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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

働く貴大編

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初夏の味覚

校正終わった勢いで、WEB版も更新。
 国内でも有数の魚港を擁するグランフェリアでは、一年中、新鮮な魚介類を口にすることができる。春夏秋冬、それぞれに旬を迎える魚たちが、食卓を彩ってくれる。

 秋は、青魚が美味しい季節。滴らんばかりに脂がのった青魚に塩をふりかけ、強火の遠火でじっくりと炙れば、脂がじゅわじゅわ、ぱちぱちと弾け、辺りにぷぅんと香ばしい焼き魚の匂いが漂いだす。この熱々にかぶりつき、すかさずビールを流し込めば、神の祝福すら感じられるだろう。

 冬は、煮込みに適した魚がよく獲れる。人参、玉ねぎ、セロリにトマト。塩や乾燥ハーブ、香味野菜にぶつ切りにした赤魚。それと、隠し味ににんにくを一欠片。これら全てを同じ鍋に入れ、暖炉の火を使ってじっくりと煮込む。すると、魚の出汁と、野菜のうまみが溶けあった、何とも優しい味のスープができる。

 春は、何といっても白身魚だ。ムニエルによし、香草焼きによし、マリネによし。毎年、塩釜焼きを楽しみにしている貴族もいれば、パイ包みを食べねば春を迎えられないと言う庶民もいる。初春の夕暮れ、街を歩けば、そこかしこで白身魚をバターで焼く匂いを嗅ぐことができるだろう。

 そして、夏は――――

「特にこれといったもんがないんだよな」

「だね。何でも美味しいし」

 昼のピークを過ぎたまんぷく亭で、看板娘のカオルと何でも屋の貴大が、芋の皮をむきながら世間話をしていた。

 先ほどまでは、ユミエルやルートゥーの夏服についての話をしていたかと思えば、今度はグランフェリア港に並べられる新鮮な魚介類についてのあれこれだ。二転三転するとりとめのない話も、彼らにとっては楽しいものなのだろう。時折、笑い声を上げながら、二人は会話を弾ませていく。

「牡蠣やホタテがないのはちょっとさびしいけど、夏はムール貝もあるし、タコも美味しいよね」

「魚もいいぞ。フライにしても、塩焼きにしてもいいし、クールブイヨンで煮るのもいい。それに、川魚もあっさりしててうまいよな。俺、川魚とか最近になって初めて食ったけど、ありゃあいいもんだ」

「え~、川魚とか、毎日食べてたら飽きるよ? 私、地元は海から離れた場所だから、魚といったら川魚だったんだけど、あんまり味に違いがなくてさ。三日続いたら、お母さんに文句言ってたもん。だから、グランフェリアに来たら、川魚とはさようなら! ……って思ってたんだけど、普通に市場に川魚が並んでるんだもんなあ」

「ははっ。まあ、大都会だからな。ないもんを探す方が難しいわ」

「だね。着るものからマジック・アイテムまで、何でも揃ってるもんね。この前なんて、私、西の大市場でさ……」

 二人とも手慣れたもので、会話を楽しみながらも、するすると芋の皮をむいていく。かと思えば、今度はサラダに使う葉物を千切ってはボウルに放り込み、その次は青豆の鞘から身を取り出していく。

 口を動かしながらも手も動かす。貴大も、カオルも、夕飯時にどれほど客が押し寄せるかが分かっているため、決して手の動きは緩めない。それでも、笑いながら下ごしらえに勤しむことができるのは、やはり慣れのおかげだろう。

 この大衆食堂〈まんぷく亭〉で、それだけの時間を、二人は過ごしてきた。下町の定食屋で、忙しくも楽しい日々を送る。そうすることで、自然と料理の腕が上がっていったのだ。

 と、同時に、彼らの関係は、気の置けないものとなっていた。冗談混じりの会話は当たり前。時には互いの胸を軽くどつき、頭をはたき、からからと和やかに笑い合う。その姿は、まるで仲の良い定食屋の若夫婦のようで――――

「へっへっへっ、お兄さんたち。楽しそうじゃないか、え? ここは一つ、オレっちも混ぜてくれよ」

「おうおう、いいねえ、若いもんは。あやかりてえなあ」

 そんな姿を見せるものだから、不穏な輩を引き寄せてしまうのだ。フロアのテーブルで下ごしらえを進めていた貴大らは、今、悪漢たちに因縁をつけられていた。

 一人は、赤毛の中年女だ。両手をポケットに突っ込んだ彼女は、意地が悪そうにニヤニヤと笑い、貴大の脛をコツコツとつま先で蹴り始める。

 もう一人は、黒髪の巨漢だ。平べったくゴツゴツとした顔は、いかにも荒くれ者といった風貌だが、その顔にはやはり、貴大らをからかうような軽薄な笑みが浮かんでいた。

「オラッ、キスしろよ、キスをよぉ。情熱的で刺激的な口づけを交わせ!」

「ボヤボヤしてっと、連れ込み宿に放り込んじまうぞ!」

 二人の悪漢は、貴大とカオルにキスをするよう指示をする。キスをしなければ、ベッドインさせるぞと脅しをかけてくる。

 何たる悪逆非道の行い! 何たる破廉恥な言葉か! これには、貴大よりも、まずカオルが怒りを爆発させてしまう。

「お父さん! お母さん! 何言ってるの!!」

「わ~、家の娘が怒ったー!」

 娘の怒声により、猫のような俊敏さをもって厨房に逃げ帰っていくアカツキとケイト。その後ろ姿を睨み、カオルは唸り声を上げていた。

 これも、いつも通りの光景と言えばそうだ。貴大とカオルをくっつけたいロックヤード夫妻は、何かにつけて二人の仲を近づけようとする。ただ、そこにイタズラ心が混ざるのが困ったもので、いつも彼らは愛娘の逆鱗に触れていた。

 カオルからしてみれば、『余計なお世話』そのものなのだろう。何かにつけてはちょっかいを出す両親を叱りつけたことは、一度や二度ではない。それでも、子どものことは何でも構いたがるのが、親というものだ。娘が気にしている人物が職場に来ようものなら、エールの一つや二つ、送りたくなるものなのだろう。

 ――――カオルは、【応援】効果を得た! 攻撃力、防御力、乙女力、10%アップ!

「えっ!?」

 突然のバフ効果に、驚きの声を上げるカオル。彼女の体からは、ピンク色のオーラが立ち昇っている。これには慌てふためいたカオルは、原因を探してきょろきょろと辺りを見回した。

 すると、厨房の影から彼女の両親が顔をのぞかせており――――

「これぞ秘奥義、【母の愛】。カオルちゃん、頑張って!」

 親指をグッと突き立て、白い歯を見せてものっそい笑顔を見せるロックヤード夫妻。

「何よ、そのしたり顔はーーーっ!?」

 そして、その顔に向かって、渾身の力でお盆を投擲する娘さん。

 バフによって強化された一撃は、いつもより速く、鋭く飛んでいった。





「羊の岩塩焼きと、茹でダコレモン、シャキシャキポテトサラダに、チーズトマト、お願いねー!」

「あいよー! ……あ~、死ぬほどじゃねえけど、やっぱり夜は忙しいな」

 そうぼやきながらも、ジャガイモを千切りにし、沸騰させた塩水でサッと茹でる貴大。そのまま冷水で締めれば、シャキシャキポテトの出来上がりだ。

 残った湯にはタコを入れ、熱したオーブンには、ハーブと岩塩をすり込んだ羊のバラ肉を突っ込む。それらに熱が通る間に、脂肪分が少ないチーズと、半乾燥させたトマトを合わせたサラダを作る。

 こう見えて、貴大は料理が得意だ。高校時代に野菜やチャーハンを炒め、冒険者時代に肉や魚を焼いて鍛えられた彼の腕は、まんぷく亭での仕事を通し、更に高められていた。今では、店主であるアカツキも、安心して注文を任せることができていた。

「今度はちょっと多いよ! お魚コロッケが10! カルパッチョが3! 羊の串焼きが10! オススメ焼き魚が8! そんでもって、ビールは樽ジョッキで20!」

「おおう、任せろ! ガハハ!」

 だが、本職にはまだまだ敵わないようだ。貴大が一瞬、肝を冷やした大量注文も、アカツキは笑いながら快諾した。

 そこからは、切る、焼く、揚げるの怒涛の調理の始まりだ。見る見る内に注文された品が出来上がり、カオルやケイトがせっせとそれらを運んでいく。その勢いは、さすがまんぷく亭の大黒柱といったところか。

 トドメとばかりにビール20杯のおかわりが入れば、まだるっこしいとばかりに樽を持ち上げ、テーブルまで運んでいく始末。この豪快さには、さしもの貴大も感服させられた。

「俺も負けちゃいられないかな」

 アカツキの熱気にあてられたのか、珍しくやる気を見せる貴大。追加でカルパッチョの注文が入ったのを聞いた彼は、流れるような動きで魚をさばいていく。

 いや、それだけではない。何と彼は、カンストレベルの能力すら駆使して、誰も見たことがないような大作を作り上げていたのだ!

 速さと正確さ。そして、磨き上げられたナイフの切れ味。それらを活かし、貴大が作り上げた珠玉の逸品とは!

「お待たせしました。白身魚のカルパッチョでございます」

「な、何ぃっ!? い、生きている……!?」

「ええ、活け造りです。身を切り取られても、魚が動く。この上ない新鮮さをお楽しみください」

 ピクピクと震える魚。ピチピチと動き、わずかに残った水滴を散らすしっぽ。そして、骨の上にのせられた、かつては魚についていた白身。

 昼過ぎに港にあがり、先ほどまでは――――いや、今現在も生きている魚を使ったカルパッチョ。これには、美食の都で育ったグランフェリア民も、たまらなかった。

「く、食えるかこんなもーん! グロいわ!!」

「あ、あれ?」

 貴大が自信を持って作り、手ずから運んだ料理は、にべもなく一蹴された。

 それもそのはず、グランフェリアには魚の活け造り文化などなく、カルパッチョなどで生食するにしても、切り身のみが提供されているからだ。それ以外の部分を、しかも生きたまま同じ皿に載せるなど、グロテスクの極み。その辺りの感覚を、貴大は未だ掴めていなかった。

「っかしいな。刺身とかカルパッチョが食えるなら、活け造りは喜ばれると思ったんだけどなあ……」

「無理無理! 普通に気持ち悪いよ。貴大だって、山羊とか鹿の刺身が、瀕死の動物と一緒に出てきたら嫌でしょ?」

「あ~……こっちの人には、活け造りってそういう感覚なのか」

 料理とは、味だけ、食感だけで決まるものではない。見た目や、文化の違いも、料理の価値を左右する要素だ。

 貴大は、なまじ自分が教えた日本料理によってまんぷく亭が盛況となったので、変な自信がついていたのだろう。醤油もイケる。刺身も食える。じゃあ、次は活け造りだ。このような思考によって、踏み止まるべき一線を越えてしまったのだ。

 本当は、刺身と活け造りの間には、深くて大きい溝がある。そのことを、貴大は痛感した。

「う~ん、料理ってやっぱ難しいわ」

「ガハハ! 失敗は成功の母だ! 若者は挑戦あるのみだぞ、タカヒロ! さあ、次はこいつを試してみるんだ!」

 少しだけしょんぼりとする貴大の背中をバンバンと叩くアカツキ。彼のもう一方の手には、未だピチピチと暴れる新鮮なスズキがあった。

「新鮮さを表現する手段は、他にもあるだろう! そいつを考えるんだ! ガハハ!」

「ちょ、お父さん。そんな、すぐには無理だって!」

「むっ……いや、できるさ。それぐらいやってやる」

 案外負けず嫌いな貴大は、スズキを受け取り、シバババババッ! と、猛烈な勢いで鱗を落とし始める。彼の頭には、何が策があるのだろう。その動きは、先ほどとは打って変わって活き活きとしていた。

 それを満足げな顔で見守るアカツキ。

 心配そうにオロオロとうろつくカオル。

「君が一生懸命になるほどに、ロックヤード家への婿入りは近づくのだよ」と呟き、にししと笑うケイト。

 そして、やはり放置されるお客たち。

 いつも通りのまんぷく亭。そして、いつも通りの人々だった。

やだ、カオルさん、ヒロインみたい……!

さーて、お次の仕事は、黒騎士へのチェンジです。

配達、ハウスクリーニング、調理、そして黒騎士姿での警邏……何でも屋らしくなってきたー!



主要キャラクターデザインが終わり、今はイラストレーターさんに表紙と挿絵を描いてもらっています。

『どんな挿絵が見たいのか』というご意見も募集しているので、希望がある方は、是非、ここ(http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/202504/blogkey/593226/)に書き込んでみてください。
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