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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

逃亡編

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日常への帰還

出身県の免許センターに行ってたから更新が遅くなりました。

本籍地ルールはキツイですね……(;ω;)

さてさて、逃亡編も最終話です!お楽しみください!
「「「第24回!妖精会議~!」」」

 ここは、「浄化の監獄」と呼ばれる、閉じられた小さな世界。その一角にそびえ立つ大木の洞を改築した妖精三姉妹の家で、24回目に当たる妖精会議の開催が宣言された。

「はい、今回の議題は、もちろんあのニンゲン……タカヒロさんのことですね」

 壁に吊るされた白木の皮の裏側に、炭で「タカヒロさんについて」と書き込むピース。妖精にしてはしっかり者の彼女は、姉妹内の妖精会議で進行役を務めることが多い。

「あのニンゲンさん、いい人だよね~。昨日も、ここの果物と花の蜜でおいしいお菓子を作ってくれたんだ~」

 そう言って、ほにゃ、っと笑うのは末っ子のニースだ。貴大からもらったお菓子の味を思い出しているのか、口の端にはよだれが浮かんでいる。

「え~?絶対、真人間じゃないわよ!わたしのミリキにめろめろにならないんだから~。心の底ではどんなキタナイものを抱えているか、分かったもんじゃないわ!」

 ニースの言葉を否定するのは、長女のフェアだ。「オトナな女」を自称する彼女は、貴大に袖にされたのがよっぽど腹に据えかねているのか、否定的な意見が多い。

「いえ、フェア姉。タカヒロさんは良い人ですよ」

「そうだよ~。いい人だよ~」

 しかし、

「……じゃあ、なんでここに来たのよ。いい人ならここには来ないはずでしょ?」

「「それは……」」

 「浄化の監獄」は、世界に仇為す存在に堕ち果てる可能性を持った人間を溶かしてしまう罠だ。善良な人間ならば迷い込むことはない。つまりは、ここに来た時点で、どこか負の要素を持っているという証明になるのだ。

「何かの間違いで……」

「それはないわね。妖精王様が創られたこの世界に、今まで間違えて入ってきた人なんていた?」

「うっ……」

 ここに訪れた人間は、軒並み悪しき者だった。例外は、ない。

「でもでも、これが最初のまちがいかもしれないよ?」

 それでも、あくまで貴大の善性を訴えかけるニース。ピークもそれに賛同し、頷いている。

「はぁ……いいわ。じゃあ、妖精の粉を使いましょう」

「えぇ……!?」

 妖精の粉。それは、人間の真実を暴きだすものだ。

「いいわね、明日、妖精の粉を使う。それでアイツの本性が分かるわ」

「「……」」

 反対意見は無かった。

 ピークとニースも、これまでに腹に一物抱えた人間を何人も見てきたのだ。「もしかしたら……」という考えを、捨て去ることはできなかった。




 妖精の粉とは、短時間ではあるが、人の理性を溶かしてしまう魔性の燐粉だ。純粋な妖精のみが生み出すことができるこの燐粉は、人の心の奥底に隠された願望をむき出しにしてしまう。防ぐ手段は存在せず、どのような聖人君子でも一たび嗅いでしまえば心に秘めたものを曝け出してしまう。

 それを使って、三姉妹は貴大を見極めようというのだ。

「お~、お前ら、揃ってどうした?」

「え、ええ、ちょっと……」

「そのね~、え~と……」

 貴大の前で言い淀むピークとニース。流石に面と向かって、「貴方の本性み~せて☆」とは言えないだろう。

 だから、フェアは背後から貴大に迫った。羽を震わせ、妖精の粉を貴大の顔の辺りに漂わせる。それを彼は無意識に吸い込んでしまった。

「かかった! さあ、あなたの本性を見せなさい!」

 貴大の目から理性が消えてゆく。

 四肢からは力が抜け、床にへたり込む。

 それから間もなく、体の奥底から本能の叫び声が上がった。



「働きたくないでござる! あんまり働きたくないでござる!!」



「「「…………」」」



 なおも、「せめて週休ニ日はくれよ~……過労死しちゃうよ~……」と、床をごろごろと転げ回る貴大。どこからどう見ても駄目人間だ。

「ほ、ほら見なさい! タカヒロって、こういうオトコなのよ! フェアリーズ・ガーデンに来て当然だわ!」

 それ見たことか! と、貴大を後ろ手に指し示すフェア。残りの姉妹も、何とも言えない顔をして彼を見ている。

「い、いえ、この欲求なら、世界に害は与えないと思います! 害しても、精々自分のご家庭だけでしょう」

 気を取り直して持論を展開するのは知的なピークだ。

「うっ……たしかに」

 これまでやってきた人間は、「誰よりも強くなりたい。どんな手を使っても……」といった欲望を抱えた人間が多かった。得てしてそういった人間はユニークモンスターに堕ちてしまうために「浄化の監獄」で溶かされても仕方がないと言えた。

 だが、「働きたくない」というのはどうだろう。働かず、外に出ないならば「魔素溜まり」に触れてユニークモンスターになることもない。これが、世界に仇為す存在を生み出す欲望だとは思えない。

「い、いや! まだよ! タカヒロは力が強そうだから、妖精の粉の効きが悪いだけよ! もう少し嗅がせれば……」

「お、お姉ちゃん~……」

 妹の制止も聞かずに、躍起となって妖精の粉を振りまくフェア。

 だが、その後も……

「そろそろ米が食いてえな」

 や、

「女の子とやらかしてしまいたい……」

 など、およそ世界の危機とは繋がらないような欲望が出てくるばかり。粉を撒き続けたフェアは、最早息も絶え絶えだ。

「はぁ……はぁ……な、なかなかしぶといわね……」

「もう止めたらどうですか? タカヒロさんが良い……と、いうか、無害な人間だというのはもう分かったでしょう?」

「そうだよ~……止めようよ~……」

 だが、フェアの闘志の炎は消えてはいない。依然として燃え盛っている。

「まだ! まだよ! こんなんじゃ終わらないんだから!」

 恐らく、先ほど欲情していた貴大にすら「ふっ」と鼻で笑われたのが応えているのだろう。むきになって、羽ばたきを強めるフェア。

「最っ大っ出力!! これでぇ!」

 妖精の魔力によって生み出された煌めく燐粉は、まるで霧のように貴大を包みこんだ。直後、ビクリと痙攣が始まる。

「うあぁ……ああ……」

 目は底が見えるかのように虚ろになり、体はぴくりぴくりと震え、口は半開きで意味をなさない声が漏れている。隠された願望や本性の発露の前兆だ。

「さぁ……出てきなさい……!」

「「……!」」

 フェアも、ピークも、ニースですらこれまでの経験から確信していた。

 これから現れるのが、この人間の心の奥底に潜むものなのだと。



「うぁぁぁ……止めろ……! 止めろぉ……!」



「「「……え?」」」



「れんちゃん……! 優介……! お前らがいなきゃ、俺は……俺は……! 寂しい……会いたいよ……うう、ううう……」



 伝わってくるのは、深い悲しみと寂寥感。そして、胸を抉るような孤独と空虚だ。

 「寂しい」、「会いたい」と繰り返し、体をギュッと縮めて虫のように床に横たわる貴大。初めて見る人間の異様な様子に、三姉妹は絶句する。

 これまで三姉妹が見てきたほぼ全ての人間は、本性を露わにすると暴れるだけだった。しかし、これはどうだ。

「な、何よこれ……タカヒロは、悪い人間じゃないの……? これじゃあ、子どもみたいじゃない……」

 フェアの言うとおり、これでは悪人どころか幼子だ。どう見ても世界に害を及ぼす存在とは思えない。

「きっと、心の奥底に潜む悲しみや孤独感などの負の感情と、タカヒロさんの類を見ないほどの強い力が絡み合って、フェアリーズ・ガーデンを誤認識させてしまったのでしょう」

 強い力は、それだけ世界への影響力も高い。レベル250など、人間としては最高峰だ。そこに負の感情が加わったことにより、貴大はフェアリーズ・ガーデンに危険と誤認されてしまったのだ。

「じゃあ、このニンゲンさんは良い人ってこと~……?」

「一概にそうとは言えませんが、これまでの欲望の発露から、世界に害を為す者とは考え難いですね。良い人と言ってもいいでしょう」

「え……じゃあ、わたしがしたことって…………えっ!?」

 貴大の体が、ぼんやりと光りはじめた。

 それと共に体の輪郭がぼやけてくる。

「いけないっ! 溶けようとしている!!」

 「浄化の監獄」で心の奥底に秘められた願望を解き放ってしまえば、魔素へと変換されて世界に散ってしまう。試すつもりで振りかけた妖精の粉が、フェアが我を忘れた結果、許容量を超えてしまったのだ。今や、貴大の心は剥き出しになって溶けようとしている。

「あ、あああ……!?」

 ぐにゃりと貴大の体が大きく崩れた。

 溶けてしまう!

 その瞬間、青い光が貴大を包みこみ、歪んだ輪郭を元に戻していく。

「えっ……?」

「これは……【妖精の……いいえ、【妖精種の加護】?」

 【妖精種の加護】とは、【妖精の加護】には劣るが、妖精が関わる全ての働きかけから身を護る効果を持つ。

 今まさにフェアリーズ・ガーデンの影響を防いでいるのも、妖精の粉の効きが悪かったのも、この加護によるものだ。

「そっか、ニンゲンさん、一人じゃないんだね~」

 誰かが……おそらく、【妖精種の加護】を与えた人が、貴大の傍にいるのだろう。そう考えたニースは、ほっと安堵のため息を吐く。

 だが、拡散を食いとめているとはいえ、この世界にいてはいずれ散ってしまうだろう。早急に、元の世界へと戻す必要があった。

「帰してあげましょう、タカヒロさんを」

「待ってる人がいるんだから~」

「そうね……そう、タカヒロは悪いヒトじゃないものね……帰してあげなきゃ」

 三姉妹が、溶けていこうとしている貴大を囲み、両手を前に突き出す。すると、その手に魔方陣が浮かび上がり、そこからあふれ出る光が貴大を優しく包んだ。



「ごめんね……」



「「「さよなら」」」



 そして告げられる別れの言葉。

 同時に、発動する送還の魔法。

 貴大の体がフェアリー・ガーデンから消えてゆくのを、三姉妹は複雑そうな顔をして見送った……。





………………
…………
……





 気がつくと、俺は自宅……「何でも屋・フリーライフ」の目の前に立っていた。

「あれ……?」

 今まで何をしていたのか……どうにも思い出せない。長く影が伸びる夕暮れと、鳥肌が立つような寒風に、何だか気味が悪くなる。

「う~ん……おぉ、そういえば」

 そうだ。俺は、仕事が苦となって家出したんだ。衝動的に街を飛び出して、それから……そこからは靄がかかったように思い出せない。

 頭を捻るも何も出てこない……そもそも、俺が街を飛び出したのは夜のはず。なんで夕方になってんだか。

 少し気になって、システム・ウィンドウを空中に投影し、時計とカレンダーを見る。

「えぇ……!?」

 あれから、一週間も経っている。なんだか狐に抓まれたような感じだ。

 それに、なんだろうか。ログに「アイテムを入手しました」とある。覚えがない時間の経過に、覚えがないアイテムの入手……放っておくのも気味が悪いので、アイテム欄を開いて確認してみる。

 すると、一つだけ「new!」と、新規入手を示すマークがくっついているアイテムが……。

「「妖精の指輪」……?」

 見たことがないアイテムだ。選択すると、「【妖精三姉妹の加護】が与えられる。 妖精・妖精種専用装備」と素っ気ない一文が浮かび上がる。

 ……【妖精三姉妹の加護】って何だ?

 呪いはかかってないみたいだけど、なんだか薄気味悪いな……捨ててしまおう。

 そう思って、アイテム欄のゴミ箱に「妖精の指輪」を移動させようとして……止めた。

 捨ててはいけない。そんな気がした。

「まぁ、害があるものでもなし……」

 何となく、間違って捨てないようにロックをかけて、アイテム欄に戻しておいた。



「さ~て、ここからが本番か……」

 そう、ここからが本番だ。いくら疲れていたからといって、フリーライフを放り投げて逃げ出すだなんてどうかしていた。しかし……。

「ユミエル、許してくれるかなぁ」

 あの仕事の鬼のことだ。一週間に渡る職務怠慢など、許しはしないだろう。きっと、ありとあらゆるスキルを駆使し、おしおきされるに違いない。

「きっと、このドアにも仕掛けが……」

 雷耐性を持つグローブ(最近常備しています)をはめ、ちょん、ちょんとドアノブをつついてみる……おや? 【スパーク・ボルト】は流れないようだ。

「ははぁ、さては……」

 そっとドアノブを開け、直後に【見切り】で体を仰け反らせる! その俺の胸の上を掠めるように【ハード・パンチャー】のグローブが飛び出……してこないな、うん。

 イナバウアーのような体勢で固まる俺。少し恥ずかしい。ご近所さんに見られる前に、急いで元の体勢に戻る。

「OK、OK。お前の手は読めた」

 ふふん、何だかんだで長い付き合いだ。ユミィの考えることなどお見通しだ!

「どうせ、居間のドアに何か仕掛けているんだろう?」

 靴を脱いで自分の家に上がる。日本人が最も油断する瞬間の一つだ。その直後を突こうというのだろう。なかなか良い手だ。だが! そんな罠に引っかかる俺ではない!!

「ふふふ……【罠回避】……!」

 これを発動させれば十分間は罠を全て回避する! 【サーモグラフィー】でドアの前にお前がいないこともお見通しだ! さあ、吠え面かくがいい!

「するする~、っと」

 ほらごらんなさい! 何の妨害にも遭わずに、居間の中へと入り込めたザマス! ユミィ、ざまぁ!

「……うん?」

 その肝心のユミエルさんですが、居間の机に突っ伏して寝てはりました。

 珍しい……こいつのこんな姿を見るのは初めてだ。貴重なワンシーンです。

 仕事の鬼でも、寝顔は可愛らしいな……どれ、もう少し近くで……。



「……ご主人、さま……?」



 起きた。

 いやぁ!? 目が合った!!?

「……ご主人さまなのですか……?」

 ゆらりと立ち上がるユミエルさん。

「は、はいっ!」

 悲しいかな、訓練されたこの身は条件反射でもって、直立不動で受け答えをしてしまう。

「……本当に、ご主人さまなのですね。夢では、なく……」

「はいぃ!」

 俺の返事と共に、ぬうっ、と、腰の後ろに結わえつけられた鞭を解くユミィ。

 はっ!? い、いかん! おしおきされるって分かってたじゃないか!! スニークミッションごっこで家に入ったせいで、変なテンションになって忘れてた!!

 あわわ……む、鞭を振り上げた……!

 く、くるっ!?

 ぺちん。

「うああっ!? ……あれ?」

 ぺちん。

 再度の鞭打ち。だが、勢いも無いし、手首のスナップが効いていないせいで全然痛くない。肩に乗せられた、っていう感じだ。な、なんだこれ……?

 ぺちん。

 まただ。これは……なに? 何発か喰らうと死んじゃう【カウント・デス】の一種?

 不思議に思ってユミィを見ると、その目には涙が……って、えぇっ!?

「……嘘つき……嘘つきぃ……うあぁぁぁ……」

 嘘つき、嘘つきと繰り返しながら、ペチペチと力が入っていない鞭で俺を叩き続けるユミィ。今まで見たことが無い鉄の女の涙に、頭が真っ白になる。

「な、なんだよ……!? 泣くなよ……! な、なあってば……おい……あ~、どうすりゃいいんだ……!?」

 土下座してみたり、ハンカチを差しだそうとしてウロウロしたり、いつの間にか持っていた「妖精の指輪」をあげたり、視線をあちこちにさ迷わせてみたり……結局、ユミィが落ち着いたのは、夜も更けてのことだった。





「あ~、おはよう……」

「……おはようございます、ご主人さま」

 朝、自分から起きて居間に行く。泣かせた女の子に起こしてもらうなんて、どうにも居心地が悪くなるからな……。

「き、昨日はすまなかったな……一週間も勝手に家を開けたりして」

「……反省してください」

「はい……」

 氷のような目をしたユミエルさん。良かった。いつも通りだ。なんだかほっとする。

 さて、と……いつも通りなら、ここで仕事の通知だな。まあ、昨日家の前で気がついた時から、不思議とリフレッシュしてたから頑張れるだろ……ほどほどにな。

「さ、今日の仕事は何だ? キツくない程度に頼むぞ」

「……本日は仕事はありません」

 そうだよな、やっぱりそれぐらいあるよな…………って、ない!?

「マジで!?」

「……マジです。ご主人さまはお疲れのようなので、仕事はとっていません。今日はごゆるりとお過ごしください」

「お、おお……」

 なんだか調子が狂うな……。

 その後、午前中はやたら俺の世話を焼こうとするユミィにビクビクとしながら家で過ごし、午後は心配をかけた人たちに挨拶回りに行った。

 結局、その日は仕事を与えられなかったのだが、次の日から少しずつ、試すように小出しに与えられていき、一週間もしたら元通りになりましたとさ。とっぴんぱらりのぷう。

「……まぁ、週休二日制になったからいいや……」

 ダメもとでユミィに頼んだらOKしてくれた。

 えぇ~……?



やだ……このユミエルさん優しい……///

なんだか湿っぽくなりましたが、次の章でちゃんとラブってコメます。

請うご期待!
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