18話 魔王と勇者と
あくる日、町への帰途についた。おれは暁の戦斧のパーティーに混じって歩いている。出発前にエリザベスに捕獲されたのだ。弟子なんだから師匠の側についてなさい!とのこと。軍曹どののお許しを得て、エリザベスの後ろを歩いてるわけだが、やはりすることはないわけで。経験値ゲットのチャンスだぜ!と思ったんだが、行きと同じルートゆえ、すでにモンスターは駆逐済み。出ても先行している宵闇の翼が倒してしまう。暇だったが、行軍中はわきまえてエリザベスもあまり話しかけてこない。休憩中は何かと面倒をみようとしてくるが。弟子ができたのがよっぽど嬉しいようだ。
彼女はすでに4年ほど冒険者をしているベテランらしい。14で冒険者になって今は17才。すでにかなりの修羅場もくぐっているんだろう。ドラゴン戦のときもかけらもびびってなかったもんなー。目標はSランク冒険者になることらしい。Sランクってすごいの?って聞くと馬鹿じゃないの!って言われた。曰く、英雄。莫大な富と名誉。貴族になり領地をもらえたり、国に仕えて出世したり。人々のあこがれである。冒険者となったからには目指さないでなんとするのか。でも危険なお仕事なんでしょう?って思ったが口には出さなかった。また怒られそうだ。
おれのいまの優先順位は、
1、20年生き延びる
2、ハーレムを作る
3、世界の破滅の回避、である。
世界が破滅すれば生き延びることもハーレムもないんじゃないかと思うだろうが、おれはなんとかなると思ってる。チートを駆使すれば一人生き延びることくらいできると思うんだ。いざとなったら何もかも見捨てて逃げればいい。とりあえずはいかに安全を確保しつつ、スキルポイントを稼ぐかだ。どこかにメタルな足の速いモンスターが出てくるような狩場はないだろうか。とにかく、当分はドラゴン討伐なんて物騒な仕事はごめんこうむりたい。そう切に願う。
昼の休憩に投げナイフの練習をしていると、エリザベスが面白いものを見せてあげると言ってきた。
「このナイフ、つぶしてもいいわよね?」
投げナイフは20本ある。エリザベスは木にむかってナイフを構え、魔力をこめ、投げた。投擲術持ちのおれからすれば、下手で見れたものではなかったが、木には命中し、そして刃の根元までめり込んだ。
「!?」
驚いたおれを見てエリザベスは満足げだ。木にささったナイフを引っこ抜いて見せる。刃がぼろぼろになっていた。
「いまのが風の魔法剣よ。見てのとおり、普通の武器でやるとあっという間に壊れるわ。けど接近戦の弱いメイジの切り札になるわよ」
おれは剣術Lv4があるから接近戦も得意なんだが、今のは確かに使えそうだ。
「火魔法でもできるかな?」
「いけると思うわよ。投げないでやってみなさい。そのほうが正式だから」
刃のかけたナイフに魔力をこめていく。火をまとわせ、切る!木はバターのようにすっぱり切れ、あとに焦げた切り口が残っていた。刃はさらにぼろぼろになったが、これはいい。使える!
「雑ね。そんなに魔力をこめたら、普通の剣のサイズだとあっという間に魔力が切れるわよ」
今度は慎重に、魔力を入れすぎないように。ナイフを振るう。パキッと音がしてナイフが折れた。3回振っただけでこれか。
「魔法剣に使える金属はミスリルやヒヒロイカネ、オリハルコンなんかが有名ね。でもすごく高いわよ。小さいナイフでも1万以上はするんじゃないかしら。やるなら使い捨ての武器を用意することね」
魔法剣か、なんて中二テイストあふるる技なんだ!ぜひ、使いこなせるように練習してみよう。
「さすが師匠。すばらしい魔法です」
エリザベスはそうでしょうそうでしょうとドヤ顔である。
野営地には特に何事もなく到着。夕食後はエリザベス師匠の魔法の講義である。何故かクルックとシルバーも混ざっている。魔法を教えてもらいたいようだ。エリザベスも別にいいと言うので一緒に風魔法を教えてもらう。風魔法も他の系統と変わらない。要はイメージだ。すぐに風魔法は使えるようになった。団扇であおいだほうが早いくらいのそよ風だが、とりあえずは成功だ。
「うははは。見よ、これが風魔法だ!」
うんうん唸っているクルックとシルバーにそよ風を当ててやる。決して苦労している友人を馬鹿にしてるわけではない、風魔法を見せてやろうという親切心なのだ。
「ほら、マサルも人のこと言えないでしょう。そんな威力じゃ羽虫も殺せないわよ」
確かに。水魔法もそうだったが、使える段階から実用レベルにするのが大変なんだよな。
「フライを覚えたいんですけど」と、希望を述べてみる。
「あれは少しレベルが高いわね。最初はエアハンマーを覚えなさい」
水球の風版みたいなやつか。エリザベスに実演してもらう。的は自分の体だ。木にあててもらったが、風が目に見えないのでいまいちよくわからない。そういったら体で試すといいと言い出した。
「いいか?絶対に手加減してくれよ?ほんとに頼んだからな」
「大丈夫よ、任せなさい」
エリザベスはニヤニヤしており、とても説得力がない。魔法を詠唱しはじめる。
「エアハンマー!」
腹にずっしりとした衝撃が来る。ぐっとうめいて思わずひざを突く。鎧の上からでも痛いよ、ほんとに手加減したのかよ!この世界の女はなぜ魔法を教えるのに、いちいちおれの体を痛めつけるのか。【ヒール(小)】を念のためかけておく。
「本気でやったらそんなもんじゃないわよ。吹っ飛んでアバラもばきばきね」
これは思ったより凶悪な魔法だ。見えないので避けようがない。
「魔法を防ぐにはどうすればいい?」
「詠唱中につぶすか、避けるか、防御魔法ね。ルヴェンみたいに盾を持って重装備で耐えるって手もあるわ」
ルヴェンっていうのは盾の人のことだ。鉄壁のルヴェン。格好いいよな!
「避けられるの?エアハンマーとか見えないんだけど」
「わたしは無理だけど、避けられるみたいよ。魔力や動作を見て、予測するらしいんだけど。うちのリーダーあたりだとひょいひょいかわすわね」
「防御魔法というのは?」
「そうね。ちょっと火魔法の弱いので攻撃してみなさい」
エリザベスはこちらに杖を突き出し構えている。魔力が発動してるのはなんとなく感じられた。【火矢】をぶつけてみると、エリザベスの手前で何かに阻まれた。
「エアシールドよ。ちょっとした攻撃ならこれで防げるわね。あのドラゴンのブレスくらいになると防げるか怪しくなってくるけど」
「火魔法で……」「無理ね」
あっさり否定された。
「火魔法は攻撃に特化しているから、防御ってのは聞いたことはないわね。せいぜいファイヤーウォールくらいじゃない?」
あれは壁って名前ついてるけど、何かを防げるってもんじゃないからなあ。
「防御なら土魔法ね。ストーンウォールなら防御力は高いわよ」
これもエリザベスが実演してくれる。エリザベスの詠唱によって高さ1mくらいの土壁ができあがった。
「土はあまり得意じゃないからこの程度ね。がんばればもっとしっかりしたのも作れるけど」
土魔法か。やっぱり魔法は全種類コンプリートだな。
「でも、あまり浮気をするのはおすすめしないわね。わたしは4系統とも使えるけど、上級まで使えるのは風のみね。色々やってると器用貧乏になるわよ」
「他の系統は知らないか?精霊とか召喚、光に闇」
空間魔法は聞かないでおこう。きっと薮蛇だ。
「精霊はエルフが使う魔法よ。わたしはわからないわ。召喚と闇もよくわかっていない魔法ね。記録に少し残っているくらいかしら。光は勇者が使ってた魔法系統で、魔族やアンデッドに効果があるらしいわね。神殿の神官なら何か知ってるんじゃないかしら」
いま何か不穏な単語が出てきたぞ。勇者に魔族。魔王とかも、もしかしているのか?世界の破滅を救うため、魔王を倒せとか嫌過ぎる。
「あの、勇者と魔族っていうのは……」
「昔話よ。魔王がいて、勇者が倒した。何百年前の話ね。もう魔王はいないし、魔族も魔境からは出てこないわ。勇者の活躍は物語になっていてね。面白いわよ。小さい頃何度も読んだわ」
よかった、魔王はいなかったんだ。でも復活とかしてないだろうな?不安になってきた。
「魔王はもういないのか?」
「うーん。勇者の物語の大部分は実話だと証明されてるんだけど、魔王のくだりは魔境での出来事で、勇者と仲間しか知らないのよね。だから他の人は誰も見たことがないの。そのせいで魔王の存在を疑問視する人もいるわね。わたしは信じてるけど」
えらく詳しいですね。
「わたし、勇者にあこがれて冒険者になったのよ!勇者の仲間の魔法使いは風メイジでね。わたしも話のような冒険がしてみたいわ。魔王、また出てこないかしら」
物騒なこと言うな!その日はこのあたりで講義がお開きとなった。
それにしても精霊とか召喚、光、闇あたりはレアなのか。そのうち取ろうと思ってたんだけど、これは考えないとな。有用でも目立ちたくはない。ポイント消費も大きそうだし、先に四属性魔法だな。36Pもあるし、土だけでもとっちゃうかな。でも昨日みたいなこともあるし、ある程度ポイントも残しておきたい。スキルリセットは一ヶ月使えないし。
メニューを開いてスキルを確認する。
スキル 36P
剣術Lv4 肉体強化Lv2 スキルリセット ラズグラドワールド標準語
生活魔法 時計 火魔法Lv4
盾Lv2 回避Lv1 槍術Lv1 格闘術Lv1 体力回復強化 根性
弓術Lv1 投擲術Lv2 隠密Lv3 気配察知Lv2
魔力感知Lv1 コモン魔法 回復魔法Lv3
高速詠唱Lv5
スキルリセットは暗転している。使えないってことだろう。剣術を5にするには10P。剣術と肉体強化にポイントを振るのも手っ取り早そうだが、今日のドラゴン戦をみて、前衛をしようだなんてとても思えない。ここは後衛方面に進むべきだろう。
火魔法5は20P。敏捷アップなんかどうだろうな。動きが速くなれば回避もうまくなりそうだ。忍び足も取り直しておきたい。あとは土魔法か。レベル3までなら10Pで取れる。毎度のことながら迷うな。うん、これは帰ってからまた考えよう。明日できることは明日やればいいのだ。
次回、明日公開予定
19話 かわいい神官ちゃんの祈り
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