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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

貴大の日常編

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フリーマーケットにて

はい、新章「貴大の日常編」です。

ヒロインと絡まないところで、主人公は何をやっているの、という話です。

その始まりは、フリーマーケットでのお小遣い稼ぎから!

では、どうぞ!
 東大陸西部に広く浸透している文化として、「新年祭」というものがある。

 一月一日から三日がその期間に当たり、その間、人々は新しい年の到来をどんちゃん騒ぎで盛大に迎えるのだ。細かな内容は国ごとの特色を見せるが、ここ、イースィンド王国は王都グランフェリアのそれは、他国からも多くの物見遊山の人で溢れかえるほどに異彩を放っていた。

「第一から第五魔導隊、【ブラスト・ランチャー】斉射!!」

「「「ブラスト・ランチャー】!!!!」」」

 王国が誇る王立魔導隊の百にも及ぶ精鋭が、海上の空へと向けて広範囲炸裂スキル【ブラスト・ランチャー】を放つ。放物線を描き、色とりどりの煙の尾を引いて天空へと突き進む西瓜大の光球。それは、遂に重力に捕まり、上昇する勢いを無くしたところで……一斉に爆発した。

「「「おおおおお~~~~~~…………!!!!」」」

 寒空に漂う薄靄を吹き飛ばすほどの閃光と轟音、そして爆風に、王都の誰もが感嘆の息を吐く。横一列に並ぶように破裂した【ブラスト・ランチャー】の爆炎は、まるで、立ち並ぶ敵をなぎ倒す「フランベルジュ」の波打つ刀身のようだ。

 このように、強力なスキルを保有することで知られるイースィンド王国は、新年祭にてスキルを披露している。これは、国民を奮い立たせるとともに、他国への牽制の効果も併せ持ち、更には祭事としての盛り上がりも申し分ない。建国から続く、この国の伝統行事であった。





「は~……【ブラスト・ランチャー】とは、また懐かしいもんを……」

 ここは、中級区大市場の脇に設けられた新年祭フリーバザー会場。その一角で商品を広げる「何でも屋・フリーライフ」の主・佐山貴大は、【ブラスト・ランチャー】の余韻が漂う空を見上げ、かつての日々に思いを馳せていた。

 【ブラスト・ランチャー】の特筆すべき点は、威力ではなく効果範囲だ。スキル行使者が指定した地点で爆発するこの魔法球は、半径20メートルもの爆炎を生み出す。更に、迷宮内などの密閉空間で使用されれば、収まりきらない炎が通路を埋め尽くすように突き進んでいく。

 威力は、【フレイム・スロワー】や、【灼熱の炎球】には及ばず、連射は出来ないものの、雑魚掃討などに多大な効力を発揮するスキルであった。

 貴大がプレイしていた≪Another World Online≫でも、中級プレイヤーなら頑張れば誰でも習得できるこのスキルは人気が高く、今のような花火代わりだけではなく、耐熱装備を施したプレイヤーに撃ち込んで「やったか!?」、「なに……無傷、だと……?」ごっこを楽しむ馬鹿もいた。

 そんなスキルをお遊びに使う光景を、異世界にまで来て見ることになるとは貴大にも予想外だった。被っていた幅広の帽子がズレていることにも気付かず、しばしの間ポカンと空を見上げていた。



「すみません、このナイフ、見せていただけますか?」

 そんな彼を正気に戻したのは、フリーマーケットを利用する客の声だ。慌てて、視線を上から戻して、揉み手を擦り始める貴大。

「はい、どうぞ! 是非、お手にとっ……て……?」

 彼の目の前にいたのは、王立学園での教え子、アベル・クルトーニだった。

(ヤバいっ!!)

 素早く帽子のつばを下げ、マフラーを口元まで引き上げる。そして、黒眼鏡越しにチラリとアベルの様子を窺った。彼は、しばらくは訝しげな目つきだったが、特に不審には思わなかったのか、すぐにニつの樽の上に板を乗せた粗末な展示台に並ぶナイフや小物を手にとって確認し始めた。

(ふ~、焦らせるなよ……ったく)

 貴大は、このような公の場で店を開いてはいるが、正体は誰にも知られたくなかった。新年祭などの大きな祭りの時期のみ開かれるフリーマーケットは、貴大の大事なお小遣い稼ぎの場だ。

 普段は、人目にさらせば「どこで手に入れた」と聞かれる少しばかりレアな素材や装備品も、その場限りの関係のここでならば後腐れなく売り払うことができる。そのための変装だ。それでも、万一にも見破られないように、貴大は顔を俯かせる。

「ふ~ん……」

 流石に上級区の商人の息子というべきか、アベルは目玉商品の「複合毒のナイフ」(切りつけた対象に、【毒2】、【麻痺2】を中程度の確率で与える)を目の高さに水平に構え、角度を変えては細部に見入っている。

 貴大は、素材から物品を作り出す製作系スキルはあまり身につけてはいない。この世界へと落ちてきた後は必要性を感じ、回復系アイテムや状態異常を防ぐアクセサリを作る術ぐらいは身につけたが、元より面倒くさがりな彼は物作りに向いてなかったのだろう。それでも、自分も使うナイフの作成にはそれなりに自信があった。

 やらない時はする気も起きない貴大ではあったが、やるとなれば徹底的に行うのが彼の性質だ。今回売りに出している「複合毒のナイフ」は装備品としては中の下だが、彼なりの情熱と工夫が込められた逸品なのだ。

 より状態異常の確率を上げるためには、付与素材として何が適切かを幾夜も悩みぬいた。光が反射して居場所を知られるのを防ぐために、「火山樹の粉末」でツヤ消し加工もした。

 それほどまでに苦心して作り上げたナイフを気に入らない者など、彼には考えられなかった。

 しかし、現実は非情である。

「うん、もういいです。やっぱり、掘り出し物なんてそうそう見つかるものじゃないな」

 パサッ、と展示台に「複合毒のナイフ」を放り捨てたアベルは、振り向きもせずに雑踏に消えていった。残されたのは、変装の下で自信に満ちた笑みのまま固まる貴大と、手付かずの商品の数々だった。

(…………あ、あ、あ、アベルゥゥゥァァァァァ~~~~~~~!!!!)

 確かに、見てくれは悪い。上級区で生産されるという、ギラギラと光り輝いて見るからに切れそうなナイフとは違って、照り返しが無い鈍色の刀身だ。柄も、実用性重視の素っ気ないもので、これといった装飾など施していない。切れ味も、貴族が使うような高級品には幾分かは劣る。

 だが、これは切断力を重視した刃物ではないのだ。むしろ、つや消し加工によりザラザラとした刃で敵の肉体を抉り、たっぷりと染み込んだ複合毒を塗りつけ、敵の動きを鈍らせることにこそ価値がある。

 そのことをろくに理解せず、「切れ味が悪そうなナイフだなぁ」と蔑んだ目で自慢の逸品を放るとは何事か。瞬時に憤慨した貴大は、余りの悔しさに地面を何度も踏みつける。

(切れ味が良いナイフが欲しいならパパに頼めよ!! ど~せ、正月明けで遊び過ぎて、最下層攻略のための装備を整える金も尽きたんだろう、クソが!!)

 怒りのうめき声をう~う~と発しながら、その場をうろつき始める顔を隠した男。しばらくして、周囲のフリーマーケットの店主たちに迷惑そうな目で見られていることに気付き、慌ててどっかりと用意した椅子に腰を下ろした。

 それでも、その顔は不貞腐れたもので、客の呼び込みもせぬままに腕を組んで眉を寄せていた。変装で顔が隠れていてもその剣呑な気配は伝わるのか、それからは誰も客が来ぬままに時間だけが過ぎていく。

 流石にこのままではいかんなと思い、気を取り直そうとしたところで、彼に声をかける者がいた。

「すみません、この小瓶って、もしかしてポーションですか?」

「ん? あ、あぁ、そうだが……」

 見れば、展示台代わりの大樽から顔だけを覗かせている小柄な少女が、貴大の作成した「ハイ・ポーション改」に見入っている。年の頃は七、八歳ほどだろうか。亜麻色の髪を三つ編みで一つにまとめている、利発そうな女児だ。鍔広帽子に黒眼鏡という妖しげな風体の店主に物怖じすることなく、更に尋ねてくる。

「やっぱりそうですか! あ、でも、これって効果は高いんですか……?」

(ほほう、俺の自信作に「効果は高いんですか」とな?)

 貴大が調合した「ハイ・ポーション改」は、流通量も多い「ハイ・ポーション」系統の薬品ではあるが、「マンドラゴラモドキ」などの付与素材によって、ワンランク上の「グレート・ポーション」にも迫る効力を備えている。

 「人々が意固地になって出所を探るほどではないが、商品価値は高い」という、面倒事を避けながらも小遣い稼ぎをしようという貴大の望みに合致するアイテムであった。

 (寝転びながら)「@wiki」から探し出し、(運搬依頼のついでに)材料採取を行い、苦心して作成したアイテムに、けちをつけるところなどどこにもない。そのことを知らしめるために、貴大は口を開く。

「ふふふ、この「ハイ・ポーション改」は、そんじょそこらのポーションじゃあない。どんな傷も瞬時に治し、疲労感さえも跡型なく吹き飛ばす。こいつで元気にならない奴はいないね!」

 少しばかり誇張が過ぎたかと思ったが、レベル150程度の人間なら全快させてしまう薬品だ。ある意味ウソではないと開き直り、少女に向かって紅い液体が入った小瓶を突きつける。

 だが、少女は申し訳なさそうに俯いて謝った。

「ごめんなさい、じゃあ、いいです……」

 そのまま肩を落としてとぼとぼと歩き去ろうとする少女を慌てて呼びとめる貴大。このまま帰してしまえば、あれだけ偉そうに効能をたれた彼は道化になってしまう。

「ちょ、ちょっと待て待て! どうしていいんだよ!? 効果は高いんだぞ? 何がいけないんだ!?」

 くるりと振り返った少女の目は、悲しみに染まっていた。

「だって、よく効くポーションは高いから……そんなにすごいポーションなら、私のお小遣いじゃ買えないなって……」

「は? お小遣い? お使いじゃないのか?」

 騎士辺りが小間使いにポーションなどを買いに行かせるのはよくある話だ。貴大は、この少女もその類かと考えていた訳だ。

「ううん、家、そんなにお金ないから……でも、最近疲れてるお兄ちゃんに、いいポーションを飲んでもらいたいなって……フリーマーケットなら、ちょっと古くても安い物があるって聞いたんだけど……」

(ぐっ……! 疲れたお兄ちゃんに飲ませるためになけなしの小遣いをはたくってか……)

 どうにもそのような人情話には弱い彼だ。純真そうな少女がしゅんと肩を落とす姿も相まって、ついついお節介を焼いてしまう。

「奇遇だなー、これがその「古くて安いもの」なんだよー(棒)」

「えっ? ほ、本当に? ……あの、おいくらですか……?」

 歓喜が一瞬顔を覗かせたが、すぐに不安で眉を落とす少女。おずおずと、「ハイ・ポーション改」の価格を尋ねてくる。

「……いくら持ってるの?」

 家にお金がないと言っていた少女だ。そのお小遣いとやらも、貧相なものに違いない。自分が提示した額に届かない、ということも充分に考えられた。

「これだけ……」

 恥ずかしそうに、首に下げた巾着を展示台の上で開いてみせる少女。その中には、鈍く光る手垢に汚れた銅貨が十枚ほど収められていた。

 出店で買い食いが数度できる程度の額だ。「ハイ・ポーション」どころか、「ポーション」すら買えるかどうか……。

 しかし貴大は、ここまで来たら死なば諸共だと、その額で承諾してしまう。

「ああ、これで買えるよ、よかったな」

 そう言って、ひょいと銅貨を何枚かつまみあげる貴大。

「本当に!? 本当にそれだけでいいの!?」

 流石に信じられないのか、目を見開いて何度も確かめる少女。

「いーって、いーって。いいから、お兄ちゃんに飲ませてやりな」

 そのまま放っておけばいつまでも「本当に!?」と繰り返していそうな彼女に「ハイ・ポーション改」を押しつける貴大。

「ありがとう、おじさん!」

 深々と頭を下げた少女は、満面の笑みで「ハイ・ポーション改」を胸に抱き、走り去っていった。

(まったく、俺も甘いもんだな)

 本来ならば銀貨数枚で売ることもできる効能の高い薬品を、二束三文で譲ってしまう自分のどうしようもない性分にため息を吐く貴大。

 しかし、少女との出会いが誘い水となったのか、入れ替わり立ち替わりで貴大の出店に客が来るようになり、三時間ほどで用意した微レアアイテムは全てはけてしまった。

「捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったもんだね」

 アベルに傷つけられた心は、その後の少女や客との交流ですっかり癒えていた。手塩にかけて作ったアイテムがそれなりに高く評価され、満更でもなさそうに片付けを始める貴大。

 だが、少しばかり気にかかることがあった。

「う~ん、あの娘、だれかに似てるような……?」

 「ハイ・ポーション改」をタダ同然の価格で譲ってあげた少女の顔が、記憶の中の誰かと重なるのだ。それは一体誰なのか。首を捻って考えてみるも、どうにも答えは出てこない。

 人付き合いは良くない方だが、それでも働いている以上は人との接点はある。その人間関係が、引っかかりを感じさせるのだが、そこから核心が引き出せない。まんじりとせずに考え込む貴大。だが、面倒くさがりな彼は、考え事もそうそう長くは続かない。

「……まぁ、いっか」

 しばらくの後に、気のせいだと決めつけた貴大は、稼いだ金で少しばかり豪華な夕食にありつくために帰路についた。




次回は、「シロアリ退治」です。

家屋の天敵、シロアリを、レベルカンスト冒険者が華麗に退治してのけます……あれ?

お、お楽しみに!
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