20話 ドラゴン討伐の報酬
翌日、ギルド。大部屋に全員が集合してまずは戦利品の分配である。ドレウィンとティリカちゃんも立ち会っている。アイテムから順番に獲物を出し、確認していく。だいたいの獲物は宵闇か暁が倒しているので、手間がかかったのはオークくらいだ。ギルドカードを照会して、配分を決めていく。分配された獲物はどんどん運び出され換金されていくんだろう。
次はドラゴンの分配会議である。誰がどのくらい活躍したか?配分をどうするか、決めなければいけない。とりあえず輸送分で一割は確定しているし、戦闘面でも活躍したことだし、これは期待してもいいだろう。
まずはドラゴンとの戦闘について詳細に語られる。何人もの証言により、事細かに記録されていく。次はその記録を元に、分配会議だ。やはり活躍した順はおれとエリザベス、暁、アリブール、ヘルヴォーンの順だ。どの部分がどの程度の比率なのか?激論が戦わされる。おれは気配を殺して黙って聞いていた。退屈だ。もう適当でいいので帰ってもいいだろうか。家を探しに行きたい。だが、真剣に議論している冒険者たちにそんなことは言えるはずもなく、踊る会議を眺めるのみ。ティリカちゃんも会議室の端のほうで、無表情で会議を聞いている。こういう会議、あとで揉めるといけないので真偽官は歓迎される。嘘とか言うとすぐばれちゃうからね。
ようやく各人の満足の行く結果がでたようだ。それを元に、報酬を計算していく。まずは依頼報酬200ゴルド×5日分で1000。荷物の輸送報酬の1割が、3280。ドラゴン討伐参加に対する報酬が2000。オークの討伐報酬が50×9匹で450と素材で1200。で、最後にドラゴン討伐成功の報酬で30000。合計37930ゴルド。これにさらに後日、ドラゴンを売った値段が加算される。
命がけではあったが、魔法一発当てただけで3万ゴルドである。思ったよりいい報酬に喜んでいたら、これくらいが妥当なんだそうだ。
もし町にあのドラゴンがやってきたら?被害は10人や20人じゃ済まないだろう。建物の被害がどれほどになるか予想もできない。事前に察知できて退治できたのは運がよかった。むしろ報酬は安いほうだ。あのドラゴンがどこかで暴れて賞金がかけられるとかになると、報酬はもっと上がるだろう。
37930ゴルドである。資金はほぼ倍。じゃらじゃらとコインを受け取り、アイテムに投入し金額を確認する。69879ゴルド。クルックによると奴隷の値段は4,5万くらい。余裕で買える!買えるよ!!家は賃貸ならそんなにかからないだろう。ドラゴンの売却のほうも期待できそうだし、いっそ一人と言わず二人でも……
受付のおっちゃんに不動産屋のことを聞くと、商業ギルドのほうで紹介してくれると言う。そちらへ行こうとすると、エリザベスに捕まった。
「ちょっと、マサル。お待ちなさい!」
目敏いな。隠密発動してるのに見つかるとは。ちなみに町に戻ってから忍び足は取り直してある。ないとなんか不安だったから。
「暇ならついてきなさい。魔法の特訓をするわよ!」
練習ではない。特訓である。なにやら不吉な響きだ。
「このあとは家を見に行こうかと……」
「家?買うの?借りるのね。いいわね。わたしもついて行くわ」
「わたしもよろしいですか?マサル殿」
エリザベスの後ろに女の人が立っていた。顔を見て思い出す。暁の女戦士の人だ。たしか名前はナーニア。普段着だったから一瞬わからなかった。肩くらいまであるウエーブした赤みがかった髪。ズボンをはいた男装っぽい服装だが、背が高くモデル体型で、出るところが出ているのでとても女性的だ。腰に剣をさし、実に精悍な印象だ。顔も洋画のヒロインでもできそうな美人で、さぞかし女性にもてそうだ。お姉さま!って呼ばれるタイプだな。
「ええ、構いませんよ」
これはきっとデートってやつだよな。彼女いない歴=年齢のおれに訪れたモテ期に違いない。伊藤神よ、ありがとう。今日は日誌に感謝の言葉を書いておこう。
お隣の商業ギルドで不動産屋の場所を尋ねる。わりと近くだ。商業ギルドを出ると、突然エリザベスが言った。
「マサル、あなたちょっと服が野暮ったいわよ」
効果はばつぐんだ!おれのハートは大ダメージを受けた。
「ね、ナーニアもそう思うわよね?」と、ナーニアさんにも同意を求める。この女、自分は黒いローブにフードのくせして、なんてことを言いやがる。エリザベスは町中でもフードをすっぽり被ったままだ。怪しいことこの上ない。
「え、ええ……ちょっとその、安っぽいかなと思わないでもありません」
ナーニアさんが困りながら返答している。言葉は選んでいるがおおむね同意のようだ。スタイリッシュなナーニアさんに言われて、泣きたくなった。たしかにこの服は安い。こっちにきて最初に古着屋で買って以来、使ってる服だ。
「そんな貧乏臭い格好で家を探しにいったら舐められるわよ!さきに服を買いましょう。お金はたっぷりあるでしょ」
エリザベスのその黒ローブはどうなんだよ!
「これはいいのよ。伝統ある魔法使いの服なんだから!」
そんな格好の人、町でも見たことないですが?
「勇者の仲間の魔法使いがこの格好だったの。挿絵でみたから間違いないわ!」
黒ローブにはなみなみならぬこだわりがあるらしい。値段がどうの、材質がどうの、魔法がかかっていて防御力もいい。ステキでしょ?
「はい、素敵ですよ。エリー」
ナーニアさん、甘やかしすぎじゃないですか……
服屋に連れて行かれて、あーだこーだと試着させられる。色々と疲れたおれはされるがままに服を着て、購入した。エリザベスは満足そうにしている。
「うん、悪くないわね。お金持ちのお坊ちゃんに見えなくもないわよ」
「はい。お似合いかと。上品な感じになりましたよ」
わたしが選んだんだもの、当然よ!とエリザベス。黒ローブに言われても説得力のかけらもないが、ナーニアさんが言うならそうなんだろう。500ゴルド近く散財したが、たしかに着心地はいい。
「髪もどうにかしたいけど、とりあえずはいいわ。さあ、行きましょう!」
エリザベスを先頭に不動産屋にのりこむ。おれの家を探しに行くんだけどなー、とこっそり心の中だけで思う。なんかご老公の御付きの人みたいな感じだ。
不動産屋はモルト商会とだけ看板が出ていた。日本の不動産屋のようにぺたぺたと物件情報が貼り付けてあるわけでもなく、店構えだけでは何の店かもわからない。そもそも商会と看板がなければ店であることすらわからないだろう。
「これはこれはお客さま。本日はどのようなご用件でしょう」
商会にはいるとすぐに、初老の紳士な人が出迎えてくれた。わたくし、モルト商会番頭のバウンスと申しますと名乗る。
「家よ、家を借りたいの」と、エリザベス。
「さようですか。どのような家をお探しでしょうか」
「そうね。大きい家がいいわ。広い庭がついてるやつ」
いやいや、ちょっと待ちなさいよエリザベスさん。
「いえ、そんなに広くないのがいいです。むしろ小さいのが」
バウンスさんはちらりとこちらを見るとごそごそと資料を探し、
「こちらなどいかがでしょう」と、エリザベスに提示する。こんな黒ローブをしててもエリザベスが本体で、おれが御付きに見えるのか……
提示された物件を一緒に覗き込む。でかい。みるからに豪邸である。部屋がなんだかいっぱい描いてある。どう見ても一人暮らしに紹介する物件じゃない。
「ふうん。ちょっと庭が小さい気もするけど、屋敷のほうは悪くないわね」
さすがにこれは無理だ。
「いえ、もっと小さいのでお願いします。おれが、一人で住む予定なんです」
おれが、と強調していう。
次に見せてくれたのは普通の物件だった。庭付き一戸建て。二階建てで3LDKってところだろうか。家族向けの物件のようだがお風呂もあるし、庭も広め。悪くない。
「これじゃ小さいわよ」
エリザベスは基準がおかしい。この子のことは聞かなくていいからと、他の物件も見せてもらう。
2つ目に見せてもらった物件と他にも候補があがり、3軒ほど実際に見せてもらうことになった。案内には若い人がついた。
「もっと広い家がいいのに。あれじゃあパーティーも開けないわよ」と、エリザベスは不満みたいだ。いや、パーティーなんか開きませんから。
「ねえ。前から思ってたんだけど、エリザベスっていいとこのお嬢さん?」と、ナーニアさんにこそっと訊いてみた。お嬢さんなのは見るからになんだけど、なんかこう、浮世離れしてるところがあるな。思ってたより、お金持ちの家なのかもしれない。
「ええ、まあ……。ですがいまはただの冒険者ですし、お嬢様の家のことはあまり……」
「いえ、すいません。余計な詮索でしたね」
お嬢様って言っちゃってるし、どこかの名家のお嬢様と護衛の人って感じだろうか。
3軒とも見て回り、豪邸の次に見せてもらった家に決めた。庭付き風呂付一戸建て二階建ての3LDKである。値段も月900ゴルドとお手頃だ。この異世界、庶民のお風呂は銭湯である。家についてるほうが少ない。庭もそこそこの広さがあったし、家具も揃っていて、すぐに住めそうだ。庭は雑草だらけだったし、部屋も掃除が必須だったが。井戸も共用のものがすぐ近くにあり、いま住んでいる宿も近いから外食にも困らない。
商会に戻り、契約を交わす。契約は明日からだが今日から使っても構わないとのこと。3か月分の家賃を払い、鍵をもらう。敷金礼金といったシステムはないようだ。家を壊したり、ひどく汚した場合は出て行くときに請求される。夜逃げ対策とかどうするんだろうね?
昼も近いので3人でお食事処で昼食をとる。
「とりあえず布団がいる。あとは掃除だな」
掃除と聞いて目をそらすエリザベス。どうやら手伝ってくれる気はなさそうだ。
「人を雇えばどうでしょう。ギルドに雑用の依頼を出せばいいんじゃないでしょうか」
なるほど。自分でやる必要はないな。アンジェラが孤児院の子供達のバイトを探してると言ってた気がする。聞いてみようかな。家の掃除くらいなら手頃だろう。
「このあとはどうする?知り合いのところに掃除の手伝いを頼みにいくつもりだけど」
「そうね。魔法の練習してる時間はなさそうだし、今日は帰るわ」
「掃除のてつだ……」「用事があるのよ!」
よっぽど嫌らしい。そういうと、さっさと逃げていった。ナーニアさんに手を振って別れを告げる。エリザベスたちは一週間くらいは休暇だそうだ。家も割れてるし、きっとまた来るだろう。一応エリザベスの泊まってる宿も聞いてあるし。
孤児院につく。子供達に囲まれつつ、アンジェラを探す。ちょうど昼が終わったくらいなようだ。
「あら?今日はどうしたの」と、アンジェラちゃん。
「いい服を着てるじゃないか。うん、似合ってるよ」
女性が選んだ服だし、女性受けはいいんだろうか。高い服ってのはわかるが、似合ってるかどうかは自分ではわからんし。
「ええと、家を借りたんだけど……」と、事情を説明する。
「なんだ、それくらいならタダで手伝うよ」
「いや、悪いよ。お金は今回の報酬で結構あるからさ。ちゃんとバイト代ははずむよ」
「そうだね。じゃあこれくらいで……」と、数字を出される。
「安すぎない?」
「子供の仕事だもの。これくらいが相場だよ」
「これくらいは出すよ」
「じゃあ、これくらいを子供達に渡して、あとは孤児院に寄付ってことにしよう。あんまり子供達にお金を持たすのもよくないからね」
子供の人件費やっすいなあ。5ゴルドで半日仕事してもらえるそうだ。500円だよ、500円。子供の小遣いだよ。いや子供なんだけどさ。10人ほど雇って、部屋の掃除と庭の草むしりをしてもらう。道具はここにあるのを持ち出し。報酬は一人5ゴルド+孤児院に100ゴルド。
準備をして子供達を引き連れて我が家に向かう。家につくとアンジェラが子供達にてきぱきと指示をだし、作業分担を決めていく。おれは子供達3人と庭で草むしりをすることにした。じゃあとアンジェラは家の中の担当となった。
実家の庭の草むしりはおれの役目だったし、慣れたものだ。道具はなかったので素手でぶちぶち引き抜いていく。ステータスが上がった効果だろうか。明らかに力は増しているし、この程度じゃ全然疲れない。子供達の倍以上のペースで雑草を処理していく。とはいえ、広い庭なので時間はかかる。子供達にも無理はさせないように、休みながらゆっくりと作業を進めていった。
夕方になる頃には庭はきれいになり、家の中もピカピカになっていた。さっきまでの埃まみれが嘘のよう。いい仕事だ。それを見ながらふと、浄化を使えばよかったじゃないかと気がついた。かなり広いとはいえ、おれのMP量なら余裕だろう。まあ庭の草むしりは魔法じゃ無理そうだし、お金をもらって喜ぶ子供達を見て、まあいいかと思い直した。
アンジェラが子供達を連れて帰っていったので家に一人になった。布団を買わないとダメだけど、まだ店はあいているだろうか。この町の店が閉まる時間はかなりはやい。明日でいいか。そろそろ晩御飯の時間だし、竜の息吹亭で食事にしようか。女将さんにも宿を引き払うことを知らせないとだめだし。
その日はベッドの上で寝袋に包まって寝た。宿のせんべい布団も硬かったが、直接木のベッドの上で寝るのはとても硬かった。明日は実家で使ってたみたいな、ふかふかの布団を買いに行こう。そう心に誓った。
マサルは盲目の少女と運命の出会いを果たす
「どうか私をお買い上げください。ご主人さま」
次回、明日公開予定
21話 サティ
誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。
ご意見ご感想なども大歓迎です。
恐ろしく強い魔族にふるぼっこにされるマサル
止めがさされようとしたとき、さっそうとあらわれる軍曹どの
「だめです、軍曹どの。そいつは恐ろしく強いです!」
「ほう、今度の人間はなかなか楽しませてくれるじゃないか。
果たしてどれだけもつかな?」
「マサル、おまえは逃げろ!」
「ほらほら、どうした?余所見してる暇なんかあるのか」
「くっ……強い。だが足止めくらいなら……」
「さあ、マサル、こっちだ!軍曹どのの思いを無駄にするな!」
「軍曹どの、軍曹どのおおおおおお」
って夢を見た