第15話:マラソン自由型其の二
ハヤテが校庭に着くと、体育着を着用したヒナギクに叱られた。
「遅い!何やってたのよ!?」
「すみませんすみません。ほんとすみません」
とハヤテは頭を下げて必死に謝る。
「まあ良いわ。取り敢えず位置に着いて頂戴」
ヒナギクはそう言うと、ハヤテを連れてスタート地点に着く。
「位置に着いて!」
と掛け声が上がり、
「よーい!」
パアンッ!
その音を合図に、全員が走り出す。
(このマラソン、何としても優勝しなくては。その為には・・・)
「ヒナギクさん、ショートカットを使いましょう!」
「はあ!?」
ヒナギクは何故と言う顔で素っ頓狂な声を上げた。
「ヒナギクさんが通りたくないと言うのは解ってますが、僕はどうしても勝たなきゃいけないんです!一憶五千万の借金を返す為に!」
「・・・そう言う事なら、仕方ないわね。協力してあげる。先ずは第一チェックポイントまで行くわよ」
そう言ってヒナギクは敷地図を出すと、現在走っている場所を確認した。
「ハヤテくん、此処から右に真っ直ぐ行けば近道よ」
「ではその道を」
二人は右に折れ、森の中へ入った。
だがそれが拙かった。
その道には大きな崖があり、真っ直ぐ進めない。
「何でこんなのが立ってるのよ?」
「可笑しいですね。この前は何も無かったのに」
と崖を見上げる二人。
「元の道に戻りますか?」
ヒナギクの高所恐怖症を案じたハヤテは彼女にそう訊ねた。
「な、何言ってんのよ!?そんな事してたら負けちゃうじゃないのよ!」
「じゃあ登りますか?」
「・・・・・・」
ハヤテの問いにヒナギクは沈黙した。
(迷ってる暇なんて無いわ。登るのよ、ヒナギク)
と内心自分に言い聴かせ、崖を登り始めるヒナギク。
そんな彼女を追う様に、ハヤテも続く。
「ヒナギクさん、絶対に下を見ちゃ駄目ですよ?」
「下?」
ハヤテの忠告にも関わらず、ヒナギクは下を見る。
地上約3メートル。
全身に悪寒が走り、鳥肌が立つヒナギク。
「だから見るなって言ったんですよ。僕の忠告無視しないで下さい」
「そんな事言ったって、見るなって言われたら余計見たくなるじゃないのよ」
ヒナギクは震えた声でそう答えた。
「はあ、そうですか。兎に角、これを登りましょう」「無理」
ヒナギクは即答した。
「では僕一人でゴールするので、ヒナギクさんはそこで待ってて下さい」
そう言ってハヤテはヒナギクを追い越し、あっと言う間に頂上に登ってしまった。
「一寸ハヤテくん!?置いて行かないでよ!」
そう言って目を潤すヒナギク。
「でしたら頑張って登ってきて下さい」
「そんな事言われたってこんなの無理よ!落ちたらどうすんのよ!?」
「その時は僕が助けます。ですから登ってきて下さい」
言ってハヤテは笑みを浮かべる。
ヒナギクはそれに応えて真剣な顔になり、崖を登り始める。
(怖くない、怖くない)
とヒナギクは自分に言い聴かせながら、着々と登って行く。しかし──
右手で掴んだ崖の一部が外れ、バランスを崩して落下を開始。
ハヤテは「ヒナギクさーん!」と叫びながら崖を下り、足場を蹴って彼女を空中で捕まえると、近くに生えていた木の枝を掴んで落下を止めた。
「大丈夫ですか、ヒナギクさん?」
「う、うん。何とか・・・」
とその時、バキッと枝が折れ、二人は再び落下を開始した。
ハヤテはヒナギクにダメージを与えまいと、彼女を抱き抱えて上を向く。
その直後、ハヤテの背中が地面に叩き付けられた。
「がはっ!」
ハヤテは吐血した。
「一寸、ハヤテくん!?」
「う・・・怪我、しません・・・でしたか・・・?」
ハヤテは顔を引き攣らせながらそう訊く。
「私は大丈夫。それよりハヤテくんの方が」
「僕なら平気ですよ。少し休めば復活します。て言うか、退いてくれますか?」
「え?」
ヒナギクは言われて今の状況を確認すると、頬を赤らめた。
(嫌だ。端から見たらこれ、私がハヤテくんを押し倒して・・・っ!?)
その時、元来た道に何者かの気配を感じたヒナギクは、その方向を向いた。
その先には、見たら誰もが勘違いをするこの光景を見て固まった日比野 文とシャルナが居た。
「ち、違うのよこれは!先刻、崖から落ちた時に!」
ヒナギクが必死にそう弁解すると、二人は辺りを見回して訊ねる。
「崖なんて何処にも無いですよ?」
「え?」
ヒナギクは崖を探した。しかし、辺りは森だらけ。崖など見付からない。
そもそも、校内に崖がある事自体可笑しい。
「それじゃあお二人とも、お先に失礼します」
文たちは律儀にお辞儀をすると、二人を置いて先に進んで行った。
残されたヒナギクは、
「何だったのよあれは!?」
とムカついて思わず叫んだ。
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