桜坂高校の楼火くんっ!(23/37)PDFで表示縦書き表示RDF


桜坂高校の楼火くんっ!
作:シゲアキ



第二十三話 泣きかけかすみん最強説


「なんだぁ貴様は……。怪しい奴だなあ。おめェもこいつらの仲間か?」

 俺の目の前に、口の悪い女がいた。
 肩口ほどに切りそろえられたボブカットに、桜坂高校指定の制服。スカート丈は膝上少しで、身長もそう高くない。向けられた視線が鬼のように鋭い。
 彼女の足元には、口や鼻から血を流して倒れている四人の男共がいる。
 更に加えて、一人。彼女は残り一人の首襟をつかみ、苦しそうにもがく男を軽々しく片手で持ち上げている。
 この光景から、ここで激しいケンカが行われていたのは確実だが、彼女はかすり傷一つ負っていない。しかも、片手はスカートのポケットに突っ込んだままだ。
 顔に鮮血を浴び、怒りの表情で満ちているこの女は、ぎろりと俺を睨みつける。

「弱者に驕るクソどもは……、アタイがぶっ殺してやるよぉ!!」

 手にしていた男をゴミのように投げ捨て、驚くべき速さで地を蹴る。
 目標は、明らかに、俺。

(何が……どうなってんだ……!?)

 ――話は一時間前にさかのぼる。




「おはようございます、楼火さん」
「お早う楼火先パイ」

 学校に来て教室に入ると、席に着く前に挨拶が聞こえた。
 行儀よく椅子に座っている四法院姫奈と、その横に控えるように立っている夜叉小路春奈だ。
 「ああ、おはよう」と返事をして、そのままどかりと椅子に座る。

「やっぱりまだ、美咲は来てないのか」
「ええ。今日も遅刻かもしれませんね」
「まったく。美咲先パイはだらしないな、一度私が家まで起こしに行ってやろうか。艶やか爽やか春奈ちゃんヴォイスで優しく起こしてやろう。……ベッドに寝ているノーブラで寝巻き姿の美咲先パイを見たら、そのまま踏みとどまれるかどうかは約束しないが」

 美咲、お前、早く来ないと大変なことになるぞ。主に貞操的な意味で。
 と、俺が割と本気で美咲の貞操を危ぶんでいると、廊下側から言い争うような怒鳴り声が聞こえてきた。
 一人は男でもう一人は女だ。

「だーかーらー、今日は仕方がなかったって言ってるでしょ!? お母さんが出張で、朝起こしてくれる人が誰もいなかったの!!」
「そんなもん仕方ないの内に入んねぇよ!! だいたいもう高校二年になったっていうのに、まだ母親に起こしてもらってんのかよ!!」
「う、うるわいわね!! 細かいこと気にしないでよ!!」
「全然細かくねえよ! はあー、これだからずぼらな女は……」
「うるさいうるさい黙りなさいよ! この万年童貞プリン野郎おおおおおおおおお!!!!」
「おま、バカ、やめ――――ぐおあああぁぁぁあぁぁあああ!!」

 男の叫び声が響く中、ガス、ガス、ドシュ!! と、廊下から何か生々しい音が聞こえる。
 数秒で静寂になったあと、美咲が教室のドアを開け、何もなかったかのような軽快な様子で入ってきた。
 ……拳に付いている赤い液体は何なのか、などとは、恐ろしくて聞けない。

「おっはよーみんな!」

 美咲の明るい挨拶に、クラスの皆も次々と挨拶を返す。
 あれだけ大音量で惨劇を聞いたというのに、クラスの皆は、まるでいつものことだと言いたげに普段通りだ。

「おはようございます、美咲さん。今日はいつもよりお早いですね」
「まあねー。といっても、結構ギリギリなんだけどね」

 頬をかいて、恥ずかしそうにする美咲。

「今日は何故か、ウチに智也が迎えに来てさー。このアタシを叩き起こしやがったのよ。まったく……乙女の部屋に勝手に上がりこんできて、その上アタシの寝顔まで……。あー、何か思い出したら腹立ってきた。もう一発入れてこようかしら」
「ダ、ダメですよぅ、美咲さん。それ以上やったら智也さんの原形がなくなっちゃいます」

 もう一度廊下に出ようとする美咲を、姫奈が手を取って引き止める。
 聞いたところによると、智也と美咲は小学校時代からの同級生らしい。いわゆる幼馴染というやつだ。面倒見たり見られたり。そういう関係らしい。
 美咲が言うには腐れ縁。智也が言うには何かの呪い。
 なんというか、どっちもどっちである。

「こ、殺す気か……緋向ぃ……」

 がらがらと教室のドアがゆっくり開く。死にそうな表情で、今にも倒れそうな智也が立っていた。
 のそのそとこちらに向かってくる様子はさながらゾンビ。今にも襲い掛かってきそうだ。

「アンタならそのくらいじゃ死なないでしょ」
「だ、誰でも死ぬだろ……」

 ぶつぶつと美咲に恨み言を言いながら、智也は倒れこむように席に着く。

「流石は智也先パイだ。美咲先パイの拳を受けてもまだ意識があるとは! 私でもアレを直で受けたらただでは済まないというのに、なんという耐久力だろう!」

 春奈は相変わらずだ――――って、ん?

「なんで春奈がいるんだ? お前一年だろ。ここは二年二組の教室だぞ」
「『なんで春奈がいるんだ』。もしかして楼火先パイはそう問うたのか? もしそうだとしたら、私は姫奈嬢と人生を共にする義務があるからだと答えなければならない。楼火先パイともあろう方が、この程度のことが理解できないでいらっしゃるとは!」

 言い回しが一々鬱陶しい。その上うるさい。春奈の声は演劇の団員のようによく通るから、近くで叫ばれると耳を覆いたくなる。

「それはもうわかったから。しかし、もう朝礼が始まってしま――」

『キーンコーンカーンコーン』

 俺が春奈に自分の教室に戻るように言う前に、朝礼開始のチャイムが鳴った。
 あーあ、言わんこっちゃない。これで春奈は完全に遅刻扱いになってしまった。

「ほら春奈、もうお前遅刻に――――って、あれ、春奈は?」

 振り返ってみると、その場所には姫奈しかいなかった。
 確かに、ほんの数秒前までそこにいたはずなのに。

「春奈ちゃんですか? たった今、ここから飛び降りて消えましたけど」
「何いいいいいいいいいいいい!?」

 姫奈は教室の窓を指差し、なんでもないことのように答えた。
 窓は開きっぱなしになっており、姫奈がそれを閉める。

「と、飛び降りた!? ここ四階だぞ!? いくら急いでたからって……だ、大丈夫なのか!?」
「はい。春奈ちゃんは強いですからっ」
「もはや強さとか関係なくないか!?」

 姫奈は俺の言葉を意に介さず、微笑んでただ「大丈夫です」と言う。
 何も動揺していないということは、こんなことあたりまえの出来事なのかもしれない。
 何て奴だ、まるで忍者だな。

(そういえば、春奈と初めて会ったときも忍者みたいに現れたよな……)

 シュタッと一瞬にして現れた気がする。もしや、夜叉小路ってのは忍者の家系なのか。
 ――まさかな。
 俺が春奈のことに思考を巡らせていると、不意に教室のドアが開き、外から日野先生、じゃなかった、かすみんが現れた。プリントの束を重そうに抱え、とてとて、と教壇の前に行く。騒がしかった教室が少し静かになる。
 相変わらず小さい人だ。身体のほとんどが教壇に隠れてしまって、顔だけそこから出している。それも背伸びをしてギリギリのようだ。
 後ろに回って支えてあげたい。

「はーい、じゃあホームルームを始めます。委員長さん、号令をお願いしまーす」

 かすみんの舌足らずな指示で委員長が号令をかけ、皆が挨拶をする。

「はーいみなさん、おはようございますー。今日で始業式から一週間たちましたがー、このクラスには慣れましたかー? 知らない人でも気軽に声を掛けて、お友達の輪を増やしましょうねー」

 ――――俺がこの学校に転校してきて、一週間が経過した。
 武道場に乗り込んでから一週間、取り立てて特別なことはなかった。マッシュに再び会うこともなかったし、春奈が他の武道系の部活に顔を出すこともなかった。
 桜坂高校への道も完璧に覚えたし、このクラスの雰囲気にもだんだんと慣れ始めてきたころだ。

「今日は昨日も言っていた通りー、新学期初めの大掃除があります! 年にたった数回の掃除時間なので、この校舎に感謝の気持ちを込めながら、一生懸命綺麗にしましょー!」
「えー」「めんどくさーい」「業者に頼めばいいじゃーん」「かすみんやってよー」「おっぱい揉ませろ」「何で俺たちが……」
「え、ええと、静かにしてくださーい! しずかにしてくださーい! しーずーかーにー! お、お願いだから静かに……話を聞い……う、……皆で……ひっく、……掃除……してくださ……お願いしま……ぐすっ……」
「お、俺なんか急に掃除がしたくなってきた! だから泣き止んでくれ!」「わ、私もたった今から掃除好きに! だから泣き止んで!」「おっぱい揉ませろ! だから泣き止め!」「俺も掃除しないと死んでしまう病に! だから泣き止んで!」

 ――だから、こんなやり取りにも慣れてきた。
 どうやらこのクラスは、皆かすみんのことが好きらしい。こうやってかすみんが泣きそうになったら超必至になって阻止しようとする。阻止するくらいなら、泣かせるようなことをするなって話だが。
 ……え? なんか変なのが混じってたって?
 ごめん、それ俺。
 なんかここ数日のリビドーが抑えられなかった。
 …………。
 閑話休題。
 転校初日こそ話しかけてこなかった二年二組の面々も、次の日からはちゃんと話しかけてくれた。智也の友人から声を掛けられ、次にその友人、次もその友人――といった感じで、連鎖的に知り合いが増えた。
 しかし、

(女子は……話しかけてくれないんだよなぁ……)

 このクラスの委員長を除き、この学校で話したことのある女性といえば、姫奈と春奈と美咲と、かすみんくらいである。
 何故だ。そんなに俺は近寄りがたいか。
 あの両親の血を受け継いでいるから、見た目はそんなに気持ち悪くないと思うのだが……。
 所詮は主観か。考えたくはないが、客観的に見ると、俺の見た目はちょっとアレな感じなのかもしれない。

「――以上で連絡は終わりです。今日も張り切って頑張りましょーっ!」

 おーっ! と、かすみんと半数ほどの生徒が、かけ声とともに腕を伸ばす。
 それを合図に解散となり、掃除時間が始まった。

「よっしゃあ! 楼火、さっそく遊ぶぜぃ!」

 かすみんが出て行った直後、智也が勢いよく立ち上がって言った。

「お前は今の話の何を聞いていた。お前の耳は節穴かそうかそうなら仕方ない、その穴に俺の神聖なる人差し指をずぶりと脳に達する程度まで差し込んでやろう」
「俺の扱いひどくね!? ちょっと冗談言っただけなのに!」

 いや、なんとなくね。美咲を見てたら、つい。

「馬鹿なことやってないで、早く行くわよ。出遅れちゃったじゃない」

 皆が足早に出て行った教室を指差して、美咲が呆れながら言う。
 ちなみに、掃除場所は昨日のうちにクラス別に分配されていて、さらにクラスの中で六つの班に区切られていた。教室を直接六つに切ったように班分けをしたので、この周辺にいる数人が俺たちの班である。

「そうだな、遅れるのも悪いし、さっさと行くか――」


「あ、ちょっと待ってくださいデス、春日井サン」


 俺を呼び止める女の声に振り返ると、そこにはこのクラスの委員長、新條加奈(しんじょうかな)が立っていた。転校してきた次の日に、学校に早くなれるようにと朝一で話しかけてくれた、気の優しくまじめな女の子である。
 少し垂れ気味の目が特徴的で、自身の優しさを醸し出している。スカートの丈は今どき珍しいほど長く、膝の辺りで調整されているし、髪も綺麗な黒色である。肩に掛からないくらいで整えられていて、女の子らしくふんわりとしている。

(あー……なんだっけ、この髪型)

 確か、何とかっていう名称があったはずである。
 ……思い出せない。

「どうした、委員長」
「はい、あの、かすみん先生からの頼みなんデスけど、この時間、春日井サンは私と一緒に掃除をするように、と」

 委員長は引っ込み思案な性格なのか、それともただ単に緊張しているのか、所々どもりながら話す。
 もともとこういう話し方なのかもしれない。

「なんでまた」
「えと、まだ慣れていないだろうから、一緒に校舎を回って、建物の配置を覚えながら、掃除をしたらいいんじゃないか、って言ってましたデス」
「ほう、そりゃありがたい」

 この学校はバカみたいに広いから、まだ全部を覚えきれていなかった。ここ一週間で、自分の教室がある校舎内を覚えるので精一杯だったのだ。
 流石かすみん。見た目が子供っぽいからか、生徒の気持ちをわかっている。

「じゃあ案内よろしく、委員長」
「は、はいデス」
「おいおーい、楼火、お前別行動かよー。お前がいなくなったら俺はこのメンバーで誰と遊べばいいんだ?」
「だからお前は何度言えばわかる? お前のその起きて寝言を言うという矛盾を打ち消すために、いますぐこの手で眠らせてやろうか。そうすれば矛盾がなくなる上に、地球環境に貢献できる」
「うう……もういいよ……行こうぜみんな……」

 うな垂れながら、智也が教室を出て行こうとする。

「はいはい、話し相手がいないのなら、草相手に存分に格闘できるわよね。アンタ、アタシの倍がノルマだから」
「じゃ、じゃあ私は美咲さんの三倍は頑張りますっ」

 美咲が軽口を叩きながら智也を追い、姫奈もそれに付いていく。
 姫奈が少し意地を張っているのがおかしかった。

(――あ、そうだ)

 聞こうと思っていたことを忘れていた。

「なあ姫奈」

 少し離れていたし、あまり大声で話すことでもないので、小走りで姫奈の近くに行く。

「はい?」
「委員長の髪型って、なんていう名称だったっか?」
「委員長さんですか? うーん……ショートカット?」
「いやいや、そんなではなく……確かこう……外人の名前みたいな。ふんわりした髪で――」
「外人の名前……?」

 頬に手を当てながら、姫奈はうーんと唸って考え込む。
 やがて何か思い当たったことがあったのか、ぽんっと手を打ち明るい顔で言った。

「もしかして――――ボブカットのことですか?」

(あー、そうだそれそれ。ボブカットか。やーすっきりした)

 それから俺は姫奈に礼を言って見送り、委員長と一緒に掃除場所へ向かった。


ちゃっかり新キャラ登場しました。その名も新條加奈さんでございまする。
恥ずかしがりやで委員長。
なんという俺好みのキャラ……


それはそうと、最後のは何が言いたいか分かりました?
わからなかったら「何言ってんだこいつら」てなってしまうのですが……。

ま、気付きましたよね(適当


評価感想待ってます。
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誰も送ってくれないから、評価感想欄が、変た――げふんげふん。仮眠さんの独擅場になってしまっているじゃないですかっ。

仮眠さんいつもありがとうございますっ!







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