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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

真実の欠片編

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遺跡へ

 国から国を渡り歩く貿易商、行商人、冒険者や旅人は、イースィンドに入ってしばらくすると、こう呟くという。

「イースィンド女の胸は平坦だなあ」

 起伏が少なく、平地が多く、険しい山野の数が少ないイースィンドの国土を指しての言葉だ。実際、イースィンドの内陸部はなだらかな地形がほとんどで、その大部分が、巨大農地や放牧地として有効活用されている。

 イースィンドの別名が『東大陸西部の穀物庫』ということからも、かの国の平坦さ、豊饒ほうじょうさは特筆ものだということが分かる。

 さて、そのように凹凸の少ない地形では、街道の整備も楽なものとなる。大地が陥没してできた穴や、道を塞ぐ大きな岩山、それに馬車の車輪が思わぬ加速をつけてしまう急勾配きゅうこうばいを避けるためには、道をくねらせ、時には迂回させる必要が出てくるのだが、イースィンドではそのような配慮は滅多にいらない。

 見渡す限りの平原に、真っ直ぐに一本道を作る。ほとんどこの繰り返しで主街道が出来上がったというのだから、イースィンドの地形は推して知るべしである。

 グランフェリアを出て西に進み、脇道に逸れて今度は南に向かっている貴大たちも、今、平たい草原地帯から、なだらかな丘陵地帯に差しかかったところだった。

 貴大らと護衛の騎士たち、それぞれ二組が乗った幌付き馬車はガタゴトと音を立ててはいるが、揺れは少なく、馬の走りも滑らかだった。

「くかー」

 ほどよい振動が眠気を誘ったのだろう。昼食を終えた貴大はバッグを枕にして、軽やかな寝息を立てていた。

「風邪を引いちゃいますよー……」

 おっかなびっくり、貴大の体に毛布をかけて、ほっと一息吐いて微笑んだのは、王立図書館に勤める見習い司書、セリエ・ポルトだ。前回の遺跡調査の帰りに貴大の本当のレベルを知った彼女は、貴大を勇者の類だと勘違いしている節がある。

 憧れや畏敬に曇ったまなこでは、貴大のよだれや鼻提灯すら光り輝き、畏れ多く見えるようだった。

「いいんだよ、ほっとけば」

 ふわふわした栗毛にのせたベレー帽を、照れくさそうにいじっていたセリエに、赤毛の少女が言葉を投げた。

「え、で、でも、風邪をひいたら大変だな、って」

「そこまでやわじゃねーってことだ」

「そう、ですね。そうかもしれません。だって、タカヒロさんは黒騎士様ですものね!」

 きらり、きらきらと目を輝かせるセリエを見て、アルティは面白くなさそうに顔を背けた。

 前回の遺跡探索で生死を共にした縁から、たまに会っては茶を飲む仲になった二人だが、陶然とした様子で貴大のことを語るセリエにだけはついていけないアルティだった。

(あいつが『黒騎士様』? 似合わねえよな、ったく。働きたくない、働きたくないって駄々をこねてるタカヒロを見たら、きっと幻滅するぞ)

 もやもやした気持ちを、微かな嫉妬だと理解できないまま、アルティは不機嫌そうに貴大のつま先を小さく指で弾いた。

「そうだよ、タカヒロ君は黒騎士だよ……ふふふ、あの黒騎士だ。レベル250の生体サンプルなんて、そこらに転がっているものではないよ。肉片、いや、血の一滴でも入手できれば、もしかすると強力なホムンクルスを作れるかもしれない。ふ、ふふっ! これも魔導科学の発展のためだ。悪く思うなよ、タカヒロ君……!」

「警戒レーダーが反応しているんですけど」

「やだなあ、冗談に決まっているじゃないかああああっあーっ!?」

 アルティがいじけるように貴大のつま先を弾く陰で、黒髪のエルフが蛇のように忍び寄っていた。日頃は青白い肌を上気させ、右手にメスを構えた眼鏡のエルフ、エルゥは――しかし、あえなく返り討ちにあって、頭がい骨をみしみしと軋ませていた。

「おちおち昼寝もできんな。これだから、こいつの依頼は嫌なんだ」

「ああっ、エルゥさんの頭がひょうたんみたいな形にーっ!?」

 万力のようなアイアンクローを受けて、マッドな野望を抱いていたエルゥは倒れ伏した。セリエに介抱されるエルゥを見ながら、貴大はアルティの横に座って、無人の御者台に目をやった。

「魔導科学か。冷蔵庫やコンロなんかは便利だけど、ホムンクルスとかはゾッとしねえな。この無人馬車だって、試作品なんだろ? 目的地を決めれば勝手に進む、障害物は勝手に避けるとか、高性能過ぎて気味が悪いわ。なあ?」

「あっ、うん。そ、そうだよな!」

 隣に貴大が座ったことにより、どぎまぎしていたアルティは、努めて明るくふるまって、貴大に対する気持ちを表に出さないようにした。

 セリエほどあからさまではないものの、この少女もまた、貴大に憧れを抱いている――いや、アルティの場合、憧れだけではない。

 憤怒の悪鬼を一撃で倒し、自分とセリエの命を救い、果敢に混沌龍に立ち向かった男。貴大への憧れは淡い恋心を生み、恋は大きく、熱く、燃え盛っていった。

 色恋沙汰とは縁がなく、女だてらに短剣を振るい、年がら年中生傷が絶えないアルティもまた、女だったということだ。彼女は、最近伸ばし始めた髪をいじりながら、さりげなさを装って、隣の貴大に話しかけた。

「まひゃ、ん、んんっ! ……また、この面子になったな」

「ん? そうだな」

 噛んでしまったアルティは、心の中で真っ赤な顔をしながら転げ回りつつ、それを表情には出さなかった。貴大は、妙に顔を引き締めているアルティを不思議そうな顔で見つめてから、軽くうなずき返す。

「また、変な遺跡とワープトラップが待ってたりしてな」

「まさか。そうそうあることじゃねえだろ。なあ、エルゥ」

「その通りだ」

 いつの間に復活したのか、白衣の乱れを正したエルゥは、貴大の正面に座り、人差し指をピンと立てて解説を始める。

「遺跡とは、何らかの要因によりダンジョン・コアの機能が停止した迷宮のことだ。動力源が失われているわけだから、魔物が生じることはなく、ワープトラップなど、魔素を必要とする罠は全て置物と化している。誰かが手を加えない限り、遺跡が迷宮に戻ることはなく、先に述べたものが活動を再開することはあり得ない」

「で、でも、前に行った遺跡は、罠が発動しましたけど……」

 おずおずと、エルゥの背後で手を挙げるセリエ。彼女を指差して、エルゥは更に話を続ける。

「あれこそ、まさに『誰かが手を加えた』状況なのだよ。きっと、仕掛け人は私たちが遺跡に入ったのを確認したと同時に、停止させていたダンジョン・コアを活性化させたのだろう。だからこそ、先に調査を終えた騎士団には何もなく、私たちだけ、ワープトラップで跳ばされたのだよ。まあ、ダンジョン・コアが自爆に使われてしまったから、今となっては確かめようもないけどね」

 持論を述べ、満足げに眼鏡の位置を直していたエルゥに、今度はアルティが言葉をぶつけた。

「ちょっと待てよ。仕掛け人って誰だ? 俺には心当たりがねえぞ」

「さあね。私やアルティ君、セリエ君を狙うにしては回りくどく、タカヒロ君を葬るには戦力不足が否めなかった。だから、特定の人物の殺害が目的ではないことは分かるのだが――いかんせん、情報不足だ」

 両手を上げるエルゥと、首を振るアルティ。そして、一人でうんうんと考え込んでいるセリエから視線を外し、貴大は幌の後ろから空を見た。

 彼にも、何のためにあのような遺跡が用意されたのかは分からなかったが――ただ、仕掛け人が誰であるのか。それだけは、分かっていた。









「お待ちしておりました、エルゥ博士」

 グランフェリアから馬車を飛ばすこと五時間半。一見、何もなさそうな草原には、いくつかのテントと、数台の馬車が並んでいた。

「ああ、出迎えご苦労。それで、中はどうだったんだい?」

「中に入り込んでいた低級の魔物は余さず討伐いたしました。物理的なトラップ、停止したダンジョン・コアの摘出、全て終了済みです」

「クリーニングは済んでいる、ということか」

「はっ! 前回のような抜かりはありません!」

「あー、いいよ。前回はあくまでイレギュラーな事態だ。君たちの責任じゃない」

「そうおっしゃってくださいますか。助かります」

 護衛、および、事前調査クリーニングのために派遣された騎士たちが、揃って頭を下げる。彼らに対し鷹揚に応えながら、エルゥは白衣を翻して、草原にぽっかりと口を開いた『穴』に近づいていく。

「それで、あれが報告にあった遺跡の入り口かな?」

「はっ! その通りです。付近で放牧を行っていた羊飼いが偶然発見したもので、それまではここに穴などは開いていなかったそうです」

「ふーん。まあ、遺跡は死んだ迷宮だからね。自動修復機能もないわけだから、老朽化して天井に穴が開くのは、そんなに珍しいことじゃない。じゃあ、早速、入ってみるかな」

「あっ、エ、エルゥ博士!」

 唯我独尊を地でいくようなエルゥの勝手気ままさに、騎士隊長と思しきひげ面の男は、慌てた様子で彼女の後を追った。

 それに続き、鎧姿の騎士たちが十名、順次、穴へと飛び込んでいく。残された予備役の騎士を見ながら、アルティは拍子抜けしたような声を出した。

「何だ、今回は騎士たちも来るのかよ。あんなに人数用意できるんだったら、オレとかいらねえじゃん」

「ぼ、冒険者には冒険者のスキルがあると聞いたことがあります。なので、迷宮や遺跡探索には、より多様な人材をあてた方が、良い結果が出ると……」

「まあ、言いたいことは分かるよ。んじゃ、俺たちも行くか」

 ふて腐れた様子のアルティと、懸命に彼女を励ますセリエを連れて、貴大も穴の中へと飛び込んだ。

 穴が開いていたのは、本来の入り口に近い小部屋だったようで、そう広くもない石造りの部屋の片方は土砂に埋もれ、その反対には下へと続く階段があった。

 壁には【ライト】の魔法が封じ込まれたカンテラがいくつもかけられており、騎士たちはそれらを取り外し、エルゥや貴大に手渡していく。

「ここから長い階段が続きますが、照明機能が死んでおります。決して転ばぬよう、これで足元を照らしながら、ゆっくりと下りていってください」

 先導する騎士たちに続き、貴大らは小部屋から出て、螺旋階段を下りていく。石の階段はどこを見ても灰色で、変わり映えのない色と構造は、階段がどこまでも続いているのではないかと錯覚させる。

 それでも、足を動かし続ければ、いつかは階下へ着くというものだ。何分も階段を下り続けた末に、貴大たちは入り口の間に似た小部屋に辿り着き、しばしの間、足を休めた。

「それでは、遺跡の中核部に参りましょう」

 わずかな休息の後、騎士隊長がカンテラを掲げた。

 彼の前には、古ぼけた大きな木製の扉が一つ。両開きの扉のそれぞれを、平騎士たちが開いていくにつれ、問題の遺跡が露わとなっていく。

 カンテラが照らすドーム状の空間。コロッセオを一回り、いや、二回りほど大きくした半球状の遺跡の中には、イースィンド人には馴染みのない建物や、縄を張った円柱などが並立している。

 入り口から見て手前の建物には、『Daily Mart』と書かれた看板がかけられ、恐ろしいほどに透明なガラス戸の向こうには、いくつもの箱や袋が置かれていた。

「ほほー、これはこれは。興味深い遺跡が出てきたね」

 これまでに出土した古代文明のどれとも違う様式に、エルゥは眼鏡を光らせて、興味深げにドームのあちらこちらへ目をやった。

「こ、古代人の居住区でしょうか?」

 知識人の卵であるセリエもまた、アルティの陰から顔を出して、きょろきょろと周囲の様子をうかがっている。

「馬鹿みてえに広いな。こんな迷宮、見たことねえぞ。なあ、タカヒロ……って、おい?」

 そして、アルティは驚きのあまり、ここが遺跡だということをすっかり忘れて、貴大に同意を求めたのだが――。

「ここは……この町は」

 カンテラが照らす光の先、闇を湛えた遺跡の中へ、貴大はふらふらと歩いていった。まるで、目をつむっていても歩けると言わんばかりに、彼は暗闇の先へ、先へと歩いていく。

 慌てたアルティが、貴大の後を追おうとした――その時。

「っ!? ま、まぶしっ!」

「光がっ!」

 ドームの壁面に埋め込まれた光石が、一斉に輝き始めた。

 陽光にも似た明かりで遺跡をくまなく照らし、しばらく光り輝いていた丸い石は、ほどなくして光量を下げていった。

「タ、タカヒロは?」

 アルティたちの目が眩んでいる間に、貴大は姿を消していた。

 どこかの角を曲がったのだろう。今や、淡い光に照らされて、全貌を明らかにした遺跡は、碁盤のように整然としていながらも、脇に逸れる小道が多かった。

「ちっ、まずいな。探すぞ!」

 迷宮はもちろんのこと、遺跡においての単独行動は危険が伴う。集団から逸れ、目立たぬところで罠にかかってしまえば、発見、救助が困難になることは想像に難くない。最悪の場合、命に関わることもある。

 そのことを危惧したアルティは、騎士の半数を率いて、先行した貴大を連れ戻そうとしたのだが――。

『ゲボッ、ゴボ、ゴボボボ』

「こんな時にっ!」

 濃い灰色の地面から染み出すように、スライムやジェリーなどの魔物が出現した。魔物たちは道を塞ぐように蠢きながら、アルティたちに触手を伸ばす。

 照明のことといい、魔物の出現といい、疑いようもなく、この遺跡は生きている。どこかの誰かが、摘出されたダンジョン・コアの代わりをはめて、遺跡に息を吹き込んだのだ。

 本来の姿に戻った遺跡――迷宮は、産声を上げるように次から次へと魔物を生み出し、アルティたちにけしかける。

「くそっ! 邪魔すんじゃねえよ!」

 レベル100を超えるダンジョン・モンスターたちを切り捨てながら、アルティは焦った顔を貴大が去っていった方へ向けた。

「ひゃっほーい!! 新種の魔物だーっ!!」

「あんたはあんたで自重しろ!」

 そして、後ろで奇声を上げるエルフに大声を張り上げた。

胸が平坦だとか言ってる場合じゃない急展開。

次回、あの人が出てきます。
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