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桜舞う日に
作:七色 鈴音


「人ってのァ強いもんでな、打ちのめした分だけ強くなるんだよ。」
昼下がりの団子屋。
相手の団子はとっくに尽きていて、俺が茶をしばいているだけの状態だった。
「刀と似たようなもんだ。誰がつくって誰が叩き誰が使うかってことだな。おっと、使うって表現はよかねぇな。」
男は一人で忍び笑いをした。
俺はただ黙ってそれを見ているだけだった。
「おめェさんはどうなんだろうな。」
「どうでもないさ。今はただの流浪人。自分の勝手で生きる。」
男はまた笑った。
「そう長ェことは生きれねぇさ。お前も一度は泥水に浸かった人間だ。まともな死に方は出来ねぇだろうよ。どうだい?隠居なんかやめて、もう一度俺達と共に……」
「おいおい、やめてくれよ。」
俺は男の言葉を遮る。
「弱き民を救うためと謳って人を殺し、それで得た民からの信頼と金を使って生きてる。事実民を救ったにしても、俺達が外道であることには違ぇねェ。ははっ、外道という言葉は、案外俺達のためにある言葉かも知れねぇや。」
それに、と俺は続ける。
「もう俺は殺さねェ。いや、殺せねぇよ。」


瑠璃は薬屋の娘だった。
瑠璃の噂は結構広がっていた。気立てのいい美人だと。
瑠璃を狙って薬屋にくる奴も少なくねぇとも聞いていた。
ところが瑠璃のおやっさんが高利貸しと共謀して、金のねぇ農民に当りをつけ、金を貸しているという事実を聞いたのだ。
俺達は薬屋を始末することになった。
“弱き民を救う”ために。
「いらっしゃい。」
そんな俺を迎えたのが瑠璃だった。
白い肌に整った顔立ち。薄い、赤色の着物がよく似合った。
「傷薬をくれ。」
「あぁ、少し待って下さいね。」
そういって瑠璃は店の奥へと走っていった。
すぐに戻ってきた瑠璃は、手に編み笠を持っていた。
「はい、傷薬です。あと、これも……。」
そう言って、編み笠を差し出した。
俺が不思議そうにすると、瑠璃は少し笑った。
「もうすぐ、雨が降ります。風邪を引かれたら大変です。どうぞ。」
「何故、このような家に編み笠が?」
そういうと、瑠璃は照れたように笑った。
「最近はどこも儲けがないんですよ。知り合いに編み笠を造って売ってる人がいるんですけどね、なかなか買い取ってもらえないようなので少しばかり、小遣いで編み笠を買ってるんです。だから、お代は気にせずに。」

それから俺は薬屋に通うようになった。
毎日同じ薬を買うので、瑠璃はよくおかしそうに笑った。
しかし、夢はすぐに終わりを告げる。
「今夜決行だ。準備しておけ。」
黒い声が頭の中に響いた。

深夜――。
月も出ないほどに暗い夜、仕事は始まった。
ドォン
乱暴な音がして、扉は蹴破られた。
「黒川平八だな?お前は中神忠兵衛と手を組み、弱き民を苦しめた。よってお前に天誅を下す。」
一太刀。
それで全て終わるはずだった。
刀を振り下ろした瞬間、刀が斬ったものは白い、女だった。
「瑠、璃……?」
返事はなかった。
いつもの明るい笑顔もなかった。
だんだんと着物が赤に染まる。
自分が殺した。
初めて感じる、失った痛み。

ヒュン
黒川の首が飛ぶ。
何故。
どうして。
こんな奴、お前が庇うことなんかないのに。
瑠璃………。
俺と瑠璃の頬には冷たいものが流れた。



「これからどうすんだィ?」
「さぁ。好きにするさ。とりあえずは生きるよ、精一杯。」
瑠璃の分まで。
俺が生きなきゃ、瑠璃も死ぬ。
俺の中では、まだ瑠璃は生きてる。
「そうかい。じゃあ次会う時は他人だな。精々用心しろよ。」
そういって男は去っていった。
風は桜を揺らす。
さらさらと、花がまた散った。














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