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 この作品は残酷なシーンを入れる予定です。だからそういうのが苦手な人は回れ右です。
第一話 電車の中で
『それじゃあ、行って来るわね』
 それが姉さん、京野静音きょうのしずねの最後の言葉だった。
 別に死んだわけじゃない、ただ連絡が取れないだけ。……一ヶ月も。
 もちろん警察に訴えた。そして返ってきた答えは、姉さんがある人と駆け落ちした、それだけだった。
 ありえない。そんな事は絶対にありえない。だって私達姉妹は早くに両親を亡くして、それからは姉さんが私を育ててくれた。だから私に黙って駆け落ちするなんてありえない。少なくとも私には何かを言うはず。私達は……たった二人の家族だから。
 だから私は行く事にした。姉さんが最後に行った場所。来界村きかいむらへと。


「鈴音」
 電車に揺られながら、隣に座っている神園沙希かみぞのさきが窓の外を指差した。
 沙希は私、京野鈴音きょうのすずねとは親友と言える仲だ。それに鈴音の家に何度も遊びに行った事もあるので静音との関係も深い。だからなのか鈴音が来界村に行くと聞いたときには、自分も行くと鈴音についてきた。
 二人の付き合いは大学に入ってすぐの時からだ。沙希は一人暮らしの為か、しょっちゅう鈴音の家に遊びに来ていた。だから沙希は鈴音の事情は知っている。そして静音とも仲は良かった。
 沙希も静音がそんな事をしないとよく知っていた。だからだろう、二人して学校に休学届けをだしてこんなところに来たのは。
 沙希が指差した方向に鈴音は目を向ける。
 窓の外を山が流れる。
「あの山の向こう、そこが来界村みたい」
「……そっか、あの向こうに姉さんが」
 静音が最後に居た場所。その場所が山の向こうにある。そう思っただけでも鈴音は静音に近づいたような気がした。
「絶対、手がかりはあるはず」
「そう、だね」
 少し力無く答える鈴音。沙希はそんな鈴音の頭を思いっきり引っ叩く。
「痛いよ〜、沙希」
 突然の事に、多少涙目になりながら鈴音は沙希を見上げる。
「鈴音、今から弱気になってどうする。絶対に静音さんを見つけるんでしょ」
「そうだけど。沙希は格闘技をやってるから結構痛いんだよ」
「そういう鈴音だって剣を持たせれば強いでしょ」
「まあ、そうだけど……」
 新陰流目録、それが私の持ってる強さの証明。何故だか分からないけど、急に姉さんが習わないかって言い出して、何気にやっていたら目録まで取ってしまった。……いや、やってみると結構楽しかったのよね。剣術って。
 だから私に剣を持たせればそこそこの自信はある。けど、素手だとどうしても沙希には敵わないのよね。沙希はスレンダーな体型をしていても結構強かったりもするから。
 それに沙希は結構積極的だから、私も助けられることが多い。今回の事も沙希が一緒に来てるって言ってくれたから、私はこの来界村に来る事が出来た。その点は沙希に感謝しないと。
 そして沙希は更に鈴音を後押しするかのように手を握ってきた。
「沙希?」
「大丈夫、絶対に静音さんを見つけられる」
「……うん」
「そして帰ろう、三人で」
「うん」
 鈴音はもう一度、窓の外へ目を向ける。
 少しずつ家屋が多くなり、次第に山は見えなくなっていった。
「さすがにこの辺は開発が進んでるね」
 流れる景色を見て鈴音はそんな事を言い出した。
「まあ、この辺じゃ一大事業みたいだから」
「来界村もこんな感じなのかな?」
「う〜ん、それはどうだろう。確か平坂は来界村の一部だけど外れ方だからね」
 沙希は地図を広げてそんな事を言って来た。そして地図の一点を指差す。
「ここが今向かってるのがこの平坂駅。そして少し離れて来界村がある」
「ふ〜ん、そんなに遠くないんだね」
「バスの本数も増えたって聞いたし。これも開発された影響かな」
 そう、来界村は最近開発が始まった。そして姉さんも、仕事の関係上で来界村の開発に携わっていた。そして姉さんはそこで彼と知り合った。
 詳しくは聞いてないけど、名前は確か……そう、静馬さん、だったかな。姉さんの話しに何度か出てきたし、警察からも静馬さんと駆け落ちしたと聞かされた。つまり姉さんとは深い関係になっていたかもしれない人だ。
 だからまず、その静馬さんの家族を探さないと。駆け落ちって言うぐらいなら相手は姉さんが話してた静馬さんだろうし。そうでなかったら静馬さんから姉さんの情報が聞けるはず。そのために私達は来界村に向かってるのだから。
「それにしても、何でこんな端っこに電車を通したんだろ」
 何気に沙希が地図を見ながらそんな事を呟いた。
「あぁ、それ、なんでも村長さんが村に電車を通すのに猛反対したらしいわよ」
「なんで? 村長なら村が活性化するのは良いことなんじゃないの?」
「そんなの私に聞かれても知らないよ。姉さんが時々そう愚痴ってたから覚えてるだけ」
「けど、通そうと思えば通せたんでしょ?」
「そうみたい。けど村長さんを始め村人が一丸となって猛反対したらしいわよ。村の景観が壊れるとか文句をつけて」
「う〜ん、怪しい」
「何が? というか似合ってないよ沙希」
 沙希はまるで名探偵がよく取りそうなポーズをしながら鈴音に顔を向ける。
「何がって決まってるでしょ。消えた静音さん、そして村の開発に反対した村長。これは絶対に疑うべきよ」
「村長さんは別に開発に反対したわけじゃないよ」
「えっ、だって電車を通さなかったんでしょ?」
「村長さんは電車には猛反対したけど、開発そのものは賛成だったはず」
「……なにそれ?」
「だから私に聞かないでよ」
 私だって姉さんの仕事に詳しいわけじゃない。ただ姉さんの愚痴を聞き流しながら、覚えていた事を言っているだけなんだから。
「でも開発に賛成して電車を通さないなんて、かなり中途半端じゃない。開発に賛成したなら電車を通した方が良いに決まってるでしょ?」
「う〜ん、姉さんもその点が腑に落ちないみたいだったよ。あっ、けど、村長さんが開発を許したのは平坂だけみたい」
「じゃあ村の方はそんまま?」
「う〜ん、そうでもないみたい。なんか少しは開発したみたい」
 ますますワケが分からないという顔になる沙希。鈴音も困った顔になっている。
 そんな顔されても私にもよく分からないんだけど。姉さんの話だと良い人そうなんだけど、頭が固い所があるって言ってたからな〜。ゆうずが効かないのかな?
「村長さんは村を開発させる気はあまり無いみたい。だから平坂を中心に開発が進んでるってワケ」
「でも、なんか納得できないよね」
「村長さんにも事情があるんでしょ」
「そうじゃなくて。なんて言うかな、まるで来界村に秘密があるみたいじゃない」
「秘密って何?」
 鈴音が聞くと沙希はあえて含みを持たせた後、胸を張って答えた。
「それは知らない」
「無責任ね」
「とにかく、私の推理では来界村に秘密があり、村長さんはそれを守ってると見た」
 う〜ん、そう言われてもね。来界村が実は裏で兵器工場と化してるとか、危ない薬品を作ってるとか、そんなことでも無いと信憑性が無いよ。
 というか、来界村は地図で探さないと分からないぐらいの田舎だし。そんな所にそんな工場があるとも思えないよね。……ダメだ、田舎と聞くと過疎化のイメージしか思いつかない。
 でも秘密か。確か姉さんが来界村の歴史は長いって言ってたっけ。秘密があるとしたら、そこかな?
「沙希、歴史って詳しい?」
「いきなり何?」
「いや、秘密って聞いて来界村の歴史が長い事を思い出したのよ。だから秘密があるとしたらそこかなと思って」
「う〜ん、でもそういうのって郷土史でしょ。それはそこに行って調べないと分からないもんでしょ」
「そっか」
「調べてみる?」
「……いいや、姉さんとは関心を持ってたけど、それが姉さんに繋がるとは思えないし」
「そうね、私達の目的は静音さんを見つけることだしね。そんなことまで調べる必要は無いか」
「でも村長さんには会わないと」
「そういえば静音さんって、仕事で来界村に行ったのよね?」
「うん、だから絶対に村長さんとはあってるはず」
「何か聞けるといいね」
「うん」
 来界村開発はまだ終わったわけじゃない、未だにいさかいが続いてるみたい。姉さんはその後始末で来界村に行った。要するに姉さんが優秀だったから、来界村は姉さんに任せっきりだったらしい。よく愚痴ってったけ。
 だから考えたくないけど、もし姉さんが事件に巻き込まれたなら来界村の住人が怪しい。
 もしそうだとしたら、絶対に許さない。その正体を暴いて公衆の面前に曝してやる!
 鈴音は考えてた事が顔に出ていたらしく怖い顔になっているが、沙希がそんな鈴音の頭をもう一度引っ叩く。
 再び涙目になりながら鈴音は沙希に顔を向ける。
「だから痛いよ〜、沙希〜」
「鈴音が変な事を考えてるから」
「別に考えてないよ」
「顔に出てた」
「……」
「鈴音、鈴音と静音さんはこの世に二人きりの家族でしょ。だったら鈴音だけは信じてあげないと、静音さんが無事だって事を」
「……そうだね」
 分かってる。分かってるけど、あの姉さんが私に黙って駆け落ちなんてするはずが無い。そうなると後考えられる事は一つだけ。……ああ! ダメだ、どうしても嫌な方に考えちゃう。
 鈴音は大きく頭を振って嫌な考えを吹き飛ばす。
 そんな鈴音に沙希は笑顔で話しかける。
「そういえばさ鈴音、来界村って何が美味しいの?」
「えっ?」
 突然の質問に鈴音は困惑する。
「来界村は山奥でしょ。なら山の幸が多いはず、美味しい物も多くありそうじゃない」
「まあ、そうね」
「っでっで、何が美味しいか聞いてない?」
「……ワニ」
「ワニ! 来界村ってワニが生息してるの! というか食べられるの!」
「うん、来界村ではワニが最大のご馳走だって。でもワニって獰猛どうもうでしょ、だから来界村のワニ漁では毎年何人も死者が出るんだって」
「……鈴音」
「なに?」
「それ……嘘よね」
「うん」
 無言で沙希の手が鈴音の首を絞める。
「ちょ、沙希」
「なんか凄くムカついた」
「だって〜、沙希がいきなりそんな事を聞くから〜」
「うるさい」
「沙希、手っ、手が入ってる」
 鈴音は沙希の手を叩いて降参の意を示す。そうしてやっと沙希の手から解放された。
「沙希酷いよ〜」
「鈴音が変な嘘をつくから」
 だが鈴音は沙希に笑顔を向ける。
「ありがと」
「なに?」
「別に〜」
 そのまま照れたように顔を背ける沙希。二人の関係はいつもこうだ。どちらかが落ち込めばどちらかがふざけて元気付ける。そして沙希はいつも照れて、鈴音は笑顔で笑う。それが二人のいつもだった。
 そしてふざけあったことで鈴音の頭から嫌な考えが吹き飛んだ。
 そうだね。私は姉さんが無事だと信じたから、来界村に向かってる。そこに姉さんが居ると信じてるから。
「鈴音、もうすぐ付くみたいよ」
「うん」
 鈴音達は荷物を降ろすと窓の外に目を向ける。そこにはいろいろな建物が立ち並び、中には建設中の建物が通り過ぎていく。
 いかにも開発中ですよ、という町並みを見ながら電車は駅のホームへと入っていくのだった。





 前書きであんなことを言っておきながら、本文はかなりゆるい感じで進んでますね。そんな訳で、初めての方は初めまして。そして他の作品から来てくれた方はありがとうございます。
 ……いや、これからそういうシーンを入れる予定なんですよ。今はゆるいですけど、そのうちそうなっていく予定です。……たぶん。
 それからこれはホラーというより、ホラーミステリーとしての傾向が強いです。なので、あまりホラーな展開は期待しないでください。後、前書きで書いた事はこれからは書きません。いや、だって、めんどくさいから。なので、残酷なシーンが苦手な人は回れ右です。
 さて、今回はとりあえずこんなもんですかね。
 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
 以上、第一話から言い訳が多いなと思った葵夢幻でした。


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