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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

修学旅行編

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サバイバルinアイランド

 佐山貴大は、一度、長期休暇を取ることにした。

 遠く離れた土地まで出向き、一週間、思う存分のんびり過ごすことにした。

 グランフェリアでは駄目だ。この街は、いかんせん知り合いが多過ぎた。

 公園の芝生に寝転がれば、にこにこ笑顔のわんこが飛んでくる。住宅街の石階段に座り込めば、世話焼きな定食屋の娘がやってくる。家にいれば、我が物顔で自宅をうろつく黒髪のエルフ(トラブル・メーカー)が鬱陶しくて、屋上に出れば、隣近所の煙突の陰から様子をうかがう、赤毛の少女ライト・ストーカーが気になった。

 この街に、安息の地はない。ここ数週間に渡る事件で疲れ果て、ただただ安らぎを求めていた貴大は、グランフェリアからの脱出を決意した。

「一週間だけでいい。一週間だけ、ゆっくり休んだら、元の通りに働くから」

 貴大がどうして疲れているのか、また、疲れた人間を無理やり働かせるとどうなるのかを知っているユミエルは、躊躇うことなく長期休暇を承諾した。それどころか、主が万事快適に過ごせるように、同行を願い出た。

 貴大は、それを受けて少し考えた。そういえば、自分は住み込み家政婦兼マネージャーの少女に、休みらしい休みを与えていなかったと。土日祝日は当たり前として、それ以外に休暇らしい休暇を与えたことはなかったなぁと。

 従業員に有給休暇を与えないなど、故郷の地ならば労働基準法の違反でしょっ引かれているところだ。人道的にも、年下の少女に働かせてばかりで、主人が休日を満喫するというのは、何か間違っている気がした。

 本当ならば、誰にも邪魔されずにゆっくりと過ごしたかった貴大だが、よくよく考えてみると、ユミエルは何かにつけて控えめな少女だった。主人の意をよく酌んで、必要な分だけ、世話を焼く。決して出しゃばらずに脇に控え、いつも影のように貴大に寄り添っている。

 元々、貴大自身も、『平日は鬼だけど、休日のユミエルは満点』と評していたほどだ。そばにいて苦にならない存在を、旅行に連れて行くことに何の問題があるというのか。

 ほんの少しの逡巡の後、貴大は「お前にも骨休めさせてやらなきゃいけないな」と笑い、ユミエルに旅支度をするようにと言った。

 こうして、八月の最終週を利用して、何でも屋〈フリーライフ〉の二人は、少し遅めのバケーションへと出かけることにした。目的地は、地中海に浮かぶ無人島。都会の喧騒から離れ、冒険者時代に見つけた休暇の穴場で、疲れた心と体を癒そうというのだ。

 貴大とユミエルは、土曜日の早朝、少し値が張る連れ合い竜籠に乗り込んで、一路、イースィンド南部へと旅立っていった。北部から、東大陸を縦断するように南下する大旅行。それでも、その日のうちに二人がエールシルトの街に到着できたのは、ひとえに飛竜の翼のおかげだろう。

 日暮れの港町で、御者に金貨を二枚手渡して、貴大は宿を探すことにした。下旬とはいえ、八月は十分にバケーション期間だ。繁華街や、目抜き通り沿いにある宿屋はどこも満室で、一階のパブすら客で埋まっていた。

 とはいえ、ストルズの闘技大会がある八月上旬ほどの賑わいはない。この街は、南部にエールシルトありと謳われた大湾岸都市だ。少し探して歩けば、二人が泊まれる宿はすぐにも見つかり、腰を落ち着けてから、ゆっくりと食事をとることもできた。

 新鮮な地中海の魚介に、貴大とユミエルが舌鼓を打った後、彼らは早めに寝ることにした。遠くの大通りでは何か催し物をやっているのか、喝采や笛の音、太鼓を打つ音が微かに聞こえた。宿屋の主人にも、せっかくここまで来たのなら、騒いでおいでと勧められもした。

 しかし、二人は心と体を休めに来たのだ。どんちゃん騒ぎはグランフェリアでの日常だけで十分だと、貴大は早々に床に就き、遠くの喧騒を子守唄代わりにそっと目を閉じた。

 次の日、日の出とともに目を覚ました貴大は、体の倦怠感が薄れていることに気がついた。と、同時に、誰にも邪魔されずにゆっくり眠ることができたのは、随分久しぶりだと苦笑した。

「ここのところ、厄介な事件ばかりだったからなぁ」

 しみじみと呟いた貴大は、水差しからコップに水を注ぎ、ぐいと一杯、飲み干した。

 彼は、寝汗をタオルで拭いつつ、二杯目に口をつけながら、大きく窓を開け放った。

 竜籠の隅で体を縮め、ひたすら移動に費やした初日と違い、二日目は悠々と市場の散策だ。グランフェリアにないものはない、という言葉があるが、それでも、北方と南方の流通は大きく異なる。

 北海を舞台に海商を行うグランフェリアとは違い、エールシルトには地中海を通じ、南国の品々が持ち込まれる。色とりどりの果物に、木箱一杯の茶葉やハーブ。通貨に変わる金銀銅の鉱物だけではなく、ミスリル、ダマスカス、アダマントなどの魔法金属も、何隻もの船に詰められて運ばれてくる。

 東方からは、褐色肌の娘が売りの大サーカスさえやってくる。興行国家ストルズでの公演を終えた彼女らは、夏の間は地中海沿岸を飛び回る。そして、磨き上げた美貌と踊りで客を酔わせ、しこたま金貨を稼ぐというわけだ。

「ほう、美しいな、あの娘は。ふむ。どうだ、タカヒロ。我も褐色肌にしてみたが」

「へー、何か新鮮だな。2Pキャラみたいだ」

「うむ、もっと褒めるがよいぞ!」

 ぬわははは、と笑う龍人娘の頭をぐりぐりと撫で、貴大はメイドと一緒にバナナをかじりながら、広場の中央のリングを見ていた。

 三日目は、定番の海水浴だ。青い海、白い砂浜、真っ赤な太陽と、三拍子揃ったエールシルトの海水浴場で、貴大たちは思いきり羽目を外していた。

「はーっはっはっ! 現代泳法、クロールを見るがいい!」

「わー、早いー! タカヒロくん、それ、どうやるの? こう? こうかな?」

「いや、こうであろう」

「……すいーむ」

 サンオイルの効果もあり、早くも日に焼けつつあるユミエルと、薄桃色髪の聖女。彼女らは、こんがりと日に焼けた(と、いうか肌の色を変化させた)混沌龍が貴大に褒められているのを見て、秘かに羨ましいと思っていた。

 メイドと聖女の思いを知ってか知らずか、貴大は浜辺ではしゃぎ回る。

「焼きトウモロコシ、うめー!」

 一転して、夕暮れの彼は、アロハシャツなぞを着て、無人島のビーチで寝転がるのだ。

 市場で購入した南国の果物を摘みつつ、水平線に沈む夕日をただ眺める。周りでは、日に焼けた少女たちが、アロハのリズムに乗って腰を振っている。花柄のビキニに包まれた平坦な体がゆらゆらと揺れ、腰に巻いたみのが、しゃらり、しゃらりと微かな音を立てていた。

「ふー、夏休み、最高」

 これぞ、日本の夏。日本人男性なら誰もが夢見る常夏のシチュエーションだった。

「って、何か増えてる増えてるーっ!?」

 貴大が我に返ったのは、無人島に流れ着いたフランソワらが声をかけてきた時だった。

 細かなことが気にならなくなるサマーバケーションの雰囲気。そして、ルートゥー、メリッサがそばにいることが自然になっている自分に、ゾッと背筋を凍らせた貴大だった。






「はい、課外授業の始まりですー……」

「ひゅーひゅー!」

「いいぞ、タカヒロー!」

「……やんややんや」

 二・Sの学生たちが、貴大がいた無人島に『偶然』流れ着いてから、一夜が明けた。

 たまの休暇に邪魔が入り、どんよりとした顔の貴大。だが、学生たちは彼以上に憂鬱な顔をしている。それも無理からぬ話で、彼らのほとんどは、野宿などしたことがない上流階級の出身だ。

 ふかふかのベッドでなければ眠れず、目覚めの紅茶がなければ落ち着かないような子どもたちが、遭難の末、無人島に放り出されたとあっては、安眠しろ、暗い顔をするなと言う方が無茶だ。 

 二つの意味で、視線を落とす貴大と学生たち。それでも、トラブルには慣れている貴大は、気持ちの切り替えが案外、早い方だった。

「まあ、遭難したのはしょうがない。運が悪かったのだと思って、俺みたいにさっさと諦めるんだな。まあ、お前らはいいとこの坊ちゃん嬢ちゃんだから、十日もせん内に助けが来るとは思うけど……問題は、それまでどうやって生きていくか、だ」

 無人島の砂浜に座り込んだ水着の学生たちを前に、パイナップル柄の青いアロハシャツを着た貴大は、麦わら帽子の下で暑そうに目を細める。

「昨日、確認してみて、俺、びっくり。個人格納空間に非常食も入れてないとか、脳みそお花畑だな、お前ら。え? 薬や水はいいとして、ワインとかお菓子とかどうすんの? パーティーでも開くの?」

 人や魔物が生まれ持つ、アイテム欄とも呼ばれる個人格納空間は、特別な術式で拡張しない限り、30個、もしくは100キログラムまでしか物品を収納することができない。代わりに、人は重さを感じることなく、様々な物品を四次元空間に入れて、持ち運びすることができる。

 どう考えても、デメリットよりメリットが勝る、貴重な個人格納空間。そこには護身用の剣や盾、生命線となる水や食料、火打石やロープなど、いざという時のための品物が納められているのが一般的であるのだが――学生たちの個人格納空間は、見事に娯楽用品で占められていた。

「あるのは、鼻眼鏡に、手鏡に、妙な形の壺に、やたらつばが広い帽子に、サンダルばっか。食糧も、替えの服も、靴すらないとは恐れ入った。まあ、お付きの人が全部用意してくれるから、格納空間を遊ばせておく余裕もあったんだろうけど……」

 山と積まれた品を見て、じとりとした目を学生たちに向ける貴大。

 小さくなるばかりの学生たちは、非難めいた視線にますます恥じ入ってうつむいてしまう。

「それでも、非常食すら押しのけて、ガラクタやおもちゃが幅を利かせているのは問題だ。お前らが冒険者の卵だったら、チームリーダーにぶん殴られているところだな」

 普段、敵対視し、見下している冒険者に劣ると言われ、怒りを露わにする者が何人かいた。元冒険者だからといって、サヤマ先生は冒険者贔屓が過ぎると思い、立ち上がりかけた者もいた。

 しかし、彼らの気勢を制するかのように、貴大は数度、手を打った。

「だが、きちんとできている奴もいたな。フランソワとドロテアだ。こいつらは、装備品、水、食料、薬、小物できちっと半分を埋めて、もう半分は空けていた。先生方の教えが生きているってやつだ」

 金と銀の少女に送られたのは、拍手だったと気がついた学生たちは、持ち上げかけていた腰をそっと下ろした。自尊心の強い彼らでも、流石に『できている人間』の前で難癖はつけられない。

「ベルベットは鉄ゲタ、カミーラは眼鏡セットがなければ完璧だったな。他にも、女子は何人か優秀な奴がいた。男子は全滅だな。お前ら、エロ本ぐらい隠さず持っとけ。親にバレたくないからって、格納空間に仕舞うな」

 図星だったのか、冷や汗をダラダラと流す男子たち。彼らをゴミ虫を見るような目で見て、女子たちはあからさまに距離を取っていた。

「さて、こっからが本番だ。ないもんはないからしょうがない。だから、あるものをうまく利用して、必要なものは新しく作って、この島でしぶとく生き残るぞ。生きて、生きて、生き延びたら、勇者が『アレ』を始末してくれるだろ」

 貴大が指差すはるか先には、孤島からの脱出を拒む最大の要因が見えた。

 夏の地中海に現れるユニーク・モンスター。八本の足と、二本の触腕を振り回す白い悪魔。名を、大海獣クラーケン。全長30メートルはあろうかという巨大な烏賊イカが、海鳥の群れに無数の水弾を吐きかけていた!

「ったく、今年の分は、もう討伐されたはずだろ……まあ、いい。さあ、俺が知ってる生存術サバイバル・テクニックをお前らに叩き込んでやる。全員、ちゃんと覚えて、鼻歌混じりで生き残れるようになれよ」

「はい!」

 こうして、思わぬ形で、貴大と学生たちの課外授業が始まった。

 果たして、総勢三十名の少年少女たちは、孤立無援の無人島で生き残ることができるのか。それは、これからの貴大の教えにかかっていた――。







「ねえねえ、ユミィちゃん。先生してるタカヒロくん、かっこいいね」

「……ですね。ご主人さま、凛々しいですよ」

「ふふふ、流石、未来の我が夫だ。群れを率いる姿も、決まっておるぞ!」

「……お前らさあ、気が抜けるからどっか行っててくんね?」

 恥ずかしさも手伝って、連れの少女たちにつれない言葉をぶつける貴大だった。

次回、孤島ものらしく、丸太大活躍!

うめぇ! すげぇ! やべぇ! ひでぇ!

お楽しみに!
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