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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

2人だけのPvP編

118/300

ディスコミュニケーション

 走る。

 走る、走る、走る……【インビジブル】で姿を隠し、民家の屋根から屋根を、放たれた矢のように一足跳びで駆け抜ける。

 そして、跳ぶ。

 俺が【ハイジャンプ】を用いて本気で跳躍すれば、高さ十メートル程度の城壁などあってないようなものだ。手すら付けずに大きく弧を描いて飛び越え、【グライダー】で滑空し、グランフェリアの街から幾分か離れた場所に音もなく着地する。

 ここで、【インビジブル】の効果が切れた。しかし、かまうものか。ここまで離れれば、【隠蔽5】で希薄な存在となった俺に気付ける者などいはしない。

 何も気にする必要はないと、着地から間もなく、またも全力で走る。

 舗装された街道じゃない。獣道でもない。

 鬱蒼と生い茂った森林地帯に突入し、俺はただただ走り抜ける。「あの荒野」を目指し、木から木へと跳び移り、行く手を阻むモンスターを鎧袖一触で木っ端微塵に吹き飛ばし、道なき道を、ひたすらに突き進む。

 分かる。迷いはしない。MAPなど必要はない。フレンドリストで「あいつ」の位置を確認するまでもない。

 ただ、なぞるだけだ。あの日三人で通った道を……二年経った今でも鮮明に思い出せる別離への道を、なぞるように進むだけ……そうすれば、「あいつ」に会える。れんちゃんに……倉本蓮次に。

 俺の幼馴染にして親友であるれんちゃんに会える。ずっと会いたかった人に、もう会えないかとも諦めかけていた友だちに会えるんだ。

 なのに……なのに、心に満ちるのは疑いと悲しみだけ。どちらも、親しい者に向けるべき感情じゃない。

 でも、れんちゃんがやったことは……そうせざるを得ないだけの、影響力があった。

「ああああああああ!!!!」

 余計なことを考えると脚が鈍る。胸に満ちてくる暗雲を叫び声と共に吐き出して、俺は走る。

 ユミエルにかけられた【カウント・デス5】のリミットが来てしまう前に……日が沈み、日付が変わる前にれんちゃんの元へと辿り着けるように、俺は全力で走り続けた。

 そして、森を抜け、荒野を進み、辺りが夕陽に赤く染められ始めた頃……俺は、辿り着いた。

「あれ? 案外早かったなあ。貴大のことだから、もっとギリギリまで迷ってると思ったよ」

 草木もろくに生えない荒野の中心部……かつて、地球への帰還を信じて辿り着いたダンジョンの跡地。

 俺だけを残し、きれいさっぱり消失した地下ダンジョンの跡には、大きな穴が開いている。

 その縁で、あいつは待っていた……赤黒い夕陽に照らされ、それでも陰りの見えない笑顔で。

 倉本蓮次は、宣言通り俺を待っていた。





「さあ、闘おう! 俺、もう我慢できないよ。ああ、もうワクワクしっぱなしだ。貴大もそうだよな?」

「……や……」

「どうする? いきなり始めるか? でも、そうしたら戦士職の俺の方が有利だしなぁ……十秒やるから、今から隠れる?」

「……や……ろ」

「ああ、でも、そうしたら今度は俺が不利だ! 斥候職相手だと、イニシアチブ握られたら流石に難しいっていうか……難しいなぁ。なあ、どうする、貴大? どうやって殺し合おうか?」

「やめろ!!!!」

 もしかしたら、何か事情があったのかもしれない。もしかしたら、致死性のスキルを人にかけざるを得ない事態に巻き込まれているのかもしれない。

 そう思って、れんちゃんが喋るに任せていたら……口から飛び出してくるのは、どれも俺と殺し合いたいという言葉ばかり。

 耐えられない。親友に無邪気な殺意をぶつけられるなんて、耐えられるもんじゃない。だから、堪らなくなって止めた……真意を聞きたいと思っていたのに、荒々しく叫ぶように声を上げ、無理矢理れんちゃんの言葉を遮ってしまった。

「ど、どうしたんだ、貴大? 俺、何か変なこと言ったか……?」

 こんな気遣いは、前と一緒だ。れんちゃんは、悲しげに顔を歪める俺に近づいてきて、肩に優しく手を置いてくる。だが……。

「やっぱり街中でやり合った方がよかったのか? ごめんな……思い出の場所だからって、勝手に場所を決めちゃって……よし、今から戻ろう! 途中でユミエルちゃんのリミットが来ちゃうけど、街にはいっぱい代わりになる人がいるから大丈夫だって! まだ全然仕切り直せるよ」

 言ってることは滅茶苦茶だ。れんちゃんは、平気な顔をして犠牲を出すと言う。まるで、チェスの駒のように、グランフェリアの街の人を……ユミエルを使おうと言う。

 それは、以前のれんちゃんなら考えもしないことだ。

「違う! そういうのを止めろって言ってんだ! ユミエルにかけた【カウント・デス5】を解け! 街の人にも手を出すな!」

「えっ? で、でも、そうしないと貴大は本気で闘ってくれないし……俺、どうしてもお前と闘いたいんだよ」

「俺はそんなことしたくない! なぁ、俺たち、友だちだろ……? なんでそんなことしなくちゃいけないんだ……!?」

 こんな事を一々言って聞かせなければならないということが、とても悲しかった。

 「全部言わなくても分かる」……そんな関係であったと思っていた相手に話が通じないという事実は、想像以上に俺を打ちのめした。

「貴大、それは違うぞ」

「れんちゃん……?」

「友だち……いや、親友だからできるんだ。気が置けない仲じゃないと、殺し合いなんて恐ろしいことできないよ」

「れんちゃん……!!」

 もう、俺には彼の言っていることがまるで理解できなかった。

 嬉々として、「さあ、殺し合おう!」と口にするれんちゃんの心情など、理解できるはずもない。

 これで分かった。説得はもうできない。

 いや、できるかもしれないが……でも、残された数時間のタイムリミットで今のれんちゃんの考えを正すことは、不可能に思えた。

 だから俺は……頼んだ。せめてこれだけはという思いを込めて、頼んだんだ。

「れんちゃん……分かった。闘うよ」

「おお! 分かってくれたか……」

「ただし! ただし、ユミエルの【カウント・デス5】は、俺が勝っても負けても解いてやってくれ。頼む……!」

 それだけ言って、頭を下げる。

 出発前に決めたこと。それは、「ユミエルだけは助ける」ということ。

 どんな形であれ、被害者である少女だけは助ける。そのためなら、れんちゃんとも闘いもするし、こうして頭も下げる。

 今になっても、どうしてれんちゃんがユミエルに【カウント・デス5】なんてかけたのかは分からない。

 ただ、あと数時間で、罪もない彼女の命が失われることはハッキリとしている。そんなの、俺には耐えられない。

 でも、親友と闘うのも嫌だ。物心付く前からの付き合いなんだ。そんな奴と、本人がしたいと言ってるからといって殺し合いなんてしたくない。

 だから……だから、この願いだけは聞き入れてもらいたい。そうしたら俺は……。

「ダメだよ」

「っ!」

 だけど、それすら通じない。心を交わせなくなった親友には、心からの願いであっても通じない。

 困った顔で俺の願いを断ったれんちゃんは、またも「ダメだ」と繰り返す。

「うん、ダメだ。そんなことしたら、人質の意味がなくなるじゃないか。俺が頷いたら、貴大、わざと負けるつもりだろう? お前は優しいもんな。俺もユミエルちゃんも殺したくないって考えていることぐらい分かるよ。でもね……」

「ぐあっ!?」

 ヒュン、ヒュンと、空を切る音すら置き去りにして、れんちゃんが腰に佩いた剣を抜き放ち、二度振るう。それは俺の頬や肩を薄く切り裂き、血を流させる。

 その動作に、躊躇いなど感じられなかった。むしろ、先ほどまでよりも笑みを深めている。れんちゃんは、本当に嬉しい時と同じ顔で、俺の血が付いたロングソードを見せつけるように掲げている……!

「俺は、本気のお前と闘いたいんだ。困った人を前にすると、動かずにはいられないお前……俺は、そんな貴大がとても好ましく思う。そんな人間になりたいなって、秘かに目標にしていたぐらいだ」

「な、何を……?」

「だからさ、そんなお前だからこそ、俺は殺したいんだ。誰かのために必死になるお前と、思う存分に闘いたい。お前となら、何をやっても楽しいもんな……きっと、殺し合いだって最高のものになるさ。さっ、殺し合おう? 貴大」

 狂気に染まってはいない。口調はあくまで穏やかだ。表情も、子どものように無邪気ではある。

 ただ、言っていることは……言っていることだけが、理解できない。

 ……ああ、何で剣を振り上げているんだ? それも理解できない。

 理解できない……できない、できない。分からないことがどんどん増えていく。

 幼馴染が、親友が、理解できない存在に変わってゆく……。

「はっ!!」

「うあああっ!?」

 ザンッ! という音を立てて、俺が数瞬前まで居た場所に細長い斬撃痕ができる。戦士系最上位職の一つ、「ブレイブ・フェンサー」による斬撃波だ。このジョブに就いた者が振るう剣は、見た目以上の長さを誇る。

「……貴大、本気出せよ。お前だったら、こんなスキルでもない攻撃、かすりもしないはずだろう?」

「あ……ぁぁ……」

「それとも、ユミエルちゃんだけでは足りないのか? そうだな……よし、お前が闘わないのなら、グランフェリアの街を滅ぼそう!」

「あぁっ!? やめっ、止めろ……!」

「心配しなくても大丈夫だって! 俺たちぐらいのレベルだったら、一日あったらそれぐらいはできるさ。でさ、更地になったグランフェリアで、思う存分闘おう!」

「止めてくれぇぇぇぇえええっ!!!」

 荒野に日は落ち、辺りは闇に包まれる。

 代わりに、丸い月が俺たちを覗きこむように遠くの山の影から顔を覗かせたが……。

 その光は、あまりにも儚く、頼りなかった。





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