変態至上主義!(23/23)PDFで表示縦書き表示RDF


変態至上主義!
作:闇友菜



番外編3 ようこそ鬼東家へ!?


「お父様、お父様。要さんがいらっしゃったわよ。こっちへいらしてください。……おかしいわね、返事が無いわ。どこかに出かけたのかしら……」
 お、お父様だと……。艶子の父親はどんな人なのか、ちょっと興味があった。母親はかなり美人だし、父親も結構イケメンなのかもしれない。にしても……こんな普通そうな親からなんで目の前にいるこんなの(煌羅)とかあんなの(艶子)が育つんだ。
 二人とも怪力だし。二人とも武術に卓越したなにかがあるし。
「それにしても、本当によく聖司さんに似ていらっしゃるのね。親子じゃなくて、一卵性の双生児みたいだわぁ」
 鬼東家の奥様がしみじみと呟いている。あんなのと双子だったら大変なんだろうな、きっと。
「我が家に二人も魔王がいるなんて、幸せねぇ」
 魔王がいることが果たして幸せなのかどうかは疑問なところだが、奥様はうっとり微笑んでいる。
「ああっ、こうしてはいられないわ。私ったらいつもうっかりしていて。お客様にお茶も出さないで立たせっぱなしにしていて。すぐ美味しいお菓子を用意しますからね。まあちょっとおくつろぎになってくださいな。それと、煌羅さん、ナポレオンが死にそうよ。はやくどいてあげてね」
 艶子母の背中は、うきうきしていた。背中から無言でうきうきをつたえてきた。この人つわものだ。
 そういえば、聖司さんからお土産を選んでおいたから渡せと言われていたんだっけ。すっかり忘れていた。これが絶対喜ばれるからといって勧められたものだ。
 聖司さん曰く、いつも手土産にこれを持っていくけど、感激されるらしい。特にお父さんに渡すと絶対いいからと笑顔で念を押された。
「煌羅……さっさとどいてくれないかい?」
「あんたの存在忘れてたわ」
 煌羅、それは無いんじゃないか……。
「そうそう、俺、お土産もってきたんだけどさ。生ものだって聖司さんが言うから皆で食べたほうがいいよな?」
 煌羅は一瞬、眉をひそめて訝しそうに僕の手元にある箱包みを見た。
「え? 聖司が生もののお土産……?」 
「なんかおかしいこと言ったかなー……俺」
「わかったわ。冷蔵庫があるから、そこでとりあえず保存しましょう」
 煌羅が隣の戸を開けた。僕は唖然として、言葉が出てこなかった。
 これは、冷蔵庫じゃない。冷凍室だ。天井から肉の塊がそのままぶら下げられていた。普通の民家にはこんな一室全部が冷凍室なんてことありえない。
 いやいや、よーくみると、鶏だの豚だの牛だの、原型そのまま保存してあるじゃないか。おかしいだろこの家。こんなところにいくら生ものの保存のためとはいえお土産置いたら、かちんかちんに凍るだろうな。
 そして更に、僕は自分の目を疑った。
「……ゴリラがいるぞ」
「何言ってるのよ。冷蔵庫にゴリラの一匹や二匹いたっておかしくないじゃない」
 いやいやいやいや。おかしいだろう。ゴリラがもし二匹冷蔵庫に入っているところを想像して欲しい。どう考えても、冷蔵庫をさかさまにしてみてもおかしいもんはおかしい。
「お前の家はゴリラを喰うのか!! 喰わないよな!? 喰わないといってくれ!!」
 煌羅は目を合わせず言い放った。
「ありのままの事実を受け入れろ」
 しかもそのゴリラ、震えながら体育座りしていた。背中が寂しげだ。おかしい。この家絶対おかしい。
「あら、お父様。いたの?」
「ねえ変なこときいていいかな……お父様って?」
 煌羅は生暖かい微笑みを浮かべ、僕の肩をぽんと叩いた。
「あらあら。第一発見者」
 これがお父様だと。だってどうみたって冷凍室の中で震えながら体育座りしてるゴリラじゃないか。僕の中で何かと何かが結合した。
「煌羅、ずっと信じてた。お前はゴリラの娘だってな!!」
 煌羅は何のためらいも無く僕を蹴り倒して、傘を振り上げた。
「もういっぺん言ってみろ。そんなわけないだろクズが」
 そんなこといわれても、日頃のお前の行いと目の前の事実が丁度いいかんじに結合してしまったんだからしかたない。そう思われたくないんだったらもっとゴリラらしからぬ行動をとってくれ。
「お父さん」
 僕はゴリラに勇気をだして話しかけた。背中に少し霜が降りつつあるゴリラが振り向いた。
 顔はやっぱりゴリラだった。もしかしてちょっと毛深いだけの人なのかとも思ったが。
 にしても、見れば見るほどゴリラだぞ。これはちょっと毛深い人というレベルは超えている。
「やった、通じたぞ。このゴリラもしかして天才か!?」
「いつも艶子がせわになっているゴリな、要くん」
「しゃべった!!」
しかも何か変な語尾ついてるゴリ?!
「失礼な!!」
 煌羅が傘で僕の脳天をぶん殴った。額が割れて流血しながらも、僕はとりあえずお土産を渡した。だが幸いここは冷凍室だ。血管が収縮してすぐ止血された。結構便利じゃないか。
「これ、つまらないものですが……」
「気を使わせてしまったね、ありがとうゴリ。要くん」
「いえ、本当につまらないものかもしれないので、開けてみてくださいゴリラ」
 ゴリラが包みを開けるところを暖かく見守った。場所は凍りそうなくらい寒いけど、ゴリラを見ているとなんか癒される。
 バナナが出てきた。いや、バナナの詰め合わせが出てきた。
「おお、これこれ。いつもすまないなぁ聖司くん。気をつかってくれているんだな」
「あの……どうしてそれが聖司さんの選んだものだと……」
「いやいや。簡単なことさ。バナナの詰め合わせは聖司くんしか持ってこないからね」
 おい。
 聖司……お父さんを何だと思ってるんだ。ゴリラだ!! 仕方ない!!
「おーい、ジョセフィーヌ! バナナを切ってくれ! お客様に出すんだ」
 ジョセフィーヌって誰だよ。メイドかな。僕は誰かがここへ来るのを待った。
「あらあなた。ここにいらしたんですか? ジョンが探してましたよ? 勝手にオペ中に抜け出して困るって」
 来たのは、和風美人奥様だった。これがジョセフィーヌなのか……?
「ああ、悪い悪い。麻酔医は今日わたし一人だったからな。他のオペも掛け持ちさ。暑いんだなー、この恰好」
「ゴリラが麻酔医なんですか……」
 そんな病院、嫌だなぁ……。
 和風美人奥様は声を上げて笑った。鈴をころがしたような、心地よい声だ。
「なかなかユニークな方なのねぇ。要さん。」
 いや、御宅のお嬢さんや親族の方ほどでは……。
「いい加減、脱いだらいかがです? 暑いのは当たり前でしょう? 全身毛で覆われてればそりゃあ暑くもなりますよ?」
「え……?」
「そうだな、そろそろ出るとしよう。悪いがチャック下げてくれ」
「はいはい」
 ゴリラの背後に回り、奥様は背中の毛を掻き分けて何かをごそごそ探していた。
 ジーという音がして、背中がぱっくり開いた。
「ふー……この着ぐるみ、自分で脱ぎ着できないのが難点だな」
 中から出てきたのはなんか薄っぺらい男の人だった。顔の特徴もこれといってない。普通のおっさんだ。
 普通でよかったと思うと同時に、こいつやっぱり普通じゃないかもお父さん、という気持もあった。ていうかゴリラの着ぐるみ着て冷凍室で体育座りしてるおっさんは普通という分類に入れてはいけないと思う。こいつが普通なら、世の中の普通は変てことになる。
「いや、驚かせてしまったみたいだね、要くん」
「はあ、まあ」
 これで驚くなというほうが無理だ。
「実は、私の存在があまりに薄いものでね。聖司くんとオペに入ったときも、麻酔医である私のことは皆忘れて、自分達で勝手に挿管までやってしまって、スタッフもみんな私の指示なしに勝手にやっていくし、もうなんか自暴自棄になってね。聖司くんに相談したら、インパクトが足りないといわれてね……」
 何でそこで聖司に相談するんだよ。間違ってるよお父さん。あんた聖司さんの暇つぶしの道具にされてただけだよ!!
「二人で飲んだ時、盛り上がっちゃってねー。ゴリラの着ぐるみでも着たらきっとインパクトがあるといわれて。それで着ぐるみだけじゃなく、語尾にもゴリってつけてみたりしてさ……聖司くんはゴリラになりきってるときの私のほうがずっと面白くていいと言ってくれて」
 面白がってんじゃねーよ聖司。一応お父さんだぞこれ。
「聖司くんはなりきりに色々協力してくれたよ。バナナの詰め合わせは必ず手土産に持ってきてくれるし」
 ………どこまでお父さんを馬鹿にしてるんだ、聖司。
「ただいまー!!」
 明るい声が家中に響く。
「帰ってきたのね、艶子さん。丁度良かった」
「要ー!?」
 艶子がすっ飛んできた。僕の顔を見るなり抱きついてくる。
「叔父さんにこっちにいるかもしれないって聞いて……もしかして喰われてるんじゃないかって心配したのよ!!」
「あー……今のところ無事だな」
 煌羅と奥様が顔を背けて舌打ちしているのが見えた。
「お父さんに会った? ごめんね、ごめんね。別に馬鹿にしてるわけじゃないんだよ。あれはあれで一生懸命存在感出そうと頑張った結果なの!!」
「存在感ばりばり出てたけどな……」
「で? 今はどこに?」
 実の父親を目の前にして、艶子は普通に聞いてきた。
「艶子さん。あんまりお父様をないがしろにするんじゃありませんよ」
 奥様が目をすっと細くして、艶子を見た。言葉遣いは丁寧だけど、有無を言わせぬ迫力があった。極道の妻という感じだ……。や、間違いなく煌羅はこの人の子どもだ。だって雰囲気どこと無く似てるし。
「あ、ここにいたのね」
 自分の目の前にいた父親に普通に気付かないお前はすごいよ。うん。
 今までずっと放置されていた信雄が、自分の存在感をさもアピールするように突然艶子の前に立ちはだかった。
「久しぶりだね、艶子! ここで会えるなんて、伊達に元婚約者やってたわけじゃないね」
「じゃあね信雄。あんたは病院に帰りなさい」
「恥ずかしがることないだろ、ベイビー。僕達の愛はあの日確かにそこにあった……二番目に大きな愛だった。一番はもちろん聖司さ。今は要、君だよ……」
 信雄くんからの投げキッスを打ち落として、僕は聞かなかったことにした。

「こちらとしては、要さんを迎え入れる準備は万全よ。いつでも来て頂戴」
 微笑みながら言っているのだが、言外にいいから早く来いといわれている気がしてならない。
 婿に行くか嫁にくるのか……。戦いの火蓋は切って落とされた。
「私、嫁に行きます。嫌です、この家に残るの」
「駄目よ艶子さん。貴方女王じゃない」
 激しい攻防戦が始まった。
 どっちでもいいから、いやどっちかといえば婿に行きたくないから嫁に来て欲しいが、早く帰りたいと切実に思っていた。


番外編はまだ続きます。番外編4でお逢いしましょう!













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP


小説家になろう