エイプリルフール縦書き表示RDF


エイプリルフール
作:入谷


「今日が何の日か知っているかしら?」
 春休み。場所は生徒会室。開いた窓から吹き込んでくる心地よい春風に長い黒髪をなびかせながら、黙々と机に積まれた書類に挑んでいる俺に数野玲子は聞いてきた。
「何か特別な日だったか? 覚えてねえな。いいから手ぇ動かせよ生徒会長。誰のせいでわざわざ休み返上して働いていると思ってんだ」
 容姿端麗、成績優秀。圧倒的なカリスマを持って生徒会長を務めるこの1つ年上の幼馴染は、明日出来ることは明日やれ、という迷惑極まりない信条を持っていた。要するに今年度の仕事をさぼり続けたツケを払わされているのである。……副会長である俺を巻き込んで。
「今日が何の日か知っているかしら?」
 聞いちゃいねえ。仕方がないので壁にかけてあるカレンダーを見ながら考える。短期バイトに明け暮れていた3月も終わり、今日から4月である。
「エイプリルフールだな」
「その慣習は私も大好きだけど。すごい企画も考えてあるわ。……でもそれはただ“楽しい事”というだけで、特別な日ではないわね」
 俺の答えが不服だったのか、玲子は頬を少し膨らませて不機嫌そうな顔になる。ていうか人に嘘をつくことを正当化する日を楽しいって言い切ったよこの人。
「じゃあ近所のスーパーの特売セール?」
「そういえば牛肉が安いらしいわね。大事な事を忘れていたわ。……でもそれはただ“重要な事”というだけで、特別な日ではないわね」
 やっすい人生送ってんなあ、と思ったが口には出さない。二度答えを外したことによって玲子の表情が目に見えて不機嫌になっていたからだ。ついでに言うと隣に寄り添いながら俺の足を踏みつけ、右腕を全力でつねってきていた。
「痛い痛いまじ痛い。ギブギブ」
「正解するまで話さないから」
 腕を絡ませたこの体勢が楽しくなってきたらしく、若干顔をほころばせながら玲子はそういった。でも全力。
「え、えっと、もしかして誕生日?」
 耐えかねる痛みを感じて必死になってそう言うと、ようやく正解に辿り着いたらしい。腕を開放して花が咲くような満面の笑顔をこちらに向けてくる。
「うん、正解! 何故分かったの?」
 これだけ聞かれれば誰でも判るだろう。だが、声を弾ませながら本当に嬉しそうに聞いてきた玲子にそれを言うことは出来ない。代わりに笑って質問に答えた。
「楽しくもなく重要でもない事だと思ったから……グハァ!?」
 ボディに玲子の拳が突き刺さっていた。ただの冗談だったのに……畜生……良いパンチ……持ってやがる。そのまま腹を抑えて座り込み、回復に要した時間は約1分。文句を言ってやろうと顔を上げたところで――玲子がポロポロ涙を流しているのに気付いた。
「ひどいわ。もしかしたら覚えていてくれるかもって思ってたのに。誕生日に二人きりで会いたかったのに。どうやって誕生日に誘えば分からないから生徒会長になって仕事を溜めて手伝ってもらって、」
「一年越しの計画かよおい!」
「それで誕生日覚えてくれていて、プレゼントとか用意してくれてるかもとか期待して、」
「誕生日プレゼントならあるぞ」
「それから少しだけどこかでデートとかしたりして……ふぇ?」
玲子が驚いて涙目のままこっちを見つめる。顔立ちが整っているため、潤んだ瞳が扇情的である。
「この日のためにバイトしてたからな。これからデートする分の余裕もある。出かけるんなら早くこの仕事片付けようぜ」
「だ、だって、覚えてないって……何でそんな嘘………あ」
途中で思い当たったんだろう。だからにやりと笑って聞いてやった。


「今日が何の日か知ってるか?」


電撃掌編王に送ろうと思っていて忘れてた\(^o^)/













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう