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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

過去編3

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「うおおおおおおお!!」

「ここで……ここまで来て、死ねるかーーー!!」

 グランフェリアの街を出た俺たちは、目的地……「M.Cの日記」の末尾に記された、帰還ゲートがあるダンジョンへと向かった。

 街道を逸れ、森を抜け、草原地帯をどれほど歩いただろう……いつしか日は昇り、自分たちが歩いているのが荒野だということに気がつかされた。

 そう、荒野だ。俺たちの運命を大きく変えたあの日……≪Another World Online≫にダイブした俺たちの目の前に広がっていた、「未踏破地区」と同じ荒野だ。

 いや、違う。ここは仮想現実じゃない。一つの現実世界なんだ。それは分かっていた。分かってはいたが……あの日の荒野と同じ、赤茶けた大地が朝日に照らされた時……俺たちは、期待に高鳴る鼓動も、早まる足も、止めることはできなくなっていた。

 そして、荒野に蔓延るモンスターどもを蹴散らしながら進んだ先に……それは、あった。

 荒野の岩陰に隠れる石造りの階段。その先に待ち構える、鎖と錠前でがんじがらめに縛りあげられた金属製の大きな扉。同じだ。俺たちをこの世界へと落としたダンジョンが、そこにあった。

 通路も同じ、出現モンスターも同じ、宝箱の位置も、仕掛けられた罠も同じ。

 あの日のまま切り取られたかのようなダンジョンがあったんだ!

 「帰れる」、「あの日々へ、元の世界へ、帰れる」。荒野にぽつんと存在する小さなダンジョンの存在に、俺たちの誰もが帰還を疑わなくなった。赤土を踏みしめて進むたびに段々と不安に染まっていく優介たちの顔も、ダンジョンを進むにつれてみるみるうちに笑顔を取り戻していったんだ。

 だからさ、カンストレベルの俺たちでも苦戦するダンジョンを、破竹の勢いで進んでいったよ。「帰れる」と確信した俺たちは、どんなモンスターもトラップも止められるもんじゃあなかった。

 でも、油断もあった。「一度攻略しているダンジョンだから」という気の緩みや余裕があったんだと思う。

 そこを見事に突かれた形となって……俺たちは今、全滅の危機に瀕していた。

「はあっ、はあっ、はあっ……!」

「ほら、エリクサーだ……もうこれで手持ちはなくなったけどな」

「ありがと……げほっ」

 難なくダンジョン最深部BOSSの間に辿り着いた俺たちは、その部屋の奥に安置されたオーブへ……俺たちが集めたオーブの力を収束させ、異世界への扉を開くと「M.Cの日記」に書かれていたコア・オーブへ、駆け寄ろうとしたんだ。

 だが、奴が現れた。元の世界のこの部屋にはいなかった、恐るべきBOSSモンスターが……。

 「ワールド・ゲート・ガーディアン」。

 身の丈三メートルほどの、メタル・ゴーレム。そいつが、完全に気を抜いてコア・オーブに近づこうとした俺らに襲いかかってきた。

 床を突き破って現れてさ……もうモンスターは出ないもんだとばかりに思っていた俺らは初動が遅れて、まともにガーディアンが振りまわす拳を受けてしまったんだ。その時点で、下手をすると死んでいた。魔法職の優介なんか、部屋の入口まで吹き飛ばされて、残り体力が十分の一まで削り取られたぐらいだ。急所に当たっていたら、命はなかった。

 俺たちも、腕が折れたり脚が折れたりと散々だったが、それでもまだ生きていた。帰還の邪魔をする無粋なゴーレムを粉砕してやると闘志を燃やしたぐらいだ。

 でも、そんな炎と燃える心も……一時間も経つうちに、絶望へと変わり始めていた。

 コア・オーブを護る「ワールド・ゲート・ガーディアン」が、どうやっても倒せなかったんだ。レベルは250ながらも、移動力を犠牲にしての攻撃力、防御力特化型BOSSモンスター……特に、防御力は守護者を名乗るに相応しいものがあって、物理でも魔法でもなかなか決定打を与えるに至れなかった。

 まごまごしているうちに、敵は【オート・ヒール】で体力を回復させていく。これでもか、これでもかと浴びせ続けた攻撃も、こちらのSPスキル・ポイントと体力が切れて退避している間に、プラスマイナスゼロになってしまう。

 これで最後だと、レアな回復薬もバフ薬も使ったが……結局、相手の体力の半分までしか削ることはできなかった。

 そして、またもBOSS部屋から退避しての小休止……俺たち三人は、まだ誰も欠けちゃいない。全員健在ではあるが……その顔は不安と焦燥で染まりきっていた。

「あいつは……倒せない」

 元の世界へのゲート……それを前にして、「ワールド・ゲート・ガーディアン」に阻まれて、帰還することができない。そんなジレンマに苛まれていた中で、優介はよくあの結論を出せたと思う。

 れんちゃんと同じく、帰還を強く望んでいた優介だ。愛する者を元の世界に残したままではいられないと何度も言っていた優介だ。そんなあいつが、自ら「帰還はできない」と仄めかすことを口にするなんて……。

 でも、倒せない……認めたくはないが、それは事実だ。それどころか、このまま挑んでいてもジリ貧になって全員倒れる恐れがあった。そうはさせないと、優介は俺たちの身を案じ、リーダーとして飲み込み難い事実を口に出したんだ。

「……だね。倒せない……よね」

 その意を汲んだれんちゃんも、眉を下げたまま微笑んだ。認めたくはないけれど、俺たちが全力を出して突破できないなら、それは不可能なことだとその目が語っていた。

 そのまま、声も出さずにうなだれる二人……少しして、気持ちの整理ができたら「帰ろう……グランフェリアに」と言うであろうことは、容易に想像できた。

 悲しかった。

 イライラした。

 このダンジョンを進んでいる間、「帰ったら何をしよう?」、「みんな驚くだろうなあ」と嬉しそうに語っていたれんちゃんたちを、どん底に突き落とした存在を、「ワールド・ゲート・ガーディアン」を許せなかった。

 ……いや、違うな。ここで、「そんなことはねえよ!」とあいつらを元気づけてやることも、その裏付けとなる力も持っていなかった自分自身を、俺は心底情けなく思ったんだ。

 いつもいつも助けてもらってばかり。だらしがない俺を、どんな時でも引っ張ってくれる仲間。そいつらが落ち込んでいるのなら、今度は俺が何とかしなくちゃいけない。そうも思った。

 だから、

「なぁ」

 だから俺は……

「打開策は、あるぜ」

 落ち込む二人に、こう言った。





「来いよ! こっちだ! 俺を狙えよ!」

 コア・オーブの前に居座る「ワールド・ゲート・ガーディアン」を煽る俺。言葉だけじゃない。挑発系のスキルの最上位【許しがたき挑発】も発動させ、全能力を持って相手の気を引く。

「ゴガ……」

 それが功を奏したのか、金属質なゴーレムは、真っ赤に染まった目で俺を睨みつけてくる。そして、オーブの台座から離れ、じりじりとこちらに近づいてきていた。両手をぶんぶんと振り回し、床の建材を投げ付けては俺を捉え、ぶっ殺そうとしてくる。

 そう、それでいい……そのまま、そのまま……。

「ゴアアアアアア!!」

 時には奴の腕の届く範囲で、回避を繰り返してみたりする。俺のジョブなら、少しの間だけだが、それができる。

 このように、俺が全力で「ワールド・ゲート・ガーディアン」を引きつければどうなるか……当然、奴と台座の距離は離れていくよな。

 ……誰かが走り寄って、コア・オーブに触る余裕ができるぐらいには。

「貴大ー! やったぞー!!」

 作戦はうまくいったようだ。単細胞な守護者が俺に釘付けになっている間に、優介とれんちゃんがコア・オーブに辿り着くことができた。すると、あいつらが持っているオーブに反応してか、コア・オーブが輝きだした。

 それに合わせて、光を放ち始める優介たち。きっと、あの光が二人を包み込むと、異世界転移は完了するんだろう。ダンジョンとかにあるポータルゲートなんかも似たようなエフェクトだ。だとすると、転移完了までもう少し時間がかかるな……。

「何やってる!? お前も早く来い!」

 コア・オーブに手を付けたままのれんちゃんが、必死になって俺を呼ぶ。うん、思った通りだ。転移中は、どういうことなのか、身動きがとれなくなる。優介が「座標軸の固定」がどうたらこうたら持論を述べていたが……今はそんなことどうでもいい。

 重要なのは、「転移中は動けなくなる」ことだけ。これで、あいつらが泣こうが喚こうが、無事に元の世界に戻れるだろう。俺を助けに転移を取りやめるだなんて、もうできやしない。これでいい。

「スキルは!? 新しいスキルを覚えたんだろ!?」

 優介の声も、なんだか霞んで聞こえる。転移はもう間もなくだろう。よかった……これで作戦は成功だ。もう、「ワールド・ゲート・ガーディアン」だけをしっかと見つめ、【許しがたき挑発】を全開にしてすれすれのところで回避を繰り返す。

「バーカ、そんな都合のいいもん、あるわけねえだろ」

 俺は、誰に言うでもなく、囁くように言葉を発する。そして、心の中で優介とれんちゃんに謝った。騙したことを……もう、会えなくなるかもしれないことを。「ごめんな」と、心の奥底で、小さく小さく呟いた。

「「貴大おおおおおおおお!!!!」」

 やがて、二人を包む光は輝きを増していき……光とともにふっとかき消えるように、異世界への転移は完了した。

「またな……ぐうっ!? あああああ!!」

 そこで、張り詰めていた糸が切れたのか……俺は、それまで回避し続けていた「ワールド・ゲート・ガーディアン」の一撃を喰らってしまった。弾丸のようにBOSSの間の外まで吹き飛ばされた俺は、突き当たりの壁に激突し、血を吐きながら倒れ伏した。

(でも、死んじゃいない……なら、これでいいんだ、これで……)

 そう、これでいい。俺の目的は、「三人一緒の帰還」じゃない。「優介とれんちゃんの帰還」だ。俺はボロボロだけど、作戦は成功したんだ。

 あの時、「打開策はある」と言った俺は、二人にこう言った。

「覚えたばかりのスキルで、いざという時にしか発動できないカウンタースキルなんだけど、成功すれば長いことガーディアンの動きを止められる」

 ってな。

 なぜ俺たちが「ワールド・ゲート・ガーディアン」を躍起になって倒そうとしていたのか。それは、「転移中は動きが止まる」からだ。俺たちを殺し得る存在が、転移中で動けない俺たちに向かってくる……そうなってからでは、もう抵抗することもできない。

 異世界転移が、ポータルゲートなんかの転移と同じとは限らないけれど、万が一を考えればとても試せたものじゃない。結果として、俺たちは「ワールド・ゲート・ガーディアン」排除に全力を尽くしていたんだ。

 別に、倒さなくてもいい。転移中、動きを止めるだけでいいんだ。でも、相手は高レベルのBOSSモンスター。【バインド】なんかじゃあ、足止めにもならない。

 だけど、もし、BOSSモンスターの動きを一分間も止められるスキルがあったら……?

 この世界には、≪Another World Online≫にはなかった「未踏破地区」があるのと同様に、ゲームにはなかったスキル、アイテム、モンスターなんかが存在する。俺たち三人も、そういったものに出会う機会は多々あった。

 その中の一つに、【カウンター・ストップ】というスキルがある。覚えたのはいいけれど、使う機会がなかったスキルだ。これは、BOSSモンスターにカウンターで喰らわせると、一分間、刺激を与えない限りは動きを止められるという効果を持つ。

 これを使えば帰ることができる……でも、タイミングが難しくて、一か八かの賭けになってしまう。だから、二重に策を講じよう。お前らが先にコア・オーブに触れててくれ。念のためだって。俺一人でも、スキルがありゃあ何とかなるからさ。心配すんな、俺はカウンターは得意だからさ……知ってるだろ?

 ……そう言って、俺は二人を騙した。騙して、一足先に帰るように説得した。そして、それはうまくいった。

 ほんとはさ、【カウンター・ストップ】なんてしょうもないスキルなんだよ。BOSSの動きを止められるなんて大ウソ。上限を定めた数値(例えば貯金とか)が限界に達したら、ファンファーレを鳴らしてくれるスキル……そんなくだらないスキルなんだ。

 でも、これは三人の内、俺だけしか効果を知らないスキルだ。仲良くなった不良騎士が俺だけにこっそり教えてくれたスキルなんだ。だから、騙せた。だから、あいつらは俺を信用してコア・オーブに触れた。

「大成功だな……はは」

 回復スキルで痛みも引いてきた。そろそろ立ち上がれるだろう。立ち上がったら……さて、どうしたものかな。とりあえず、脱出だ。ダンジョンから出て、色んな準備をして回る。あのうっとおしい「ワールド・ゲート・ガーディアン」を粉々にするための準備を、な。

 世界は広い。俺の知らないスキルもアイテムも、山のようにある。それは、この二年間、あちこちを回っただけでも充分過ぎるほどに理解していた。もしかすると、その中に強力なスキルかアイテムがあるかもしれない。

 いや、あのガーディアンの鉄壁を崩すための何かが、きっとあるはずだ。仲間を集って、俺と同じ強さになるまで鍛え上げるのもいいかもしれない。

 まだ希望はある。

 俺は、元の世界に……友だちと多くの時を過ごしたあの世界に帰ることを、諦めてはいなかった。

 ……だけど、奴が。

 「ワールド・ゲート・ガーディアン」が、その希望をへし折りやがった。

 俺の目の前で……まるで見せつけるかのように!

「お、おい……何すんだ……」

 ふらふらと立ち上がった俺の視界に映るは、突き当たりのBOSSの間。そして、その奥に鎮座するコア・オーブだ。それに近づく影がある。「ワールド・ゲート・ガーディアン」だ。それ自体はちっともおかしなことじゃない。奴はあのオーブの守護者だからな。

 でも、どうして腕を振り上げているのか。

 どうして拳を握りしめているのか。

 俺の疑問を置き去りに、巨大な腕に力を籠めたゴーレムは……そのまま、守護対象であるはずのオーブに、硬く重い拳を振り下ろした。

「やめろ……やめろおおおおおお!!!!」

 離れた場所からだと、それは「くしゃ」と、紙を丸めるような音のように聞こえた。そう、使用済みのチリ紙を丸めて捨てるような躊躇いのなさで……ゴーレムは、コア・オーブを叩き潰したんだ。

「うあ、ああああああああ!!!?!?」

 そこからのことはよく覚えていない。

 砕けたコア・オーブから溢れだした光に飲み込まれた俺は、気がつけば一人、荒野に立っていた。

「あ……あ?」

 どこにも怪我はない。ゴーレムに受けたダメージも全快している。破れた服まで元に戻っている。まるで、ダンジョンに突入する前の状態まで巻き戻されたかのようだ。

 だが、違いは確かに……目に見える形で、存在していた。

「ない……ない……!?」

 ダンジョンがあった場所……そこには、まるでクレーターか何かのような大きな穴が開いていた。確実に、最下層のBOSSの間まで抉り取られているかのような……そんな、深い深い大穴が。

 それは何を意味するのか……そう、元の世界に帰還するための手段の喪失だ。混乱する頭で、ようやくそのことに思い至った俺は、思わずへたりと尻もちをついた。

「れ、れんちゃん……優介……!」

 まだ日は高いままだったが、俺は寒さを感じ、身ぶるいしながらフレンドリストを開く。帰った……そう、二人は帰った。それは目の前で見たことだ。でも、この世界は、≪Another World Online≫のシステムがそのまま使える世界なんだ。

 もしかしたら……もしかしたら、連絡ぐらいは取れるかもしれない。そう思って、【コール】できる相手がまとめられたフレンドリストを開いた。あの時はただ、二人の声が、無性に聞きたかったんだ。

 でも、

「は、はは……」

 フレンドリストが示したことは、

「ははは、はは……」

 ログインしている者が、俺しかいないという事実だけだった。

「ああああああ~~~~~!!!!」

 俺以外のプレイヤーは、全員ログアウト状態。フレンドリストに載った名前も、全部、全部灰色だ。昨日までは、れんちゃんや優介の名前は、ログイン状態を示す緑色だったはずなのに。

 これでは、連絡が取れない。それだけじゃない。もう、会うこともできない。広い世界で、本当の俺を知っているのは、俺一人だけ。

 そう理解した俺は、押し潰されそうな孤独感に襲われ……異世界転移のためのダンジョンがあったはずの大穴の縁で、声が枯れるまで叫び続けた。






これで過去編も一つの区切りを迎えました。

次章から、フリーライフの三人組から、ユミエルとの過去編に移行します。

貴大以外の二人がどうなったかは……それは、後の話にて。
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