「わた、私はできないって言ったんだ……!そうだ、私は悪くない……悪いのは上だ、上層部だ……ううう!」

 涙さえ浮かべている始末。どうにも湿っぽくてよろしくない。少し話を聞いてやるか。今の俺はご機嫌だからな! わはは……。

「おいおい、何があったんだよ」

「はいっ!? な、なんですか、貴方は……!?」

 子ネズミのようにビクリと震え、警戒心を露わにするインテリ眼鏡。あらら……。

「なに、怪しいもんじゃねえって。俺は何でも屋の貴大ってんだ。さっきから「何でも屋!!!??」ぉお? あ、ああ、そうだよ?」

 話の途中だってのに、遮って身を乗り出してくる眼鏡。な、なんだぁ?

「何でも屋、ってことは、顔が広いんじゃないですか!!?」

「あ、ああ、上から下まで、それなりに知ってる奴は多いが……」

「ああ! ああっ! そ、それなら、【迷宮探索】のスキルを持っている冒険者を知ってはいませんか!?」

「【迷宮探索】ぅ? 初歩の初歩じゃねえか、んなもん。オレだって持ってるわ」

 【迷宮探索】とは、迷宮内で様々な恩恵を与えてくれるパッシブスキル(自動的に効果が発動するスキル)だ。と、言っても、「ダンジョンハンター」のジョブに就いてしばらくすれば、誰だって身につけられるスキルだぞ? 逆に、なんでこいつ持ってないんだ? と不思議に思う。

「あ、あなた、持ってるんですか!? 【迷宮探索】!!?」

「おう、持ってるよ。【オートマッピング】や【脱出】、【罠回避】だって持っとるわ」

「おお…おおお……素晴らしい……! あぁ、神よ、感謝します……! この出会いは何よりの恩恵です……!」

 なーに言ってんだ、こいつ。酔ってんのか? ああ、酔ってるのはオレか! わはは……。

「タカヒロさん。貴方は「何でも屋」だとおっしゃいましたね?」

「ああ、そうだよ」

「では、貴方に依頼があります」

「おー、どーぞどーぞ!」

「学園の臨時講師になっていただけませんか!」

 ……「学園」の臨時講師?

 はは~ん、あれだろ? 近所のガキが通う「ミルポワ学園」だろ?

 同じ町内のイヴェッタさん(お水系の色っぽいお姉さんだ)から、昔、そこで臨時講師という名の子守りをしていたって話を聴いた。

 なんでも、ガキと一緒に飯食ったり昼寝したりするだけでいい、みたいな内容だったはず……いいな! 臨時講師!

「おう! 任せろ! オレにな~んでも任せろ!」

「そ、そうですか! 引き受けてくれますか!! ありがとうございます!!!」

「な~に、この世は持ちつ持たれつだ! 困った時はお互い様! わはは……!」

「いや~、良かった! 赴任早々貴方のような人に出会えて!」

「よせよ、照れるだろ? はは!」

「謙遜はよくないですよ? ははは!」

 先ほどまでの落ち込んだ様子はどこへやら、今では喜色満面でオレとジョッキを打ち合わせている。やっぱ、酒を飲む時は楽しくねえとな!

「カオル~! 酒! 酒のおかわり~! あ、あとてきと~につまみを頼む!」

「あ、私にもお酒のおかわりを!」

 なかなかにいいペースだ! オレもまだ、負けてられないな!

 オレたちの夜は、まだ始まったばかりだぜ……!





「……ご主人さま、起きてください、ご主人さま」

 ゆさゆさと身体を揺すられ、意識が浮上しかける。だが、まだまだ睡眠を身体が欲している。寝かせてくれよ……。

「……ご主人さま、起きてください、ご主人さま」

 身体を揺すられるのがほどよい刺激になって、段々と意識がブラックアウト……はっ!?

 ドズン!!!

「あぶぅ!!? あぶねっ、あぶねえだろっ!?!?」

 一瞬前まで自分の顔がうずめられていた枕には、今は黒く無骨な鉄球が埋もれている。こ、こいつっ! 日に日に起こすための行為がエスカレートしてきやがる!! 【緊急回避5】がなければ顔の形が変わっていたぞ!!!!

「……おはようございます、ご主人さま。早速ですが、来客です」

「はぁ? 来客ぅ? こんな時間にアポも無しにか?」

「……いえ、ご主人さまと昨夜、約束を交わされたそうです」

「へぇっ!??」

 身に覚えが全くない。そもそも、寝る前はどこにいて何をしていたか……とにかく、自分で約束したんなら話は別だ。朝も早よから来客とやらに会うことにする。



「おはようございます、タカヒロさん。少し早いですが、迎えに参りました」

(……誰だこいつ……?)

 いや、見たことがあるようなないような……ある、なあ。でも、名前が思い出せない。しかも、迎えに参った? 何の話だ……?

「……さすがです、ご主人さま。ようやく労働への熱意に目覚めたのですね?」

 オレの後ろで、「……労働はいいものです」と淡々と口にするユミィ。って、労働!? いやだぞ、オレは……二日酔い状態で働くなんて、人間のすることじゃねえ!

「さて、馬車も待たせています。早速ですが、学園へ出かけましょう」

 ……ん? 学園? …………!!

 脳裏に昨夜の記憶がフラッシュバックする。

 そうだ、オレはこの眼鏡と、ミルポワ学園の臨時講師(という名の子守り)を任されたんだ!

 おほっ、そうと分かれば、こうしちゃいられねえ。食っちゃ寝タイムがオレを待ってるぜ!!

「ああ、そうだな、出かけよう! ユミィ、留守は任せた!」

「……お任せください」

 「……ご立派になられて」とハンカチを目元に当てるユミィ……涙出てねえぞ? ともあれ、これでユミィの目を逃れて堂々と昼寝ができるぜ! いい……! いいぞ……!



「出してくれ!」

 御者に声をかける眼鏡。カタコトと軽い音を立てて馬車が走りだす。

「しかし、なんだな。学園に行くのに馬車か。ちょっと大袈裟じゃないか?」

「はは、タカヒロさんたらまたまた御冗談を。歩いて行ったらそれだけで疲れてしまいますよ」

 ミルポワ学園は歩いて十分程度だぞ? どんだけひ弱なんだよ、このインテリは……。

 しばらくパカポコと進む馬車……いかん、振動で眠気が……。

「ああ、着いたら起こすので、寝ていてもらって大丈夫ですよ。昨日の今日ですものね、僕も眠いです、はは」

 だよな? じゃあ、お言葉に甘えて……zzz



「タカヒロさん、起きてください、タカヒロさん。着きましたよ」

「んおっ? お、おお、着いたか……」

 正直、全然寝たりない。感覚的には、目を閉じてしばらくして開いた程度しか寝ていないように思える。まあ、馬車を使えばミルポワ学園まで五分ぐらいだ。しょうがない。

「ふぁあ~あ……」

 あくびをかみ殺しもせずに馬車を降りる。さ~て、本格的な昼寝タイムのはじま……り……?

「ここ…どこ……?」

「やだなあ、タカヒロさん。寝ぼけているんですか? もう学園ですよ」

「いや、ミルポワ……え? あれ?」

「どんな夢を見ていたんですか? ふふ。ここは、「グランフェリア王立学園」ですよ」

「おぉ……」

 オレの目の前に広がる白亜の石畳。アホみたいに装飾過多の校門。奥に見えるのは、噂に聞く時計塔だろう。間違いない、ここは、グランフェリア王立学園……!





「あの勘違いをあの場で正せなかったのが、そもそもの間違いだったんだよな……はぁ……」

 あの時呆然と眺めた時計塔の入り口に、貴大は今もこうして立っている。授業開始の鐘は、まだ鳴ってすらいない。今日も長い一日になりそうだった。





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