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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

サイドストーリーズ5

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ライオン仮面、見参!

今回はニセ黒騎士こと、レオン先生視点です。
 人は、子どもの頃に何を夢見るのだろうか。

 勇者となって、世界を救うこと? 賢者となって、世界の万理を究明すること? 聖女となって、人々に癒しを与えること?

 英雄を祖とするイースィンドの民は、一度はこのような未来を夢想するだろう。絶対者に憧れ、自分もそうなりたいと望むだろう。

 私もそうだった。5歳の頃、実家の書斎で開いた『勇者イリスの物語』。あの絵本が、私の中に強い憧れを植えつけた。

 私も、勇者となってドラゴンと戦いたい! 敵わずと知りながらも絶望に立ち向かい、見事勝利を手にしたい! そして、凱旋パレードの最中に姿を消して、放浪と救済の旅に出たい!

 私も、かつてはそう思っていた。レベルを極限まで上げることは、決して不可能ではないと豪語し、少年期から鍛錬と魔物討伐に励んでいた。

 父や母には当然止められた。ヴィルバン家の次期当主となる子が、そのように危険なことをしてはならないと、私を屋敷に閉じ込めようとした。

 だが、それは私の冒険心に油を注いだだけで、障害ができたことにより、むしろ嬉々として屋敷の外への脱出を図った。そして、近郊の手頃な魔物と戦い、ひたすらに上を目指した。

 楽しかった。見る見るうちに上昇していくレベル。それに伴い強化されていく私の肉体。天から授けられるスキルは、私へのエールのように思えた。

 本当に、楽しかった。自分の成長が実感できるというのは、何と爽快なのか! 嫌いだった勉学も苦ではなくなり、私は武技や魔法の知識を、乾いた砂漠のように吸収していった。

 その頃には、父や母が私を見る目も変わっていた。彼らは私を『ヴィルバン家の誇り』とさえ評し、まるで英雄を見るような目で私を見ていた。

 それでますます気をよくした私は、13歳の頃、王立学園の同輩たちを集め、『白光騎士団』なるものを結成した。生温い学園迷宮の魔物ではない、郊外の魔物と戦い、実戦訓練を積むための少年騎士団。

 今にして思えば、非常に青臭いことをしていたと思うが、当時の私は毎日が充実していた。この国に生まれ、王立学園を卒業するまでの18年間、私は輝きの中にいた。

 ――だが、高等部卒業後。私は現実に直面することとなる。

 卒業後、意気揚々と王立騎士団へ入団した私を待っていたのは、効率と安全を是とする騎士たちだった。

 どのような魔物に対しても、数を以ってこれを征する。魔物とのレベル差が20以上なければ、近距離戦を禁ずる。これが、士官候補生として新たな道を歩み始めた私に、上官たちが叩き込んできたことだ。

 当然、反発した。それは騎士らしくない! 人々を守る盾らしくない! と。

 彼らはそんな私を笑っていた。笑って、私に一つの事実を教えてくれた。

 華々しく魔物を殲滅する騎士たちがいるだろう? 魔物の侵攻を懸命に押し止める騎士たちがいるだろう? あれはな――自作自演のショーなのだよ。

 選ばれた騎士は精鋭部隊。魔物は〈魔物使い〉部隊が飼い馴らしたもの。時おり、苦戦しているように見えるだろう? 君も見ていたのなら、手に汗を握ったはずだ。でも、それはシナリオ通りのお芝居なのだよ。

 愕然とした私は、やっとの思いで「何のために」と問いかけた――いや、本当はわかっていた。疑問をぶつけるまでもなく、私は答えを思い浮かべていた。それでも、問いかけずにはいられなかった。

 ――何のために? 決まっているだろう。あれはな、騎士団の人員補充のために行っているのだ。

 君も士官として、そういった『小細工』を覚えなくちゃいけないよ?

 大丈夫。君ならできるさ。君はとても優秀で、頭もいい。劇の演出も、巧そうだ。

 しかし、返ってきたのは、友好的に肩に置かれる手と、欺瞞へと誘う笑い声だけだった。

 私は、絶望した。騎士とは、そのようなものではないだろう! 人々の規範や憧れとなるべく、清く正しく強く生きなければならない! 勇者や英雄に及ばずとも、難敵にも勇猛果敢に立ち向かわなければならない!

 それが、数を以って敵を征するだと? 安全が確認できなければ手を出してはならないだと? 英雄性を演出によって生み出すだと?

 駄目だ。それでは駄目だ。そのような環境では、勇者は生まれ得ない。勇気を持つ者は、無用な小細工を弄しない。

 そう考えた私は、自分に与えられた部隊を、最前線で戦う精鋭部隊として鍛え上げた。上層部が騎士像を弄ぶのならば、私たちが芝居通りの『理想の騎士』になってやろうではないか。そして、ゆくゆくは英雄となり、民の規範となろうではないか。

 賛同者も集め、若きレオン・ド・ヴィルバンは息巻いていた。魔物討伐の任務に志願しては、積極的にレベルを上げ、強く、強くなろうとしていた。

 ――だが、様々な妨害に会い、最終的に、私は騎士団を退団することとなった。

 出る杭は打たれる。派閥の対立。強者への嫉妬。足の引っ張り合い。思いつく原因はいくらでも。

 力を増していく私の部隊を怖れたのだろう。公平の名の下に、私たちは本部で事務仕事を与えられ、飼い殺しにされていた。

 私は、騎士団の腐敗に嫌気がさしてしまった。レベルを上げることの何がいけない。強くなることの何がいけない。

 新参者が発言力を持つのはよろしくないだと? 私は、そんなつもりは毛頭なかった。ただ、民のために、国のために、英雄を目指そうとしたのだ。

 だというのに、上層部は私を塩漬けにしようとした。時期が来れば元に戻すとは言われたが、到底、我慢ができることではなかった。だから私は、自らの意思で騎士団を去ったのだ。

 そして、レベルを上げた。魔科学を探究した。ドワーフの職人に剣と鎧を作らせ、十年の月日をかけて改造していった。

 何のために? 勇者になるためだ。幼き頃に夢見た英雄を目指すためだ。

 今にして思えば、騎士団の上層部を見返そうとして、むきになっていたのだろう。私は何かにとり付かれたように研究と鍛錬に没頭した。

 結果として、レベルは190まで上がり、魔科学の集大成とも呼べる白銀の剣と鎧が出来上がった。だが、それだけだった。

 私は勇者にはなれなかった。高みを目指せば目指すほどに道は険しくなり、私に諦めろと囁いてきた。三十路を越えて体が衰えてきた私には、その声は抗い難いものがあり――とうとう、私は自分に負けてしまった。

 それからは、夢から目を背けるように現実主義、合理主義に走り、勇者になるという夢は剣と鎧とともに封印した。

 魔科学の知識を請われて勤めていた学園の生徒にも厳しく接した。夢は見るなと。現実を見据えて動けと。自分のようにはならないように、という言葉はグッと呑み込み、私は彼らに見果てぬ夢は見るなと伝えた。

 そのためか、「中だるみの第二学年にはレオン先生が相応しい」と評されるようになり、私は教師として大成していった。

 平穏な生活だったと思う。子どもたちに物を教え、成長を見守るという教師の仕事に、やりがいすら感じていた。

 しかし、そこには夢がなかった。熱く燃える情熱がなかった。私はただ、自分を殺し、効率的に知識を伝授しているだけではないか? 時々、そのような考えが脳裏をチラついた。

 だからこそ、私は教師として一層の努力をしていこうと――四十八歳の誕生日に、そう決意した。

 それからわずか二カ月後のことだった。あの混沌龍と、黒騎士が現れたのは。

 圧倒的だった。生で見る英雄の戦いは、私の心を燃え上がらせた。

 国を襲う邪悪なるドラゴン! 迎え撃つは一万の軍勢! しかし、我らは一敗地に伏し、祖国が蹂躙されるのを見ていることしかできなかった。

 ――このままでは、イースィンドは滅ぶ。

 誰もがそう思い、諦めかけたその時。陽光を受けてなお黒い影が、鳥のような身軽さで砦から飛び出していった。

 直後、混沌龍の絶叫。見れば、それまで傷一つ負わなかったカオス・ドラゴンの眉間が割れているではないか!

 人は真に驚愕した時、言葉をなくす。あの時の我らも、一様に口をだらしなく開き、苦痛に身をよじる混沌龍を見つめていた。そして、あの混沌龍を苦悶させた勇者を、瞬きすることもせずに見つめていた。

〈軽装戦士〉のような装いに、頭部をすっぽりと覆う兜。そのどれもが漆黒に染まり、一種異様な空気を醸し出していた。

 それが、私と黒騎士の出会い。勇者を夢見た私が、本物の勇者に出会った瞬間だった。





 それから三ヶ月あまり。私は、黒騎士として夜の闇を駆けていた。

 屋根裏部屋に押し込んでいた剣と鎧を黒く染め、夜のグランフェリアを巡回する。初めは、ごっこ遊びのようなものだった。

 冷めやらぬ興奮をどうにかするため、目に焼きついた勇者と自分を同一化する。そのための仮装であり、そのための巡回だった。

 初めは、黒騎士姿の私を見た人々が驚くだけで満足していた。「貴方様があの黒騎士ですか?」という問いに、黙ってうなずくだけでえもいわれぬ心地よさを感じた。

 しばらくしたら、止めるつもりだった。ごっこ遊びはお終いにして、また魔科学教師、レオン・ド・ヴィルバンに戻るつもりだった。

 しかし、黒騎士が夜のグランフェリアで人助けをしていると聞いた時――「私もそうしたい」と思ってしまった。

 ドワーフの技術と魔科学が融合した一品ものの装備。190というレベル。これまで培ってきたスキルの数々。

 下手に黒騎士のように振る舞えるだけの力があったのがいけなかったのだろう。私はすっかりその気になって、夜の街へ飛び出していった。

 それから、私は精力的に人助けをした。酔漢から婦女子を守ることから始まり、他国のスパイを縛り上げるようなこともした。腐敗した一部の貴族をこらしめ、権力を笠に着て横暴に振る舞う騎士を叩きのめした。

 正直に言えば、楽しかった。世のため、人のために力を振るえるのは爽快だった。悪人をこらしめる度に、私の中の正義が雄たけびを上げた。かつて夢見た勇者のような自分に、思う存分酔いしれた。

 その結果として、私は本物の黒騎士に粛清されてしまった。無謀にも勇者に成り変わろうとして、返り討ちにあったのだ。『勇者ごっこ』をしている中年が、勇者に敵うはずもなく、私はなす術もなく完敗してしまった。

 彼を恨んではいない。おかげで、悪酔いが醒めた。むしろ、一時の夢を見させてくれたことに、感謝の念すら覚えていた。

 だから、魔科学仕立ての剣と鎧は再び封印し、私は元の日常へと戻っていった――のだが。

「おいおい、姉ちゃん。騎士様が声をかけてやったんだぜ? 光栄に思わなくちゃいけねえだろうが」

「や、止めてください……」

 黒騎士として活動したことの名残か、腐った連中がやたら目につくようになった。

 今も、路地裏に引きこまれた町娘が、騎士に暴行を受けようとしている。しかも、やっかいなことに、相手は部隊長だ。助けに入れば、様々な意味でただでは済まないだろう。

 かつて、騎士として勤めていただけに、彼らのやり口の汚さはよく知っている。自分の欲望を満たすため、どのようなえげつないことをするのかも知っている。

 私のレベルなら、助けるのは簡単だ。だが、後のことを思えば、ここで手を出すべきではない。他の者のように、見て見ぬふりをして通り過ぎるのが利口だ。

 なに、よくある光景じゃないか。別段、珍しいことではない。ここで助けても、結局はいたちごっこだ。

 一年前の私ならば、それで納得し、その場を後にしていただろう。

 ――しかし。しかし、私は――。

「待ていっ!」

「何っ!?」

 近くの土産物屋で売っていた獅子の被りものを思わず購入し、私は民家の屋根の上へと飛び上がった。そして、婦女子の腕を掴む騎士へ裂帛の気合をぶつけた。

 自分でも何をしているのかわからない。『勇者ごっこ』は懲りたはずなのに、私はなぜ、このような真似をしているのか。

「何だ、ふざけた奴め。ライオンごっこか? それとも黒騎士のパクリか?」

 獅子の装飾で素顔を隠した私を、部隊長がせせら笑う。

「その手を離せ、悪漢め」

 だが、私は恥じることも、臆することもなく、騎士を見下す。

「んだぁ? 俺が誰かわかってんのか? あ?」

 騎士が三角蹴りの要領で、向かいの建物の屋根の上へと登ってきた。その隙に、町娘はふらふらと逃げ出していく。

 これで、目的は達した。さあ、これで満足だろう、レオン・ド・ヴィルバン。お前はこれ以上、何をしようというのか。

「あ? 喧嘩売ってんのか、おい!」

 唾を飛ばして怒声を上げる騎士。彼を前にして、私は――。

「私の名前は、マスクドライオン。この街の平和を守るものだ」

 名乗りすら上げてしまった。

「何だ、いかれてやがんのかぁ? 正義の味方ごっこは、黒騎士だけで十分だろうに」

「違う。私は黒騎士ではない。だが、正義は誰にでも行えるのだ。義憤に駆られて動くのは、黒騎士でなくとも構わない。彼のような力がなくとも構わないのだ」

 すらすらと口をついて出てくる言葉。まるで演劇の台詞のような自分自身の言葉を聞いて、私は長年の疑問が氷解していくのを感じていた。

 そうだ。正義を行うのならば、勇者になりたいのならば、他の誰かに憧れる必要などなかったのだ。黒騎士や、かつての英雄たちと比較して、彼らのような力がないからと、諦める必要もなかったのだ。

 自分自身をよく見てみろ! レベルは190もあるのだぞ! それで、何を躊躇う必要があるのか。できないことばかりに目を向け、なぜ、できることから目を背けていたのだ。

 諦める必要などない。我慢する必要などない。見て見ぬふりをすることもない。正道を歩みたいのならば、そうするべきだったのだ!

「ぐだぐだうっせえんだよ。いいからかかってこいよ、おい」

「――いいだろう。では、マスクドライオン、参る!」

 三日月を背に飛び上がる私。迎え撃つは、不逞の輩。そして我々は、夜のグランフェリアを舞台に、激闘を開始した。

 そして私は、子どもの頃の夢を叶えることができ――街に、新たな勇者が生まれたのだった。

きゃー、マスクドライオン、かっこEー(棒)

これでグランフェリアの夜も安泰……か?

変態が増えただけのような気もしますが、気にせず次に進みましょう!

さてさて、次回はゴルディ視点です。

……ゴルディ!?
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