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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

王都の休日編

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何でも屋の休日

みなさんお待ちかね、ユミエルメインの話です。あまりに眠たいので、明日を待たずに投稿します。明日は明日でまた投稿するのでお楽しみを~。感想への返信も明日でご勘弁を。
○ケース4 何でも屋の店主の場合

「おぇぇ……疲れ過ぎて吐きそう……」

 起きたら毒料理を食わされ、食後に駆けっこ(という名の一時間フルマラソン)、小休止の後に、残りの時間は迷宮探索……。

 もう、何が何だか分からない。あまりの疲労に足元さえ覚束ない。

 やっとの思いで向上心豊かなフランソワから逃れて家に辿り着いたものの、気がつけばもう夜だ……!

 こうして、俺の休日は今日も潰れた。

 神は……神は死んだ!! ファック! Holy shit!

 おおお……(涙)



○ケース5 何でも屋の住み込み従業員の場合

「ゔあ~……今、帰ったぞ~……」

 おや、ご主人さまが帰ってきたようだ。

 お玉で鍋をかき混ぜていた手を止め、玄関へと出迎えに行く。

「……お遅いお戻りで。もしや、食事はもう済まされましたか?」

「食事? ははっ……んなもん食う暇なかったよ……」

 どうやら、食事も忘れて休日を楽しんでいたようだ。良かった。せっかくご主人様のためにお昼から煮込んでおいたシチューが無駄にならずに済む。

「……すぐに食事になさいますか? それとも先にお風呂へ入られますか? どちらも準備はできております」

「先に風呂に入ろうかな……腹は減ってるけど、まだ疲れが抜けてないから胃が受け付けなさそう」

「……お疲れですか。お背中をお流ししましょうか?」

「お前って……お前って、ほんっとーに仕事が関わらなきゃ……ワーカーホリックじゃなければ良い奴なんだよな……」

「……?」

 ワーカーホリック? よくわからない言葉だ。ご主人さまは時々難しい言葉を話すことがある。こんなとき、私は自分の無学さに恥じ入ってしまう。

「まあ、風呂なら一人で入れるさ」

「……そうですか。では、お食事の用意をしてお待ちしております」

「ああ、よろしく。一時間ぐらいで出るわ」

「……かしこまりました」

 では、料理の仕上げに取りかかろう。カオルさんから、「疲れには甘いものやすっぱいものが効く」と聞いたので、デザートに「柑橘とベリーのフルーツサラダ」を用意しておこう。ご主人さまが喜んでくださると良いのだが。



「あ~……やっぱ我が家は落ち着く……」

「……それはようございました」

 お風呂上がりのご主人さまと二人で食卓を囲む。

 四人がけの小さな食卓の上にパン、シチュー(奮発して塩漬けの「スノー・カウ」の肉を使った。休日だから良いだろう)、フルーツサラダを並べ、壁には映像水晶で「たそがれセーベー」を映し出している。

 休日の夜に映画(映像水晶に入れられた劇のことらしい)を見ながらゆったりと食事をとるのは、ご主人さまが好む時間だ。セッティングに抜かりはない。

 私も映画は嫌いではない。秘かにこの時間を楽しみにしているほどだ。

 この時間に言葉はない。映像水晶から流れる音声のみが響いているのみ……だが、居心地は悪くはない。ただただ、穏やかに時間が流れていく……。





「腹もいい感じに膨れたし、疲れてるからもう寝るわ」

「……そうですか」

「じゃあな、お休み」

「……はい、お休みなさいませ」

 満足げに自室へと戻っていくご主人さま。テーブルを見ると、キレイに完食されて何も残っていない皿がある(特にシチュー皿はパンでぬぐっていたので、皿の底の模様が見えるほどだ)。

 どうやら満足なされたようだ。私もうれしい。手をかけた甲斐があるというものだ。食器を片づける手が、何だか軽やかになる。

 こんなにも穏やかで充実した安息日が過ごせるとは、一年ほど前の私には考えることすらできなかった。



 ご主人さまに買われる前は、私には安息日などなかった。

 買われる……そう、私はご主人さまに買われた奴隷だ。

 妖精種の繁殖用奴隷を掛け合わせて産まれた私も当然奴隷で、見目麗しいという理由から愛玩用奴隷として育てられた。

 奴隷として過ごす日々……あの頃の私は安息日どころか、自由という言葉の意味すら知らなかった。

 でも、あの日……雨がしとしとと降る肌寒い日。ご主人さまは私に教えてくれたのだ。

 「自由」の意味を。神が祝福したもうた「安息日」の存在を。

 今では、私は休日を謳歌している。

 屋上の空中庭園でハーブを育てたり、商店街に買い物に出かけたり、ご主人さまからいただいた映像水晶を観たり……奴隷商人の元に居た頃は考えられなかったような生き方だ。

 こんな生活を……「自由」を教えてくれたご主人さまには、今でも感謝している。

 しているからこそ、ご主人さまには「労働」をさせるのだ。

 それが私にできるせめてもの恩返しだから……。



 ご主人さまが「自由」の素晴らしさを知っているのなら、私は「労働」の良さを熟知している。

 労働は、人の気力を満たすものだ。屋上のハーブが、水や肥料が無いと枯れてしまうように、人も労働が無ければ腐ってしまう。

 かつて私を縛り付けていた奴隷商は、商人でありながら自分の足では動かず、人を使って楽をしていた。そもそも、奴隷商という職業自体が、人を右から左へ流すだけの仕事だ。こんなもの、労働とは言えない。

 その証拠に、奴隷商はいつも気だるそうに日々を過ごしていた。まるで根ぐされした植物のようだ。

 金貨を手にした時はいやらしい声で笑うが、その目の光はねばついていて、腐泥を貯め込んでいるかのようだった。

 私も、与えられた小さな部屋の中で何をすることなく過ごしていた。今にして思うと、あの時の私の心は枯れ果てていたのだろう。

 そんな私たちに比べて、自ら動き、日々を懸命に生きている人たちの輝きはどうだ。

 カオルさんたち一家は、忙しそうにしながらもいつも生き生きと笑顔でいる。その姿からは溢れんばかりの生命力を感じる。

 ご近所のみんなだってそうだ。

 鍛冶工房「ヘルバルト」のマークさんは、冒険者の要求に真摯に答え、いつも額に汗して真剣な表情で鉄を打っている。

 道具屋「アップル・バスケット」のミーシャさんは、自分が苦労して仕入れた商品を誇らしげに説明してくれる。

 パン工房「クラリス」のクラリス夫妻は、学園帰りにお腹をすかせてパンにかぶりつく子どもたちを、嬉しそうな顔をして見つめている。

 これが、「生きる」ということなのだ。

 働かなくても生命活動に何ら支障をきたさない生き方では、かつての私たちのように腐って枯れてしまう。

 かくも労働は素晴らしい。



 でも、そのことが理解できていないのか、ご主人さまはほうっておくといつまで経っても働こうとしない。私と出会った頃は特に酷かった。

 このままでは、ご主人さまもあの奴隷商のように、腐った目をした脂肪の塊になってしまう。

 当時、焦った私はご近所のヴィーヴィル夫人を訪ねた。町内会のまとめ役で、何かと物知りの老婦人。料理やガーデニングはこの人から習った。

 今回も、きっといい知恵を貸してくれるだろうと考え、ヴィーヴィル家のドアをノックしたのだ。

 焦燥した私から話を聞いた彼女は、さも何でもないことのようにこう答えてくれた。

「なんだい、タカヒロが働かなくなったのかい。まあ、近頃の若いもんは(略)で、要するにだ。いいかい、こうしな。思いっきり引っ叩いてやるんだ。家の旦那も若い頃は酒に博打にのめり込んでいてね、ろくに働かなかったんだ。私が内職をして、やっと食べていけれたんだよ。その金も博打につぎ込もうとしてね……私ゃ頭にきてね。思いっきり引っ叩いてやったんだ。泣きながら何回も、何回もね。そしたら旦那も目が覚めたのか、渋々だけど働くようになったのさ」

「……ご主人さまに、暴力をふるえというのですか? そんな……」

「いいんだよぉ、貴族さまでもあるまいし。あんなぐーたらは、手を出さなきゃいつまで経っても働かないもんさ。口で言って聞いてくれたことがあったかい?」

「……確かに……ありませんでした。いつも、「明日になったら働くさ」とはぐらかされます」

「でしょぉ? まあ、ビシッと一発お見舞いしてやんな」

「……なるほど、ビシッと」

 思いっきり引っ叩く。それもビシッと……鞭ですね。

 思い返してみると、奴隷商のところの労働用奴隷も、怠慢な者は鞭で叩かれていた。まさか、市井でも鞭によって労働へと駆り立てるとは知らなかった。

 そういえば、ご主人さまから「こん中のもんだったら自由に使っていいよ」と渡されたアイテム・ボックスの中には鞭があった。

 恐らくは、こういった時のために用意されたものだ。

 なにせ、その鞭、「九尾の猫鞭」は、【ダメージは少ないが、痛覚を刺激し、行動を中断させる】効果を持っているぐらいだから……ダメージは少ない。なるほど、これならお仕置きに使っても、重傷を負うこともないだろう。

 そう自分に言い聞かせ、私は意を決してご主人さまの元へ向かう……居た。いつも通り、自室のベッドで布団に包まっている。

 「働いてくれますように」。そう願って、私はもう昼過ぎだというのに眠りこけるご主人さまを力いっぱい打ちつける。

 「働いてください、働いてください」と、願いを口にも出しながら何度も鞭を入れる。そのたびにご主人さまの体はビクンビクンと震える。胸が痛い……だが、これもご主人さまのためだ。

 しばらくして、「わ、わかった! 俺が悪かった!! 働く! 働いてきます!!」と、ご主人さまは家を飛び出していった。

 効果は覿面だった。さすがヴィーヴィル夫人。

 その日、ご主人さまはいくつかの依頼をこなしてきて、「こ、これでいいのか……?」と恐る恐る聞いてきた。もちろん、「はい」と頷くと、ほっと息を吐いて寝室へと戻っていった。

 しかし、その次の日、ご主人さまは働こうとしなかった。「昨日の今日で疲れているのだろう」と考え、そっとしておいた。だけど、次の日も、その次の日も、ご主人さまは働こうとはしなかった。

 私は、こういう人を知っている。労働奴隷でも、誰かに何かを言われないと働かない、鞭を入れないと働かないという人たちがいた。もしや、ご主人さまもその類なのだろうかと考え、鞭を入れるとまた働くようになった。

 やはり、ご主人さまにはお仕置き……いいえ、「激励」が必要なのだ。

 それならば、堕落して腐ってしまわないようにご主人さまに仕事を与えること、「激励」で仕事に駆り立てることが、今の私にできる精一杯の恩返しと言える。



 しかし、それからしばらくして、余りに労働漬けだと心身に異常をきたしてしまうことも知った。

 ブラック商会とやらに勤めていた三件隣のゲオルグさんが、ある日突然血を吐いて倒れて、そのまま入院する、という事件があったのだ。原因は「過労」らしい。私はこの病名を初めて知った。

 なるほど、「過労」を防ぐために安息日があるのか。神が作りたもうた世界は、とても合理的にできているものだと感心した。

 つまりは、「労働」と、その息抜きの「自由」。これらがバランスよく果たせて、初めて人は人らしい生活を送れるのか。

 私はまた一つ人生というものを学んだ。

 それ以来、何でも屋・フリーライフは、平日は適度に仕事をし、休みの日には仕事を一切しない、というスタイルをとっている。





 今では、生きることがとても楽しい。

 明日もまた、労働に勤しもう。

 ご主人様への「激励」も考えなければ……。

 食事の後片付けもし終わり、お風呂に入りながらそんなことを考えていると、頭がぼんやりとしてくる。身体が睡眠を欲しているのだ。

 さっさと寝て、さっさと起きて、少しばかりだらしがないご主人さまのお世話をしよう。

 こうして、私の休日はいつものように過ぎていった。




産まれは奴隷小屋、育ちも奴隷小屋のユミエルの偏った常識は、ご近所さん(主にヴィーヴィル夫人)との付き合いでますます偏っていくのでした・・・。
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