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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

サイドストーリーズ4

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〈アップル・ポーション改〉

 私は、今の仕事が大好きだ。

 お母さんがいる。お店がある。そして、お店に並べた商品を喜んで買ってくれるお客さんがいる。

 道具屋というのは、なんて素晴らしい仕事なんだろう。働く喜びを感じられる。生きている実感をつかむことができる。

 ドジな私でも、社会のために、みんなのために、なにかができると、そう思える。

 ああ、お母さんの娘に生まれてよかった。〈アップル・バスケット〉に出会えてよかった。優しい人たちが暮らすこの街で、毎日楽しく過ごせることができて、本当によかった。

 この感謝の気持ちを、形にしたい。

 初めてそう思ったのは、いつのことだっただろう。ミルポワ学園中等部を卒業した頃だったかな? 少なくとも、大人とはとても呼べないような歳だったと思う。

 なにかしたい。お客さんや、ご近所さん。なにより、私を女手一つで育ててくれたお母さんのために、なにかしてあげたい。

 考えに考え抜いた私は、新商品開発に取り組むことを決めた。

 昔の道具屋〈アップル・バスケット〉は、既存の商品しか置いていないお店だった。ポーションに、毒消し草、虫ころりんに、マジック・ロープ。近所の人たちの要望に合わせた結果とはいえ、少し、華やかさと目新しさに欠けていた。

 そこで私は、自分の手で魅力的な新商品を作り出すことを決めた。

 苦いポーションはもっとおいしく。素っ気ない見た目のマジック・ロープはカラフルに。私は、考えつくままに、既存の商品に手を加えていった。

 もちろん、いきなりうまくいくわけもなく、一ヶ月もかけて徒労に終わる、ということもよくあった。山のように積んだ材料を、全て無駄にしてしまうこともあった。

 でも、その甲斐もあって、私はポーション作りの才能を開花させた。新商品開発に手をつけて一年。私はようやく、納得のいくものを完成させられたんだ。

 〈Mポーション〉。私の名前をつけたポーションは、数年経った今でも売れ筋商品だ。ご近所の人だけではなく、なんと、冒険者や騎士さままで買いに来てくれる。

 私の思いは、成就したんだ。なにかしたいと願う心は、新しいポーションという形になったんだ。

 失敗続きだった頃、私を支え、励ましてくれたお母さん。得体の知れない自作のポーションを、笑顔で買ってくれたお客さん。こんな調合を試してみるといいよと、アドバイスをしてくれたご近所さん。

 新商品開発はみんなのためにしたことだけど、結局、みんなに助けられている。でも、それでいいんだと思う。

 みんなは私を助けてくれる。わたしはみんなのために新しいポーションを作る。助け合いの輪が、ぐるぐると回って、未来へ進んでいく。

 そうすれば、みんな、もっと、もっと幸せになれるはず。それがいいんだ。助けるために助けられても、いいんだ。私は、私のできることをすれば、いいんだ。

 だから、私は今日もポーションを作る。みんなが幸せになれるように。みんなの生活の助けになれるように。

「と、いうわけで、新しいポーションを作ってみました~!」

 今回は、少し前に作った〈アップル・ポーション〉の改良に挑んでみた。

 〈アップル・ポーション〉は、りんごの果汁をふんだんに使ったポーションだけど、少しだけ香りが薄かったからね。りんごを皮ごとすりおろして、それを絞った果汁を使ったんだ

 果物は、皮にこそ栄養と香りがある。そう教えてくれたのは、近所に住んでいる何でも屋のタカヒロくんだ。彼は、私より年下の男の子なのに、色々知っていてスゴイと思う。

「ありがとうね。おかげで、いいものが作れたよ~♪」

「はい……はい……」

 ガクリ、ガクリと首をふるタカヒロくん。どうしたんだろう? 寝違えたのかな?

「調子が悪そうだね? でも、大丈夫! この〈アップル・ポーション改〉を飲めば、たちまちよくなるよ! お礼に作ったものだから、お代はとらないよ。はい、遠慮なく飲んで♪」

「……逃げられないのか、俺は……」

 ややっ!? いけない、タカヒロくんの顔色が一気に悪くなった! これは、早く治してあげなくちゃ。

「ほら、飲んで、飲んで! これを飲めばよくなるからね~」

「むう、むうおおお……!?」

 タカヒロくんの口に、ポーションの瓶口を突っ込む。こうでもしなきゃ、タカヒロくんはお薬を飲まないからね。もう、しょうがない子なんだから。

「ぐっ、ぐう……!?」

 瓶の中身を飲み干したタカヒロくんが、胸を押さえる。ポーション類は飲むと胸がかっかするからね。お薬嫌いの彼には、少し慣れない感覚だろう。

「ぐうおおおおおおおお!?」

 相変わらず、大げさだなあ。どれだけお薬が嫌いなんだろう? 冒険者時代はどうしていたのか、少し気になるところだ。

「………………」

「あ、寝違えた筋は治ったかな? どう? 痛くない?」

「………………」

「タカヒロくん?」

 なんだか、タカヒロくんの様子がおかしい。地面に座り込んで、ガクリと頭を垂れている。

 あれ? も、もしかして、調合に失敗しちゃった!?

「た、たいへんたいへ~ん!? お母さん! ううん、お医者さ~ん!?」

 やっちゃった! もう慣れているから、調合の失敗なんてしないとタカをくくっていたのが、裏目に出た!

 ああ、ああ、タカヒロくんが、黄色い泡を吹いている~!? これってかなり、まずいんじゃないだろうか!?

「わわっ、わわっ!? お、お薬、お薬!!」

 〈気つけポーション〉に、〈Mポーション〉、〈濃厚ミルクポーション〉に、〈爽やかレモンポーション〉。

 焦った私は、お店の商品を、手当たり次第にタカヒロくんに投与していく。ああ、タカヒロくんの体が、ビクン、ビクンって震えている! い、急がなくちゃ!

「はあ~、はあ~、こ、これで……!」

 結局、バケツいっぱいぐらいのお薬を飲ませてしまった。これで効果がなければ、お手上げだ。お医者さんに連れて行くしかない。

「お願い、目を覚まして……!」

 両手を組んで、ギュッと目をつぶる。そして、神様に祈りを捧げた。

 すると……。

「ウィ、マドモアゼル」

 耳元で囁かれる、優しげな声。

「あ、ああ、タ、タカヒロくん!」

「ウィ、マドモアゼル」

 やった! タカヒロくんが目を覚ました! しかも、元気いっぱい、しゃんと立っている!

「よかったー! 私のお薬が効かなかったら、どうしようと思ったよ~!」

 ふう~、一安心。汗をぬぐって、タカヒロくんに笑いかける。

「どう? 頭がぼんやりするとか、そんなことはない?」

「ウィ」

「大丈夫? よかったぁ」

 にこりと微笑んで、うなづいてくれるタカヒロくん。彼が変なことにならないで、ほんとによかった。

「ごめんね、調合に失敗しちゃって。お詫びはまた今度するから、今日は帰ってゆっくり休んで」

「メルシー」

 気にするなとばかりに手をふって、店の玄関から出ていったタカヒロくん。彼には悪いことをしたなあ。また今度、少し豪華な素材を使ったポーションをご馳走してあげよう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 貴大が毒ポーションのちゃんぽんを飲まされてから一週間。

 一人の少女が、涙の淵に沈んでいた。

「ご主人さま……! ご主人さまぁ……! 私が悪かったんです。きっと、私が仕事を与えすぎたから……!」

「何を言っているんだい、ユミィ。ボクは絶好調さ。さあ、もっと仕事を持ってきてくれ」

「ご主人さま……! 元に、元に戻ってください、ご主人さまぁあ……!」

 うつろな目をして、表情だけは爽やかな笑顔を形作る何でも屋の店主。

 彼にすがりついて、涙を流すメイド。

 居候の混沌龍は、とうの昔に、頭の病によく効く秘薬を調達するため、極東に飛んでいる。

「いやあ、仕事っていいよね。人々の笑顔が、ボクの原動力さ!」

「ご主人さまぁぁぁ……!」

 その後、貴大が正気を取り戻すまでに、また一波乱あるのだが――――。

 それはまた、別のお話。











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