挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

ユミエル編

284/300

思いやりクロスカウンター

『悪神だ』

『悪神に気をつけろ……』

『気をつけるんだ、貴大』

「……うう」

 夢見が悪いとはこういうことか。

 離れ離れになっている親友が、枕元に立って忠告を繰り返す。そのくせ、その手には剣や杖が握られていて、それをこちらに向けてくる。

 まさに悪夢であり、それは現実でも起きたことだ。苦々しい記憶を噛みしめながら、貴大はベッドの中で寝返りを打った。

「もう朝か……」

 薄目を開け、システムメニューを開いた貴大は、目覚ましより早く起きたことに気がついた。こういった目覚めは、これで何度目だろうか。ため息を吐きながら、彼はのっそりと体を起こすと、

「うおっ!? って、ユミィか」

 起こしに来たのであろうメイドの姿を見て、驚いた。

「……おはようございます」

「おはよ。相変わらず早いな」

 無表情に見つめてくるユミエルの頭をぽんぽんと撫で、貴大はうんと背伸びをした。自然と漏れるあくびを噛み殺そうともせず、大きな口を開ける主人を、ユミエルは観察するように見ている。

 この小さなメイドさんは、気を利かせて視線を逸らしたり、他のことをしたりなどしない。いつも彼女はじっと見つめてきて、慣れないうちは貴大も気恥ずかしい思いをした。

 それも今では気にならないのだから、慣れとは恐ろしいものである。貴大は目をこすりながら、ベッドから降りて、着替えを始めようとした。

「……どうぞ」

「おっ、すまん」

 丁寧に折りたたまれた服を差し出すユミエルと、それを受け取る半裸の貴大。そこに思春期の少年少女のような恥じらいはなく、ただ、熟年夫婦のような円熟味だけがあった。

 妖精三姉妹が見れば、呆れと嘆きから、思わず目を覆いそうな光景だ。色気やトキメキはどこに落としてきたのと――だが、これが貴大とユミエルの日常である。これまでに培ってきた、そして、これからずっと続いていくような、そんな光景――。

「……ん?」

 流れのすべてを諳んじることが出来そうな、朝のひと時。そこにほんの少しの違和感を覚え、貴大はズボンにかけていた手を離した。

「ユミィ? なんかあるのか?」

 いつもなら部屋を出ていって、リビングで貴大を待つはずのユミエルが、この日は動こうとしなかった。何か言いたいことでもあるのだろうか。貴大は怪訝そうな顔でユミエルを見たが、

「……いえ、お気になさらず」

 彼女は理由も告げず、依然、部屋のすみに立っている。

「気にするなって言われてもな……」

 彼女にストリップ鑑賞の趣味があるとは思えないが、だからといって恥ずかしくないわけでもない。まだまだ若い貴大は、ユミエルのような美少女にパンツ一丁の姿を見せられるほど枯れてはいなかった。

「そんなに見られていたら、着替えにくいんだけど」

「……ご安心ください。私は気にしませんので」

「俺が気にするんだよ!」

 ユミエルをポイと廊下へ放り出し、貴大はようやくズボンを下ろした。

 まさか着替えを手伝いたかったのだろうか。そんな馬鹿な、お貴族様じゃあるまいし――と、疑問を浮かべながら、彼はシャツに腕を通す。二月の寒さに身震いをした彼は、タンスからタートルネックのセーターを取り出して、それを頭から被りながら部屋を出た。すると、

「うおっ!? す、すまん」

 セーターからぽんと飛び出た頭が、ユミエルのおでこにぶつかった。慌てて顔を上げた貴大は、後ろ頭に手をやりながら、不思議そうに声を上げる。

「って、まだいたのか?」

「……お邪魔でしたか?」

「邪魔ってことはないけどさ」

 やはり無表情に見上げてくるユミエルに、どうしたものかと悩む貴大。

 問題があるわけではない。邪魔というわけでもない。ただ、理由もなく、いつもと違う行動を取るユミエルに落ち着かないだけだ。

「……タオルです」

「あ、ああ。ありがと」

 ハンドタオルを差し出して、貴大の後ろにそっと控えるユミエル。

 後ろから無言で送られる視線に、居心地の悪さを感じながら、貴大は仕方なしに洗面所へと歩き出した。

(なんか変だな……)

 またイヴェッタに何事か吹き込まれたのだろうか。

 それにしては何の動きもなく、それがかえって貴大を不安にさせる。これは一体、何の予兆なのかと――。

(う~ん……)

 メイドさんに観察されながらの洗顔、歯磨き。新手のプレイかと疑いながら、貴大は鏡に映るユミエルを薄目でにらんでいた。





 親友のこと、悪神のこと、考えなければならないことは山積みだが、いつまでも仕事を疎かにするわけにはいかない。

 どのような職業でも同じだが、何でも屋は特に信用が大事だ。請け負った仕事を放り出して、別のことにかまけていては、いずれ依頼が来なくなる。そうなってから慌てても遅いのだ。

 見えない問題に煩悶とするよりも、今、目の前にある仕事を。そう思った貴大は、積んでいた仕事を精力的に片づけ始めたのだが――。

(んん……?)

 今日はどうにも、視線を感じる。

 何でも屋〈フリーライフ〉の事務所、そこに置かれた自分の机でそろばんを弾きながら、貴大は横目で隣の机をうかがった。すると、そこには貴大を真っ直ぐに見つめるユミエルがいて、彼女と目が合った貴大は、サッと顔を書類に戻した。

(まさか、俺……監査されてる!?)

 あまりにも放蕩が過ぎて、事務能力を疑われているのか。それとも、サボらないように監視されているのか。

(最近はちゃんとしていた……はず!)

 鞭で叩かれていた二年前ならいざ知らず、近ごろは真面目になったと貴大は自負していた。少なくとも、仕事をする態勢になってから、だらけたり、手抜きをしたりした覚えはない。

 だというのに、ユミエルは頻繁に視線を送ってくる。一体、何だというのか。朝から何度も尋ねてみたが、彼女はそれらしい理由を答えてくれない。

(そのうち穴が開きそうだ)

 脂汗をかきながら、それでも手は止めず、貴大はひたすらに書類仕事を片づけていた。

 すると、

「タカヒロ~? ああ、いた。良かったぁ」

 救いの女神が、鐘の音とともに訪れた。少なくとも、貴大にはそう思えた。

「おお! カオル、仕事か!?」

「う、うん、そうだけど……?」

 満面の笑みで飛びついてくる貴大に、カオルは目を白黒させた。

 今にも抱きしめられそうで、それがちょっと恥ずかしかった彼女は、回り込むようにそっと距離を取った。

「何でもするぞ! 調理か? 給仕か? 皿洗いか?」

「い、いや、ちょっと買い出しに付き合って欲しいんだけど」

「よし行こう! すぐ行こう!」

「ちょ、ちょっと! 他に仕事はないの?」

「うっ……!」

 カオルに指摘され――そして、背中に視線が突き刺さり、貴大はギクリと体を強張らせた。

 仕事は、ないことはない。ただ、幸か不幸か、いつもより集中出来たおかげで、ほとんど残っていない。貴大としては、しばらく放置して問題ない量なのだが――彼女にとってはどうだろう。

「……………………」

 今なお、貴大をじっと見つめるユミエルにとっては。

 少し完璧主義者の気がある彼女のことだ。中途半端に仕事を残したまま、外に出かけることを快く思わないはずだ。特に、貴大が受け持つ書類仕事は、彼でしかこなせないものが多い。

 王立学園の採点用紙、冒険者ギルドへの報告書、孤児院での奉仕活動記録。そういったものを置かれていっても、ユミエルでは手の付けようがない。それを彼女は、殊更、気にするのではなかろうか。

 悪い予感に、貴大は恐る恐る、ユミエルへとお伺いを立てる。

「あの~、ユミエルさん?」

「……はい」

「席を離れてよろしいデショウカ……」

 最後は蚊の鳴くような声だった。

 しかし、消え入りそうな言葉はしっかりユミエルに届いており、鉄仮面メイドは値踏みするように黙考する。下される審判は、果たして――。

「……構いませんよ。行ってらっしゃいませ」

「そ、そうか。じゃあ、行ってくるな!」

「ちょっと、タカヒロ!?」

 ユミエルが首を縦に振るのを確認して、貴大はカオルの手を取って素早く事務所の外へ出た。ドアベルの音からもなるべく離れたいとでもいうように、彼は通りの先へと急ぐ。

「タカヒロ、どうしたの? ユミィちゃんと喧嘩でもしたの?」

 流石におかしいと思ったのか、カオルが貴大を引きとめて、事情を尋ねてくる。心配そうな目にのぞき込まれ、貴大はうっとうめいて、バツが悪そうに横を向いた。

「そんなんじゃねえけど……なんか、調子が狂うんだ」

「なんで?」

「ユミィがじーーーっと俺のことをガン見しててな。理由を聞いてもはぐらかされるし、そのくせ、ピッタリ俺について回るし。訳が分からん」

「う~ん……?」

 カオルからしてもおかしな話だった。

 しっかり者のユミエルが、意味のないことをするとは思えない。あの人形のような少女は、見た目通り、事務的、効率的な人間だった。良くも悪くもおふざけをするような子ではないと、カオルは思ったのだが、

(だとすると、なんでだろ? タカヒロ、お尻でも触ったのかな?)

 メイドさんにイタズラをする貴大を思い浮かべ、すぐにも首を横に振った。

(そんな甲斐性があったら、今ごろ誰かに手を出してるよね)

 信用されている――いや、男としては信用されていない青年である。

 惚れた腫れた手を出した、よりも、枯れた萎れた逃げ出した、という印象を世間様から持たれている貴大は、カオルの呆れたような顔にも気づかずに頭を抱えていた。

「カオル、お前の方からそれとなく聞き出してくれよ」

「そうしてみるけどさ。タカヒロの方も、よく考えないとダメだよ?」

「俺? 朝から散々、悩んでるけど……」

「違う違う! ユミィちゃんがどうして変になったのか、ってことよりも、自分に何が出来るかだよ」

「はあ?」

 きょとんとする貴大にため息を吐いてみせ、カオルはピンと指を立てた。

「ユミィちゃん、我慢強いでしょ? あの子が愚痴を吐いてるところなんて、見たことないもん。でも、その分、不満やストレスを溜め込むタイプだと思うの」

「なるほど……」

「それをタカヒロの方で察してあげなきゃ。ちゃんとケアしてあげなきゃダメだって」

「なるほどなあ……」

 年上の男を諭す少女と、腕を組み、ううむと唸る青年。

 肝っ玉若妻さんと、尻に敷かれた駄目亭主、という構図にしか見えないが、本人たちは至って真面目であった。その証拠に、

(そうか、ケアかあ)

 貴大は神妙な顔で、深く深くうなずいていた。

 彼は一筋の光明を得た思いだったが――それがどうにも的外れなのは、彼らしいことと言えた。





 ユミエルは困惑していた。

 なるべく貴大のそばにいて、出来る限り、いっしょの時間を過ごす。そうすれば会話も増え、二人の仲はより深まるはずだった。

 だというのに、肝心の貴大はオロオロとするばかりで、ちっとも笑いかけてこない。それも仕方ないことである。自分が口下手であること、受け身な性格であることを忘れ、より濃密なコミュニケーションを求めようなど、土台無理な話だったのだ。

 そのことには、ユミエルも早い段階で気づいていたのだが――今、この状況については理解出来なかった。

「おつかれさま。昼飯、出来てるぞ」

「……っ!?」

 お使いの依頼を終え、家に帰ってきたユミエルは、台所から漂ってくる香ばしい匂いに気づいた。

 さてはカオルかクルミアが来て、貴大に手料理でもふるまっているのか。そういえば、もう昼時である――などと思いながら、リビングのドアを開けたユミエルは、エプロン姿の貴大と対面した。

「今日は野菜炒めとショウガ焼きだ。ほら、手ぇ洗ってこい」

「……っ!?」

 気まぐれか何かだろうか。貴大が昼食を作るなど――いや、それ自体は珍しいことではない。これまでに何度かあったことだ。

 しかし、この違和感は何だろう。ユミエルはギグシャグと階段を上り、わずかに強張った手で洗面所のドアを開けた。

「おかわりもあるからな。たっぷり食べろよ」

「……っ!?」

 やがて食卓に着き、料理に手を付けようとした時、ユミエルは貴大の行動に目を見開いた。

 なんと貴大が――あの貴大が、甲斐甲斐しく給仕を務めているではないか! 茶碗にご飯を盛り、湯呑にお茶を注ぎ、手早くおかずを取り分けている。大衆食堂〈まんぷく亭〉で鍛えられたからこその流麗な動き。それを前にしては、さしものユミエルも一切の抗議、抵抗が出来なかった。

(しまった。メイドが主人に家事をさせるなんて)

 流石に焦りを感じ、ユミエルはせめて、食器を洗おうとしたのだが、

「ゆっくりしてていいんだぞ。いつも大変だったろ? 今日は俺が洗うよ」

 やたら優しい笑顔をする貴大にやんわりと押し切られ、揺り椅子に座らされてしまった。

(またおかしな薬を飲まれたのでしょうか?)

 ただごとではない貴大の様子に、ユミエルはじっと彼を観察する。場合によっては老龍においで願うつもりだったが、

「ご、ご飯、ご飯……」

「残飯でも貪ってろ」

「アオオオ……!」

 どこからともなく這い出してきたエルゥに、面倒臭そうに昼食の残りを出す貴大の姿は、いつも通りのものだった。

 だとすると、一体、何が原因なのだろうか。彼が変わってしまったのは――。

「ほら、ユミィ。食後のお茶だ」

「……ありがとうございます」

 滑るようにチェアーを転がし、ティーセットを運んできた貴大は、やけに気取った仕草で紅茶を淹れた。

 今度は執事を務めているつもりなのだろうか? それにしては動きが大げさで、見ようによっては道化のようでもあった。

(まさか、からかわれている?)

 ――いや、それはない。貴大はそのようなおふざけをする人物ではなかったし、そうする理由も見当たらない。

 では、本気で『良し』と思って、執事の真似事をしているのか――貴大は依然として、にこやかに微笑んでいる。

(……でも、これはこれでいいのかもしれない)

 客観的に見れば、これはユミエルが望んだ通りの、二人でいるゆったりとした時間だ。

 エルゥは炬燵(巣)に戻ったし、来客の気配もない。昼の間は、このまま、この和やかな空気に浸っているのもいいのかもしれない。

「お茶のおかわりはどうだ? ん?」

(やはり、何か違う……)

 大げさに労わるような貴大の言動。

 端的に言えば――はっきり言って、気持ち悪い。

 佐山貴大という青年は、ずぼらで、面倒臭がり屋で、大雑把で――でも、締める時は締めるぐらいでちょうどいい。こうしてむやみやたらと優しさを垂れ流すのは、彼らしくないとユミエルは思った。

「……ご主人さま。その」

「ん? なんだ?」

「……なぜ、急に給仕などされるのですか?」

「いや、家事やら何やら、お前に任せっぱなしだったろ? 申し訳ないなって思ってさ。たまにはゆっくりしてもらおうと思ったんだ」

「……はあ」

 なるほど、動機は分かった。冗談ではなかったということも分かった。

 ただ、それをユミエルが望んでいるかいないかは、また別の話だ。彼女は家事を苦に思ったことなど一度もなく、貴大を世話することに、秘かな充実感さえ覚えていた。それを取り上げて、ゆっくりしてもらおうなど、見当はずれな気遣いだ。

 しかし、それが貴大のやりたいことであるのなら、ユミエルは止める気はなかった。飽きっぽい彼のことだ。すぐにも元通りになると、ユミエルは予想していた。だから、彼のさせたいようにさせていたのだが――。

「ユミィ、風呂が沸いたぞ。入ってくれ」

「……はい」

「ユミィ、買い物に行ってきたぞ。足りないものはないな?」

「……はい」

「ユミィ、ご飯が出来たぞ~。今夜はオムライスだ!」

「……いただきます」

 ユミエルの予想に反して、貴大はよく働いた。

 掃除洗濯、炊事にお湯張り。朝から晩まで家事に勤しみ、ユミエルはそれを見ているだけ。それをもどかしく思った彼女が手を出そうにも、斥候職の能力をフル活用する貴大にはついていくことさえ難しかった。

「ユミィはゆっくりしてくれてていいからな?」

「…………………………はい」

 確かに、楽が出来た。少なくとも肉体的には休めているはずなのだが――それに反して、ユミエルの心にはどんどん疲れが溜まっていく。これなら家事を倍に増やされた方がまだマシだ。珍しくも消沈した様子を見せ、ユミエルは虚ろな表情で揺り椅子に揺られていた。

 一方で、貴大も気疲れを感じていた。良かれと思って家事を代わったものの、ちっとも手応えが感じられず、肝心のユミエルは喜んでいるように見えない。むしろ、鬱積しているような――。

(もしかして、余計なお世話だったか?)

 二日かかったものの、自分で気づいた分、まだ救いようがあった。

 これで彼がもう少し鈍感だったら、ユミエルが生ける屍と化すところだったが、寸でのところで間に合ったようだ。焦りを感じた貴大は、恐る恐る、ユミエルに問いかける。

「なあ、もしかして……迷惑だったか?」

「……いえ」

「いや、正直に答えて欲しいんだけど……余計なお世話だった?」

「……少し」

 正直に、と言われ、ユミエルは躊躇いながらもうなずいた。

 それを見た貴大は、ガクッと肩を落とし、深い深いため息を吐いた。

「やっぱ独りよがりだったか……すまんな、迷惑かけて」

 苦々しく笑いながら、貴大はユミエルに頭を下げた。気落ちした彼はエプロンを外し、よろよろとテーブルの椅子に座る。そんな弱々しい姿を見せる主人に、ユミエルはそっと問いかけた。

「……そもそも、なぜ、このようなことを始めたのですか? 私になにか、至らないところがありましたでしょうか?」

「ん? ああ、それはな」

 貴大はとつとつと理由を話し始めた。ユミエルの様子をおかしく思ったこと。そこから、彼女が不満や疲れを溜めているのではないかと推察したこと。だから、ユミエルの負担を少しでも減らそうと、家事に励んだことも全部打ち明けた。

「逆に聞きたいんだけど、なんで俺のこと、じっと見てたんだ?」

「……それは」

 今度はユミエルの番だった。友人に、仲良くしてるのかと問われたこと。それを気にして貴大のそばにいたこと。そして、彼からの働きかけをじっと待っていたこと。全て明かして、ぺこりと頭を下げた。

「……説明が足りず……」

「いや、俺もだって。察して動く、なんてかっこつけようとしないで、最初からもっと話しとけば良かったな」

「……その通りでした」

「なんか駄目だな、俺たち」

「……ですね」

 苦笑いの貴大と、無表情なユミエル。

 二人はここ数日の動きを大いに反省し、ふっとため息を吐いた。

「いやー、でも知らなかったな。人の世話ってこんなに疲れるもんなんだな」

「……私も知りませんでした。世話をされるというのは、このように疲れるものだったのですね」

「は?」

 真顔でそのようなことを言うユミエルに、貴大はプッと噴き出した。そのまま彼はケラケラと笑い出し、ユミエルは不思議そうにそれを見つめている。

 和やかな時間が戻ってくる。いつもの時間が戻ってくる。パチパチと暖炉の薪が爆ぜる音。魔法石ランプの淡い光。そして、多くを語らずとも充実した時間。

 それこそは、彼らが求めたものだった。三年かけて築かれた、二人だけの時間だった。酒に口をつけてもいないのに、貴大とユミエルは、何やら心地良い気分に浸っていた。

「最近ドタバタしてるけどさ。問題が片付いたら、またこんな時間も増える。それまで、もうちょっと待っててくれ」

「……はい」

 それきり口を閉じて、何とはなしに、二人は暖炉で揺れる炎を見つめていた。

 そのままゆったりと時間は流れ――。

「……ん?」

 その時、不意にドアベルの音が聞こえた。

「……こんな時間に、お客さまでしょうか?」

 カランコロンと、どこかのん気な音が聞こえてくる。

 しかし、閉店時間はとっくに過ぎて、客もそれを承知しているはず。不審に思った二人は、怪訝そうに顔を合わせた。

「ちょっと見てくるわ」

 貴大が席を立つ。何も言わずに、ユミエルがそっと後に続く。

 ――また、カランコロンと事務所のドアベルが鳴る。

 それは来客を告げる合図と同時に――。

 一つの終わりを知らせる鐘の音でもあった。

mbzm5aiw24mozaohw3ghgtmdypi_1dmo_ic_2d_r cont_access.php?citi_cont_id=162018451&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ