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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

サイドストーリーズ6

206/292

ぐったりお休み

燃え尽きたタカヒロを、わんこ視点から。
 全国フリーライフファンのみなさま、こんにちは!

 私はゴルディ。ブライト孤児院のお姉さん、転生ほやほやの犬獣人、アニマルビューティー・ゴルディ=ブライトです!

 いやー、最近、暑いですね? じりじりと照りつける真っ赤な太陽と、湿りに湿った生温い潮風がタッグを組んで、サウナのような蒸し暑さです。

 内陸部から来た商人たちは、真夏のグランフェリアの湿度の高さをことのほか嫌がります。滝のように汗が出るわ、流した汗がいつまで経っても乾かないわと、麻のタオルで首元を拭いながら冷たいお茶や麦酒を底なしに飲み続けます。

 そして、お腹を下してしまうところまでが、例年通りの流れです。

 ニンゲンさんは駄目ですね。胃腸が貧弱です。わんこのように、そこら辺に落ちているものを食べてもピンシャンしているぐらいのアイアン・ストマックを持つべきです。

 などと侮っていたのに、人の身に転生したことを忘れ、カビの生えたチーズを食べてお腹を壊したのが私ことゴルディ=ブライトです。ブルーチーズと違って、妙に糸を引くなとは思いましたが、まさか真夏のカビチーズがあそこまでお腹をイタイイタイにするなんて……。

 普段は孤児院の子どもたちをお世話しまくりな私ですが、この時ばかりは院長先生と子どもたちに介護を願い、シーツに包まってうんうん唸っていました。

 いやはや、あの時は難儀しましたが……しかし、あまりにも情けない。せっかく、院長先生が『保母』としてNEWゴルディこと私を雇ってくださったというのに、これでは立場が逆じゃありませんか!

 予算の限界まで孤児を受け入れているため、決して裕福ではないブライト孤児院。ここには、余計な人材を雇っている余裕はありません。

 ニンゲンになった私を新規職員として受け入れるのだって、結構、無理があったようです。院長先生が夜なべで販売用の傷薬を作っているのを、私は知っています。

 院長先生――シスター・ルードスは優しい人なので、役立たずだからといって口減らしなんて行いません。一年ほど前、下級区管理員長のミケロッティの嫌がらせを受けていた時も、真っ先に減らしたのは自分のご飯でした。

 そんなに優しい院長先生だからこそ、迷惑をかけるのは心苦しい! 理想を言えば、私は彼女に何でも任せてもらえて、子どもたちの面倒もちょちょいのちょいで見られるハイパー保母さんになりたいのです。

 病み上がりがなんだ! カビチーズがなんだ! 私には、燃え上がるわんこ魂がある! 忠義を尽くし、人に寄り添う本能がある!

 このわんわんソウルを持ってすれば、家事・育児手伝いなんて余裕ザマスのよ?

 そう言って、私は大きなバスケットを両手に持って、中級区の大市場へとおつかいに出かけました。

 目指せ、サービスタイムのご奉仕品ゲット! 今日の目玉はベーコンの切り落としだー!

「ベーコン、ベーコン、ベーコンコン♪ 私は今日も麦粥だけど、ベーコンコン♪」

 鼻歌を歌いながら中級区の大通りを行く私。今日の風は海に向かって吹いているのか、不快になるほど街はじめじめしていなくて、からっと晴れ上がった青空がとても爽やかに思えます。

 遠くの空から腕を組んで見下ろしてくるかのような入道雲や、彼がざんざかと降らせる大粒の雨、雨上がりに吹く涼やかな風も好きですが、やはり私は今日のような晴天が大好きです!

 ギラギラと輝く太陽や、他の季節に比べて広く感じる夏空を見ていると、自然と心が浮き立つのです。これも犬だった頃の名残でしょうか? 野生の本能が、まだ私の中で燻っているとか……いや、まあ、私は飼い犬でしたけども。

 いずれにせよ、私にとっては夏は心が躍る季節です。太陽が熱くなると、私の心と体も熱くなるのです。奇跡の転生によって、寿命でぽっくりお亡くなりになった老体から、若くてぴちぴちな身体になったことも手伝って、私の足はどこまでも軽やかに弾んでいきました。

「花屋さん、こんにちは!」

「おや、孤児院の。はい、こんにちは」

「雑貨屋さん、こんにちは♪」

「やあ、ゴルディ。こんにちは」

「白い粉屋さん、こんにちは」

「と、当店は粉物問屋でございます! 粉物問屋でございます!」

 通りがかったお巡りさんに、声を張り上げて粉物問屋アピールを始める白い粉屋さん。

 やっぱり、夏はいいですね。時には厳しい暑さを吹き飛ばすかのように、誰も彼もが元気一杯です!

 ……と、言いたいところですが、実は数日前からそうじゃなかったりします。ほんのすこーしだけなのですが、お尻や唇を押さえてぐったりしている人が、公園のベンチなどに寝転がっています。

 昼から夜にかけての半日を、誰も覚えていない不思議な日。あの日から数日、早くも『緑の霧の日』と呼ばれるようになった事件のことを、彼らは覚えているというのです。

 しかし、誰が聞いても、儚げな顔をした人たちは口をつぐんで、首を横に振るばかり。『緑の霧の日』の記憶がない私たちは、「よほど恐ろしいものを見たのだろう」とか、「新スキルの暴発事件なのだ」とか、てんでばらばらな推測を口にするほかなく、お尻を押さえて落ち込む人への慰めの言葉も見つけられずにいます。

 うーん、本当に、何があったのでしょうね? 十万都市グランフェリアに千人もいないと言われているぐったりしている人が、いつか真実を話してくれるといいのですが。

「あれ? この匂いは……」

『緑の霧の日』を考えながら歩いていて、中級区の市民公園のそばを通った時、私のハイパーノーズが嗅ぎ覚えのある匂いをキャッチしました。

 犬のものにも劣らない、犬獣人の超絶嗅覚。体臭だけで、昨日の晩ご飯のメニューを言い当てられる嗅覚は、視覚や聴覚以上に多くの情報を私に与えてくれます。

 風に乗って香る、この匂いは――湿ったタオルのような、小麦粉のような、いわく言い難い匂いは――。

「ずばり、タカヒロさん!」

 脳内ゴルディ審査員が、正解の札を一斉に掲げました。この匂いは、まず間違いなくタカヒロさん。

 中級区に住んでいる、何でも屋のお兄さん。ひょろりとしていて、いつもメイドさんにおしおきされているのに、実はとっても頼りになるナイス・ガイ。クルミアの幼い恋心をくすぐって、私のお腹やあごもくすぐりまくるナデポマスター!

 人の姿になってから、ゆっくりとお話する機会もなかったからちょうどいい。おつかいの途中ですが、一つ、世間話としゃれ込みますか。そして、前のように耳の後ろをこしょこしょしてもらいますか。

 ニンゲンになってから、みんな遠慮して私に触りませんからね。深刻なスキンシップ不足に、ゴルディ、エマージェンシーコール発令中です!

 さあ、タカヒロさん! 私を存分になでなでしてくれたまい!

「くーん、くんくん、くーんくん。この甘い鼻声に、タカヒロさん、まっしぐ……ら?」

 勢い込んで飛び込んだ市民公園の芝生の上に、うつぶせに倒れたタカヒロさんがいました。

「ど、どうしたんですか? 病気ですか? お腹イタイイタイですか?」 

 バスケットを放り投げ、私は慌ててタカヒロさんの元へと駆け寄りました。

 そして、タカヒロさんを抱き起こし、何度か揺さぶってみたのですが……彼の体にはまったく力が入っていなくて、なされるがまま、というようにがくり、ぶらりと首や腕を揺らしていました。もしや、死体!? と思って確かめてみると、心音や脈はあり、か細いながら、呼吸もちゃんとしていました。

 そもそも、大病を患っているような匂いではありませんし、心身に不調があるような匂いでもありません。少なくとも、命に関わるような匂いはしていませんね。

「タカヒロさん、どうしちゃったんですか?」

 私が手を放すと、タカヒロさんは干物のようにぱたりと倒れこんで、そのまま動かなくなりました。

 もちろん、返事はありません。私が最初に見たときと同じような姿勢で、タカヒロさんはぐったりと芝生に倒れ伏しています。とは言っても、口やお尻を押さえていないところから、街のぐったりしている人とは何かが違うようです。

 うーん……もしかすると、疲れているのでしょうか。何もなくとも「疲れた、疲れた」と言っているぐらいですから、大きな仕事を終えたりしたら、こうなってしまうことも十分に考えられます。

「と、すると、ここは私の出番ですね」

 アニマルセラピーなる言葉を、以前、大学者のエルゥさんから聞いたことがあります。動物と触れ合うことにより、ニンゲンはささくれ立った心を癒し、健常な精神を取り戻すことができるのだとか。

 思えば、何度か疲れた顔をしたタカヒロさんに、クルミア共々お呼びがかかった覚えがあります。あれはそういうことだったと考えると、疲弊したニンゲンは学説や理屈など知らなくても、本能的に動物や獣人を求めるものなのでしょう。

「つまり、タカヒロさんを癒せるのは私しかいない、と」 

 クルミアはまんぷく亭で仕事中。知り合いのわんこは人見知りな子が多い。ニンゲンではアニマルセラピれないとすると、やはりここは私しかいないというわけです。

「では、早速、ぺろぺろ~♪」

 うつぶせのタカヒロさんの耳や頬にぺろぺろ。

 ミス! タカヒロさんは 無反応だ!

「あれ? タカヒロさん、ぺろぺろですよ?」

 膝枕をして、鼻頭や目元をぺろぺろ。

 ミス! タカヒロさんは 虚ろな目をしている!

「あ、あれれ? タカヒロさ~ん」

 口元やおでこをぺろぺろ。

 ミス! タカヒロさんは うす塩味だった!

「万策尽き果てました……」

 何やら言いようのない敗北感を覚え、がくりと膝をつく私。

 疲れた人を癒せないなんて、アニマル失格の烙印を押されたようなものじゃないですか。タカヒロさんの目に生気も戻せないとか、癒し0%な駄目わんこじゃないですか!

「い、いや、まだです! まだ手はあります!」

 こうなったら、一人で、なんてこだわっている場合じゃありません。

 強力な助っ人を呼びます。これ以上にないほどの面子を揃えさせていただきます!

 待っていてくださいね、タカヒロさん! きっと、疲れを癒してみせますから!




次回、にゃんこ視点。

一部に熱狂的なファンを持つ、あの子の登場ですよ。
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