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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

2人だけのPvP編

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二つに一つ

「これならどうだ! 【ストロング・ブレイド】!!」

「【ミラージュ・ボディ】……!」

 れんちゃんのジョブ、「ブレイブ・フェンサー」は、手数で攻めるタイプではない。だが、彼は類稀なる剣捌きで、俺がデコイとして生み出した四人もの分身をただの一薙ぎで全て両断してしまう。

「まだまだ! 【エレメンタル・ディバイダー】!!」

「くっ……! 【アクセル・ファイブ】!!」

 今度は、火、水、風、土の属性付きの斬撃だ。威力は他の最上位スキルと比べて低いが、魔法剣として分類されるこのスキルは、こちらの物理防御を突き抜けてくる。

 相手は攻撃力特化のジョブで、こちらは高い俊敏性の代わりに防御を犠牲にしているジョブだ……喰らってしまえば、ただでは済まない。

「流石だな! 俺もいいとこ見せなきゃ……やっ! はあっ! せいっ! ……ここだっ! 【ドラゴン・ファング】!!」

「し、【蜃気楼】!!」

 連撃からの【ドラゴン・ファング】……次々に繰り出される斬撃で傾いだ体では、龍のアギトのようにこちらを噛み砕かんと迫る、荒々しい上下二段斬りはかわせない。

 だから、一日一回しか使えないスキル、奥の手の【蜃気楼】を発動させて、自身を幻と化して無理矢理避けた。これで、もう同じ手は使えない。

 そうまでして、俺は避けた。避け続けた。かれこれ、一時間はれんちゃんの攻撃を避け続けたんじゃないだろうか。

 身体能力で、スキルで、直感で……俺は、こちらからろくに仕掛けることもなく、ただひたすらに避け続けた。

 れんちゃんの真意を確かめるために。もしかしたら……そんな思いを捨て切れなかったために。

 だが、事ここに至ってようやく……ようやく、理解できた。

 れんちゃんは、本気で俺を殺す気だ。説得の言葉も届かなければ、迷いも躊躇も見せない。一つ一つの攻撃は的確に急所を狙っているし、当たればただでは済まないスキルを連発してくる。

 ガス欠を狙いもしたが、回復薬を惜しげもなく使う様から、準備は万端ということが分かる。

 つまりは、れんちゃんは最初からそのつもりで、俺に会いに来たんだ。俺と殺し合うために、俺を訪ねてきたんだ……!

「何があったんだよ、れんちゃん! 何で地球に帰ったはずのお前が、わざわざ俺を殺しに来るんだよ!!」

 この問いも、何度目だろう。せめて理由を聞きたかった。納得できないまま、親友に刃は向けたくなかった。でも……。

「素敵な事さ」

 こうやって、はぐらかされる。

「素敵な事が起きたのさ、貴大。だから、俺はお前と闘いたくなったんだ」

 【蜃気楼】の効果が切れた俺の方へ振り返り、にこりと笑って説明になっていないことを口にする。

「それじゃ分かんねえよ! ちゃんと説明しろよ!」

「言葉はもういいよ。お喋りもいいけど、今はこっちだ……はああ!」

 そして、また俺に斬りかかってくる。

 敵が再度、戦闘態勢に入った……それがスイッチとなり、俺の感覚が研ぎ澄まされていく。

 時間がゆっくりと流れる……纏わりつく空気が粘液のようにどろりと重たくなっていく……。

 緩やかに動く夜闇の世界を映し出す視界には、段々と俺とれんちゃんしか存在しなくなっていく……いや、違う。

 いる。殺し合う俺たちの隣に、誰かがいる。

 それは、学生服を着た俺とれんちゃんだ。地球にいた頃の俺たちだ。

 記憶から抜け出た幻は、傘を剣に、学生鞄を盾に、チャンバラごっこに興じている。何の悩みも無いとばかりに、笑いあっている。

 違う。違う、違う! あれは幻なんかじゃない……! あれが本当の俺たちだ。

 共に過ごし、共に笑う……それが、俺たちの関係だったはずだ……!

「そうだろう、れんちゃん……!」

「そうだよ、貴大! 俺は今、最高に楽しい!」

 今の俺とれんちゃんは、同じものを見ているようで見ていない。同じ世界にいるようで、いない。

 言葉が届かない。心も通わない。それがこんなにも悲しいことだなんて、俺は知らなかった。

 知りたくも、なかった。





「はぁっ! はぁっ! はぁっ! ぐぅっ……!」

 どれだけの時が流れただろう……俺とれんちゃんの攻防は、未だ続いていた。

 れんちゃんが放つ斬撃波で地形は歪み、そこかしこにクレーターができている。そんな攻撃に晒されたんだ。俺も無傷では済んでいない。

 体中に幾条もの切り傷を刻まれ、身代りアクセサリは破壊された。顔や装備は地を砕く一撃で舞い上がった土埃で汚れ、片腕は先ほど斬り飛ばされた。

 化け物だ。普段は意識しないが、カンストレベルというのは化け物と同義なんだ。俊敏性で勝る俺を、力と技でねじ伏せるなんて、化け物以外の誰ができるというのか。

 少なくとも、「五メートルにも及ぶオーラの刃を振り下ろし、地面ごと敵を爆砕する」なんて芸当ができる存在を、俺は他に知らない。

「ぐああ……! 【ハイ・ヒール】……!!」

 だが、それなら俺も化け物だ。地面に落ちた左腕を切断面に合わせて、回復魔法をかける……これで元通り、腕は繋がる。

 高過ぎるレベルがもたらすステータスによって、俺の【ハイ・ヒール】はレベル150の神官職が使うものと大差ない効果を誇る。千切れた腕も繋がるし、折れた脚も瞬時に元に戻せる。

 化け物のようなれんちゃんの攻撃の直撃を何時間も避け続け、多少の傷ならすぐに元に戻す……化け物以外の、何者でもない。

「ほら、貴大~? 早くしないとユミエルちゃん、死んじゃうよ?」

 その化け物の片割れが、何かを言っている。

 ユミィが死ぬ? そうだ、早くしないとユミィが死んでしまう……二人の化け物の闘いの犠牲になって、罪もない少女が命を落としてしまう。でも……。

「斥候系お得意の一発逆転を狙ってるんじゃないかとも思ったけど……う~ん、何か違うねえ? 何で攻撃しないんだろ? ユミエルちゃんはそんなに大事な存在じゃなかったのかな?」

 そうじゃない。ユミィは大事な存在だ。何だかんだで俺を思いやってくれる大切な仲間だ。でも……!

「お前だって、仲間なんだ……!」

 そう、そうなんだ。れんちゃんだって大切なんだ。俺は、どちらが大事だなんて決められない。おかしくなったからといって、れんちゃんを切り捨てることなんてできない。

 なのに……!

「らしくないよ、貴大。貴大は、正義感が強い奴じゃないか。悪い奴がいて、力があるのなら、躊躇なんてしないはずだ。ほら、早くかかってきなよ。その手のナイフを、攻撃に使いな」

 もう、れんちゃんは俺の言葉など聞いちゃいない。俺の葛藤にすら気付かず、「早く、早く」と俺を急かす。「殺し合おう!」と俺を急かす。

 あまつさえ、こんなことまで平気でやる……!

「避ける貴大に何とか当てるってのも楽しいけど、俺は剣をぶつけ合いたいよ……そうだ! アレがあったんだ! ちょっと待っててね……」

「はっ、はっ、はっ……?」

 まだ呼吸が整わない俺を置き去りに、れんちゃんはアイテム欄から何かを取り出す。一見、映像水晶のように見えるが……なぜ、この場で映像水晶を?

 そう疑問に思う俺の前で、何らかの映像が映し出される。宙に浮かびあがる立体映像。それが俺に見せたのは……。

「ユ、ユミィッ!?」

 ベッドで死人のように眠るユミエルの姿だった。

「あれ? もう死んじゃったのかな? まだ三時間ぐらいあるけど……あぁ、よかった! まだ生きてる! 僅かにだけど、ちゃんと息してるよ! ほら、貴大も見えるだろう?」

「あぁ、あああ……!!」

 見える。俺にも見える。最後に見た時よりも、ますます死の色を濃くしたユミエルが。最低限の生命活動しか保てていない、あまりにも頼りない少女の姿が……!

「こないだお邪魔した時に、使い魔を忍ばせていたんだ。それにライブ映像を送ってもらったんだけど……よかった。貴大、さっきより必死な顔になってるね」

「うああ……!」

 突然宙に映し出された、「助ける」と決めた少女から目が離せなくなる。今にも息を引き取りそうなユミエルの姿に、脚がガクガクと震える。

「いいの? 貴大? まだ制限時間は来てないけど……ユミエルちゃん、あんまり丈夫な子じゃないみたいだね? もう一時間も持ちそうにないよ?」

 困った顔をして、れんちゃんが俺に問いかけてくる。あれはユミエルが死ぬからじゃない。人質が死ぬから困っているんだ。

 それでも、俺が動かないのを不満に思ったんだろう。れんちゃんは、俺の反応を窺いながら、使い魔を操作して様々な角度で死にそうなユミエルを写す。

 こ、この……!

「う~ん……俺を攻撃するまでには至らない、か。しょうがない。この娘は殺そう。使い物になりそうにないから……所詮はその程度ってことだね。やっぱり、大事とは言っても元が愛玩奴隷だから、玩具ぐらいにしか思ってなかったんだよね?」

 この……!

「ごめん! 俺の人選ミスだね。次はちゃんとした「人間」を選ぶよ。さっ、使い魔にゴミを片付けてもらうから、ちょっと待ってて……」

「クソ野郎がああああああ!!!!」



 分かった。アレは俺の親友じゃない。クズだ。人を玩具呼ばわりする、人間のクズだ。

 何があったかは知らないけれど、こんなクズにユミエルを……表情が表に出ないだけで、ちゃんと人を思いやれる優しい心を持つ少女を殺させるわけにはいかない。

 殺す。

 俺が、この手で殺す。

 奴を殺して、【カウント・デス5】を解いてやる……! 

「【アサシン・インスティンクト】オオオオオオオオオオオ!!!!」

「そうか! その気になったか、貴大!」

 斥候系最上位ジョブの一つ「無影の暗殺者」が最後に覚えるスキル、【アサシン・インスティンクト】を発動させる。

 途端に、俺の体から噴き上がるどす黒いオーラ……それは、俺の怒りと殺意を体現しているように荒れ狂う。

 そして、アイテム欄からずるりと抜き出したのは、暗殺専用ナイフ「Et In Arcadia Ego」。血だまりのような色をしたナイフは、月灯りを反射することもなく俺の右手に収まっている。

 どちらも、【即死スキルの成功確率上昇】の効果を持つものだ。奴に勝つ……いや、より確実に、より速く、奴の息の根を止める。それには、【首狩り】のような即死スキルを用いるしかない!

 だが、同レベルの戦士職相手に、真正面から【首狩り】なんて通じるはずがない。だったら、俺が使うべきスキルは……!

「蓮次いいいいいいいいいいいいい!!!!」

「貴大おおおおおおおおおおおおお!!!!」

 片や殺意にまみれた叫びを放ち、片や歓喜に満ちた声を上げる。

 自己バフで輝くオーラを身に纏う奴と、黒煙のようなオーラで闇夜に溶け込む俺。

 どこまでも対照的な俺たちは、それでも、「相手を殺す」という行動においては一致していた。

 迫る……引き延ばされた意識においても、風のように速く俺たちは接近する。レベルとスキルの恩恵を最大限に駆使し、敵を殺さんと大地を駆ける。

 そして、数瞬後……お互いの間合いに踏み込んだ俺たちは、必殺のスキルの発動を宣言した。

「【ブレイブ・スラァァァァァァァシュ】!!!!」

「【心臓貫き】ぃぃぃぃいいいいいい!!!!」

 白と黒のオーラが混じり合う世界で……。

 俺は、確かな手応えを感じていた。



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