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白黒聖女様

連続バイトが終わったので更新。

「仲間になったら、一緒に暮らそうね。私たちを利用しようとする人たちは、みんな追い払っちゃって……それから、それから……」


 俺の頭を膝に乗せて、にこにことしながら俺の頭を撫でるメリッサとかいう少女。


 歳は……15ぐらいかな? まだ成人じゃなさそうだけど、女の子というにはやや大人びている。そんな少女が、俺をスキルで縛って【ブレイン・ウォッシュ】をかけている。


「草原に、小さくてもいいから一軒家を建ててね。それで、白くて大きいわんちゃんを飼って……」


 その間、寝物語のように聞かされるのは、メリッサの願望だ。やれ、二人でひっそりと暮らそうねだの、幸せになろうねだの、俺の都合を無視しているとしか思えない話ばかりだ。


 聞くに堪えない。【ソウル・バインド】も解けたことだし、そろそろ起き上がろう。


「もう、怖い人たちに利用されなくて済むよ? 安心してね……」


「俺を利用しようとしてんのは、お前じゃねーか」


「きゃっ!?」


 ヴィンヴィンと音をたてて光る手のひらを押しのけ、すっと立ち上がる。それがよほど意外だったのか、メリッサは尻餅をついて目を見開いている。


「な、何で……!? 【ブレイン・ウォッシュ】中は動けないはず……!?」


「【ブレイン・ウォッシュ】なんて、俺には効かん」


「何で……!?」


 だって、あれはNPCにしか効かんもんだし。俺はNPCじゃねえからなあ……ん? じゃあ、何でこの世界の人には効くんだろ……難しく考えるのはよそう。どーせわからんことだしな。


「あぅ、あわわ……」


「何でこんなことをした? 何が目的だ? お前は誰だ?」


 わたわたと慌てるメリッサに、矢継ぎ早に質問をぶつける。俺には効かんとはいえ、【ブレイン・ウォッシュ】が使える奴なんて始めてみた。一体、こいつは誰で、どんな目的があったのか。それを聞き出そうとしたんだが……。


「ソ、【ソウル・バインド】!」


「おっとぉ!?」


 光り輝く鎖が、メリッサの手のひらから俺に伸びる! しかし、俺は回避特化の斥候職だ。相手の手の内がわかっていれば、回避はたやすい。


 【緊急回避5】の助けもあって、難なく【ソウル・バインド】を避ける俺。ってか、単体相手なら最強の拘束スキルじゃねえか、それは。どんだけ強いんだ……。


 不思議に思って、【スキャン】を使ってみたら………………レ、レ、レベル250!?


 カンストレベルだぞ、カンストレベル!? ええええええええ……!?


 初めて見た! この世界の人間で、250に達している奴を初めて見た!


 基本的に、死んだらお終いなこの世界において、レベル250なんて、そう簡単になれるもんじゃない。幸運に幸運が重なるか、神から祝福を受けるか……とにかく、ゲームではカンストレベルの人なんてありふれていたけれど、この世界では本当に少ないんだ。


 イースィンドにも、いるっちゃあいるとは聞いたことがあったが、まさか、実際に会うことになるなんて……しかも、こんな形で!


 な、なんだ? 本当に何が目的だ? レベル250の奴が動くなんて、よほどの事態だ。じゃあ、俺に【ブレイン・ウォッシュ】をかけるのは、よほどの事態ってことなのか?


「あ、その様子だと……私のレベルに、気づいたんだね?」


 慌てる俺とは対照的に、メリッサは落ちつきを取り戻していた。にっこりと笑って、俺に近づいてくる。


「そう、私のレベルは250……貴方と、いっしょ」


「っ!?」


 俺のレベルを、知っているだと!? い、いや、こいつのレベルなら、【ジャミング】を破る方法はいくらでもある……くそっ、勇者辺りに気をつけりゃいいとは思っていたが、こんなところでバレるとは!


「辛かったよね。苦しかったよね。こんなレベルになんて、なりたくなかったよね。みんなといっしょがよかったよね」


 メリッサが、一歩、また一歩と近づいてくる。今度はなんだ? 【ブレイン・ウォッシュ】は通じないってわかっただろう。何をする気だ?


「でも、私がいるよ。私にも、貴方がいる。私たちは、同じ境遇の仲間なの。もう、一人じゃないの」


「は、はぁ?」


 さっきから何かしゃべってると思ってたけど、よく聞いてみると何やら電波じみている。なんだ、仲間だの何だのって。同じ境遇って何だ? お前も地球出身とかか? それとも……?


「どうしたの? ぽかーんとして……あ、そういえば、自己紹介がまだだったよね? ごめんね? 私の名前は、メリッサ・コルテーゼ。本当は、本名は教えちゃいけないんだけど……でも、貴方になら、いいよ。だって仲間だもん。ね?」


「はぁ……」


 そうか。メリッサの苗字はコルテーゼってのか。だからなんだって気分です。


 しかし、コルテーゼ……聖都サーバリオでよく見た苗字だな。神官服を魔改造したような服をきているし、こいつはその辺りの関係者なのかもしれないな。


 ……いや、待て。聖都は都っていうわりに狭いから、メリッサは周辺国の人、ってことも十分に考えられる。他の国でも、見たことあるもんな、コルテーゼって……。


 う~ん、レベル250の大物だ。名前は何かの手がかりになると思ったんだがなあ……。


 メリッサ・コルテーゼ……コルテーゼ、コルテーゼ……う~ん、わからん!


 しかし、メリッサで、コルテーゼか。あのM.Cとイニシャルが一緒とか、縁起でもねえな。くわばら、くわばら……。


 ……………………M.C!?


「うん? なあに?」


 もしかすると、こいつがれんちゃんが警告した相手……そして、俺たちをはめた奴!?


 いや、でも……違うかもしれない……いや、あいつが使ったのは何だ? 【ブレイン・ウォッシュ】……洗脳スキルだろうが!


 何者かに操られていたかのようなれんちゃん。


 「M.Cに気をつけろ」という警告。


 そして、今まさに、俺を洗脳しようとした、イニシャルM.Cの女……。


 これで疑わなければ、そいつは阿呆だ。


「てめーがM.Cか」


「え? な、何を―――」


 やられる前にやれ! がっしりとメリッサの服の襟首と袖をつかみ、大外刈りで相手を地面へと叩きふせる。


 こんなものでダメージを与えられるとは思っちゃいない。しかし、この行動にも意味はある!


 俺の尋問は、ここからだ―――!


「吐けー! れんちゃんに何をした! 俺たちに何をしたーーー!?」


「いやあああああああああああああああ!?」


 逃げること能わぬ三点ホールド。


 天地逆さになった囚われ人。


 そして、敵の局所を容赦なく攻める超振動。


 俺の必殺尋問……電気アンマを喰らって口を割らなかった者は、未だ、いない。






「しょーじき、すまんかった」


「ぐすぐす……」


 俺は、両手で顔を覆ったメリッサの前で、朽ちかけた礼拝堂の床に額をこすりつけていた。


 俺は、彼女の行動と名前から、てっきりM.Cか、その関係者かと思ったんだが……どうやら、違ったようだ。


「ごわがっだぁ……!」


「すみません、本当にすみません」


 そうとわかるまでに俺が繰り出した数々の尋問技は、メリッサの心を大きく傷つけ……気がつけば、彼女はわんわん泣いていた。


 今なお泣き止んではおらず、ぐずついた鼻声で俺の非を咎めている。こんな奴が、れんちゃんをあんな風にしたM.C? アホか。思い込みも大概にしろ、俺。


「私……M.Cとかいうのじゃないもん」


「それはわかった……わかったけど、じゃあ、お前は何なんだ? そのレベルは、一体……」


「それを教えてあげようとしてたのにぃ……ぐすっ」


「わー!? すまんすまん! マジですまんかった! ごめんなさい!」


 泣いた女には勝てないと誰が言ったか……ともかく、俺も勝てない。全戦全敗だ。素直に、降伏の意を示す。


「反省してる?」


「してます!」


「もうしない?」


「しません!」


「じゃあ……許してあげる。今回だけだよ?」


「ありがとうございます!」


 ふ~、何とか泣き止んでくれた……メリッサは、ポケットからハンカチを出し、涙を拭って鼻をかんでいる。そして、ハンカチの汚れだけを【白熱光】で浄化し……カンストレベルってこわいなあ……ともかく、浄化し終わったメリッサはこちらを向いた。


「さて。続きを話してあげるね? 私の名前は、メリッサ・コルテーゼ。貴方と同じ、レベル250。そして……」


 そこでメリッサは、少し間を空け、そして……言った。


「教会の、人工聖女なの」




人工聖女『ウィーン、ガガガ。デリート、デリート、デリート』


ではなく。どんな聖女なのかは、次話にて。

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