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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

修学旅行編

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六泊七日の国内旅行

舞台は、フランス……じゃなかった、イースィンド南部、地中海沿岸です。

ムール貝が食べたーい!
 イースィンドが大国だという言葉は、揺るぎもない事実である。

 上級スキルに裏打ちされた強大な軍事力に、個々人の身体能力の高さ。天才エルゥを筆頭に、識者や賢者を数多く抱え、日進月歩の技術向上も抜かりない。文化水準も他国の追随を許さず、王都グランフェリアは花の都と呼ばれて久しい。

 東大陸において、一、二を争うほどの大国、イースィンド。かの国は、大国として何恥じることのない質を備えていた。

 王侯貴族たちは、その質をもって、自国を研磨された宝石に例えることがある。

 輝かしきかな、イースィンド。熱き血潮は紅玉の滴。冴えわたる知性は藍の玉。金剛の堅さで団結し、琥珀の如く、千年先でも栄華を誇る。

 豪華絢爛イースィンド。その煌めきは、天地万物を遍く照らす――。

 などという傲岸不遜な物言いも、「あの国だから」と許されてしまう。神をも恐れぬ発言も、国力から考えると、増長止む無しと見なされる。

 このように、大国は大国であることを自覚し、他国はその質に、なるほどその通りと首肯する。だが、民草がイースィンドを大国と称するとき、彼らの目は質以外の要素を見ていた。

 それはすなわち、国土の広さ。同じ大国であるバルトロアや諸島連合に比べ、およそ二倍から三倍の規模を誇る領地、領海。今なお、ゆるやかに広がりつつある国の土地を指して、民衆はイースィンドを大国だと言い切るのだ。

 その言は、あながち間違いではない。土地の広さをもって大国だと考えるのはいささか安直ではあるが、広いということは、それだけ伸びしろがあるということでもある。

 土と岩しかない土地にも、遺跡や資源が眠っていることがある。何の変哲もない峠道も、交通の要所となり得ることもある。危険極まりない魔物の巣窟ですら、騎士や冒険者にとっては宝の山だ。

 そういった可能性の多さは、国の発展に繋がる。広く険しいばかりと思われる山岳地帯ですら、しかるべき策を講じれば、良質な金属を産出する鉱山へと生まれ変わらせることができる。

 イースィンドは、そのように発展してきた。広大な土地を無駄に遊ばせず、開拓、開発に力を入れ、各領地に産業を生み出していった。知恵を絞り、工夫を凝らして、大国へと成長していった。

 だからこそ、イースィンドに限っては、「土地が広いから大国」と言っても間違いではないのである。有効利用できる土地を多く有しているイースィンドは、大国に間違いなかった。

 ただ、問題点が一つだけあった。国土を拡大し続けたことによって生まれた、一つの課題。それは、国の運営者たち、つまりは貴族たちが、国のことを知らないという大問題だ。

 それぞれの一族が有する領地のことは、当然ながらよく知っている。そこに隣接する領地のこともまた、同じように知っている。

 しかし、それが隣の隣になると、途端に曖昧になってくる。庶民のご近所付き合いも三軒隣までと言われるように、離れれば離れるほどに関心が薄れていくのが人間というものだ。

 自分の生活に関わりがなければ、どのような事柄であれ、特に興味を抱かない。国家運営に携わる王侯貴族でさえも、二ケタ、三ケタは存在する領地について、その全てを熟知している者は少なかった。

 功績著しい騎士にさえ、小さな領地が与えられるような時代だ。生まれ、そして名を変えていく末端の土地のことを記憶して、いったい何になるのか。広く国を見渡す者にとって、重要度が低い土地、辺境の領地などは、わざわざ覚えるようなことではなかった。

 大きく、広く、ものを見よ。歴史ある王立グランフェリア学園においても、長年、教師は生徒に、そのように教えていた。

 上に立つ者が些事に拘っていては、視野狭窄に陥ってしまう。諸君らが知っていいのは、土地の名前と役割だけ。俯瞰図を見下ろすように、客観的に国のことを知りなさい。このような教えが、建国以来、一般的であるとされていた。

 それがいけないと叫ばれ始めたのは、近年に入ってからのことだった。

 王暦700年。およそ三十年前に、一人の王族が教育改革に乗り出した。現国王の末弟である彼は、しきりに地方巡察の重要性を説いた。

 いきなり国を見てはいけない。いきなり大きな世界を見てはいけない。子どもたちにとって、世界は目に見える範囲のものであり、決してこの国、この大陸のことではない。彼らの世界は、成長に伴って、徐々に大きく広がっていく。

 その認識の広がりの途中で、突然に全容を示し、「これが世界だ」と教え込むと、子どもの世界には空白が生まれてしまう。子どもが知る小さな世界と、地図で示された大きな世界。二つの世界は大きな隔たりがあり、無理に繋げようとすると、どこかに必ず、空白地帯が生まれてしまう。自分の国のことなのに、知っているようで知らない場所が生まれてしまう。

 名前は知っている。特産物も知っている。だけど、『自分の世界』と地続きではない場所に、関心を持ち続けられる者はいない。結果として、大人になるうちに、子どもは空白地帯のことを忘れていってしまう。無理に広げた彼らの世界は、歳を取るごとに虫食いになっていく。

 最後には、名前さえも思い出せなくなる。それは、国政に携わる者としてはよろしくない。土地を知らずして、どうして国が治められるのか。

 子どもには、世界は地続きであると教えなければならない。地図を、領地名を暗記させるのではなく、自分が住む場所と世界とは、綿密な関わりがあると教えなければならない。

 自身に関わりがあって初めて、人は興味を抱く。興味は学びに繋がり、学んだことは知識として頭に残る。そして、知識はいつか、自分のため、誰かのための役に立つ。

 国についての事柄は、知っているつもりになるだけの暗記では駄目だ。興味がなければ人は学ばず、興味なくして暗記した知識は身につかない。

 まずは、土地を知ることから始めよう。机上の学習で、知っているつもりになっている子どもたちに、新鮮な驚きを与えよう。自分が生まれ育った領地にはない何かは、きっと彼らの心を揺さぶらせる。この国にはこのような場所があるのかと、五感全てを刺激する。

 そうした驚き、感動があってこそ、子どもたちは興味を持って、自ら学ぶ。土地を知り、国を知り、領地と領地の繋がりを知って、自らの世界を広げていく。

 こうしてできた世界こそが、空白なき世界だ。突然、十を知るのではなく、一から十まで世界を広げた子どもたちは、きっと大味な政治ではなく、微に入り細に穿った政治を行ってくれるはず。

 それこそが、国土を広げすぎたイースィンドに残された、更なる発展の道。小の虫を殺して、大の虫を生かすような政道は、いつか必ず、行き詰ってしまうだろう。

 御前会議で、持論を熱く語った若き王族は、王歴732年の現在において、王立グランフェリア学園の学園長に収まっている。そして、望んだ通りに様々な教育改革に着手している。

 彼の言葉が、全面的に支持されたわけではない。全ての政治家が、なるほどその通りだとうなずいたわけでもない。それでも、彼は王族であり、人一倍の行動力よりも、その発言力は高かった。

 現学園長は決して独りよがりな性格ではないが、対抗できる人間が少ないと、どうしても独断が通りやすくなる。明らかに問題がある提案は流石に周囲も苦言を呈するが、逆を言えば、これだけは止めなくてはいけない、というもの以外は、どのような意見、改革案も通ったのだ。

 その結果、生まれたのが野外学習や社会見学であり、三年に一度の修学旅行であった。

 王立グランフェリア学園の初等部、中等部、高等部において、それぞれ一度行われる修学旅行。見聞を広めるため、という名目で実施される六泊七日の国内旅行は、現学園長の意向が大いに反映された旅だった。

 主要都市だけではなく辺境も回り、時には野宿も経験する地方行脚。国を知るためには、土地を知らねばならぬとは、若き頃の学園長の言葉である。

 その言葉通りに、学業を修めるため、若者たちは八月の終わりに地方へと旅立っていく――。

 のだが、どのような事柄にも本音と建前があるように、気高き学園長の理念などどこ吹く風で、学生たちは思い思いに一週間に渡る長期旅行を楽しんでいた。

「あー、やっぱり南部は肉が美味いな。ベーコンもたまらんが、生ハムが特に美味い」

「そう? 僕は断然、魚介類だね。貝や蛸もいいが、地中海の魚はまさに絶品。これだけを目当てに、竜籠で通いたくなる味だよ」

「俺はパエリヤだな。流石、南部は米どころなだけあって、一味も二味も違う」

 などと、夕焼けに照らされたオープン・テラスで舌鼓を打っているのは、王立グランフェリア学園高等部、二年S組の男子学生たちだ。

 燃えるような赤毛の若騎士ヴァレリーと、柔らかな栗毛をした若年の魔法使いアベルを中心に、彼らはわいわい、がやがやと夕食の席で歓談を続ける。

「わ、わあ。このお水、桃の香りがします」

「私、知っていましてよ。今が旬の桃を、皮だけ水に浮かべますの。そうすると、ほんのわずかな甘みと、馥郁たる桃の香りが相まった、爽やかな冷水が出来上がるのです」

「と、すると、デザートは桃のコンポートでしょうか。いいですね。恥ずかしながら、私は桃に目がないのです」

「何も恥ずかしいことではないわ。私も桃は、好きだもの」

 男子に増して姦しいのが女子たちだ。筆頭学生であり、大貴族の娘でもあるフランソワを中心に、女学生たちはとりとめもない話に興じていた。

「な、夏の南部はやっぱりいいですよね。うだるような暑さはたまりませんが、それ以上に、視界いっぱいに広がる青く澄んだ地中海は爽快です」

 食事の席につき、トレードマークの三角帽子を外したカミーラが、はにかみながらこう語る。

「ええ。半日間も竜籠に閉じ込められていたから、余計にそう感じますね。鈍った体を解すためにも、明日の海水浴が楽しみです」

 引き締まった体に、ポニーテールが特徴的な少女、ベルベットも、海辺街のオープン・テラスから見える地中海を一望し、にこやかに語る。

「そうね。泳ぐなら、断然、南部ね。東大陸北部は波が荒い海岸が多くて、飛沫の音すら耳に障るわ。波乗りにはいいんでしょうけど」

 王立グランフェリア学園の制服も、しっくりと馴染みつつあるドロテアは、母国の海水浴場を思い出しては辟易とした顔をした。

「あら、私は北部の荒々しさも好きですわ。ボードにつかまって波に身を任せるのも面白いですし、体一つで荒波を制するのも一興です。ですが、八月の終わり、夏の余韻を感じるのであれば、やはり南部が最適でしょう。見てください、夕日に照らされたあの海を。どこか寂しさを感じさせる光の反射は、去りゆく夏を感じさせます」

 片頬に手を当てて、ほう、っと息をつくフランソワは、合理的な女に見えて、感受性豊かな少女であった。彼女は、桃の香りがする水を注いだグラスを持ち上げて、紅く染まった地中海を透かし見た。

「ああ、綺麗な夕日。できれば、先生にもこの景色を見せて差し上げたかったですわ……」

 この場合、彼女が言う先生とは、臨時講師の佐山貴大を指す。

 そのことをよくよく承知していた女学生たちは、その顔に微笑みや苦笑を浮かべた。



地中海でバカンスの始まりです。

次回、日焼けしたユミエル、ルートゥー、メリッサが登場いたします。お楽しみに!
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