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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

サイドストーリーズ6

207/300

ほっこりお休み

ニャディアは見た。
冬はさむいからきらいだ。

 でも、夏はあついからもっときらいだ。

 わたしは、ぽかぽかあったかな春がいい。さらさら風がふく秋がいい。『きょくたん』なのは好きじゃなくて、『ちゅうとはんぱ』が一番いい。

 だから、八月は大きらいだ。手かげんをわすれたお日さまも、かみをぺとぺとさせるしお風も、やけどしそうな石だたみも、むしあつくてねむれない夜も、みんなみんな大きらいだ。

 こじいんのみんなも、近所の人たちも、口をそろえて言っている。早く秋が来ればいいね、って。早くすずしくならないかな、って。

 わたしも、早くそうならないかな、って思っている。気がむいたときに、教会のせいどうでお祈りなんかもしている。

 シスターは、「夏があついのは当たり前。これは神さまが決めたことです」なんて言うけれど、そのシスターだって、服に汗をにじませていたし、とくにあつい日はみけんにきゅっとまゆを寄せていた。

 やっぱり、みんな夏はきらいだってこと。あつくていいことなんて一つもない。のどがすぐにかわくし、あせで服がぬれるし、気持ちよく眠れないし、ごはんもおいしく食べられない。

 夏はあつくなれと神さまが決めたのなら、こんなにいじわるなことはないと思う。きせつなんて、春と秋だけでいいのに。夏や冬みたいに、いやなことばかりのきせつなんていらない。

 いらないきせつなんて作るから、この世には『じゃしんきょうと』とか、『むしんろんしゃ』とか、教会の神さまを信じない人たちが出てきてしまうんだ。

 せめて、海からむわっとふくしお風を、もっとさわやかにすればいいのに。そうすれば、わたしも気持ちよくお昼ねができるし、ミサにももっと人が来ると思うのに。

「にゃー」

 やりきれないおもいをなき声に変えて、わたしは中級区のろじを行く。

 目的地は、東の公園。大きな木がいくつか生えているあそこは、風通しがよくて、木かげがとってもすずしい、夏場のぜっこうのお昼ねスポットだ。

 近くにある大市場がちょっとだけさわがしいけれど、あれならぜんぜんガマンができる。うるささだけなら、うちのバカわんこの方がよっぽどひどい。

 一つしかちがわないのにやたらお姉さんぶって、何でもかんでもかまいたがるクルミアはにがてだ。同じわんこなら、まくらになってくれるゴルディの方がいい。

 さいきん、生まれ変わってヒトになったゴルディは、おいしい麦茶だっていれてくれるし。かみもとかしてくれるし、新しい服もぬってくれる。

 うん、やっぱりゴルディの方がいいわんこだ。わんわんわんわんほえてばかりのクルミアは、ダメダメわんこだ。今度、シスターかゴルディにしつけてもらおう……あ、でも。

 あのわんこをしつけるのは、あの人の方がいいかもしれない。

 イースィンドではめずらしい黒いかみ。わたしと同じ黒いかみの、ちょっぴり変な男の人。何でも屋のタカヒロなら、ダメダメわんこをうまくしつけてくれるだろう。

 だって、クルミアはあの人が大すきだから。会えばぶんぶんしっぽをふるし、すきがあったらペロペロなめようとする。いつでもどこでも甘えまくるし、やたらさんぽにつれていこうとする。

 これは、いわゆる『こい』ってやつだと思う。男が女に、女が男に、でれでれ、めろめろになるアレだ。あのおバカわんこだって、こいしている相手にしかられたら、ちゃんと言うことを聞くだろう。いつもわたしをだっこしたがるクルミアに、つつしみをおぼえさせてくれるだろう。

 ……うん、何だかうまくいきそうだ。

 むきょかのだっこは本気でいやだから、こんど、タカヒロに会いに行こう。大人じゃないから、ことばはうまくしゃべれないけど、たまにはがんばってみよう。

 でも、それは明日の話。今日はねむいから、お昼ねがだいじ。ちょっとだけすずしいこうえんでたっぷりねて、家にかえってご飯を食べて、子どもべやでゆっくりとねむる。

 それで気分がシャッキリして、タカヒロに会いに行けるきぶんになったら、フリーライフに行ってみよう。

「なうー」

 ろじをぬけて、おもて通りをよこぎって、わたしはちゅうきゅうくの市民こうえんに入った。

 レンガのほどうに、小さな林。しばふの小丘に、ぽつぽつとさいているひなげし。ここだけまちの外みたいだけど、丘の向こうにはえんとつがにょきにょき生えていた。

 ここが、わたしのお気に入りのこうえん。いくつかある市民こうえんの中でも、とびきりのお昼ねスポット。近くにもう一つ、しばふのグラウンドしかないうんどうじょうがあるから、うるさい人たちはそっちに行っている。こうえんだから人が来るけれど、しずかにさんぽをする人しか来ない。

 こかげでゆっくりねむっていても、ボールがとんでくる、なんてことはない。やたらうるさい声も、ここまではひびかない。

 それでいて、そよそよときもちがいい風がふくから、お昼ねしやすい。今日も、ここで丸くなろう。

 そう思って、わたしはいつもの場所――かしの木が一本生えた、丘の上に行ったんだけど、

「さあ、タカヒロさん! ちびっこたちとのふれあいで癒されてください!」

「お馬さん! お馬さんになってー!」

「動けー! 動けー! あー、もー、動かねーぞー?」

「元気が足りないんだ! ほら、元気ちゅーにゅー!」

 どすっ、どすっとにぶい音をたてて、タカヒロがこじいんのちびたちにカンチョーされていた。

「ゲンキチューニュー! ゲンキチューニュー!」

 いつもちょこまかと動き回って、いかにも元気があまっていそうなトカゲっ子、リラードが、けらけらと笑いながらタカヒロに両手のひとさしゆびをつきさした。

 すると、

「わー!? タカヒロさん、か、帰ってきてくださいーっ!?」

 おしりから火をふきながら、タカヒロが空の上へと飛んで行ってしまった。

 残されたゴルディとちびたちは、ぺたんとしりもちをついてぼうぜんとしている。リラードだけは立っていたけれど、口はみんなと同じで、ぽかんとひらいていた。

「……にゃー」

 ここはさわがしいから、場所を変えよう。

 わたしの目のはしっこで、はんとうめいなタカヒロが、ダンゴムシのように丸まって、ころころと丘からころがりおちていっていた。






 つぎの日、わたしはちゅうきゅうくのじゅうたくがいを歩いていた。

 もくてきちは決めなくて、何となく、気がむくままにぶらぶら歩く。へいの上を歩いたり、やねの上を歩いたり、ろじうらをかけてみたり。ネコはこうき心が『おうせい』だという話を聞いたことがあるけれど、あれはその通りだと思っている。

 だって、ちょっとしたことがとっても気になるから。やねうらでチューとなくネズミも気になるし、よく動くちびたちの動きも気になる。きせつごとに形を変える雲も気になるし、見たこともない魚を見かけると、ついついさわりたくなってしまう。

 この、気になってしまう、というのがこうき心なんだろう。ほかのネコがどうなのかはしらないけれど、わたしは何でも気になってしまう。

 ちょっとした変化に、わたしの心はビビッと反応する。たとえば、じゅうたくがいの曲がり角にひびいた、大きな声だとか。

「ちょ、タカヒロ!? どうしたの、こんなところに座り込んで!?」

 じゅうたくがいの曲がり角を、こっそりのぞきこむと、そこにはタカヒロと一人のお姉さんがいた。

 ちょっぴり赤毛がまじった黒かみいがいは、どこにでもいそうなお姉さん。その人は、みちばたにぐったりとすわりこんだタカヒロのうでを取って、何とかおきあがらせようとしている。

「最近、元気がないのにあちこち徘徊しているって話は本当だったんだ……ほら、行くよ。何があったのかは知らないけれど、元気が出るご飯を作ってあげるから」

 お姉さんが、タカヒロをせおおうとしている。だけど、体から力がぬけきったタカヒロは、タコみたいにぐにゃぐにゃしていて、どうにもうまくいかないみたい。

「もー、タカヒロ! しゃんとして! 街の人に笑われちゃうよ」

 引きずろうとして、やっぱり止めたお姉さんが、こしに手を当ててぷりぷりとおこりはじめる。

 きっと、あの人はタカヒロとなかよしなんだろう。だから、タカヒロが笑われると、自分もはずかしくなるんだ。わたしは別になかよしじゃないけれど、そのきもちはなんとなくわかる。なんとなく、だけど。

「ほーら、行くよ。せめて、腕だけでも力を入れて」

 もう一回、タカヒロをせおおうとするお姉さん。

「って、きゃーっ!?」

 二人に、三人に分かれていくタカヒロ。

「な、なにこれ!? タカヒロが、三人……四人に!?」

 しずかなじゅうたくがいに、お姉さんのこんらんしきった声がひびく。

「……にゃー」

 シスターから、ネコはこうき心がおうせいだという話を聞いたことがある。

 ほかにも、『こうき心はネコをころす』、『くんしあやうきに近よらず』という話も聞いた。

 シスターのことばを思い出しながら、わたしは、なるべく音をたてずにその場をはなれた。

 さいごに見たタカヒロは、まだ分身を続けていた。






 また次の日、私はびたみんさんに会いに行っていた。

 ちゅうきゅうくで『きっさてん』をいとなんでいる、おかしのおじさん。おじさんは、時々、クッキーやマカロンをくれたりするから、いい人だ。

 今日は、なんどかおかしをくれたおれいに、にぼしを持ってきている。二月に、こじいんのみんなで小さないわしをにて、ほして作った、かちかちのひもの。おやつがわりにそのまま食べるのもいいんだけど、『ばんしゃく』のつまみにもちょうどいいらしい。

 びたみんさんがお酒をのむのかは知らないけれど、その時はおやつとしてわたせばいいだろう。私は、にぼしをつめた紙ぶくろを持って、きっさ〈びためーる〉にやってきた。

 そして、またまた、タカヒロとそうぐうした。

「あ゛ー」

 テーブルにつっぷしたタカヒロは、たまに顔を上げて、コーヒーをちゅるちゅるすすっている。

 その目は、何かを見ているようで、何も見ていない。かきゅうくの東にある、『子どもは近よっちゃいけないエリア』で、地面によこたわっている人たちと同じ目だ。

 何もかもがどうでもいいという目。人生につかれきったような目。まるで、クルミアにつかまって、思いきりぺろぺろされた直後のわたしのような目だ。

 ……もしかして、タカヒロも何かいやなことがあったのだろうか?

 タカヒロも、おバカわんこにぺろぺろされたとか。手足をおさえつけられて、なんどもなんどもぺろぺろされたとか。そのうえ、だっこされたまま、むりやりそいねさせられたとか。

 ちょっと、かわいそうかもしれない。

 同じクルミアのひがいしゃとして、黒かみなかまとして、助けてあげるべきなのかもしれない。

 シスターも、こまっている人がいたらたすけてあげなさいと言っていた。死んでしまったお母さんだって、同じようなことを言っていた。

 じゃあ、わたしも助けるべきなのだろう。

 そこまで考えて、わたしはにぼしをとり出した。

「にゃん」

 そして、タカヒロの口の中につっこんだ。

 にぼしはえいようがあるから、すすんで食べなさいと言われているおやつの一つだ。

 びょうにんや、元気のない人には、えいようがあるものがいいという話も聞いたことがある。

 なら、ここは苦いだけのコーヒーをのませるよりも、えいようがあるにぼしを食べさせる方がいいはずだ。わたしは、タカヒロの口の中に、ぐりぐりとにぼしをおしこんでいく。

 すると、タカヒロの口がこまかく動いて、にぼしは口のおくへときえていった。さくさくという音が、ちょっとだけ聞こえてきた。

 よかった。食べてくれた――じゃあ、もういっぴき。

 また、タカヒロの口ににぼしをおしこむ。さくさくときえていくにぼし。

 もういっぴき、にぼしをつっこむ。さくさくさくっときえていくにぼし。

 これでさいごと、にぼしをほうりこむ。ざくざくかみくだかれるにぼし。

「にゃ、ふふっ、ふ、ふふ」

 にぼしをタカヒロの口に入れると、さくさくと音をたててにぼしがきえていく。

 こまかくふるえながら、口のおくにゆっくりとひっこんでいくにぼしの動きがなんだかおかしくて、わたしはもうちょっと、もうちょっととにぼしをさしこみ続けた。

「なうっ」

「なうじゃねええええええええええっ!!」

「っ!?」

 ひゅばっ! とタカヒロがきえたかと思うと、わたしは後ろからだれかにだき上げられた。

 しゃかしゃかと手足を動かしても、体をよじっても、クルミア以上にがっちりとしたホールドはほどけず、わたしはかたにかつぎ上げられてしまった。

「俺は一人でぐったりしていたいのに、行く場所、行く場所で誰かしら、何かしらがちょっかいかけよってからに!」

 後ろのだれかは、タカヒロだった。タカヒロは、わたしをかついだままきっさてんを出て、もうれつなダッシュをはじめる。

「なーっ!?」

「なーじゃねえ! いいから黙ってついてこい!」

 ついてこいも何も、わたしはどうやってもにげることができなかった。 


ニャディアなう、でした。

さて、次回は淫魔さんの視点。お楽しみに!
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