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なんでこんなに来ちゃったの

「……ご主人さま、今日はいかがなさいますか?」


 フリーライフの年越しは、この一言から始まった。


「いかがなさいますか、って、何が?」


 ユミエルの言わんとすることが理解できていないのか、朝食であるジャムを塗ったトースト(食パンがこの地域には無いため、わざわざ作った)を齧ったまま、気の無い返事をする貴大。そんな察しの悪い主へと、簡素に要点を伝えるメイド。


「……今日は、大晦日です。「お蕎麦」を打ったりはしないのですか?」


 どこか期待を感じ取ることができる瞳を向けられ、「そう言えば去年はそんなこともしたな」と思い出す貴大。当時は、奴隷商からユミエルを買い取ったばかりで、人間らしさの欠如した彼女の扱いに四苦八苦した覚えがあった。


 食の細い彼女に、何とか栄養のあるものを、と大晦日に蕎麦を打ちもした。あれから、もう一年。大人になるほどに時間の進みは早くなるものだな、と貴大は小さく笑う。


「よっしゃ、お前が何か食べたいって言うのは珍しいもんな。年越し蕎麦、打ってみるか」


 「……いえ、そんなことは決して」と思い出したかのように遠慮するメイドの頭をぐりぐりと撫で、貴大は思い浮かべた。炬燵に入って映像水晶を観ながら、ユミエルとニ人で年越し蕎麦をすする自分の姿を。


 それも悪くないな、と満更でもなさそうな笑みを浮かべ、蕎麦の材料を調達する為に出かけるべく、朝食をさっさと胃袋に納めていった。






「わんっ、わんわん!」


「あら、珍しいですね?タカヒロさんとこのような場所で会うなんて」


 ここは、食材や香辛料、防寒具やその材料、持ち帰り専門の料理、薪などの燃料、果ては嗜好品までが所狭しと並べられる、中級区の台所と呼ばれる大市場。年越しの準備に多くの人で賑わい、貴大とユミエルもその中を、はぐれないようにと手を繋いで歩いていた。


 そんな、良く見れば「幼い妹の手を引いてやる優しいお兄さん」、悪く見れば「見目麗しい少女をかどわかそうとする誘拐犯」と解釈できるほど外見にも身長にも差がある二人組に、気さくに話しかける者たちがいた。


「あぁ、ルードスさん、こんにちは。クルミアもこんな寒いのに元気だな」


「……こんにちは」


 下級区でブライト孤児院の院長を務めているシスター・ルードスと、獣人の少女クルミアだ。ルードスと繋いでいた手を離したクルミアは、早速貴大とユミエルにじゃれつき始める。


 小柄なユミエルが、身長180cmを越える犬娘に抱きつかれても倒れないのは、ひとえにレベルのおかげだろう。そんなシュールな光景を横目に、貴大とルードスは言葉を交わし始めた。


「ルードスさんも年越しの準備ですか?」


「ええ、家は大家族ですからね、その分用意も大変なんです。保存食などはみんなでコツコツと作っているので余裕はあるのですが、ザンポーネ(豚足の肉詰め)や魚のシチューの材料などは新鮮な方がいいですからね。力持ちのクルミアを連れて、こうして市場に来たのですよ」


 「力持ち」と褒められた少女が、得意げな笑みを浮かべて貴大を見やる。耳はピンと立ち、尻尾は千切れんばかりに振られていた。


「はいはい、偉いな、クルミアは」


「わぅん♪」


 頭を撫でられ、気持ちよさげに目を細めるクルミア。その微笑ましい関係に、シスターが口に手を当ててくすくすと笑う。


「ふふふ……すっかりニ人は仲良しですね」


「わうー!♪」


「うわ、こら、止せって」


 「その通り!」と全身で表すかのように、貴大にのしかかって甘えるクルミア。ぺろぺろと顔を舐めまわそうとする舌から逃れるように、体を仰け反らせて抵抗を見せる貴大。その滑稽な格好に、ルードスは抑えておけないとばかりに笑い声を上げた。


「あははは……! す、すみません、はしたないですよね、くふっ、すみま、ふふ」


 大の大人が、十にも満たない少女に纏わりつかれて戸惑う姿がそんなに面白かったのか、体を曲げてまで笑うルードス。笑い上戸なのか、一度笑いだしたら中々収まらず、結局、彼女が落ち着くには数分の時を要した。




「すみません、あんなにも笑ってしまって……でも、貴大さんの困った顔が、なんだか可笑しくって」


「いや、いいっすよ、別に」


 場所を変え、今は市場の外れの休憩所で四人は歓談していた。もっとも、クルミアとユミエルは、先ほどから「わん?」、「……そうです」、「わわん?」、「……よく分かりましたね」と謎の会話を展開しているだけだが。そんなニ人をあえて放置して、貴大とルードスの世間話は続く。


「ところで、貴大さんは何を買われるのですか? やはり、お魚でしょうか。それとも、私たちのように奮発してお肉ですか?」


 海に面した街であるグランフェリアは、漁業も盛んだ。肉よりかは魚介類が手に入りやすく、庶民はもっぱら魚や貝を食べている。中級区以下の家庭において、肉など、外食かお祝い事でしか食べることはない。


「いえ、蕎麦粉を買いに来たんですよ」


「蕎麦? ポリッジ……いえ、粉ですから、パスタかクレープでも作るのですか?」


 「魚か、肉か」と考えていたルードスにとって、これは意外な返答だった。年越しは、肉か魚料理をメインとして、他の料理やパン、麺などはあくまで添え物として扱われる。


 だから、今日という日に「何を買うのですか」と聞けば「新鮮なニシンを買う」、「今年はちょっと高いけど、せっかくだからホタテを買う」、「思い切って肉を買う」などの答えが返ってくるのが一般的だ。今のように「蕎麦粉を買う」というのは、産まれて初めて聞いたルードスだった。


「パスタ……まぁ、パスタっちゃあパスタですね。蕎麦粉で作った麺を、出汁……スープに入れて食べるんです」


「まぁ、そうですか……」


 この時、ルードスは「聞いてはならないことを聞いてしまった」と後悔していた。シチューやスープは、庶民が腹を満たすために毎日のように食べているものだ。水分で嵩を増し、せめて満腹感だけは得ようという思いから、必然的にどちらかは一日の献立に加わる。


 しかし、今日はハレの日だ。常とは異なるご馳走を食べても、誰も咎める者などいない。それなのに、この何でも屋の主は「パスタを入れたスープ」を食すという。


「その……他の料理などはないのですか?」


 もしも「パスタを入れたスープ」だけの食卓ならば、余りにも倹しい。それほどまでに生活に余裕がないようには見えなかったのだが、実は困窮しているのだろうか。遠まわしに探りを入れるルードス。


「ないですね……まぁ、エビの揚げ物は乗っけますけど、特に他の料理はないですね。大きなエビ天が一本乗るなんて、豪勢でしょう? 年越しなんで、それだけあれば十分です」


「うっ……」


 そのあっけらかんとした言動に、堪らず嗚咽を漏らしそうになるルードス。エビの揚げ物が乗ったスープパスタで充分と言うが、今年はエビが豊漁だと聞く。蕎麦粉にしても、そんなに高いものではない。つまりは、さもご馳走のように語ってはいるが、実際は貧しい食事なのだ。


 貧しさを表に出すまいと語る貴大の心中を思うと、自分の胸も痛む聖職者。何か自分にできないことはないかと考えるけれども、ただ施しのように食べ物を渡しても彼の自尊心を傷つけるだけだ。


 八方塞がりの状況に、自分の無力さを痛感するルードス。しかし、そんな彼女に救いの手を差し伸べたのは神ではなく、わんこだった。


「わぅ、行きたい、タカヒロの、おそば、食べたい!」


 一体、ユミエルから何を吹きこまれたのか。目を輝かせ、珍しく声を出して「蕎麦を食べてみたい」と繰り返すクルミア。それを見たルードスの頭に、天啓が舞い降りる。


(クルミアがお世話になるから、という形で何か栄養のあるものを渡せば、違和感が無いのではないかしら?)


 クルミアは「蕎麦パスタ」が食べられる。そのお返しに、貴大たちは、スープで嵩増しした料理以外のものを食べられる。誰もが幸せになれるその閃きに、ルードスはすかさず飛びついた。


「まぁ、この子ったら……でも、言い出したら止められないんですよ。タカヒロさん、せっかくの大晦日にすみませんが、この子にも「蕎麦パスタ」を食べさせていただけないでしょうか?」


「うん? 言うほど大したもんじゃないですけど……クルミア、お前、そんなに食べてみたいのか?」


「わんっ!」


 尻尾を振り振り、元気よく答えるわんこ。そんな期待に満ちた目で見つめられると、貴大も弱い。「しょうがないな」とぼやきながらも、その顔には笑みが浮かんでいた。


「じゃあ、夜……は、お前一人で出歩くのは危ないから、夕方ぐらいにシスターと家に来な」


「わん♪」


 クルミアの頭を撫でながら許可を出した貴大が、ルードスへと向き直る。


「じゃあ、用意しておくんで、日が暮れる前に来てください」


「はい。すみません、クルミアがお世話になります」


「いえいえ」


 ルードスは頭を下げながら、年越しにパスタしか食べられないほどに貧しい何でも屋の青年の力になれそうだと、神とクルミアに感謝を捧げていた。






「で、何でお前はここにいるんだ?」


 買い物も終わり、買い食いをしながらのんびりと帰宅した貴大たちを待っていたのは、痩身のエルフの女性だった。


 フリーライフのドアに寄り掛かってぼんやりとしていた黒髪のエルフ・エルゥは、買い物籠をぶら下げた貴大に気付くと、ずれかけていた眼鏡の位置を直して揚々と話しかけてきた。


「いやぁ、本来なら今日は図書館に来る日だっただろう? 君が何時になっても来ないんで、司書に聞いてみたら今日は大晦日というではないか。それでは来るわけがないと納得はしたんだが、どうにも「@wiki」が読みたくてね……今となっては、週に一度は目を通さないと狂ってしまいそうだよ、ははは」


 冗談めかしてこう語るが、それは笑いながら話すことではないことを、貴大は身を持って理解していた。家出からの空白の一週間も含め、約十日ぶりに図書館へ赴いた彼を待っていたのは、アンデッドモンスターもかくやと言わんばかりの怪物であり、その恐怖体験が彼の脳裏にこびり付いて離れないのだ。


 あの日、薄暗い王立図書館地下階の通路の突き当たりに、彼は見た。立入禁止区画から四つん這いで迫る、悪霊のような女の姿を。


 後になれば、「@wiki」の禁断症状でおかしくなっていたエルゥだったと答えることができるが、その時は異様な空気を身にまとった化け物が王国で最も優れた頭脳を持つエルフだとは思えなかったのだ。


 千々に乱れる黒髪を触手のようにざわめかせ、爛々とした目で迫りくる女。しかも這いつくばり、蜘蛛のような動きで音も無く獲物(「@wiki」を持った貴大)目がけて移動する。あの時ばかりは、高いステータスを誇る貴大でさえも腰を抜かしてしまった。


 そのようなこともあり、エルゥに「狂ってしまいそうだよ」と言われると、未だに当時の恐怖が甦る貴大だ。もう怨霊の相手はごめんだとばかりにため息を一つ吐き、エルゥを家の中へと案内した。


「ほほぅ……興味深いね。西洋様式の建築の中に、東洋の要素が違和感なく埋め込まれている……掃除も行き届いているようだ。これなら、靴を脱げと言われたのにも納得だな」


 眼鏡を上にずらし、目を細めて畳の目を見るエルゥ。パンパンとはたいては強度を確認し、ゴロゴロと転がっては寝心地などを確かめていた。和風な家具に興味を移すようでは、まだ禁断症状は出ていないようだ。ほっ、と安堵の息を吐く貴大。


「まぁ、「@wiki」は読み直しててもいいから、夜になったら帰れよ? 大晦日なんだから、たまには自分の家に帰れ」


 以前、落ち着いた状態の彼女と世間話をしていた時、上級区にアパルトメントがある、ということを聞いたことがある貴大だ。普段は図書館に籠り切りなエルゥも、この時期だけは家に帰るものかと思っていた。しかし……。


「あぁ、それがだね、家のカギを無くしてしまったんだ。もう、かれこれ三年は帰ってないから、どこに置いたか思い出せなくてね。おそらく、研究室の本の山の下だとは思うんだが、あの山脈を崩すのは難儀でね」


「はぁ!?」


 家に帰れないとすると、彼女はどこで年越しの夜を過ごそうというのか。唖然とする貴大に、彼女は更に語る。


「それに、図書館も大晦日だけは完全閉鎖するんだよ。おかげで、泊まるところがなくて……去年までは友人のエルフが泊めてくれたんだが、彼女は結婚して森に帰ってね。いやはや、困ってしまったよ」


「宿があるだろう、宿が……」


「この時期は、新年祭に備えての多くの客で溢れかえっているだろう。下級区の連れ込み宿まで予約でいっぱいだと司書たちから聞いたよ」


 ここまで聞いて、頭痛に耐えるようにこめかみを押さえる貴大。どうやら、彼女の意図が見えてきたようだ。もしかしたら違うかもしれないという一縷の可能性にかけ、恐る恐る問いかけてみた。


「で、今晩は結局どこで寝るんだ」


 すると、普段は冷たいとも言われる鋭角な美貌を備えた彼女が、まるで雪解けのように朗らかに微笑んで答えた。


「ここだよ、ここ」


 と。




「ふざっけんな、家帰れ、家ぇ!! 誰が許したよ、んなこと!!」


 激昂するこの家の主。いつもトラブルばかりを起こす女性がこの家にいては、何が起きるか分からない。家に上げるまでは許せるが、泊まりとなると断固拒否の姿勢を見せた。そのように強硬な態度を見せる彼の足もとに縋りつくエルゥ。


「後生だ! もうここしか頼めるところがないんだよ! 司書の方々は、なぜか顔を青くして首を横に振るし……」


 それこそ自業自得だよ! と思い、貴大は振りほどこうとする。しかし、エルゥの表情にはますます余裕が無くなり、彼を気後れさせる。


「お願いだ! お願いだよ! 昼なのにこんなに寒い日だ、外で一夜を明かしてしまえば、虚弱な私などあっという間に「スノー・マン」になってしまうよ!」


 年上の女性が、こうも恥も外聞も無く年下の男に泣きつくということは、よほど切羽詰まっているのだろう。思わず、言葉に詰まる貴大。それをチャンスと見たのか、猫なで声で頼み込むエルフ。


「ねぇ、迷惑はかけないよ? 大人しくするから……「@wiki」さえ与えておけば、私は置物と変わらなくなるよ? 一晩、等身大の人形を預かるようなものだと思えば、苦にはならないだろう? ね?」


 余りの媚っぷりと情けなさに、とうとう貴大が折れる。


「はぁ……分かったよ。今晩だけは家に居ていい。ただし、絶対に騒ぎを起こすなよ? したら即追い出すからな」


 ため息のように吐きだされた承認の声に、ぱっと顔を明るくして頷くエルゥ。


「うん! 迷惑はかけないと言っただろう? 私は、約束は守る女だよ!」


 それはどうだかな、と、今までの所業から、嫌な予感を振り払えない貴大だった。






「ごめんください」


 エルゥの宿泊が決まり、客室のベッドメイクも済んでしばらく経った頃、フリーライフの玄関を叩く者がいた。少し早いが、クルミアたちが来たのだろう。そう考えた貴大は、何の気なしに扉を開いた。


「あら、先生自らのお出迎えとは恐れ入ります。フランソワ・ド・フェルディナン、まずは年越しの挨拶」


 そして閉めた。


「先生? どうなさいましたの、タカヒロ先生?」


 コンコンと、中指の背で叩いていると思しきお上品なノックの音が響いてくる。その声は、やはり大公爵家令嬢、フランソワのものだった。学園でのストレスのあまりノイローゼになった、というわけではなさそうで、胸を撫で下ろす貴大。


 それでも、貴族様がわざわざ中級区の一軒家に訪ねてくるなど大事だ。確認するべく、そっとドアを開ける。すると、先ほど見た通り、住宅街の狭い道路に無理やり乗りいれた形となっている豪奢な装飾の馬車を背に、ファーコートを身に纏ったフランソワが立っていた。


「先生、先ほどはどうなさいましたの?」


「あぁ、なに、少し驚いてな……」


「あら、照れていますの? まぁ、私も学園では質素な制服や実習着姿ですが、今は「ウィンターナイト・ミンク」のコートでめかしこんでいますものね。でも……うふふ、先生ったらシャイですのね」


「あぁ……もうそういうことでいいです、はい」


「まぁ! つれない態度……でも、そんなところも魅力的ですわよ? ふふ」


 終始上機嫌なお嬢様と、ダウナーな平民。アンバランスなニ人の会話は、まだまだ続く。


「で、今日はどうしたんだ。年の瀬になんか用か。宿題を出した覚えはないぞ」


 疑問の声を発する貴大に、意味ありげに微笑みながらフランソワは逆に問いかける。


「ふふふ……先生、私には分かっていましてよ?」


 俺は分からないことだらけだよ……諦観してフランソワの得意げな顔を見つめる貴大。それにも構わず(気付かず)に、お嬢様はずばりと言い放った。


「寒中稽古をなされるおつもりなのでしょう?」


「……はい?」


「ふふ、誤魔化しても、私には通じませんわ。ジパングの伝統文化である寒中稽古をなされるのですわよね? 噂に聞くところによると、真冬に水泳を行い、しかる後に乱取り、そして、最後には力無きものを淘汰する「モチ」なるものを食すのですわよね? そこでの死傷者も、十やニ十ではきかないと聞きます。何と恐ろしい……ですが、今の私なら乗り越えられると自負しております。それに、私は知っています。エルゥ先生を招かれましたね? 大晦日という日に、強さに貪欲なエルゥ先生と結託した……と、いう事実は、私の言を証明することとなりますわよね?」


「はあ……」


 この子なに言ってんの、と呆然とする貴大。


 「先生の強さの秘密を掴んだ」とばかりにニコリと微笑むフランソワ。


 そして、颯爽と現れる紅き影。


「寒中稽古だと? そりゃあ、聞き捨てならねえなぁ」


「何者です!?」


 住宅街の裏路地から、音も無く現れる「ライト・ストライカー」。彼女の名は、アルティ。国内最大手冒険者グループ「スカーレット」が頭目の一人娘であった。


「オレか? オレの名は、アルティ・ブレイブ=スカーレット=カスティーリャ! 誇り高き冒険者だ!」


 腰に手を当てて、堂々と名乗りを上げるアルティ。とても、先ほどまでフリーライフの店舗脇の路地に潜み、貴大をストーキングしていた者とは思えないほどに毅然とした態度であった。だが、受ける側も威厳に満ちた大貴族の娘だ。負けじと己の名を名乗る。


「これはご丁寧にどうも。私は、フランソワ・ド・フェルディナンと申します。それで、「スカーレット」の冒険者さんが、一体何のご用でしょうか?」


 名を聞き、相手が国内で最も力を持つ冒険者グループの一員だと分かったのか、それなりな態度で接する貴族様。貴族への無礼な口ききを看過するのは、「強い者が偉い」とするこの国の風潮があればこそだろう。


 それに、「首狩りアルティ」と言えば貴族内でも噂になっているほどの人物だ。わざわざ無下に扱う理由もない。


「用? 用があるのは、むしろそいつだ。そこに突っ立ってるネズミだよ」


 その言葉に、ぴくりと反応を示すフランソワ。


「ネズミ……? ネズミとは、誰のことですか?」


「はぁ? そんなん決まってっだろ。こそこそ寒中稽古なんてしようとしているネズミ野郎だよ。やっぱり、強くなるために何かあったんだな。大晦日だから誰も見てねえと思ったんだろ? 全く、油断も隙もねえぜ、このネズミ野郎はよぉ」


 「ネズミ」という言葉が繰り返されるたびに、険しさを増していくフランソワの表情。


「貴女、もしも「ネズミ」という下品な呼び名がタカヒロ先生のことを指しているのでしたら、今すぐ訂正なさい」


「あぁ? ネズミはネズミだろ」


 悪びれもせずにそう言い放つアルティに、早くも堪忍袋の緒を切ってしまうフランソワ。自分ならまだしも、敬愛する恩師を貶されて黙っているほど、彼女の度量は広くはなかった。


「あら、それなら貴女もネズミですわね? 路地裏でこそこそと何をなさっていたのですか? それとも、あそこが貴女の住処ですか?」


「なにぃ……!?」


「「憤怒の悪鬼」を倒したからと言って、驕り高ぶっているのではなくて? 年長者、しかも優秀な方を悪しざまに言い、自分が偉くなったと勘違いなさるのは控えた方がよろしくてよ」


 あからさまな侮蔑の言葉はアルティにも正しく伝わったようで、瞬時に怒りに顔を染めて言い返す。


「はっ、な~にが「よろしくてよ」だ! 貴族だからってお高くとまりやがって! あんまり調子くれてっと、冒険者の総力あげて潰すぞ!!」


「まぁ、怖い怖い。やはり、「ブレイブ=スカーレット=カスティーリャ」なんて取って付けたような家名の方は、何をしでかすか知れたものではありませんわね。程度が知れますわ」


「あぁ!? おめえこそ、フランソワ~、なんて脳みそ花畑みてえな甘ったるい名前だろうが!!」


「なんですって!?」


「なんだよ!?」


 貴大を放置して、ニ人の喧嘩は続く。やいのやいのと言葉の応酬は続き、今にも掴み合いの喧嘩に発展しそうだ。


 もう、このままドアを閉めてもいいんじゃないかな、と家に引っ込もうとするも、馬車の脇に立つやたら眼光鋭い執事や侍女が怖くて、それもできずに立ちつくす貴大であった……。






「それからクルミアも来て……なし崩し的に、今の状況になったわけなんだ」


「うん、分かった……分からないけど、分かった……」


 お化けが家の前で待っていて、そこに貴族のお嬢様とストーカーが飛び込んできて、約束通りわんこが来た。彼はそう語る。


 居間で思い思いにくつろいでいる面子を見れば、確かに人数的には間違いが無いとは分かるけれど、なぜこのような状況になったのかはうまく飲み込めないカオルであった。


 そもそも、公爵どころか最低位の男爵とすら繋がりが無い彼女だ。「大貴族の娘」や、「王国一の天才」などの大物の出現に、どのような態度をとっていいのかすら分からなかった。そんなガチガチに緊張するカオルへと、問題の大公爵のご令嬢が声をかける。


「ふふ、そう固くなることもありませんわ。今宵は、年に一度の終わりを告げる日。それも、ここは貴女方の生活の場でもある中級区。「郷に入っては郷に従え」とも申しますし、私は無礼講でもかまいませんことよ」


「は、はひっ!」


 ビクーン! と棒立ちになり、噛みながらも応えるカオル。その横で、「無礼講かどうかを決めるのは上役……あぁ、俺平民でしたね」とぼやく貴大。六畳座敷に置かれた炬燵の中で丸まるわんこたち。部屋を見て回っては漁るアルティ。暖炉の前に置かれた貴大愛用の揺り椅子を占拠し、「@wiki」を読みふけるエルゥ。ユミエルは、そんな彼らを無表情に見つめ、部屋の隅でお盆を胸に抱いて待機している。


 統一性の無い集団が作りだす場の雰囲気は、まさにカオスであった。







次はいよいよ、「蕎麦のスープパスタ」の登場ですね。


中世のヨーロッパでも、蕎麦は庶民が口にしていたみたいですね。もっぱら、ポリッジ(粥)として食べてたみたいですけど。ポリッジもそうですが、特にオートミールのまずさは異常……なんで牛乳で煮るんですか……。


このような水分による嵩増しは、豊かになる前は世界のどこでもやってたみたいですね。その中でも、やはり日本の食文化は偉大です。茶粥や、雑炊、お茶漬けなどなど、むしろ嵩増しした方がおいしいというものもたくさん!


……お腹すいたんでご飯食べに行ってきます(・ω・)ノシ

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