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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

修行と治療編

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荒廃した楽園 ~立った! 貴大が立った!~

 フェアリーズ・ガーデン。

 それは、楽園の名前。人々が夢想した理想郷。

 楽園には、飢えも渇きもない。暑さもなければ寒さもない。

 老いることもない。死すら存在しない。生きとし生ける者を悩ませる、ありとあらゆるものがない。

 賢者は言った。

 妖精郷は、必ずあると。

 帝王は求めた。

 楽園に実るという、不老不死の果実を。

 冒険者は夢見た。

 花咲き誇る桃源郷の光景を。

 夢幻の庭園。永久とこしえの安息地。夢とうつつの狭間の領域。

 フェアリーズ・ガーデンは、この世の天国だ。

 人々は、口を揃えてそう言った。

 だが、彼らは知らない。フェアリーズ・ガーデンの別名を。

 そして、そこに潜むモノの名を。

 一たび、足を踏み入れればどうなってしまうのか。夢見る人々は、それを知らない。

 知ればどう思うだろうか。

 妖精郷の真の名が、「浄化の監獄」だということを。

 楽園などでは決してなく、欲にまみれた魂を引き裂き、魔素の粒子に砕いてしまうすり鉢だということを。

 会えばどう思うだろうか。

 妖精郷に住まう、妖精三姉妹に。

 地獄の餓鬼にも劣る、欲望の塊に―――――






 苔むした岩からは、こんこんとわき水があふれ出し、小さな池へと注がれている。

 小池の周りには、一面の花畑。森の木々に囲まれた土地を、埋め尽くさんばかりに花が咲いている。

 更には、花にも負けない、色とりどりの蝶々が飛び交い、幻想的な光景を作り出していた。

 少し離れた場所にあるのは果樹園だろうか。赤やオレンジに染まった果実が、たわわに実っている。

 そこから少し離れた場所には、養蜂場らしき施設まで存在している。ミツバチたちが四角い巣箱へと、せっせせっせと花の蜜を運んでいた。

 更には、木々の間や梢の隙間から、リスや小鹿などの小動物が、愛嬌たっぷりに顔をのぞかせる。

 一種の楽園が、そこにはあった。

「いひ、イヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ……!」

「ああ~、いい。これ、いいわぁ~。キクぅ~……!」

「ちゅばっ! ちゅばっ!」

 だが、住人のせいで全てが台無し。

 花畑には洗ってすらいない鍋が転がり、果樹園には果物の皮が、養蜂場には蜜蝋の欠片が転がっている。

 犯人と思しき妖精たちは、胡乱な目をして、果物と蜂蜜を煮つめて作った糖蜜を、一心不乱に舐め続けていた。

「キクーッ!」

 常人が口にすれば、それだけで頭が痛くなりそうな糖度の蜜を、ちゅばちゅばと音を立てて啜っては、体を震わせる三妖精。

 楽園よりかはスラムに居た方が、よほど違和感がない姿だった。

「……みなさん、どうなさったのですか」

「あっ、あんたは!?」

 阿片窟の住人のように、だらしなく木にもたれていた妖精たちが、勢いよく身を起こした。

 それもそのはず、彼女らの前に立っていたのは、救世主にも等しい人物だったからだ。

「これはこれはユミエル様。ご機嫌麗しゅう」

「あっ、靴が汚れているわよ。拭いてあげる!」

「ははー! はははー!」

 この上なくわかりやすく、訪問者……ユミエルに媚びる妖精姉妹。

 一番小さな妖精、ニースは、ピンと両手を伸ばして、土下座を繰り返している。

 中くらいの妖精、ピークは、穏やかな笑顔で来客を出迎える。が、細めた目が笑っていない。獲物を狙う鷹のような目だ。

 そして、一番大きな妖精、フェアは、卑屈な笑みを浮かべて、染み一つないユミエルの靴を磨いている。

 いったい彼女らに何があったのか。どうして彼女らはおもねるような態度をとるのか。ユミエルには、理解ができなかった。

「……みなさん、本当にどうなさったのですか?」

「どうなさったもこうなさったもないわよ! あんたのところにも行ったわよね、妖精王のクソオヤジは」

「……はい。みなさんへの贈り物を返しに来られたときに、この場所の真実と、事情を教えてくださいました。そして、半年間は接触を断つように、と言われました」

「やはり、根回しを。おのれ妖精王……! おのれえええええ!」

 憤慨するフェアに、四つん這いになり、握った拳で地を叩くピーク。

 その中で、末妹、ニースだけが、期待に満ちた目をして、ふらふらとユミエルへと近づいていく。

「でも、ユミィちゃんはこうして来てくれたんだから、こっそり差し入れ、持ってきてくれたんだよね~? もう、お菓子がない生活にはたえられないよ~」

 彼女の言葉に、そういうことかと、納得するユミエル。

 だが、彼女が発した一言は、ニースが望んでいるものとは正反対のものだった。

「……持ってきていません。妖精王さまに禁止されているので」

「ぎぶみー! ぎぶみー、ちょこれーとぉぉぉぉ!!」

「……合成シロップで過剰な味覚刺激を得るのも、謹慎の身としては、いけないことでは? 後で報告させていただきます」

「わかった~。これは、夢だよね~? 目をさましたら、あたしはお菓子の山の上にいるの~。うん、きっとそうだよ~。あはははは~……」

 ニース、発狂。続けて、フェア、ニースも気を違えた。

 儚き希望は砕け散り、その破片もまた、踏みにじられた。

 妖精たちを満足させ得る娯楽がない、脱出不可能の牢獄において、煮つめて糖度を高めたシロップは、何よりの快楽だった。

 苦心の末に生み出した、脳が痺れるような甘い蜜を取り上げられる。

 それは、妖精三姉妹にとって、死刑宣告も同義だった。

 だが、どのような地獄にも、蜘蛛の糸は垂らされるものだ。

 ユミエルは、打ちひしがれる妖精たちへと、福音にも似た言葉を与えた。

「……安心してください。私のお願いを聞いてくだされば、謹慎の終了を待たずして、みなさんはここから出られます」 

「うそっ!?」

 びゅん、と風さえ逆巻かせ、ユミエルの眼前へと集まる妖精三姉妹。彼女らの目は、期待と希望に満ちていた。

「お願いとは何でしょうか? 一ページたりとも書物がなく、一欠片も映像水晶が存在しない地獄から出られるのならば、助力は惜しみませんよ」

「うんうん、もう、なんでもしちゃうから! ほら、オネガイってなによ。言ってみなさい」

 自由気ままな妖精であるがゆえか、一つ所に留まるくらいなら、どんな協力も惜しまないと、口々に誓う妖精たち。

 ユミエルは、やる気に燃える彼女らに促されるままに口を開いた。 

「……私は、強くなりたいのです」

「は?」

「……誰にも負けないほど、強く」

「え、ええ?」

 てっきり、彼女とともに暮らしている、黒髪の青年の心を射止めたい、という願いかと思っていた妖精たちは。

 筋骨隆々とした武芸者が言い出しそうな、絶対的な力を求める願いに、ぽかんと口を開け、しばしの間、固まってしまった。





 一方そのころ、何でも屋〈フリーライフ〉では。

「ユ、ユミィちゃんに頼まれたら、断れないよね。大丈夫、うん。これは病人の介護だから……」

「はーい、バンザイしようね、タカヒロくん」

「おいおい、服も一人で脱げねえのかよ? いったい、どうしたんだよ」

 貴大と所縁のある少女たちが集まって、彼の介護を行っていた。

「風呂で毒抜きだと? ふむ、興味深いな。湯の花とやらを、成分分析してみるかな」

「わう! おふろわいたよー!」

 脱衣所と浴室に、五人の少女と、男が一人。貴大のこだわりで、ゆったりと造られてはいるが、狭いものは狭い。

 それでも、少女たちは、なんとかスペースをとって、貴大の服を脱がせていく。

 しかし……。

「これ、どうすんだ……?」

「え、わ、私に聞かれても……」

 残すはパンツ一丁となったところで、途端に少女たちの手が止まる。

 それもやむを得ないことではある。男性経験のない彼女らにとって、異性のパンツの中は、禁断の領域だ。

 男勝りのアルティですら、たかが布切れ一枚に手を伸ばすのをためらっていた。

 だが、禁忌を破るのは、いつの時代も幼い者だ。純真無垢の体現者が、いともたやすく、神秘のベールを取り払った。

「えいっ」

「あああああああ~~~~~~!?」

 教会の白き聖女が、不浄の象徴たる御柱を、白日の元へとさらけ出した。

 窓から差し込む日を浴びて、だらりと頭を垂れるイエロウ・スネーク。その異形の姿は、見る者全てをたじろがせた。

「え、え、これ、なに?」

 禁断の門を開いた聖女は、己が解きはなった魔物を目にして、動揺している。しきりに、後ろに並んだ少女たちへと振り返っては、彼女らへと問いかける。

 だが、彼女の問いに答えられる者はいない。答えてしまえば、花も恥じらう少女として、大切な何かを失ってしまうことを、彼女らは知っていたからだ。

 ただただ、焦がすように視線を浴びせるだけで、少女たちは誰も、動かない。

「おかしい。図鑑の絵と違う。彼が特殊なのか?」

「アレってあんな色だったっけ? オヤジのとは全然ちがう……」

「わ、わうう……」

「あれが、タカヒロの……わっ、わっ……!?」

 呻くように、疑問や恥じらいの声を口にして、ただジッと、蛇口のような「それ」を見ているだけだった。そのはずだった。

 しかし、次の瞬間!

「これ、ついてて大丈夫なの? わ、わたしにはないんだけど……もしかして、病気? 治癒魔法で治るかな?」

「ちょっ、止め……っ!?」

「わ、おっきく、なった!? え、ええ? えええええええ!?」

「いやあああああああああ~~~~~~~!?」

 もう一人の佐山貴大……いや、ある意味では貴大自身は。

 聖女の癒しの手に触れ、雄々しく、猛々しく、立ち上がった。

 まるで勇者のように。まるで雲を貫く絶鋒のように。

 若さゆえの活力を、はちきれんばかりにみなぎらせ、佐山貴大は立ち上がったのだ!

「いやっ、いやあああああああああああああ!!」

 結局、貴大は、騒ぎを聞きつけた近所のヴィーヴィル夫人の手によって、風呂に入れられることとなった。

 夫人は少女たちの純真さを大いに笑い、彼女たちは、しばらく、貴大の顔をまともに見れなかったとか。





活動報告、及びみてみんで、もう一つの作品・ウォーキングライフの、新しいイラストを展示しています。

今回は、Tシャツパンツ一枚の妹ちゃんと、裸マントのリッチちゃんと、全裸のスライムちゃんのイラストです。

お、俺じゃない! 俺はチラリなんて望んじゃいない! イラスト化投票を行ったら、露出度が高いキャラに票が集まったんだ!

まったく、人の欲は恐ろしいですな! 裸マントなんて、犯罪ですよ、犯罪!(モニターを下から見ながら)
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