第3話
「…で園子、その怪盗キッドのメールってのは…」
園子から電話を受け、部屋に来た蘭が問いかけた。
「ああ、それね。ここにあるわよ」
そういうと園子は携帯電話を蘭の目の前に差出した。
「明日夜8時、福岡市博物館にて展示中の宝石「レッドサンライズ」を戴きに参上いたします 怪盗キッド」
という文面が描かれていた。
「…やっぱりキッドは福岡に来てたんだね」
そのメールを見てコナンが言った。
実際に予告が送られてきたことに対して彼女達が困惑しているのは、園子の後ろにいる綾子の不安な表情からでも読みとれた。
「…それで、どうしたの?」
蘭が園子に聞いた。
「…うん。この予告が私のケータイに転送されてすぐに福岡市博物館にも聞いてみたんだけど、博物館のほうにもこれと同じ内容の文章がネットを通して送られたらしいわ」
福岡行きが決まってから園子に頼んで福岡市周辺をネットで調べてもらっていたのだが、園子が言うには福岡市博物館に限らず、そういった博物館などの公共施設のホームページには「お問い合わせ」という形でメールフォームが設置されていることが多いそうである。
となると、おそらく怪盗キッドはそれを使って博物館にメールを送ったであろうことは容易に想像できるが。
「…それで、それからどうしたの?」
「大丈夫。そのあと福岡県警の方にも連絡を入れたし、パパもすぐ戻ってくるって。…でもさっきも言ったけど、おじさん酔っ払ってるらしいから」
「解ってるわよ。酔いが醒めたら私のほうからお父さんに言っておくわ」
「お願い」
そして程なく、小五郎を連れて史郎がホテルに戻ってきたのと同じ頃に福岡県警の刑事達がホテルへとやってきた。
「…じゃ、蘭。またあとで」
「うん、解ったわ。…ほら、お父さん、しっかりして!」
そういうと蘭は小五郎に肩を貸す。
小五郎は完全に出来上がっていたようで足取りもおぼつかない。
この様子だとおそらく中洲で浴びるほど飲んできたのだろう。
(…やれやれ、この場で眠ってもらうか?)
コナンは右手にしている腕時計型麻酔銃をチラリと見る。
*
そして翌朝。
「…ねえ、コナン君」
蘭がコナンに話しかけた。
「ん? どうしたの、蘭ねーちゃん」
「園子知らない?」
「ボク知らないけど、どうしたの?」
「なんか、お姉さんが朝起きたらどこにもいないんだって。それで私達の部屋に遊びに来たか、ってお姉さんが言ってきたんだけど、こっちには来てないしねえ」
「…どこ行ったんだろうね?」
そして、ホテルの近くにあるコンビニエンスストアで朝食を買おうかと思って1階に降りてきた時、不意に園子と鉢合わせた。
「あ、蘭、どうしたの?」
「どうしたの、じゃないわよ! お姉さんがどこ行ったのか心配してたのよ」
「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと早く起きちゃったから、散歩でもして来ようかと思ってちょっとその辺歩いてたの。…ついでに朝ごはんも買ってきたし」
そういうと園子は蘭たちにコンビニの袋を見せる。
「…まったくもう…。お姉さんにちゃんと言っとくのよ」
「解ってるって」
そして園子はエレベーターに向かった。
その様子をじっと見ているコナン。
「…コナン君どうしたの?」
「ん? な、なんでもないよ」
*
そして朝食を済ませたコナンたちは 怪盗キッドからの予告状が届き、しかもその標的が自分たちの持っている宝石だった、ということもあったのだろうか、福岡市博物館から連絡を受け、昨日と同じく園子たちと一緒に福岡市博物館へとやってきていた。
福岡県警から警官隊が駆けつけ、博物館側も警備員を増やした事から、福岡市博物館は昨日とは比べ物にならないほど、早朝から物々しい警戒体制を敷いていた。
更に「考え得る限りの手段を講じる」ということで入館は正門に限り、更に入館者には手荷物検査やあらかじめ設置してあった金属探知機のゲートを潜り抜けて入館する、という空港のそれ並みに厳しい警戒だった。
「…それにしても」
コナンは福岡市博物館にいる警備員や警官を眺めてつぶやいた。
「…ヤツの予告は夜だってのに朝っぱらからなんなんだ、この厳重な警戒は?」
「…でもこれでキッドに宝石を盗まれたら警察の面目が丸つぶれだしね」
蘭が言う。
「そりゃそうだけど…」
やはり自分達の持っている宝石が狙われている、ということもあるのだろうか、鈴木家の面々もどこと無く落ち着かない様子だった。
「…そういえば、さっき福岡県警の人に聞いたけど、警視庁から二課の中森警部も午後の飛行機で福岡に駆けつける、という話らしいな」
小五郎が言う。その小五郎もさすがに昨日の晩に関しては記憶が飛んでしまっていたようで、今朝になって始めて話を聞いたところだった。
さすがに相手が相手だけに今回の件に関しては警視庁にも連絡が行ったようだ。
「…とにかく中に入ろうよ」
園子が言う。
そして一行は中に入った。
キッドが予告を送りつけてきたのは今朝の新聞やテレビで報道されていたから、それに対する興味もあってか、昨日も結構来場者がいたが、今日は見る限り昨日を上回る来場者のようだった。
そしてほとんどの客はキッドが狙っていると言う宝石が展示してある特別展示室の方へと入っていく。
結局コナンたちは時間が来るまでもう一度福岡市博物館の展示物をじっくりと見るはめになってしまった。
ある展示品のを見ていたときだった。
「…あれ?」
なにやらコナンがある椅子に座っている博物館員となにやら話しているのを見かけた。
髪が長く、背中を向けている事から顔はよくわからないがどうやら女性らしいが…。
「コナン君!」
蘭が呼びかける。
「あ、今行くよ!」
そしてコナンは蘭の元に駆け寄る。
「…何あの人と話してたの?」
「…あの人、って?」
「ほら、あそこに座っている女の人」
そういうと蘭は椅子に座っているさっきの女性博物館員を指差した。
「あ、…うん、ちょっとね。色々と展示品について聞いてたんだ」
「ふーん…」
*
午後4時30分を回った頃、一台のパトカーが博物館前に到着した。
中から一人の男が降りてくると、ひとりの刑事がその男を出迎えた。
「あ、中森警部、お待ちしておりました」
そう、その男こそ警視庁捜査二課の中森銀三警部だったのだ。
「ご苦労様です」
「いえ、こちらこそ。ここで話もなんですから、こちらへどうぞ」
そして中森警部を警備室へと迎え入れた。
警備室の中には何人もの刑事や警官が詰め掛けていた。
「どうもどうも、中森警部。お忙しいところをわざわざ遠路はるばるお越しいただきまして」
「いや、ヤツが福岡にまで足を伸ばしたと聞いては黙っておられませんからな。話を聞いてすぐに飛んできましたよ。…ところで、警視庁に掛かってきた電話で話は聞きましたが、キッドのヤツが今夜宝石を盗みに来ると予告があったそうですな」
「ええ。それに聞いた話だと、中森警部は鈴木財閥の事もよくご存知だとか」
「幾度かヤツか鈴木財閥の宝石を狙った事がありますからな。…ところで宮城さん、とか言いましたな」
中森警部が副館長の宮城に話しかける。
「え? ええ、なんでしょうか?」
「…警備の方はどうなっとりますか?」
「…私どもは福岡県警の方にお任せしておりますから…。ただ、県警の皆さんのご指示に従って考え得る限りの警備は敷かせていただきましたが」
「…見せていただけますか?」
「今はちょっと来館者もおられますし、準備もまだ終わっておりませんので、閉館後で構いませんか? あと1時間もすれば閉館ですので」
「それは構いませんが」
それから間もなく閉館時間の5時半となり、来館者が帰った後、福岡市博物館の中には県警の刑事たちと博物館の一部関係者、そして中森警部と「閉館後も残って欲しい」と言われたため、館内にいたコナンたちが残るだけとなった。
特別展示室の中に宮城副館長と中森警部達が入る。
「…今回、怪盗キッドが狙っているのはあの宝石らしいんですが…」
そういうと宮城はショーケースの中にある一つの宝石を指差した。
中森警部がそれに近づく。
「…ほほお、この宝石を盗む、と予告してきたんですか」
そういいながら中森警部はショーケースの周りを回りながら宝石を眺める。
「…はい」
そう、その宝石「レッドサンライズ」は朝日を思わせるかのような鮮やかな赤い色をしており、宝石が赤い色をしている、ということもあるのだろうか、数々の展示品でも一番目をひく感じがした。
「…この宝石は今回の秘宝展の目玉、とでも言っていい展示品でして。来館者の皆さんもほとんどの人がこの宝石の前で足を止めて見入ってますよ」
「…それで、警備の方はどうなっとるんですか?」
中森警部がそういった話にはあまり興味がないのか、一通り宝石の入ったショーケースを見回すと、福岡県警の刑事に聞いた。
「ええ、防犯カメラを倍の数に増やしましたし、出入口には警官を2名ずつ配置します。それから防犯センサーも作動チェックを何度も行なって、ちゃんと作動する事は確認しています」
「…そうですか」
「今は電源を切ってありますけど、この防犯センサーも赤外線を利用して、何者かが、このケースの周囲1メートル以内に近づくと作動する仕掛けになってますし、念のために警備員の他にも何名かの職員に残ってもらって、特別展示室と常設展示室両方を見張ってもらうように博物館側にお願いしてもらっています。館長と副館長も今夜は博物館に泊まりこむそうです」
「…わかりました」
「それと、博物館周辺にも警官を配置しますし、何のために福岡タワーやヤフードーム、シーホークホテルと言った場所にも警官を配置します」
「それはすみませんな」
「いやあ、相手が相手ですからね。これくらいの警戒はしないといかんと県警の方でも言っていまして」
「…まあ、そうでしょうが。ただ、気をつけてくださいよ。ヤツは変装の名人でもありますからな。既にこの中に紛れ込んでいるかも知れませんからな」
「…それは警視庁の方からも話は聞いています。ですので我々も常に二人一組で行動していますので、その辺は心配ないと思いますが…」
*
そして警報の点検をしたり、あちらこちらの見回りをしているうちにいつの間にか夜7時半を回っていた。
普段は電気が消される博物館周辺も今日は室内に煌々と明かりが点けられ、外はサーチライトが博物館周辺を明るく照らしていた。
コナンたちと鈴木一家は館長たちの計らいで、閉館後も警備室の中にいた。
モニターの中には宝石の入ったショーケースが一番目立つモニターに映っており、後数台のモニターで博物館内の様子が次々と映し出されていった。
怪盗キッドが狙っている宝石は特別展示室に展示してあるのだが、福岡県警の警官達は念のために、ということで常設展示室や1階のロビー、正面玄関にも人員を配置し、さらには博物館側も何人かの博物館員をあちらこちらにおいていた。
「…異状はないか?」
「ハイ、今のところ以上はありません」
…と時々無線のやり取りが聞こえてくる。
「…今のところは異状はないようです」
「…このまま何も起こらなければいいんですが…」
そして何気なくそこにいた何人かが警備室においてある時計を見る。
もうすぐ夜の8時になろうとしていた。
そして夜8時になったときだった。
突然、館内の電気が消え、あたり一面が真っ暗になった。
「…どうした、停電か?」
慌ててそこにいた全員が辺りを見回す。
しかし博物館周囲の電気はついている。
そして程なく再び電気がつき、室内は明るくなった。
そこにいた全員が、ホッと胸をなでおろす。
しかし、それもほんの一瞬でしかなかった。
「…あっ!」
警備員室のモニターを見ていたひとりが素っ頓狂な大声を上げた。
「どうした?」
「宝石がありません!」
「何?」
そして全員がモニターに集まる。
そう、そのショーケースにほんの1分前まであった宝石が跡形も無く消えうせていたのだ。
そしてショーケースの中には
「宝石『レッドサンライズ』確かに戴きました 怪盗キッド」
というメッセージカードが置いてあるだけだった。
「…キッドだ! 怪盗キッドが現れた! 至急非常線を張れ!」
中森刑事の声が警備室内に響いた。
(最終話に続く)
|