桜坂高校の楼火くんっ!(22/34)PDFで表示縦書き表示RDF


楼火くんはサブタイトルの途中で、何者かに細切れにされましたとさ。
桜坂高校の楼火くんっ!
作:シゲアキ



第二十二話 母さんの年はさんじゅ――


「ってなによこの茶番は!」

 武道場を去ってから数分。
 皆で和気藹々と、とりとめのない話をしながら歩いていると、美咲は急にツッコミを入れてきた。

「やるな、美咲先パイ。時間差ツッコミとは……っ!!」
「感心してないで! さっきのはなんだったのって聞いてるの!!」
「私も負けていられないな。ここで私も時間差ツッコミというものを一つ。『扉をぶち破るなよ!!』」
「それはいくらなんでも遅すぎない!? しかも自分のしたことだし!! というかだいたい春奈はねえ――――」

 俺たちは今、学校内を歩いている。どこへ、という目的さえないが、皆の足は自然と校門に向かっているようだ。
 美咲と春奈の掛け合いを横目で見ながら、俺はさっきのことを思う。

(あいつは本当に、あんな馬鹿げた理由で武道場に押し入ったのだろうか……)

 扉を破りたい。つまりは破壊願望。理由としておかしくはないし、完全にあいつが悪だったかと言われればノーだろう。俺だって何故かむしゃくしゃして、何かを壊してみたくなる時もある。
 しかし、

(あいつ、実は、本当に部長をやりたかったんじゃないか……?)

 ――もしくは、単なる入部を希望していたのではないか。
 例えば、自分の道場が嫌になったとか。
 例えば、他の道場で見聞を広めたかったとか。
 例えば――自分の敵が周りにいなくなった、とか。
 どれもありえそうな話である。
 姫奈のために自分を押し殺して、わざとあんな風に……?
 もしそうだとするなら、俺は――――

「――だからだな、今までの話を総合すると、私は美咲先パイの乳房を拝見したいのだ!!」
「今までで一番わけわかんないわよ!? え、いや、なにその手! 動きが気持ち悪いんだけど!? しかも何かいやらしい!!」
「そしてあわよくば揉む!」
「ちょ、ちょっとまっ――いやあああぁあぁぁああぁ!! あっ……ん」

 ……そんなわけないよネ!

「楼火さん、どうしたんですか? 変な顔して」
「おにぃが変な顔をしてるのは、変なことを考えてる時だよー」

 俺と平行して歩いていた姫奈と奈々が、顔を覗き込むようにして話しかけてくる。
 何気に失礼なことを言っている奈々にはあとでお仕置き。

「いや、……皆はもう帰るのか、と思ってな」
「はい。私は特に用事もないですし、春奈ちゃんの用事も終わりましたから」
「じゃあ、俺たちも帰るか、奈々」
「うんっ」

 奈々の楽しげな返事に、俺も満足する。
 そのまま少し歩くと、校門に着いた。

「では、私達はこちらなので。失礼します」

 また明日、と会釈をして姫奈と春奈が校門から出て行く。
 俺と奈々、それに美咲を加えて、姫奈たちとは反対側の道を通り、俺たちは歩く。

「楼火たちの家はこっち方面なんだったわね」
「ああ。ここから、歩いて三十分くらいか」
「うわー、遠いわねえ。私なんか歩いて十分もかからないわよ」
「近いのに、いつも遅刻をしているのか?」
「そ、それは……。……ちっ。アイツが余計なことを言うから……」

 美咲は顔を恐ろしく歪め、今はいないあの少しアホっぽい男に悪態をつく。
 超怖い。
 ――って、そういえば。

「智也はどこ行ったんだ? なんかいつの間にかいなくなっていたが」
「あー、確か中庭で気絶させて、……そのまま」

 ひ、ひでえ。

「ま、アイツのことなんてどうでもいいけど……、す、少し様子を見てやるくらいはしてあげるわ。中庭に行ってくるから、先に帰ってていいわよ」

 本っ当にアイツなんかどうでもいいけどね、などと言いながら、割と駆け足で校内に戻っていく美咲。
 なんだかんだで心配なのだろう。
 このツンデレさんめ。




 学校から延びた坂を上りきり、何本もの桜が立ち並ぶ大通りに出た。木は淡いピンク色で一杯になり、散りかけてなお綺麗だった。

「あーあ、結局二人になっちゃったねー。もっと皆とお話したかったのにー」

 奈々は頭の後ろで両手を組み、少し膨れながら言う。
 どうやら皆と一緒に帰りたかったらしい。奈々は特別人懐っこいということはないのだが、今回あの四人のことはお気に召したみたいだ。

「なんだ、俺と二人きりは嫌か?」
「え、あ……いや、そんなことは、ないけど……」

 なに赤くなってんだ。

「しかしあれだな。今日はなかなか面白い一日だったな」
「そうだねー。私なんか、今日はすごい質問攻めでちょっと疲れちゃった」
「そうか。奈々はモテモテだな」
「いや、転校生だから今だけだと思うけど……」
「いやいやそんなことはない。奈々の可愛さが超級だったからこそ人が集まってきたんだ。お兄ちゃんは羨ましい。俺のクラスには一人もそんな輩はいなかったぞ? あの三人を除いてだが」
「え、そんなはずはないと思うんだけど……。だっておにぃ――――あ、そうか。逆のパターンもあるのか……。レベルが高すぎて、みたいな」
「ん? 何の話だ?」
「ふーん。鈍感なおにぃには教えてあげなーい」

 つん、とそっぽを向く奈々。だが、別に不機嫌なわけではないようだ。にやけた顔を隠そうともせず、片目だけを開けて俺を見る。
 何だ、気になるじゃないか。

「教えろ」
「いやだよー――って、ほ、ほら! 家が見えてきたよ!」

 今まさにチョークスリーパーをかけて聞き出そうとしたとき、ちょうど俺たちの家が見えてきた。




「あら、早かったわね。お帰りなさい」
「お帰りー」

 時計を見るとまだ四時くらいだった。昼食を食べて、武道場に行って、そのまま直接帰ってきたから当たり前と言えば当たり前なのだが。
 家に入ると、父さんと母さんがリビングで茶を飲みながらくつろいでいた。テーブルに二人並んで座っていて、仲良く肩を寄せ合っていた。
 相変わらず、この二人はいつまで経ってもラブラブである。正直、十七歳も年の離れた妹弟は勘弁して欲しいのだが。このままではその可能性も否定できない。

「どうだったの、学校は?」

 テーブルに座った俺と奈々の前にお茶を置きながら、母さんが微笑んで言った。

(や、どうだったって言われても……)

 初めはツンデレ少女に出会って、次に癒しの神かと見紛う幼女教師に出会って、そして清楚さんと再会して。バカと会って。最後に武道バカ――百合バカに面倒なことをやらされて。
 改めて考えるとまったくいい印象はない。
 ないのだが、

「まあ、割といいところだったぞ」
「あらそう。よかったわねぇ」

 悪いところではなさそうだった。
 少なくとも、さっき出来た友人達は。

「あのねー、母さん聞いて聞いてー」
「はいはいどうしたの、奈々ちゃん?」

 母さんに話を聞いてもらおうと、奈々がテーブルの上に上半身を乗り出して、次々と学校で起こったことを述べていった。
 そのどれもが非常にどうでもいい話だったが、母さんは嫌な顔一つせず、微笑んで聞いていた。娘の楽しそうに話す姿が面白いのかもしれない。

「それでー、春奈さんがどかーって! ばたーんって! 投げ飛ばしちゃったの!」
「あらあら、それはすごい子ねぇ」

 いや、俺はあんたのほうが億倍はすごいと思う。

「それでね、春奈さんったらかっこいいの! 『勘違いするな……貴様等のためではない……』とか言って、絶対アレは部員さんたちのことを考えてたね! 出て行くとき、ほとはらさんってば泣きそうになってたよ! 奈々も春奈さんみたいなかっこいい人になるっ!」
「奈々ちゃんならきっとなれるわよ」

 奈々の話だけ聞くと、少々改変された春奈の言葉が、渋いツンデレに聞こえる俺はもう末期なのか。
 しかし奈々、お前はマッシュのことをほとはらさんと呼ぶことにしたのか。いいぞ、いいセンスだ! お前が将来、春奈のようなスレンダー脚美人になる確率が零パーセントだとしても、お前のあだ名センスは最高だ! 流石は俺と血を分かち合った女!

「その、春奈ちゃんだっけ? その子はなにか格闘技をしているの?」

 母さんが奈々の話の合間に聞く。
 ――そうだ。忘れるところだった。

「そういえば母さん。夜叉小路って聞いたことあるか? その春奈ってやつの苗字なんだが、どうやら代々武道をやってる家系なんだそうだ。母さんなら知ってそうじゃないか?」
「夜叉小路? 夜叉小路ねえ……夜叉小路……うーん、やしゃのこうじ…………」

 母さんは春奈の苗字を何度も呟きながら、必至で何かを思い出そうとしている。
 左手は右肘で、右手は顎に。こんな簡単な仕草からも、俺との血のつながりを感じる。

「やしゃのこ――――ああ! わかった、あのお爺さんのことね!」
「何か思い出したか?」
「思い出したわ! 確か合気道のような技を使っていた、ちょっと変わったお爺さんよね?」

 おそらく春奈の言っていた「お爺様」のことだろう。合気道というところもあっているし、間違いない。

「ああー、懐かしいわぁ。……でもおかしいわねぇ。あのお爺さん、ちょっと手ごわかったから、私が簡単に忘れるはずはないんだけど……」

 ……もう年なんじゃね?

「楼火ちゃん、粒子状の肉片になりたいの?」
「ええ!? まだ何も言ってな――ごめんなさいすみませんでしたもうなにもかんがえません」

 凍りついた笑顔が怖い。
 さあここで豆知識。般若の面って「嫉妬や恨みのこもる女の顔」という意味もあるんだと。また一つ勉強になったね☆
 まあそれは置いといて。

(母さんに手ごわいと言わせるとは……そのじいさん、只者じゃないな)

 デコピンで壁を粉砕し、げんこつで地面を叩き割る母さんに。

「ああ、なんだかだんだん思い出してきたわ。確かに手ごわかったわね。気絶させるのに五秒は掛かったもの」
「ご、五秒!? たった五秒で決着がついて――」

 なんでそれが手ごわいんだよ、と言おう思ってやめた。母さんからすれば、十分すぎるほどの時間経過なのだろう。
 ああなんか。嫌な思い出がよみがえってきた。
 四年前。小学校を卒業し、中学校に入学するのをワクワクしながら待っていて浮かれていた時の、修行での母さんとの対峙。
 エセ審判である父さんの「はじめ!」という掛け声。「はじめぇ!」の「め」と言ったときには、すでに視界から消えており、「ぇ」と語尾を延ばしたときには、天井を見上げて意識を失った。
 俺は小数点第二の次元で気絶させられた。そう考えると、春奈の爺さんは凄い人物なのかもしれない。
 いや待てよ。俺もこの四年間、無駄に母さんにボコさていたわけじゃない。実力は確実に上がったはずだ。もしかすると、小数点第一くらい、いや、二秒くらいならあるいは……。
 ……我ながら、レベルの低い思考である。

「それにしても、あのお爺さんここに住んでたのね。今何してるのかしら。また一緒にお酒でも飲みたいわぁ」

 懐かしむような顔で微笑む。晩酌をともにするくらい仲良くなったらしい。
 話を聞いていると、だんだん俺もその爺さんに会ってみたくなってきた。
 暇が出来たら、春奈の家に招待してもらおうかな。




 夕食後。

「それじゃあ、おやすみ、加代子」
「ええ、おやすみなさい、雅楼さん」

 おやすみ前の、触れる程度の軽いキス。
 それを合図に、皆がリビングから就寝場所に戻る。ラブラブな二人は一階で、俺と奈々は二階だ。

「ふわぁ〜、今日は疲れたからぐっすり眠れそう……」

 階段を上りながら、眠たげな瞳を擦り、奈々は大きな欠伸をした。

「フ……じゃあ明日の朝は俺が起こす番だな。イロイロエロエロしてやるから覚悟してお――」
「おやすみー」
「いや突っ込めよ」

 本当に疲れていたのか、奈々は軽く手を振って部屋に入っていく。

(まあ、仕様がないか。初めての学校だったんだ。不安やら緊張やらでいっぱいいっぱいだったのかもしれん)

 俺も部屋に入って、そのままベッドにダイブ。父さんが昨日買ってきたばかりのマットだったから、顔を埋めると新品の香りがした。
 ふと気が抜ける。

「あ゛ー……疲れたぁ」

 なんというか、主に精神的に疲れた。
 登校して、皆と会って、武道場に行くまではよかったんだ。だけどそれからは、正直もうハラハラして見ていられなかった。何もしていなくても身が削れそうだった。

(明日から、ちゃんとやっていけるだろうか……?)

 心配だ。
 また、何か変なことに巻き込まれなければいいのだが。


 ――しかし、そんな俺の希望を他所に、




 ――面倒なことは、得てして向こうからやってくるものである。


今回は次回へのつなぎのようなお話でした。
さて、面倒ごととはいったいなんでしょうねー。

評価感想をお待ちしております。



今週の月曜と火曜にあった合宿ですが、メンドクセェとか言ってた割には、結構楽しんできました。
ほぼ全時間遊んでいたようなものですが、交流も深まりました。
たのしかったー







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