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助けて! 混沌龍に食べられちゃう!

今回も、まじめにバトル(性的な意味で)。


負けたらノクターン行き。

「なあ、何故駄目なのだ? 何が気にくわんのだ? なぁなぁ」

 

 グランフェリアへと続く街道を、俺と、ゴスロリ服を着た少女が歩いていた。


 彼女の名は、ルートゥー。御年千年を超える混沌龍、〈カオス・ドラゴン〉だ。


 三年前、俺と親友たちが死ぬ気で追い払った魔の山の主。グランフェリアを恐怖のどん底へと叩き落した黒き死の象徴。カンストレベルのBOSSモンスター。


 そんな化け物が、俺と子どもをつくるためだと言って、龍人へと変化したのだ。


 あの恐ろしき巨龍が、今は幼さが抜け切らない少女へと姿を転じている……いや、それどころか……。


「やはり、こちらの方がよかったか?」


 そう言うやいなや、みるみるうちにルートゥーの体が成長していく。手足は伸び、腰はくびれ、胸は大きく膨らんでいく。そして、ピンクの唇は、まるで黒色のルージュをひいたかのように黒く、艶やかに染まっていく。


「どうだ? これならそそるか?」


 そう言って、俺にしなだれかかってくる竜人の美女……いや、ルートゥー。急激な成長を遂げたルートゥーは、大人の女性の色気すら醸し出して、俺の体に腕を絡めてくる。


「だからっ! そういうの、やめ!」


「なんだ、やはりこちらの方が反応が悪いな。ジパング人は総じて幼女趣味であるとは、真実であったか」


 肉食獣に捕まったかのような感覚に背筋が震え、思わずルートゥーの腕を振り解く。すると、混沌龍の美女は少し残念そうな顔をして、瞬く間に少女の姿へと転じた。


「それとも……もしや、母となりたいのか? いいぞ、貴様を母体に改造することも、我が父となることも、できないことではない」


 今度は、変化は見せない。視界の下方で、なにやらルートゥーのスカートが盛り上がっているのが見えるが、あれは気のせい。気のせいったら気のせい。変化はない。


「俺は健全な男だ! 母親になりたいだなんて、そんな歪んだ願望、もってるわけねえだろ!」


「そうか。やはり、柔らかな女の体を組み伏せ、欲望のままに犯したいのか」


「言い方! 言い方!!」


 スカートの盛り上がりは、もう見えない。よかった……思いとどまってくれて、本当によかった。


 今は少女の体のルートゥーは、今度は髪型をいじっている。長いストレートの黒髪を、ウェーブをかけたり、短くしたりしている。次はどのような変化を見せつけてくることやら……。


 このように、〈カオス・ドラゴン〉は、年齢や性別、体の構造を自由自在に変えられる……らしい。それどころか、やろうと思えばどのような生物にもなれるとのこと。


 どうしてそんなことができるんだ、と聞いてみたところ、「混沌という呼び名は伊達ではない」という答えが返ってきた。意味わかんない。まさにカオス。


「どうだ? 我はかわいいだろう? 父様や母様、他の龍族の男どもも、みな一様にかわいい、かわいいと褒め称えてくれた。そんな我と子づくりしたいであろう? 我に種つけしたいであろう?」


 結局、長い黒髪をアップにまとめた程度で落ち着いたようだ。左右に体をふりふり、俺に自分の体を見せつけてくる。でも、子づくりだなんて……。


「したくありません!」


「なぜだっ!?」


「当たり前だろうっ! 何でろくに知りもしない相手と子どもがつくれるんだ! 少なくとも、俺はできない!」


「我はできるぞ?」


「俺ができないって言ってんの!」


 果たして本当に、意思の疎通はできているのだろうか。押し倒された時から今に至るまで、ずーっとこの会話の繰り返しだ。


「そもそも、なんで俺なんだよ……俺より強い奴はいっぱいいるだろう。ほら、勇者とか……ほら、天上龍とかいるじゃん! 強い奴がいいってんなら、そういう奴らにしとけって。な?」


「勇者は神臭いから好かん。そして、天上龍様は我々龍族の神様だ。どちらも子づくりの相手としてはありえない。我は、貴様がいいのだ」


「なんでだ? あの時、お前と戦ったのは俺だけじゃねえだろ。なんで俺なんだ」


「それは……き、貴様が、初めて、我の心臓を抉った者だからだ」


「……………………は?」


 やっぱり、ドラゴン語は難しいですね。まるで意味が理解できない。


 え? 今、何で俺を選んだんだ、って話をしているんだよ? なんで臓器の名前が出てくるの。


 俺の混乱に気づかず、ピンクに染まった頬に両手を当てたルートゥーは、恥ずかしげに話を続ける。


「我が龍鱗を貫く短刀……肉や骨を断ち切り、奥へ奥へと沈められる魔素の刃……そして、我が心臓を蹂躙する貴様のスキル……どれも甘く、切ない感情を我にもたらした」


「……………………え?」


 俺の【ピアース・エッジ】で心臓を貫かれて、その感想? え? 心臓破れちゃったんだよ? カンストBOSSって、怖いなぁ……。


「こんこんと湧き上がる恋慕が、我を酩酊させた。我は波に翻弄される木の葉のようだった。それは、貴様に心臓を貫かれた一瞬のうちに感じたことだ。まるで爆発のようだった……例えるならば……そう、赤い実、はじけた」


 やかましいわ! って、実際に心臓はじけたわけだから、とんだブラックジョークだな……。


「気がつけば、貴様は姿を消していた。我に狂おしいほどの恋情を植えつけ、いずこかへと去っていたのだ。どうしようもない感情を持て余し、毎夜毎夜、我の心臓は切なく疼いた……貴様を想わぬ日はなかった……」


 ルートゥーの目が、潤んでいる。頬は赤く染まり、への字に結ばれた唇はひくひくと震えている。そして、混沌龍の少女は、俺の胸へと顔をうずめてきた。


「嬉しかったのだぞ……貴様の波動を感じ取った時、我は涙すら流した。貴様に会うために、体も綺麗に磨いた。服も新調した。そして、準備が整った後、高鳴る鼓動を抑えながら、幸せを噛み締めるように、ゆっくりと時間をかけて貴様の元へと飛んできたのだ」


 俺の体に回された腕に、ギュッと力が籠もる。俺の服に埋められた口から、熱い吐息が漏れるのがわかる。ルートゥーが、俺に体のすべてを預けているのがわかる―――。


「これで、我の気持ちはわかっただろう……? さあ、タカヒロ……我と、子づくりしよう……?」


 潤んだ瞳で俺を見上げ、ルートゥーがささやいてくる。


 彼女の言葉は、きっと偽りのないものだ。包み隠さず、胸のうちをさらけ出しているんだ。


 ならば、それに対する、俺の答えは決まっている―――。


「お断りします」


「なぜだっ!?」


「自分、心臓貫かれて喜んじゃうようなバイオレンスな人は、タイプじゃないので……」


「我の初めてを奪っておいて、何をぬかすかっ!?」


「ひ、人聞きの悪いことを!? 言い方っ! 言い方っ!!」


 やいのやいのと騒ぎつつも、俺たちは街道を歩き続ける。俺は、グランフェリアの我が家へ帰るために……ルートゥーは、俺に嫁入りするために。


 ……連れて行くしか、ないんだろうなぁ……。


 帰れと言われて素直に聞くような奴じゃないし、力づくで追い返そうにも相手の方が強い。どうにもならなさそうだ。


 すまん、ユミエル。同居人が増えそうだ。






「ほほう、ここが貴様の家か。そして、我らの愛の巣か」


「違う違う。愛の巣にはなりません」


「我は思うのだ。つれない態度も、またいいと」


 だれか、俺の尻を撫でてくる竜人少女をどうにかしてくれ。こういうのは、勇者辺りがなんとかしてくれるんだろう?


 でも、勇者はもうこの国にはいない……〈カオス・ドラゴン〉襲来から五日が経ったが、〈カオス・ドラゴン〉がどこにも見当たらないから、次の現場に向かったそうだ。勇者って忙しいんだなぁ……。


 しかし、やっとこさグランフェリアに帰ってきて驚いた。結局、〈カオス・ドラゴン〉は、〈黒騎士〉がどうにかしたって話になってるんだもんなあ。


 帰ってきたら、やけに街のみんなが落ち着いていたもんだから、門番のおっちゃんに話を聞いてみたんだわ。すると、こんな答えが返ってきた。


 黒い衣装に、黒い兜。全身黒づくめの謎の騎士が、〈カオス・ドラゴン〉の眉間に剣を突き刺し、いずこかへと連れ去っていった。その後、どこからも〈カオス・ドラゴン〉の目撃情報が上がらないことから、彼の者が混沌龍を討伐したのだろう、という線が濃厚になった。


 今も〈カオス・ドラゴン〉捜索は続けられてはいるが、占い、探索系スキル、マジック・アイテム、いずれも「巨大な龍」の反応を示さないことから、〈カオス・ドラゴン〉の死亡は確実視されている。


 今はむしろ、〈黒騎士〉の正体について、街のみんなはあれこれ言っているよ。


 これが、今のグランフェリアの実情らしい。


 ああ……すげえ的を外してる。


 〈カオス・ドラゴン〉は死んじゃいない。俺と腕を組み、俺の隣に立っている。かわいらしい、少女の姿で。そりゃあ、「巨大な龍」を探してたら、今のルートゥーは見つからんわな。


 それに、〈黒騎士〉ってなんだ。俺のことか? 俺、〈カオス・ドラゴン〉の単独撃破とかできないんですが……なんで英雄視されてるのさ。正体がバレていないだけ、まだマシか……とっさの思いつきとはいえ、兜被ってて本当によかった。


 でも、みんながそれで納得しているのなら、それでいいのかもしれない。英雄が現れ、恐るべき〈カオス・ドラゴン〉を討伐した。それでみんなが安心して生活できるのなら、わざわざ真実を教えることもないだろう。


 幸い、ルートゥーはおとぎ話に出てくるような、いたずらに人間を害する「悪いドラゴン」じゃないみたいだしな。こいつが興味があるのはあくまで強者で、弱い人間はわざわざ命を奪うことはしないらしい。


 確かに、砦での攻防では、あからさまに手加減していたもんな。怪我人は出たけれど、死者はゼロだということが、ルートゥーの言葉が真実であると語っている。


 だから、ついてきたがるルートゥーを街の中にまで連れてきたんだが……。


「いいか、これから家に入るけど、変なことは言うんじゃないぞ。子づくりとか、何とか……」


「ああ、承知しておるわ。何度も言うでない」


 龍の翼と尻尾を揺らし、余裕たっぷりな顔で俺に応えるルートゥー。大丈夫かな……大丈夫なのだろうか……いや、大丈夫だ! 大丈夫な、はず!


 帰る途中に立ち寄った村とかでは聞きわけがよかったからな。人間社会のルールも熟知しているようだし……ここは、千年の時を刻んだ、人生経験豊富な龍を信じよう。


「じゃあ……開けるぞ」


「うむ」


 いよいよ、帰宅の瞬間だ。ここまで長かった……疲れた……まずは、風呂にはいって寝よう。ルートゥーは……ユミエルに任せよう。


 そう思って、玄関のドアに手をかけようとした瞬間……内側から、ものすごい勢いでドアが開いた。


「ご主人さまっ!!」


「うおっ!?」


 そこから飛び出してきた小柄な女の子が、勢いを殺さず俺に抱きついてくる。って、こいつは……。


「ユ、ユミィ?」


「ご主人さま……! ご主人さま……!」


 おそらく、泣きつかれて寝ていたのだろう。目は充血し、髪がほつれている。いつもアイロンがかけられてしわ一つないメイド服も、今はくしゃくしゃで少し汚れている。


「ど、どうしたんだ、ユミィ? なんで泣いてるんだ?」


 こいつが涙を見せたのは、これで二回目だ。しかも、前よりもひどい様子で、憔悴しきっている。一体、何があったというのだろう。


 わけもわからずユミィの頭を撫でながらたずねてみると、涙で声を詰まらせながら、たどたどしく語り始める。


「わた、私、ご主人さまが死んだと思って……ご主人さまが、私をおいて死んじゃったと思って……いつまで経っても、ご主人さまが帰ってこなくて……うぅ……うええ……」


「おいおい、帰るのが遅れたのは謝るけど、なんで俺が死んだとか……………………はっ!?」


 思い出してみれば、こいつとの最後のシーンは、死亡フラグ満載のもの……普通に考えれば、勝てるはずのない〈カオス・ドラゴン〉に単身で挑みかかるとか、死以外の未来が見えない。


 普通は、俺が死んだと思うだろう。〈カオス・ドラゴン〉にミンチにされたと思うだろう。実際、同じ状況なら、俺でもそう思う。


 そのことを、すっかり失念していた。だって、帰る途中はルートゥーをどうしようか、頭がいっぱいだったし、帰ってきてからも、街は平和そのものでいつも通りだったし……ユミィが、俺が死んだと思って落ち込むという悲劇的なシーンが、浮かんではこなかったんだ。


「ごめん……正直、すまん。いや、ホントに」


「ばかぁ……! ご主人さまのばかぁ……!」


 あわわわわわ……! えらいことしてしもうたぁ……!?


 え、えらいこっちゃ、えらいこっちゃ……どうする!? どうやってユミエルに謝意を示す!?


 土下座か!? ここはやはり、土下座か!?


 答えが出ぬまま、俺はひたすらに泣きじゃくるユミィの頭を撫で続ける……が、そんな時間も長くは続かなかった。


「わ、我というものがありながら……なんだ、その女は!?」


 狼狽した声に振り向けば、顔を青くしてわなわなと震えているルートゥーの姿が……俺、知ってる。


 こういう時、たいていろくなことにはならないって!







残り一話、貴大は貞操を守れるのか。

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