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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

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とらんぽりん


「ミケロッティさん、おはようございます」

「おはようございます、シスター。今日も良い日でありますように」

「はい、良い日でありますように」

 胸の前で十字を切り、会釈を交わす私たち。

 ミケロッティさんとは色々あったが、今は彼を許している。

 教会の懺悔室で、精霊と神の名の元に彼の罪は許されたのだ。





 初めは、「シスターに色欲を抱く不信心者が、改心などするはずがない!」と誰もがいぶかしんだ。

 しかし、【カルマ・チェック】を持つ神父様が、「あのように澄みきった心の持ち主は初めてだ。まるで、人が持つ業すら洗い流したかのように」と言われたとあっては、信じるほかあるまい。

 それでも、下級区にミケロッティが残した禍根は大きく、誰もがその言葉に疑いを抱いていた。これは仕方がない。遊び半分に下級区の人間を虐げる者が、何のきっかけもなく一夜にして改心したなど誰が信じようか。

 実際に、誰もがやりたがらない下級区のドブ掃除をミケロッティが始めた時は、私ですら疑いの眼差しでそれを見ていた。

 だが、彼の行動が、徐々に、徐々に、周囲の人々の認識を変えていった。

 まず、毎朝日が上がると共に、ミケロッティは下級区の掃除をするようになった。かつての傭兵崩れの荒くれどもを追い出して、下級区から雇った部下たちと共に、落ちているゴミや汚物の掃除をする。これだけで半日も経ってしまう。

 昼からは、怪我や病気で働けず、貧しい人々の家を一軒一軒回り、困っていることは無いか、助けはいらないかと尋ねて回った。

 それに対する下級区の住民の反応は、初めは冷ややかだった。

 「いまさら偽善者ぶるな!」と、下級区の住民に腐った卵を投げつけられたこともあった。尋ねた家のドアを、目の前で勢いよく閉じられたこともあった。雇った下級区の人間が、仕事をボイコットする日もあった。

 だが、ミケロッティはひたすらに下級区のために身を尽くした。

 黙々と、人々の助けとなるべく働くミケロッティ。

 その姿を日々の暮らしの中で見て、その人となりに触れ合い、ようやく私たちは強欲で理不尽な下級区管理員長が、本当に改心したのだと知った……。



(ああ、やはり神は罪を償おうとする者をお救いになるのですね……)

 手と手を組み合わせ、そっと神へと祈る。

 以前にも増して、両手を組んでの黙祷が増えたような気がする。

 でも、これは以前までの救いを求めるためのものではない。

 幸せな日々への感謝を神に捧げるためのものだ。

 最近は、悩み事が無くなり、孤児院の子どもたちにもお腹いっぱいご飯を食べさせてあげることができるようになった。

 それに、子どもたち……特にクルミアがとても懐いているタカヒロさんが、週に一度は顔を覗かせて子どもたちと遊んでくれる。

 おかげで、みんなの笑顔が増えた。

 孤児院の子どもたちの笑顔を見ていると、私まで温かな気持ちに満たされる。

 それをもたらしてくれる全てにもう一度感謝を捧げ、もうすぐいらっしゃるタカヒロさんのためにスコーンを焼く準備に取り掛かった。



「タカヒロだ! タカヒロが来たぞ!!」

「「「わー、キャー、遊んで~! だっこ~!」」」

「わお~ん♪」

「わわっ! お前ら、落ち着け!! クルミアも顔を舐めまわすな!!」

 おや、どうやらタカヒロさんが来たようだ。

 もうすぐスコーンも焼ける……ちょうど良い時間に来てくださった。

「ぐぐぐ……ガキども! おんぶは後だ……!」

「すげー! 八人も担いでる!!」

「まだまだ乗れるよ! いけ、クルミア!」

「わんっ!」

「ぐうっ……?! お、おおお……!?」

 あらあら……みんな、とても楽しそう。本当に、タカヒロさんは子どもに懐かれやすい人ね。

 見た目は、どこか突っ慳貪に見えるタカヒロさんだけど、実は心優しい人だということを私も、子どもたちも知っている。

 奉仕活動に来る冒険者や何でも屋の方々は、子どもたちとあまり親しくせず、無難に仕事をして帰られる方が多い。

 だけど、タカヒロさんは違う。本気で子どもたちの相手をしてくれ、習得したスキルを駆使して遊んでくださることもある。

 子どもたちと共に遊び、同じおやつを食べ、粗末なお昼寝広間に一緒に横になって寝かしつけてくださる。

 人の性分の善悪に敏感なクルミアでさえ、あんなに懐いているのだ。初めて出会った時、あまり良い印象を持たなかった自分を今は恥じ入るばかりだ。

「あ~、シスターがまたタカヒロのことじっと見てる~!」

「はっ!」

 あ、あら?

「シスター、タカヒロのことが好きなの~?」

「ケッコンするの!? いいよ、やってよシスター! そしたらずっとタカヒロいるじゃん!」

「わう!? わんわんっ!!」

「なんだよ、クルミア? お前がタカヒロとケッコンするって?」

「わぉん!」

「無理だよ、無理無理! お前、まだ子どもじゃん! オレみてえに10歳を過ぎたオトナじゃなけりゃケッコンできねえよ」

「くぅ~ん……?」

「そんな目で見るなよ、クルミア……はいはい、大人になったら結婚しような~……」

「わん♪」

「うわっぷ! 顔を舐めまわすのはよせ!?」

 ふふ、何だか微笑ましい。男と女をすぐにくっ付けたがるのは、子どもたちが大人びてきた証拠なのだろう。嬉しい反面、どこか寂しい気もする。いつかあの子らも、大人になってここから出ていくのか……。

 物思いにふける私に、子どもたちにまとわりつかれたタカヒロさんが声をかける。

「こんにちは、ルードスさん。今日も奉仕活動に来ました」

「はい、こんにちは。今日もよろしくお願いします」

「はい、まあ、気楽にやりまごはっ!?」

 わっ!? やんちゃなケビンがタカヒロさんのお腹に頭から突っ込んだ……大丈夫なのかしら?

「タカヒロ~! あれやって、あれ~! あのポンポンするやつ~!」

「あ、あ! わたしも! わたしもあれがいい!」

「げほっ、こほ、ケビンよお、元気なのはいいが、人に体当たり喰らわすなよ……まあ、いい、今日はあれがいいんだな?」

「「「うんっ!(わんっ!)」」」

「じゃあ、あれやるか……【バウンドフロアー】! 【エア・ウォール】!」

 子どもたちのおねだりに、タカヒロさんはスキルを発動させる。

 途端、中庭の地面がたわみだし、触るとブルンブルンと硬いゼリーのように弾力をもって押し返してくる。

「「「わぁ~~~~~!!(わお~ん♪)」」」

 タカヒロさん曰く、「とらんぽりん」という遊びだそうだ。みんなが、飛び出さないように空気の壁に囲まれた弾む地面で、思い思いに飛び跳ねている。

 飛び跳ねるのが得意でない子は、緩く、深く地面を揺らすタカヒロさんの周りに集まってコロコロと転んできゃらきゃらと笑っている。

 冒険者のスキルとは野蛮なものばかりだと思っていたが、このような使い方もあるなんて……こういったところからも、タカヒロさんの人柄が分かるというものだ。

 みんな、夢中になって「とらんぽりん」を楽しんでいる。タカヒロさんも、「どうだ! ガキども! お前らじゃあこんなに高くは飛べまい! ふはははは!!」と、楽しげだ。

 スコーンの出番はまだ先になりそうだ。私は編み物でもしておこう。

 賑やかな歓声が響く初冬の午後、私は半年前からは考えられないほど穏やかな気持ちで過ごしていた……。



………………
…………
……



「くぁ~あ……今日も疲れたな、っと」

 今日は、クルミアに誘われて(拉致られて?)、下級区のブライト孤児院まで遊びに行った。

 いつもながら、あそこの孤児院のガキどもは元気が有り余っている。

 相手するこちらも、ついつい力が入るってもんだ。

 何だかんだ言いながらも、あんまり嫌いじゃないしな、ああいうの……。

 俺、案外保育士に向いてたのかもな……いやいや、あれを毎日は無理だ! ルードスさん、マジ尊敬っす。

 いやあ、しかし、平日なのに遊んでおやつ食って寝て帰るって、かなり良い条件だよな……。

 なんでも、孤児院や教会で奉仕活動すると、冒険者や何でも屋としての身分を教会が保証してくれるようになるらしい。

 教会からより上級な仕事を回してもらえるとかなんとか……なんか色々と特典があるそうだ。

 別にそんなのいらんけど、ユミィは「……素晴らしい。是非受けましょう」とか言うし、クルミアにねだられたルードスさんは「タカヒロさんとはご縁があるので、よければブライト孤児院に来てください」という始末。

 断れる雰囲気じゃなかった。

「まあ、他の仕事に比べりゃあ気楽でいいけどよ……」

 ガリガリと頭をかき、自宅に向けて歩を進める。

 明日は学園で授業だ……さっさと寝よ。

 日が落ちるのがすっかり早くなり、こんな時間からもう魔素灯が点きはじめた街並みのなか、俺はせっせかと帰宅を急いだ。





※この人の視点で物語が見たい!という意見があれば、感想に書いてみてください。すぐには書けませんが、サイドストーリーズ2でなるべく書こうと思います。
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