第10話:嘘を吐いてもろくな事は無い
朝、ヒナギクはハヤテを起こしていた。
「ハヤテくん、起きなさいってば」
ヒナギクに体を揺さぶられて薄目を開けるハヤテ。
「やっと起きたわね。全く、執事が主に起こされてどうするのよ?」
「あーっ、そうでした!」
ハヤテは慌てて起き上がり、執事服に着替え、トイレに行って用を足し、洗面所に移動して洗顔を済ませ、キッチンに移って朝食の支度をする。
「あ、ハヤテくん。朝食ならもう出来てるから」
「え、そうなんですか?」
「ほら」
ヒナギクはリビングにある食卓の上に並べられた朝食を示した。
そこにあるのは、お屋敷では食べた事の無い、庶民的な料理である。
「これ、もしかしてヒナギクさんが?」
「他に誰が居るって言うのよ?」
「桂先生」
ヒナギクは溜め息を吐いて肩を竦めた。
「あのお姉ちゃんが作る訳無いでしょ?」
「ですよね。それはそうと、昨日、帰ってきませんでしたね」
「そう言えばそうね。何処行ったのかしら」
「僕、一寸捜してきますね」
ハヤテがそう言って外へ出ようとすると、ヒナギクが引き留めた。
「良いわよ、お姉ちゃんなんか。それより、早く朝食済ませちゃいましょ?」
「え、でも」
「ふーん、ハヤテくんは私の言う事が聞けないんだ?」
そう言ってヒナギクはハヤテを睨んだ。
(こ、怖い・・・)
そう思ったハヤテは仕方なくリビングに移動し席に着いた。
その後に続いてヒナギクもやって来て席に着く。
「いただきます」
とハヤテは置いてあった箸を取ってヒナギクの手料理を食べ始める。
「美味しいですね、ヒナギクさんの手料理」
「当然よ。私がハヤテくんの為に心を込めて作ったんだから。だから、ちゃんと味わって食べなさい?」
とその時、ハヤテの顔が引き攣った。
「どうしたの?」
(こ、この野菜炒め、塩とお砂糖を間違えてる。なんて言ったらどうなるだろう?)
ハヤテはそう思い、実際にそう言った時の彼女のリアクションを想像した。
「ヒナギクさん。この野菜炒め、味付け間違えてますよ」
「そんな事無いわよ」
「でも、何か甘い様な」
「ふーん。ハヤテくんは私の腕が悪いって言うの?」
そう言って正宗を手にするヒナギク。
「そ、そんな事言ってませんよ!」
「問答無用!」
ヒナギクはハヤテに襲い掛かった。
(なんて事になりかねない)
そう思ったハヤテは「何でも無いですよ?」と作り笑顔で答える。
(この顔、明らかに何か遭ったわね)
と気付いたヒナギクは、自分の味見した。
白米に問題は無い。
味噌汁にも無い。
残るは肉と野菜炒め。
ヒナギクは恐る恐る肉に手を出した。
クリア。
と言う事は野菜炒め。
ヒナギクは唾を飲み、野菜炒めを口にした。
(っ!?)
ヒナギクはお砂糖の甘味に顔を引き攣らせ「こんなの食えるかー!」と親父の卓袱台返しの如く、テーブルを引っくり返した。
「ひ、ヒナギクさん!?」
ハヤテは驚いて椅子から立ち上がり少し退いた。
(どうして、どうしてハヤテくんと居るとこうなるの?私って呪われてるのかしら?否、逆ね。ハヤテくんが呪われてるのよ、屹度)
勝手にそう解釈したヒナギクはハヤテを睨んだ。
あながち間違っちゃいないが・・・。
(な、何ですかこの人?滅茶苦茶怒ってる様な・・・)
「私が味付けを間違えたの、あなたの所為なんだからね!」
「えっ、何で!?」
「あなたが呪われてるからよ!」
そう言って正宗を召喚し、襲い掛かるヒナギク。
「これであなたの呪いを祓ってあげるわ」
「ちょっ、辞めて下さい!」
ハヤテはそう言いながら攻撃を素早く回避。
「一寸、何で避けるのよ!?」
「だって僕、避けなきゃ死にますから!」
「それは試してみたいわね。元三千院家の執事がどのくらい丈夫なのか興味があるわ」
「そうですか。では仕方ありません」
言ってハヤテは真剣な顔になり、両手に気弾を作り出した。
「これはこの間ある人物に伝授して貰った、僕の新たな必殺技です!」
するとそこへ、雪路がやって来た。
「二人とも、楽しそうじゃない」
その言葉にヒナギクは気付き、雪路の方を向く。
「おかえり、お姉ちゃん。今度から家で雇う事になった執事兼お姉ちゃんのお世話係のハヤテくんよ」
とハヤテを紹介するヒナギク。
ハヤテは気弾を消失させると、雪路の方を向いて「宜しくお願いします」と笑顔で頭を下げた。
「一寸待って。どう言う事?綾崎くんは確か、三千院家の執事じゃ・・・」
「その執事クビにされたから拾ったのよ」
「ふうん。それじゃあ早速買い物頼んじゃおうかな。酒買ってきて」
「鮭ですね?ダッシュで行ってきます!」
ハヤテはそう言ってダッシュで駅前の24時間営業のスーパーへ行き、鮭を買ってダッシュで戻ってきた。
「買ってきましたよ、鮭」
とハヤテは雪路に渡した。
「そうそう、これが食べたかったのよ。って、違ーう!私が言ったのは酒、お酒の事よ!」
「ハヤテくん、ナイスボケよ」
と笑みを浮かべ、親指を突き立てるヒナギク。
「そこっ、褒めないで突っ込みなさいよ!」
「嫌よ」
「一寸あんた、私の味方じゃないの!?」
「はあ?何で私がお姉ちゃんの味方をしなきゃいけない訳?」
「なんですって!?」
雪路は傍らに在った竹刀を手にした。
「私が買ったらあんたは私の奴隷!良いわね!?」
そう言って格好良く竹刀でヒナギクを指す雪路。
「味方から格下がってませんか!?」
と突っ込むのは水色頭の少年。
「水色頭の少年って何だよストーリーテラー!?」
・・・・・・。
辺りはシーンと静まり返った。
「あの、ハヤテくん?誰に突っ込んでるのかは知らないけど、それはあなたの事よ」
「・・・解ってますよ、そのぐらい」
と可哀想な者を見るような目で見詰めるハヤテ。
「・・・・・・」
ヒナギクは沈黙した。
「所で、桂先生は今まで、何処で何をしてたんです?」
いきなり話しを振られ、雪路は戸惑う。
「えっと・・・」
(流石に言える訳無いよね。徹夜で麻雀やってたなんて)
「じ、実はね、彼氏の家に泊まってたのよ」
その言葉にヒナギクが眉毛をピクッと動かし細目で雪路を見ながらこう言う。
「へぇー、お姉ちゃんに彼氏居たんだ」
「何よその顔は!?」
「いや、お姉ちゃんの彼氏さんも大変だなぁって」
「どう言う意味よ、それ?」
「お姉ちゃん、お金無くなると直ぐに人にたかるから、お姉ちゃんの相手をする彼氏さんも大変だなって」
その言葉に雪路は引き攣る。
(い、言わなきゃよかった)
「あ、そうだ。今度連れて来てよ。お姉ちゃんの彼氏」
「えっ?」
雪路は目を点にした。
「一度、どんな顔か見てみたいから」
「う、うん。良いけど・・・」
(はっ、何約束してるのよ雪路。そんな約束、守れる訳無いじゃない)
「それじゃあハヤテくん、お部屋片付けましょう?」
言ってヒナギクが引っくり返したテーブルを戻し、ハヤテが散らばった皿や料理を片付け始める。
「お姉ちゃんもボーッとしてないで手伝ってよね。って、もうこんな時間!?」
ヒナギクは作業を辞め、制服を着用しに自室へ移動した。
そして学校へ行く支度が終わると、玄関に移動してハヤテを呼ぶ。
「ハヤテくん、早くしないと遅刻するわよ」
「あ、そうですね。それじゃあ桂先生。部屋のお掃除頼みますね」
ハヤテはそう言って自室に行き、鞄を持って玄関に移動する。
「行きましょうか、ヒナギクさん」
靴を履き、ドアを開けてそう言う。
ヒナギクは「うん」と頷き、靴を履いて二人で家を出て行った。
「えっ、一寸!?私が掃除すんの!?つーか私も学校行かなきゃいけないんだけど!」
雪路はそう言ったが、二人が戻ってくる事は無かった。
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