表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/351

22話 パンツはいてない

 商会を出たとたん、サティがぺしゃんとこけた。


「だ、大丈夫か?」


「いつも、転ぶので。大丈夫です」


 しょっちゅう転ぶから、頑丈なんてスキルがついてるのか。少し歩くとまたこけた。【ヒール】をかけた後、仕方ないので手をつないで引っ張ってやってる。ちょっとだけうれし恥ずかしい。


「マサル様は、治癒術師なんですか?」


「そうだな。回復魔法も使えるが、他のも使える。魔法使いだな」


「すごいです。獣人は魔法が使えないので」


 魔力3じゃ無理だろうなあ。




 家に戻る途中、古着屋に寄った。サティの服を適当に選んで買っていく。サティは棚にぶつかって倒しそうになったので、入り口のあたりに立たせてある。あと下着か。さっきちらっと見たけどパンツはいてなかったように見えた。女性店員を捕まえておそるおそる聞いてみる。


「あの……あの子の下着が欲しいんですが」と入り口のサティを指しながら言うと、すぐに持ってきてくれた。かぼちゃパンツか。5枚ほどもらい、服とまとめて会計をする。




 サティを連れて、家に入る。


「ここがおれの家。今日からサティの家でもある」


「はい」


 サティを椅子に座らせる。さて、メニューを調べないと。操作はできるみたいだ。スキルリストも同じようだ。サティには見えてないのか?メニューを閉じたり開いたりしてみるが、反応はまったくない。スキルリストを調べていると、


「あの」


「ん?」


「何かお仕事はないですか?なんでもやります」


「とりあえずすることはないな。そのまま座ってて。ああ、ちょっとお腹がすいてきたな」


 アイテムから弁当を2個取り出し、1個渡す。


「はい、どうぞ。食べていいよ」


「ありがとうございます」


 スキルリストを見ながら弁当を食べようとすると、サティが動かないのに気がついた。お弁当は持ったままである。


「どうした?お腹がすいてないか?」


「いえ、奴隷の分際でマサル様と一緒に食事を摂るなんて、とんでもないです。でもここに座ってろと言われたのでどうしようかと」


「いいよ、ここで食べな。この家には食堂はここしかない。食事は2人で一緒に摂る。いや、違うな。食事は好きなときに好きな場所で摂っていい。おれの前でも、おれがいないところでも。でも一緒に出された食事は一緒に食べること。同じテーブルでね。さあ、食べて食べて」


「はい。わかりました」


 サティが弁当を食べ始めた。おいしいです、おいしいですと言いながらがつがつと食べている。


「奴隷商であまり食事はもらってなかったの?」


「はい。朝と夜の2回だけで。食事もパンと具のないスープだけでした」


「それはひどいな」


「いえ、あそこにいた時は、部屋でほとんど動かなかったので十分でした。村にいたときのほうがもっとひどかったです」


 一日2回のパンと具のないスープの食事よりひどいってどんなのだ。木の根とかかじってたんだろうか。サティはもう弁当を食べ終わったようだ。弁当に残った細かい食べ物も取ろうとスプーンでつついている。もう1個弁当をだして渡してやる。


「いいんですか?」


「いいから食べなさい。もし足りなければもっとあげるから」


 サティが2個目のお弁当に取り掛かるのを見ながらメニューを再び確認する。やはり奴隷か忠誠心のどっちかだな。こういうシステム的なことは、伊藤神に聞いてもまず答えてくれない。確かめるにはもう一人奴隷を買うくらいしかないが、とりあえずはサティの目をどうにかしないと。




サティ 獣人 奴隷


レベル3


HP 18/18

MP 5/5


力 12

体力 5

敏捷 2

器用 1

魔力 3

忠誠心 50


スキル 15P


視力低下 聴覚探知Lv3 嗅覚探知Lv2 頑丈


【視力低下】敏捷と器用にマイナス補正

【頑丈】肉体へのダメージをカット。HP回復力アップ




 視力低下のマイナス補正による、敏捷と器用の数値はひどいものだ。魔眼で何か使えそうなのはないかな。千里眼、未来視?うーん、違うな。敏捷アップと器用アップも意味ないか。心眼。


【心眼】心の眼で敵の攻撃を見切る。回避大幅アップ。


ちょっと違うか。暗視、鷹の目。


【鷹の目】視力にプラス補正。


 これだ!まさしく探してたものだ。5Pだし取ってみよう。




 2個目のお弁当も完食したようだ。まだ食い足りなさそうにしていたので、野ウサギの肉の串焼きを2本渡してやる。よく食うな。お腹壊さないだろうな?


「お腹いっぱいになったか?」


「はい。でもあとお弁当1個くらいなら食べられます」


 あれでまだ腹8分目か。持ち帰りの弁当はサイズが小さめとは言え、そこらの冒険者並みに食べるな。このペースで食われるとエンゲル係数が跳ね上がりそうだ。自炊も考えないと。


「とりあえずは我慢しておけ。あまり一度に食いすぎると体に悪い。晩にまた食わせてやるから」


「はい。美味しかったです」


「では、今から目の治療をする」


「また回復魔法でしょうか?」


「そうだ。でもさっきのと違うやつだ。目を閉じて」


 メニューを開いて、【鷹の目】を取得する。さてどうだろうか。


「目を開いていいよ」


 サティがぱっちり目をあける。数秒はなんともなかったが、不意に目を見開いた。


「あ……あ…あああ」「目を閉じて!」


 目の治療した人って確か、部屋を暗くして少しずつ慣らすんだっけ。窓を閉じて、部屋を暗くする。窓は木なので閉じれば光を通さないが、昼間なのですきまからの光でかろうじて部屋の中は見える。


「ゆっくり深呼吸しろ。吸って、吐いて、吸って、吐いて。落ち着いた?」


 こくりとうなずくサティ。


「目を閉じたまま、下を向いて。そうだ。ゆっくり目を開くんだ。自分の手が見えるか?」


「見えます。ちゃんと見えます!」


「よし、じゃあ次はゆっくり顔をあげてみろ」


「見えます。マサル様の顔が見えます!わたしの目、治ったんですか?」


「そうだ。治った」


 厳密に言うと鷹の目と相殺しただけなんだが、説明も無理だしそういうことにしておこう。


「わ、わたし……ずっとこのまま目が見えなくて……ずっと、ううう」


 サティがぽろぽろと涙を流しだした。


「落ち着け。ほら、大丈夫だから」


 何が大丈夫だかよくわからんが、とりあえず大丈夫と言っておく。泣いてる子とかどうしていいかわからん。


「ううううう……こ、鉱山に……死ぬんだって、うええええええん」


 それであんなに必死だったのか。あの禿の人、こんな子脅したらだめだろう。


「ああ、もう大丈夫だから。ずっとうちにいていいから。な?」


「わたし、わたし……ちびだし、何にも……家でも……怒られてばっかりで……、売られたあとも……ずっと誰にも……買ってもらえなくて……だから、だから……嬉しくて……」


 サティはぐすんぐすんと泣きながら、ぽつぽつと話す。なんだか、苦労してきたんだな……


「それだけでも……なのに、目まで……あ、ありが……ありがとうございます……」


「うん、うん。わかったから。ほら、これを食え」と、野ウサギ肉の串焼きを差し出す。受けとったサティはくすんくすんと泣きながら、もちゃもちゃと食べだした。餌付け成功だ。だんだん落ち着いてきたみたいだ。


「もうこれからは、普通に仕事でも遊びでもなんでもできるんだからな?ほら、目が治ったら何がしたかった?何かしたいこととかあるだろ?」


 サティは食べるのをやめて、こちらを驚いたような顔で見つめた。顔は涙でぐちゃぐちゃになってる。


「なんでも?」


「そう、なんでもいいよ」


 手に残った串焼きに視線を落としたサティが話し出した。


「あ、あの。わたし、料理とか……、ずっとしてみたくて、で、でもだめだって……家の手伝いも、壊すからってやらせてもらえなくて……それで、それで……」


 いかん、また泣き出した。


「そうか、料理か!料理だな。じゃあ夕飯からさっそく手伝ってもらおうかな!」


「は、はい。がんばります。お手伝いします!」


「ほら、まだ肉残ってるだろ。食え食え」


 サティが残りを食べてるのを見ながら、どうしようかと思う。料理するって言っても、たぶん全くの未経験だよな。初心者って何からやるんだっけ?おれの最初はカップラーメンだった気がする。お湯をわかして3分。簡単でいいな。こっちにはカップラーメンとかないし。ああ、お湯を沸かしてもらうか。お茶でもいれてもらおう。いきなり包丁とか怖いし。


「じゃあお湯を沸かしてもらおうかな。お茶が飲みたい」




 ええと、鍋がこれで、薪は少しだけ、前の人が残していったのがあったな。水は魔法でも出せるけど、今後も考えて井戸だな。水がめとかないな。この大鍋でいいか。サティに大鍋を持たせる。色々買い物がいるな。生活用品が圧倒的に足りない。


「もてるか?大丈夫か?」


「はい。持てます!」


「じゃあ井戸に水を汲みに行くぞ。ついてこい」


 外に行こうとして、はたと気がつく。サティの格好が奴隷商から連れてきたままだ。パンツもはいてない。着替えさせないと。


「ちょっと待った。先に服を着替えよう。ほら、さっき帰りに服屋で買っただろ」


 サティに大鍋を置かせて、服とパンツを机の上に出して広げる。これでいいか、とワンピースタイプの服を選んで、パンツと一緒に渡そうと振り返る。


「!?」


 サティはすでにすっぽんぽんだった。一瞬がん見して固まったあと、目をそらし服を渡す。やっぱりパンツはいてなかった。


「ほら、これを着なさい。あと、女の子は人前で裸になってはいけません」


「はい。でもここにはマサル様しかいません」と、服を着ながらサティが言う。


「おれがいてもいけません。恥ずかしいでしょ」


「あ、あの……わたし、ちびでやせてるから、お気に召しませんでしたか?その、男の人は裸を見せると喜ぶと聞いたんですが……」


 サティは涙目になっている。誰だ、そんな知識教えたのは。


「いやいや、見せなくていいから」


「そうですよね。わたしの裸なんて見たくないですよね……」


「いや、ちょっと待って。違うから、見たいから」


 いやいや、見たいんじゃないぞ。見たいけど。なんて言えばいい?


「その、あれだ。子供は人前で服を脱ぐよな?でも大人は人前では服を脱がないだろう?そう!大人なら、お風呂とか、好きな人の前以外じゃ脱がないもんなんだよ!大人になるなら裸は見せちゃいけないものなんだ」


「えっと。わたしはマサル様のことが好きなので脱いでもいい?」


 くっそ、考えろおれ。今こそアニメや漫画で得た知識を総動員するんだ!見たいといえば、即裸になりそうだ。見たくないといえばきっと泣く。見たいといいつつ、脱衣を阻止するんだ!


「サティの裸は見てみたい。あっ、あっ、脱がなくていい。そう。見せろって言うまで見せなくていい。見せてって言った時以外は見えないところで裸になるように」


 サティはちょっと悲しそうな顔だ。


「いや、見たいから。そのうちたっぷり見せてもらうから!ほら、今から料理だろう?外に水を汲みにいかなきゃ」


「そうでした、料理です!」


 サティに大鍋を持たせて外にでる。現実にこういう状況になると、なんと無様にうろたえることか。唐突すぎるんだよ。


「はい、ここが井戸ね。水を汲んでー」


 平静を装って指示を出す。サティは一生懸命井戸から水の入った桶をひっぱりだしている。ざばー。大鍋に水がはいる。


「よし、じゃあ帰ろうか。重くない?持てるか?」


「大丈夫です」


 ひょいっと持って歩いていく。両手がふさがっているサティの代わりに扉をあけてやり、中にはいる。サティが小鍋に水を移し、かまどにかける。薪をいれてと。


「火って普通の人はどうやってつけるの?」


「火打石でつけます」


 なるほど。今日は魔法でつけるかと考えていると、サティがしゃがんでごそごそしている。


「ありました!」


 はい、と見せてくれる。前の住人が残してくれたのか。


「火はつけられる?」


「やってみます」


 座ってかちゃかちゃやり始める。お湯を沸かすだけでめんどくさいぞ。魔法なら10秒もかからんのに。やはり外食メインにするべきか……?ほどなくついたようだ。手際いいな。以前みたTVだと、火おこしに30分は最低かかってた。火種から薪に火がうつり、ぱちぱちと火があがりだす。サティは真剣な目で鍋の水を見ている。見ていても湯はできんのだけど、じっと見てしまう気持ちはわかる。そーっと指を突っ込もうとしてたので止めた。


「温度は指ではかったらだめ。沸騰したら、泡がぽこぽこ出てくるから。見てなさい」


「あ、泡がでてきましたよ!泡が!」


 かまどは結構火力が強い。というかお湯を少し沸かすだけなのに、薪を投入しすぎたようだ。すぐにお湯は沸いた。


「よし、じゃあ鍋をこっちに。お茶の葉をいれよう」


 鍋敷きはないし、直接でいいか。小鍋はすすがついていて、テーブルが少し汚れそうだ。あとで浄化しとこう。いや、サティに任せればいいのか。仕事したがってたし。


 マギ茶を布に一つまみ出し、巾着のように紐でしばってお湯に投入する。簡易のティーパックだ。サティはそれをじっと見てる。できたマギ茶をサティにいれてもらい飲む。うん、うまい。最初は変な味だと思ったけど、慣れれば日本で飲んでたお茶と変わらんね。サティにも一口飲ませたら微妙な顔をしていた。


「これはマギ茶って言ってね。魔法使いの魔力をほんの少し回復してくれるお茶なんだ」

 

 余ったお茶を水筒にいれながら説明する。お湯を沸かすだけ。とても料理とは言えないが、あとは具材を切り刻めればスープくらいは作れるだろう。


「じゃあ、あと片付けてくれる?」


「は、はい」


 サティが鍋とコップを流しに持って行く。もちろん水道などついてない。サティは大鍋から水を汲んで、手であらっていく。ええと、スポンジはないだろうから、たわしとかか?あとは流しに置く、桶かなにかもいるな。雑巾、布巾、洗剤ってあるのか?油物作ったらないと困るな。揚げ物用の鍋とか、道具。キッチンペーパーはさすがにないか。ここの人はどうやってるんだろう。そういえば、から揚げとかとんかつとか食堂で出てきたことがないな。そういう調理法が存在しないんだろうか。ドラゴンの肉でから揚げとか美味しそうなのに。洗い物も終わったようだ。とりあえず買い物に行くか。

異世界の現実は少女を否応なく戦いの渦に巻き込む

次回、明日公開予定

23話 サティ、冒険者見習いになる


誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

ご意見ご感想なども大歓迎です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] 猫耳!ネコミミ!
[良い点] 奴隷で不当な扱いを受けてきた子が戸惑いながらも優しさを感じて主人公に惚れる。この展開が好きなんだよなぁ!!!!何より可愛いもん!!!テンプレ最高!!
[気になる点] スキルポイントって普通自分自身にしか影響しないのでは? [一言] 治してもらって嬉しいのはあるかもだけど、想いが軽く聴こえるから。多分この場合は行動で示しつつも想いを告げるのはもう少し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ