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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

ジパニア村編

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思わぬ出会い

 漂流学生、奇跡の生還!

 お手柄、臨時講師! 学生たちと一致団結!

 彼が船に追いつけた訳。東洋式泳法の神秘。

 などなど、町役場の掲示板から場末の酒場の壁に至るまで、エールシルトの街の至るところには、例の事件についての記事が貼り付けられていた。

 街の人々が夢中になって語っているのも同じ内容だ。王立グランフェリア学園の学生たちの漂流。孤立無援の14日間。そこでは何があり、どのようにして彼らは生き残ったのか。

 当然、民には仔細は明かされない。事は王侯貴族の面子にも関わるため、必要最低限の情報のみが公開された。

 即ち、『学生は全員無事である』ことと、『責任者はいた』ということだ。この時点で、微妙に真実が歪められているのだが、まさか、「引率の教師は誰一人としてついておらず、学生たちのみが海へと流された」などとは言えるはずもなく、結果として、たまたま場に居合わせただけの貴大は、彼の予想通りに責任者へと仕立て上げられた。

 英雄を一人でっちあげることで、王立グランフェリア学園は権威を落とさず、逆に民からの支持を得ることができる。臨時講師であっても、学生を見捨てず、守り抜くだけの熱意と力を持っていると――人々は、こう思うわけである。

「大人って汚い」とは、勝手に英雄に祭り上げられ、余計なことは言うなと厳命された某S氏の言葉だ。ともあれ、八方丸く収めるために、国と学園は関係者の口を塞ぎ、必要最低限の情報だけを公開することに決めたのだった。

 しかし、民衆というものは得てしてゴシップが好きなものであり、語られない部分は想像、空想で埋めてしまう。これだけの大事件であるならばなおさらのことで、エールシルトの住民たちは、あることないことを、まるで真実であるかのように語った。

「俺の知り合いに漁師やってる奴がいるんだが、貴族のガキが流れ着いた島は、魔物島なんだとよ。秋でもないのに魔素溜まりがあちこちに浮かんでて、レベル200を超える魔物がうようよいるんだと。そんな島でガキを守ってたんだ。あの男、騎士団長レベルだな」

「オレは男やガキよりも、連れのちびっ子どもが気になったな。男は臨時講師、ガキどもは学生。でも、男に引っ付いている三人の女については、何も言われなかっただろう? あれが怪しい。きっと、あいつらはただものじゃないぜ」

「いやいや、肝心なのは男だよ、男。見たか、あの黒髪とのっぺりした顔を。あれは、時々ワープ罠で跳ばされてくる東洋人だ。東の奴らは、妖しげな術を使うと聞く。あの小さな少女たちも、ジパングの召喚獣、『シキガミ』に違いない」

「それより、二週間だよ、二週間! 周りの目はなくて、島には男と女しかいない。狭い島と聞いたから、自然と肌が触れ合うこともあっただろ。それが発展して……きっと、あいつら、やることやってるね。十月十日後が楽しみだな」

 出るわ出るわ、下世話な話から突拍子もない話まで、人の数だけ噂話は飛び出して、改変に改変を重ねられ、雪だるまのように膨らんでいった。

 その中で、予想は断言に変わり、空想は真実に化け、情報源は限りなく増大していった。そして、わずか二日の間に、噂話はもっともらしさを付与されて、商人の耳へ、貴族の耳へと届くようになった。

 情報統制を布いた側が、思わぬ情報に気が引かれ、取るに足らない男へと目を移すようになる。

 一時期はスキル教授法の目新しさで持て囃されたが、今となっては少し小器用な出涸らしに過ぎない。彼から得るものは何もない。そう思っていた存在に、実は、まだ秘密が――旨味が、隠されていたとしたら?

 確かめるだけならばタダだと、救出から三日目の夜、領主館で開かれたパーティーで、多数の権力者たちが貴大に声をかけた。

「此度の英雄に、お話を聞きたいものですな」

 和やかに笑う彼らは、実に自然体であり、どこからも損得勘定をのぞかせてはいなかった。それがかえって不気味に思え、貴大は戦々恐々としながらパーティー会場を後にした。

 その小市民的な後ろ姿に、上流階級の者たちは、やはり噂は噂だと、鼻から短く息を吐き出し、貴大という人物を嘲笑った。

 それでも、目端の利く者はいるもので、南部騎士団長を務めるヴァレリーの父親、東部軍団長を務めるベルベットの母親、そして、イースィンド王国の魔導隊を総べるフランソワの父親は、学生たちを守り抜いてみせた貴大に光る何かを感じ、個別に声をかけていた。

「いやあ、東洋は修羅の国、血で血を洗う戦乱の国家だと聞き及んでおりますが、先生も流石の実力者ですな! 男たるもの、常在戦場。たとえ島に流されようとも、たとえ連れが何人いようとも、生きて帰ることができてこそ、一人前の戦士というもの! その点で言えば、先生は申し分ありませんな! 聞けば、冒険者時代は斥候として高く評価されていたとのこと! 我が騎士団にも、先生のような人材が欲しいですな! わっはっはっはっはっ!」

「は、はあ」

 ヴァレリーを一回りも二回りも大きくしたような偉丈夫は、大きな口を開けて快活に笑う。鼓膜どころか、部屋すらビリビリと震わせる大音声に、貴大は終始、恐縮していた。

「不快な男だわ。私を前にして、どこか余裕がある。貴方、何かを隠しているわね?」

「と、とんでもございません」

 ベルベットとの共通点は、鳶色の瞳だけ。短い銀髪を指先でいじる痩身の女性は、鋭い目つきで貴大をねめつける。優しさや穏やかさを極限まで削り落としたかのような女性の視線に、貴大は涙が出そうだった。

「……………」

「な、何かおっしゃってください」

 極めつけは、フランソワの父親との面会だ。何も問わず、何も語らず、ただ黙って貴大を見つめる壮年の男は、身動き一つ、取ろうとしない。まるで生きた彫像に凝視されているようで、貴大はぽんぽんが痛くなってしまった。

 そんなこんなで、救出四日目の朝。貴大は、上流階級の方々の魔の手から逃れるべく、こっそりとエールシルトの街を脱出することに決めた。

 朝靄に紛れて、始発の竜籠に乗り、誰にも、何も告げずに、置手紙だけを残して、さっさととんずらしてしまおうというのだ。後先考えない行動だと言えるが、とにかく、ここから逃げ出したかった。とかく、偉い人のプレッシャーに弱い貴大だった。

「メリッサ。お前はここに残るんだったよな?」

「うん。でも、聖都で用事を済ませたら、すぐにグランフェリアに帰るよ」

「了解。じゃあ、とりあえずはここでお別れだ。またな」

「うん、またね。ユミィちゃんもバイバイ」

「……また会いましょう」

 エールシルトを訪れた貴大一行に、いつの間にか紛れ込んでいたメリッサは、実は、聖都サーバリオでの用事をほったらかして来ていたらしい。なので、彼女だけはグランフェリア行きの竜籠に乗らず、貴大たちに別れを告げて、エールシルトに残留した。

 白桃色のシスターを残し、竜籠は王都目指して飛び立った。十人乗りの竜籠に、他の旅人たちと一緒に乗り込んだ貴大とユミエルは、遠ざかる海辺街に軽く手を振って、すとんとその場に腰を下ろした。

 このまま、半日もすればグランフェリアに到着するだろう。日が暮れる前には、家のドアを潜ることができるだろう。長かった旅もこれで終わり。明日からは、また、平凡な日常が待っている。

「でも、その前に……」

「ぐにゃー。も、もう飲めんのだぁ。ふふふふふ」

「こいつも置いていきたかったな」

 乗合竜籠の隅で腹を見せて寝転がる竜人の少女を、貴大は心底嫌そうな顔で見つめていた。

「……そのようなことを言っては、ルートゥーさんがかわいそうですよ」

「でもよぉ。こいつ、今日の朝帰るって伝えといたのに、遅くまで飲んでぐでんぐでんになってんだぞ? 自力で飛べるんだし、ほっといてもよかっただろ」

「……久しぶりにお酒が飲めて嬉しかったのでしょう。それに、このような無防備な姿を晒すということは、きっと、甘えているのですよ。受け止めるのは、男の甲斐性ですよ、ご主人さま」

「うるせー」

 などと、のんびり、まったりと会話を交わしながら、しばしの間、二人は竜籠で揺られ続けていた。





 貴大たちが竜籠に乗り込み、一時間ほどが経過した頃、御者が操る大型飛竜が、緩やかに高度を落とし始めた。そして、地表すれすれで滞空し、ゆっくりと竜籠を地面に下ろす。その後に、大型飛竜は自身も着地した。

 王立学園のグラウンドにも似た空き地には、灰色の作業服を着た男が二人いた。彼らは素早く、大型飛竜の首輪とベルトから竜籠に繋がるロープを外し、籠の側面の扉を開いて、乗客を外へと誘導する。

 ぷるぷると首を振る飛竜から離れた乗客たちは、自分も同じような動作で首や腕を回し、広場の向こうに見える町へと歩いて行った。

 もちろん、ここはグランフェリアではない。王都は未だ遠くにあり、道のりの半分も過ぎてはいない。このピークスという小さな町に降り立ったのは、あくまで休憩のためであり、この町はいくつもある中継地点に過ぎなかった。

「二十分後に出発でーす。トイレは必ず、済ませておいてくださーい」

 御者が飛竜のロープを杭に繋ぎながら、遠ざかる乗客たちに向かって大きな声を上げた。ルートゥーを背負った貴大は、このやり取りも慣れたものだと、手だけを上げて御者に応える。

 そして、ユミエルを連れて、さほど大きくもない町の宿屋へ向かって歩いて行った。

「こいつ、漏らすんじゃねえか? 無理やり起こして、トイレに行かせた方がいいかな」

「……以前、本人から、食べたり飲んだりしたものは全て消化吸収して、体内で圧縮するから、カオス・ドラゴンはトイレに行かない、という話を聞きました」

「それはそれで何か嫌だな。スライムかよ」

 周りを囲む柵もなく、街道沿いに宿や飲食店が並んだ宿場町を、通り沿いに歩く二人。彼らは、他愛のない話をしながら、のんびりと進んでいる。

 知り合いなどいるはずもない、ホームタウンとは遠く離れた町だ。二人は特に住民や旅人に意識を向けることもなく、進行方向か、互いの顔だけを見ていた。

 だからこそ、真横の飯屋から出てきた女が、自分たちの名前を呼んだ時は――割と本気で、ビックリしてしまった。

「あ、あれ? タカヒロ?」

「ん? ……って、カオル!?」

「わんっ♪」

「クルミアまでっ!?」

 グランフェリアから遠く離れた宿場町。知り合いなどいようはずもないと考えていた場所で出会ったのは、知り合いも知り合い、貴大らと浅からぬ縁を持つ少女たちだった。

次回、ジパニア村ご案内。
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