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オーブを求めて

「はああああ!!」


「【影縫い】……! 今だ、優介っ!」


「喰らえええ! 【エレメンタル・キャノン】!!」


 グランフェリア国内でも有数の難関ダンジョン「地の底に眠る神殿」にて、俺たちは戦っていた。


 敵対するは、レベル250の「罪なきテンプルナイト」……このダンジョンのBOSSだ。銀色の甲冑で身を包み、兜の目の部分のスリットから止めどなく血の涙を流す神殿騎士。


 レベルと難関の名に違わず、滅茶苦茶な強さを持つモンスターだった。重そうな鎧と、幅広肉厚の両刃剣を装備しているにも関わらず、軽装剣士の系列のれんちゃんとも肩を並べるほどの早さ……斥候系の俺でも、瞬間的な動作では遅れをとる時もあった。


 だが、相手は一体で、こちらは三人。長年の付き合いで抜群のコンビネーションを誇る俺たちの敵じゃあない。大規模攻略戦のBOSSみたいに、レベル300とかの化けもんじゃないんだ。落ち着いて対処すれば、倒せない相手じゃなかった。


 隙を見せないように、相手の体力をチビチビと削ってゆき……ここぞというところで攻勢に転じた。すると、それがピタリと決まり、「罪なきテンプルナイト」はれんちゃんの剣戟で吹き飛ばされ、俺の【影縫い】で動きを止められ、そこに優介の特大魔導砲を受けて爆発四散した。


「……は~! た、倒せたぁ~!」


「うおおおおお! 俺、サイキョー!」


「あ~……めんどくせえモンスターだったわ……」


 「罪なきテンプルナイト」の攻撃を捌き続けたれんちゃんは、緊張の糸がプツリと切れたのかその場にへたりと座り込み、トドメを刺した優介は勝利の雄叫びをあげる。俺は俺で、やれやれと息を吐きながら飛び散ったドロップアイテムの回収をして回る。


 三人バラバラな行動だけど、これがいつもの「フリーライフ」……異世界に来ても変わらない、俺たちのスタイルだった。


「お~、レアアイテム落としてら」


「マジで!?」


「どんなの~?」


 レアアイテム発見の報に、優介とれんちゃんがぞろぞろと寄ってくる。現金な奴らだ。まぁ、レベル250のBOSSモンスターのレアアイテムに興味を引かれる気持ちは分からないではない。


 だけどさ……。


「……なんだ、これ?」


「なにって、戦士系の装備品だろ? ステキな兜じゃん。れんちゃんなら装備できるぞ」


「ちょ、ちょっと無理かな~……あはは」


 「罪なきテンプルナイト」のレアドロップアイテム、「我らの無念は尽きることなく」をずいと差し出すと、れんちゃんが青い顔をして後ずさる。


 まぁ、スプラッタは苦手なれんちゃんだ……こんな、さっきまで戦っていた神殿騎士の首から上をもぎ取りました~! みたいな生々しいアイテムはきついもんがあるだろう。目のスリットから血がだらだら流れだしてるし……超置く場所に困りそうな兜だ。


「被ってみると、案外面白いかもよ? ちょっとやってみよう……むおおおおお!!!?!?」


「「うわあああ~~~!!!?」」


 そんなホラーアイテムは、俺がふざけて被って「呪われましたごっこ」をすると、思った以上に錯乱した二人によって真っ二つに割られ、粉々に砕かれましたとさ。


 「罪なきテンプルナイト」さん、なんかスミマセン……。




「さて、さっさと目的のブツを探すぞ~!」


「さも何事もなかったかのように……」


 後ろで恨めしげな声が聞こえるが、気にしない、気にしない。「罪なきテンプルナイト」が再ポップする前に素早く目的を果たすのが先決だ。


 目的……そう、目的だ。わざわざ死ねばそこでお終いの世界において、自身の命すら脅かす存在がゴロゴロといる難関ダンジョンに潜るのは、目的があるからだ。


 BOSSを倒すこと? それは違う。目的の妨げになるから倒しているだけだ。


 ダンジョンの最深部に眠る宝? それも違う。まぁ、このレベルのダンジョンともなると、各種お役立ちアイテムがあるから、ごっそりいただいてはおりますが……まぁ、主目的じゃあない。


 俺たちフリーライフがわざわざダンジョンに潜るのは、そこに帰還のための手段があるからに他ならない。現実世界……俺たちが産まれた星、地球。そこへの帰還手段の手掛かりを、俺たちは遂に見つけることができたんだ。


 あれはイースィンドに来て、いつぐらいのことだっただろうか……まぁ、そんなに経っちゃあいない。一週間ぐらいってところだ。


 俺たちは新しい街に着くと、帰還手段の探索の一環として必ず図書館に行くんだわ。んで、グランフェリアで新居を構え終わった俺たちは、王立図書館に行ったわけなんだけど……そこで、あっさりと帰還手段の手掛かりを見つけてしまった。


 そりゃあもう、これまでの苦労は何だったのか、ってぐらい簡単に見つけられたね。れんちゃんが爽やかスマイルで図書館の司書さんに、「異世界関係の本を見せてくださいな」って言ったら、ご丁寧にあれこれ持ってきてくれて……その中から「M.Cの日記」ってのが出てきたわけなんだが、これがまた、これ以上にないほどにビンゴだったんだ。


 一見、よくある神隠し系の被害にあった人の日記だったんだけど、それは日本語で……俺たちがよく知っている日本語で書かれていたんだ。


 やれ、ゲームをしていたら異世界に来ただの、ゲームのステータスを持った体だから生きてこれただの、俺たちそのままの体験談が書き込まれていて……しかも、最後には元の世界に帰ったってんだから驚きだ。


 「私と同じような目にあった人へ、これを残します。どうか、希望を捨てないでください」との一文で締めくくられた日記を引っ掴んで、俺たちは司書さんに詰め寄ったね。どんな人がこれを残したんですか! ってね。


 そしたら、司書さんは「これを図書館に置いてもらうように、異世界について知りたいという人がいたら必ず見せてあげるように頼んできた若い女性がいた。多大な寄付があったから了承した」と教えてくれて……それで俺たちは確信したね。イタズラなんかじゃない、これは本物だ、って。


 まぁ、日本語で書かれている時点でもう信じていたわけなんだけど、ジパング人が書いた創作物ですなんて言われたらどうしようという懸念もあったわけよ。それを払拭するための確認だったんだけど……それで疑いを無くした俺たちは、その場で大きな声を上げて喜びまくったね。


 特に、「やっと帰れる!」、「家族に、愛犬に会える!」と、れんちゃんと優介は涙まで流していた。言葉には出さなかったけれど、二人とも絶望しかけていたのかもしれない。元の世界には帰れないんじゃないか、もう愛する者には会えないんじゃないかって。


 でも、ここに来て帰還するための手掛かりが見つかって……希望が湧いてきたんだな。喜ぶ二人の顔を見ていると、とっても嬉しかった。頑張ってきたかいがあったなって、俺まで知らずの内に笑顔になっていた。


 それからの一年間……俺たちは「M.Cの日記」に記されたダンジョンにひたすら潜っていた。


 なんでも、イースィンド国内の特定のダンジョンの奥にあるオーブを集め、とある場所まで持っていくと、帰還のゲートが開かれるんだとか。その言葉を信じ、幾多の難所を越え、立ち塞がる難敵を打ち破ってここまで来たわけだ。


 準備や休息期間も含めて、約一ヶ月に一回のトライ……何度か敗走したことはあったけれど、それでもくじけることはなくオーブを集めて回った。その結果、俺たちは約一年で目的を達成しつつあった。


「あった! これだな」


「おおお! これが……十個目のオーブ……!」


「あぁ、最後のオーブだ」


 「罪なきテンプルナイト」が護っていた地底神殿最深部……崩れかけた祭壇の上に、それはあった。虹色に光り輝く一抱えほどのオーブ。俺たちが帰還のために集め続けたオーブの、最後の一つであった。


 優介が、赤ん坊を抱き上げるように恐る恐る持ち上げる。すると、オーブが安置されていた祭壇から新たなオーブが現れる。それを、れんちゃん、俺の順番で持ち上げてはアイテム欄に収納する。


 このオーブは、一人一つは必要になるらしい。それが、各人十個……帰還のために必要な物は、全て集まった。


「やった……やったぞおおおおおお!!」


「うん……うん……!」


 優介が叫び声を上げる。れんちゃんが数度、何かを噛みしめるように頷く。そう俺たちはやったんだ。これで、現実世界に帰還することができるんだ。


 ゲームみたいなファンタジー・ワールドなんてデタラメな世界じゃない。俺たちが生まれ育った世界……退屈だけど、それでも慣れ親しんだ世界に、俺たちは帰ることができるんだ。


「「「イエエエエ~~~~~イ!!」」」


 そこが難関ダンジョンの最深部だということも忘れて、三人でハイタッチ。まぁ、これぐらいいいじゃないか。それだけ、嬉しかったんだからさ。







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