挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

例えばこんな婚約破棄

作者:深見
※息抜きで書いた乙女ゲーム転生ものです。
※主人公は恋愛しません。
※現実との齟齬とか細かいことは気にしない方向け。
 さて、お集まりの皆様。
 もしあなたに十分な時間があるのなら、私の脳内つぶやいたー(但し長文)にどうか付き合ってほしいのです。

 最近の流行に、乙女ゲーム転生というジャンルがあるらしいですね。
 一口にジャンルをくくっても、中身は様々。主人公に生まれ変わって攻略キャラたちときゃっきゃうふふしたり、脇役なのにいつの間にか主人公みたいな立ち位置に居たり、モブとして傍観するつもりがいつの間にか巻き込まれていたり、悪役に生まれ変わってフラグを折るべく悪戦苦闘したり、嫌われたり蔑まれたりしていたけれど最後の最後にざまあする成り上がりものだったり。
 詳しくは検索を掛けてみると良いと思いますよ。流行なので色々なバリエーションが楽しめます。
 以上メタ発言でした。まる。

 さて。
 私がのっけからこんなメタ発言をかましたのには理由があります。
 私がその当事者だからです。
 具体的に言えば、ある攻略キャラの婚約者でありそのルートのライバル兼悪役である少女、その姉ですね。とはいえ、私の立ち位置は、むしろ初期から主人公に親切に接していた先輩というポジションでして、だから確か何かしら救済策があったんじゃなかったかと記憶してます。
 ……はい、分かっています。私だって、前世プレイしたゲームの世界に生まれ変わっていた、なんて誰かに相談されたら何それ中二病?と真顔で訊き返していたでしょうね。
 自分の名誉のために申しますと、最初は信じませんでしたよ。思い込みだろう、既視感だろう、記憶の混乱だろう、と。
 果ては、何某かの催眠や洗脳みたいなものに掛かったんだとすら疑いました。前世でストーリーを知っているから人生イージーモード、なんて思えるほど、私はポジティブに捉えられなかったので。
 だって、ねえ、それこそゲームやライトノベル、漫画やその二次創作でもあるまいし。フィクションの世界で生きている、なんて、そう簡単に信じられるわけがないでしょう?
 それぐらいなら、自分が狂ったのかと思うほうが、どんなにかマシでしょう。
   画面が何処かにあるんじゃないか。
   誰かが今の私を見ているんじゃないか。
   自分が決めたはずなのに、実は開発者かみさまの思い付きに過ぎないんじゃないか。
   私は脇役ですらなく、開発者かみさまの持ち駒のひとつ。
   私の行く末は自分で決められない。理不尽な開発者かみさまとお姫様プレイヤーたちの思し召しのまま。
 そんな人生に耐えられるほど、私は人間が出来ていませんでした。
 箱庭のお人形なんて真っ平御免、それぐらいなら―――

 そう思っていたシリアスな時期が私にもありました。
 ああ脱力しないでくださいね。未だにその思いが完璧になくなったわけじゃありません。それは確かですよ。操り人形になるくらいなら発狂して動脈噛み千切ってドロップアウトしたほうがまだマシ、とは、今でも胸を張って言えますから。
 だけど、ねえ、やっぱり、情は移るものじゃないですか?
 特に、自分を愛してくれた家族や、親しくしてくれた友人なら。たとえ妄想に囚われていても、彼らも虚妄に過ぎないのではないかと疑っていても、優しくされたら、優しさを返したくなるものでしょう?
 絆されたことで、ああ、私はゲームの中の『私』とは違うんだな、とわかりました。
 だって私は、此処で得た家族を愛しているのです。
 実直な仕事人間だけど実は家族思いな父さま。ちょっと気が弱くて心配性で優しい母さま。そして、ツンデレだけれどとても素直に人を愛せる妹。バランスがちょっと悪いけど、お互いを大切に思いあっている――私たちは確かに、家族だったのです。

 そういうわけで、私は開き直りました。
 今の私は『ゲームの中の人』かもしれないですが、そんなのはどうでもいいのです。とりあえず可愛い妹を救済したい、それに尽きます。
 そもそも私自身、ゲームでの『妹』に対しても嫉妬心が強すぎることを除けば其処まで悪印象はありませんでした。確か、盲目的に愛している婚約者を主人公に略奪されたと知り、嫉妬に溺れて度を超えた嫌がらせをしてしまいまして。それを知った婚約者に、本格的に愛想を尽かされて引導を渡される、という流れだった、と記憶しています。
 ならば簡単です。婚約者に盲目にならなければ良いということですね。
 そもそもあんな俺様が未来の義弟なんぞお姉ちゃんは認めません。家柄が良くても優秀でもお顔がよろしくても、それを振りかざして胡坐掻くような輩は好かんのです。
 我が家の事情からすれば、婚約破棄されたところで醜聞にはなりましょうが、向こう様の心変わりだけを理由とした円満なお別れであれば、我が家業にも支障をきたしません。というか、どちらかといえばウチの成長率と財力に目を付けた向こう様からの申し出でしたし。向こう様は恋愛結婚出来て、妹は自由になって、我が家と向こう様にも溝は出来ない。三方よし、とはこのことですね。

 というわけで。
 まず私は、純愛を扱った漫画や小説を片っ端から読み、吟味して妹に勧めました。
 これは妹の中の『恋愛』の基準を広げるためですね。いくら何でも婚約者以外の男を紹介するのはさすがに浮気騒動になりますから、二次元で恋愛観を広げるしかないのです。その辺、二次元って便利ですよね。
 それはさておき、純愛とはいえ一途すぎて執着の域に達しそうなものは却下。失恋があっても次の恋では幸せに、という前向きで爽やかなものを多めに勧めました。無論恋に恋する乙女さんになってもそれはそれで困りますから、そのうち少しずつ刺激の強いものも混ぜて。
 因みに、妹は中学に上がって以来活字離れが進んでいたのでちょっと不安だったのですが、私が「姉妹で同じものを読んで感想を言い合えたら素敵だと思うんです」と言って手渡すと、「仕方ないから読んであげる!」と照れながら受け取ってくれました。
 次の日ちょっと寝不足気味に目を赤くしながら「読み終わったわ!」と得意そうに言ってくれた妹が天使過ぎて。
 思わずその場でぎゅーしてしまったけど私は悪くありません。妹も悪くありません。あの子マジ天使。
 …気を取り直して。
 姉妹だけあって、私が面白いと思ったものは大体妹の好みにも合ったようで、瞬く間に妹は読書の楽しみを思い出したようです。今では恋愛ものに限らず、様々なジャンルに手を出しているようで。おかげで妹の価値観は随分フレキシブルになりましたし、語彙と教養が広がるという嬉しい副産物もありました。
 婚約者殿に対しても、今までは『いつかは結婚する相手』という意識ゆえに、何とか好きになってもらおうとし過ぎて空回りしていた感が否めなかったのですが、最近は随分気持ちにゆとりが出て来たようです。好きになってもらえたら嬉しいけど、相手に強要できることでもないから、あまり無理しても辛くなるだけ、と少し肩の力を抜くことが出来るようになった、と。
 狙い通り。

 あとは価値観の違う人とも積極的にお話することを勧めました。
 とはいえ、これはなかなか難しいことでした。何しろ妹はツンデレなものですから、打ち解けた話が出来る人は少なかったのです。よって、まずは私の友人から慣れてもらうことにしました。友人を家に招き、少しだけ妹を交えて話す、というようにしたのです。無論、妹は先程言った通りの性格ですから、大抵初対面の相手には借りて来た猫状態だったのですが、人の話を聞くだけでも違うもの。後は徐々に慣れるのを待つだけ。
 時間を掛けただけあって、これも効果がありました。色々な人がいて、何も相手に合わせてばかりでなくても良いんだ、と思うようになったそうです。また、交友関係が増えただけでなく、社交の場に出ても、人当たりが良くなった、聞き上手の話し上手になったといわれるようになったようです。
 ただ、私や家族には相変わらずツンデレ癖が抜けなかったのですが。
 だがそれが良い。ウチの子マジ天使。

 他にも諸々計画は積みましたが、良いところを殺さないことを目標にしました。あの子のツンデレは、素直に言えないながらも相手を思いやる気持ちで出来ているのですから。
 そうして、妹は、心根の優しさを残しつつも、心の広い子に育ちました。まあ実際婚約者を奪われてしまえばどうなるかは分かりませんでしたが、そればかりは仕方ありません。もし妹が破滅ルートに向かっていそうなら、姉として止めるだけです。
 そんな決意をして暫く経った頃。
 妹の婚約者様から婚約破棄の申し出がありました。何故か、学校の食堂で。

 ねえちょっとうちの子を馬鹿にするのも大概にしませんか?
 まあ百歩譲って恋人さんが泣きながら「ごめんなさい、この人のことが好きなんです」と涙ながらに訴えるのは仕方ありません。まあ何処ぞのメロドラマのヒロインのような態度はうちの妹が悪役じみて見えるので勘弁していただきたいところですが、まあ罪悪感だの何だのはあるでしょうから。ただ、その彼女といちゃいちゃしながら、一方的に「お前は俺自身を見ていない」だの「お前みたいな甘やかされたお嬢様に俺の妻は務まらない」だの。いくら両方の親がいらっしゃらない場だからと言って、好き勝手言ってくれちゃってますねえ。おきくちゃん(愛用ICレコーダーの名前)がポケットの中で大活躍ですよ。え、何でそんなものって、そりゃあICレコーダーは淑女の嗜みですからね。
 いやそもそも家同士の契約を、向こうのご当主様の了承も得ず、こちらの父に話を通しもせず、だなんて。ねえちょっと我が家をナメてます?
 涙をこらえて俯き震える妹を、ぎゅっと抱きしめます。
「……正式なお話がない限り、私どもにはお返事できませんね」
 妹の婚約者殿は馬鹿にしたように鼻を鳴らします。大方、お人形さんが、とでも思ってみえるのでしょう。物事の筋道には従うべきだと思っているのですが。父同士が交わした契約なのですから、互いの父を通すのがまず礼儀ってもんでしょうこの外道が。
 そんなに感情のままに振る舞って欲しいなら仕方ありません。
「ですが、そんなことをおっしゃるような方に、私の可愛い妹が勿体ないことは分かりました」
 うふふふふふ、と声だけは上品に笑ってみせる。
 一拍遅れて私の言葉の意味が分かったらしい妹の婚約者殿が何か反発しようとしたようですが、どうでも良いので聞き流しつつ、短縮で番号を呼び出します。
「父さま、お仕事中申し訳ございません。緊急です。ええ、はい、そうなんです」
 最近妹の婚約者殿に別の女性の影があることを心配していた父には、すぐ通じました。
「よりにもよって食堂で。…ええ、食堂で、です。解消は避けられないかと。……はい、おそらくはご子息様の独断だろうとは思われますが、あちら様に正式に確認をお願いできますでしょうか。…………ええ、私はあの子についておりますので。勿論です。…ありがとうございます」
 電話を切る。まだ怒りが収まらないのか、妹の婚約者殿、イケメン台無しな形相になっていますよ。
「すぐに家に頼るか。全く、本当にお人形だな」
「あら。老婆心ながら、もし大切に思っている方がいらっしゃるというなら、必要な手順は正式に踏むべきですよ」
 優雅に、堂々と、道理を以て。その態度だけで、好奇心で満たされた不躾な視線のいくつかが、私どもに傾きました。
 そもそもこの世界では、婚約というのは法的な契約、結婚に準じているんです。世間的に愛人の居る夫と居ない貞淑な妻、でたとえましょう。もし離婚となったら、世間様的にはほとんどの場合で夫に不利となるでしょう。それと一緒です。その上、公開処刑としか取れないようなこのシチュエーション。きちんと場を設けることも出来るはずだというのに、こんな人目のあるところで、なんて妹に対する悪意しか感じられません。私の天使に何してくれちゃってるんですか。
 多分父は相手方に連絡を入れるのと同時、我が家の顧問弁護士にも連絡を入れているでしょう。まあ訴訟沙汰になりかねませんからね。法のスペシャリスト必要ですよね。妹に対する背信と侮辱は、我が家に手袋を叩きつけたのと同じこと。誠心誠意をもって、応じさせていただきます。
 まあつまり――『よろしいならば戦争だ』ということです。
 とはいえ、このお坊ちゃんに懇切丁寧に解説してあげる気もありません。ええ、いずれ知ることではありますしね。
「さて、それでは私どもはこれで」
 これ以上妹を晒し者にするつもりなら容赦しませんけど?という意味を込めて微笑むと、ぐっと彼は何かを飲み込んだようでした。また、寄り添っていた恋人さんは、ずっと蒼褪めた顔で私を見ています。私、そんなに怖いでしょうか。まあでも、可愛い妹を侮辱されて怖くならないほうが問題ですね。
 気を取り直して妹の肩を抱き、さあ、と優しい声で促します。よろけるように立ち上がった妹の目は、相当に傷ついています。
 …それは、当たり前ですよね。自分の夫になるべきだった人に、自分を否定されたのですから。
「大丈夫ですよ。貴女は私の自慢の妹。優しくていつも一生懸命な、かわいい妹です。誰が何と言おうと、私は貴女が大好きですから」
「ねえ、さま」
 妹の綺麗な目に、再び涙が盛り上がります。でも、さっきとは、少しニュアンスの違う涙のようでした。
 私の言葉は、少しは慰めになったでしょうか。そうだと良いのですが。
「さあ、行きましょう」
 再度促した私に、こくり、と素直に頷いた妹は、精一杯の勇気を振り絞るように、彼と彼女を見ました。彼女を守るように身構えた彼に、少し傷ついたような目をして、でも、ぎこちなく、微笑みました。
「あの……お幸せ、に」
 傍観者の目に、最早私たちは三角関係の悪役とは映っていないでしょう。彼が何かに気づいたように妹を凝視していることも手伝って、むしろ身勝手な男に振り回されたヒロインのように映るでしょう。
 まあ実際そうなんですけど。妹は婚約者殿のことを信頼していましたし、慕っていました。だから、幸せになって欲しい、という言葉は本心からのものでしょう。彼の幸せには自分がいないこと、そして彼の妻となるべく努力していた自分を否定されたことは辛かったでしょうが、その上で、妹は呪いではなく祝福を口にしたのです。私が刷り込んだ恋愛小説だの何だのの影響はあるかもしれませんが、でも、今この場面で口に出したのは間違いなく、妹自身の選択です。
 耐えきれなかったように俯いた妹を、思わず私は抱きしめました。よくがんばりましたね、と囁くと、押し殺した嗚咽が、私の胸元からこぼれます。其処で漸く駆けつけた女性教員たちに隠されて、私たちは食堂を後にしました。


 さて、此処で少し、後日のことを。
 泣いて泣いて泣きつくした妹が、曇りなく笑顔を見せてくれるまでに時間が掛かったのは確かです。
 とはいえ、妹に対する風当たりは其処まで厳しくなることはありませんでした。食堂での出来事は瞬く間に広まりましたが、だからこそ、周囲が非常に妹に同情的になったのです。話に聞いただけではありますが、妹の婚約者殿に対してかなりきつく苦言を呈した方もいらしたとか。
 さらに、家族全員で妹を全力フォローしたのは言うまでもありません。元々良好な家族仲でしたが、さらに絆が深まったとさえ言えます。怪我の功名だのと言うよりは、やっぱり妹の人柄のおかげだと思われます。妹が妹でなければ、こうはいかなかったでしょうから。
 まあ、でも、当然ですよね。
 なんてったって、ウチの子は天使ですから!

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
※感想 は受け付けておりません。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ