隠しキャラは隠すものだと生徒の言う
これが中1週末の課題、これが高2中3の学年通信、これが高1の学年通信、1学年は30から35だから4クラスで、これは進路指導部通信で、これはPTAからのお知らせ両方中高用………待って? これ一人じゃ持てないやつ?
で、印刷して各クラスに配布し終わったら、今度は非常勤講師の方に高1の返却物渡されて、今廊下ふらふら歩いているところ。
下っ端だと、雑用ばっかり押し付けられて困る。
量はそんなにないが、落とさないように抱え直す。雑用って、なんでこんな、心に疲労がたまるんだろう。
と、見たことのある後ろ姿が歩いていた。
「やあ、白井」
「黒瀬先生」
明るい髪と目の色、線の細い、優しい顔立ちの青年が、柔らかい声で答えた。
目立つタイプではないが、顔つきから聡明さがうかがえる。小緑や紫垣を見た後だと、華奢にさえ見えるので、時代が時代なら「結核を患った薄幸の美少年」に見える。
昨年から続いて、古典の担当になった白井だ。
「勧めていただいた小説、読んでみたんですけど」
「うん、どうだった?」
「面白かったです。
興味が出てきて。もう少し自分で古文の原文読んでみたいんです。先生のセンスにお願いしたいんですが。何かいいものないですか」
こいつ、さりげなく持ち上げるの上手い。
「いいぞ! 頼んでおいた図書が準備室にあるはずだから。持ってくるよ」
「いえ、一緒に行きます」
そのまま白井は、自然に通路側に立ち、ひょいと、私が手に持っていた提出物を持ち上げた。
「持ちます」
「ええ…ありがとう」
白井の穏和な笑いが、暖かな空気に溶けていく。窓からの光が、明るく柔らかそうな髪できらきらと散らされる。
「……黒瀬先生、それはどんな感情の顔ですか?」
「浄化されそうの顔」
ジェントル白井って呼ぼう。
お言葉に甘えながら、最近読んだネット小説など、とりとめのない話をして廊下をいく。
そういえばA子嬢は、彼を「レインボーズ」と、攻略対象だと言っていたのではないか。つまり、白井を狙っている?
…白井に限っては、見る目があると褒めざるを得ない。
優しく気立てが良く、賢く。髪の毛は柔らかなねこっけで、顔は整っていて清潔感があり、性格は芯が強く、前向きで努力家、距離感の取り方は上手く、相手の目を見て共感できる、聞き上手。笑顔はかっこいいというより可愛い系。教え子贔屓ではない。
「ネット小説も出版が増えたね」
「ネット小説自体が増えましたから」
「ジャンルも増えたしねぇ……これ、男の子に一度は聞きたいって思ってるんだけど」
「何です?」
「ハーレム欲しい?」
「何言ってるんだコイツ」って目で見られた。
「ハーレムになるネット小説って多いよね? ストーリー自体も面白いけど、人気ランキングも出版されて人気あるものも、形はどうあれハーレム要素あるよね?」
「それ聞いてどうするんです?」
「気になるんだよ。やっぱり男の子主人公だし、文体も男性向けな印象があるんだ。無自覚ハーレムなんていうのもあるよね」
「年頃の男に聞くんですか?」
「源氏物語話すでしょ、様々なタイプの女性が光源氏の奥さんになるっていうと、女子は「サイテー!」って言う子が多いんだけど、男子はニヤニヤ笑うんだよ。でも具体的には言ってくれないから…どうなの?」
「いや…俺は、複数に愛情を渡し合うっていうのは、俺には、難しいと、思うので…」
いいずらそう。そうだね、よく考えてみれば、自分の恋愛観をさらけ出すのと一緒た。照れるに決まっている。なるほど、よおし言い直そう。
「モテたい?!」
「………思春期の男子に聞きますか? やめておいた方がいいですよ」
「ゴメンネ!」
考えてみると確かにムゴイ質問だったかもしれない。ゴメンね!
「じゃあ知的好奇心で聞きますが、女性はどうなんですか? 逆ハーレムものもあったでしょう?」
「白井ってホントジャンル問わないね! スゴい!」
逆ハーレムかあ。小説であれば、ストーリー如何で読んだりするけれど。
ふと、A子嬢を思い出す。
「……男女関係ないのかな、モテたいって」
「先生はなかったんですか?」
「なかったなぁ。恋愛そのものが、よくわからないよ」
今でもそうだ。異性と付き合ったこともあるが、カップルだとかデートだとかそんな言葉がまるで浮かばないあっさりしたもので、いやもしかして付き合ったって勘違いなのかも? 恋愛というものは、それぐらい縁遠いものだ。
A子嬢は、そんなにモテたいのだろうか。
ふと、思い出す。なぜ、赤宗は。
「ついでに、もう一つ。何か印象的な出来事があったとして、その出来事を、「なかったように振る舞う」のは、何でだと思う?」
「話飛びましたね…小説の話ですか?」
「ああ、うん。まだいいところんだ。面白ければ紹介するよ」
「ヒーローがそんな行動を?」
「うん、……ヒーロー? うぅん、まあ」
「先生の方が数読んでいるでしょう? どんな展開になるとおもいますか?」
言われて、目をぱちくりさせた。その発想はなかった。
なんだか「小説のヒーロー」といわれた方がまだ、赤宗が近く感じる。育ってきた環境も、知性の程度も、おそらく全く違うが、「論理的に行動する人間」として感じられた。
そりゃ、この世は小説とは異なるけれど。でも、もし小説とするならば。
「……その方が、都合がいいから?」
「まあ、現実でもわざわざ「なかったことにする」なんて、都合がよくならなきゃしませんからね」
「なんで都合がいいの?」
「うーん、自分にとって利益になるか、相手の損になるか?」
当たり前のことが、私は分かっていなかったらしい。
赤宗の利益で、A子嬢の損になることって?
よそ事を考えていたせいか、いつのまにか奇妙な沈黙が下りていた。
白井がとても、いいずらそうに、口を開いた。
「…レインボーズ、の様子は、どうですか」
驚いた。顔を見上げると――最近の若者は背が高い、教え子のほとんどが、女子でさえ私より背が高い――白井は何故か、哀しそうだった。赤宗と反対だ、あいつはとても愉快そうにする、と頭をよぎった。
「………言いにくそうだな、レインボーズ」
「どうにも、一周回ってダサい感じが、とてもじゃないけど耐えられなくて」
「うーん辛口だよな! 白井って」
白井は、容貌は線が細く色白で、病弱かつ気弱に見られるが、本人はいたって辛辣な健康優良児である。
「えー、レインボーズの様子? 相変わらずだよ。赤宗によく呼び出されているけど、嫌な顔一つしないし。
あいつら仲良いよな。こう、割り込めない雰囲気っていうのか」
距離感おかしいその空間に、そこに私を巻き込むなという。
「なんだ、白井も、レインボーズのことは気になるのか?」
言って笑って見せた私に、白井が躊躇いつつ口を開いた。
「黒瀬先生は、なぜ…――」
だが白井の言葉は最後まで聞けなかった。進行方向、休憩室手前にある玄関ホールが、何やら騒がしい。
「ええ? 赤宗様のこと知らないの?」
「だあれ? その人」
あ、やべ。A子嬢じゃん。
A子嬢のかつてのセリフが頭をよぎった。
「隠しキャラの白井」。
二人を会せたら絶対面倒になる。
咄嗟に白井を廊下の外へと突き飛ばす。自分もその後を追って影に隠れる。
A子嬢や、仲良くなったらしい生徒たちとの声が一際響いた。
白井はいきなり突き飛ばしたにも関わらず、課題を抱え込み落とさないように踏ん張ってくれていた。
「…黒瀬先生」
「しっ! ちょっと静かに!」
「いいですけど」
非難がましい目で見られた。
「先生は俺の学園生活を破滅させたかったんですか」
「えっ? あ、ホントだ!」
ここ女子トイレだ。
玄関ホールのすぐ横にある、来賓用トイレに飛び込んでいた。
トイレの中、はホテルかと思う程清潔で、きらきらしい様子だ。
だがトイレだ。
なんてアホな姿だ。これ見られてたら、白井も私も不味いじゃないか。早くもジェントル白井の二つ名を返上させてしまう。
だが、A子嬢に攻略対象を出会わせるのもいかがなものか。
一緒にいるところを見られて、あの凄まじい憎悪の視線を送られるのも堪らない。隠しキャラは隠しておくものなのである。
「悪かったって」
「いいですけど。今出て行ったらそれこそ目も当てられないし」
白井は肩をすくめ、私と一緒にトイレの入り口に立ち、見つからないようこそこそと、玄関ホールの様子を窺った。
本校のホールは、迎賓館かと思う程贅を凝らした装飾で、天井は高く奥行きもあって広く、良く音が響く。
息を潜めると、A子嬢と他にいる女生徒との会話が、トイレの入り口間近にいる私にも、かなりはっきり聞こえてきた。
床もピカピカに磨いてあるので、彼女らの姿が反射して隠れたままで見える。
どうやら、A子嬢が赤宗について同級生に聞いているようだ。
「入学式で、あなたを助け起こしてくださった方のことよ」
「そんなに有名な人なの? 知らないわ、あたし」
A子嬢の言葉に、女生徒たちは固まった。
「それはないですね」
「そうだね。赤宗、入学式で答辞読んでたからね」
知らないとおかしいね。
白井のツッコミに私も頷いた。
それに、赤宗財閥は日本の上流階級にあまりに有名だ。入学したばかりの子どもも、ハイ・ソサエティ出身であれば、必ず聞いたことがある。
さらに、授業や学園生活が始まれば、赤宗は噂の的だ、知らないはずがない。
「知らない」と答えるのは、「上流階級出身ではない」あるいは「社交が身に付いていいない」、「学校に友達がいない」というのと同様だ。
……黒瀬百合個人としては、「べつに出身も社交も友達も、これから手にいれればいいのでは?」と思うのだが、今時の若いヤツはそうもいかないらしい、大変そう。
それでも、A子嬢に対して女生徒たちは丁寧に、事細かく教え込んだ。
赤宗が皇帝と呼ばれる、学園の絶対的君臨者であること。
文武両道で圧倒的カリスマであること。
それに対し分かっているのかいないのか、A子嬢は無邪気に「そうなんだあ」と相槌を打つ。その度に女生徒に呆れが混じる。
なんだろ、聞いててハラハラする。
きょとんとした風に聞き返しているが、A子嬢の声は、微かにだが演技を含んでいた。
同性に対して言うことではないのかもしれないが、女性は、こういう媚態を含んだ言動は、目の動き、声の作り方一つで、どうやったってわかってしまうものだ。
…これは、クラスで浮いてしまうだろうんだろうなぁ。友達、できづらいだろうなぁ。
この学園は中高合同校舎で、東棟と西棟で中高に分かれ、中央棟で連結している。その中央棟にホール、その横に、職員室と職員用休憩室がある。
人の目がなくならない限り、白井を出せない。善意で教材運びを手伝ってくれているだけなのに。……白井ゴメンね!
もういいから、早くホールから出てくんないかな。休憩したいんだよ、先生は。そんなふうにまんじりともせずいると、何やら騒がしく人の多くなる気配がした。次は何だというのか。
明るい能天気な声が響いた。
「あ、入学式の人だ」
ぎょっとした。黄葉だ。足音や気配からして、黄葉以外にも何人かいる。衣擦れの気配は華やかだから、おそらく全員女子。
黄葉はレインボーズの中で一番派手な見た目をして、中3にして身長も日本人男性の平均以上ある。人当たりが良くはねつけるということをしないから、見た目につられて取り巻く女子も一番多い。
しかしなんで、よりにもよって、今ここで出てくるんだよ。タイミング選べよ。
「ああ、入学式で真輝くんに助け起こされていた子ですか」
白井が気がついて呟いた。
「知ってるの、白井」
「学年中もちきりでしたよ」
やっぱりか。私は頭を抱えた。A子嬢悪目立ちだ。
黄葉はそのまま、A子嬢と普通に話し始めた。
黄葉は、A子嬢のこと、赤宗から何も聞いていないのだろうか。
日頃、あれだけ距離感が近いレインボーズなのに。
もしかして、本当に私の言った通り、静観してくれているのだろうか。
「ふーん、真輝のこと知らなかったのか。珍しー。
でも真輝も手貸したくなるよね、お姉さんたち、魅力的で目を惹きつけちゃうし?」
…このセリフ回し。「お姉さん」方にドギマギするぐらいの可愛げが欲しい。
と。
「もう、そんなこと言って! 何なのあなた、いくらモテそうだからって、不誠実よ! 女の子に失礼でしょ!」
A子嬢が叱りつけた。ぷんぷん、と擬態語が出てきそうな。続いて、達成感の滲む息をついた。
…うーん?
白井も傍らで首を捻る。私も無言で困惑。
今の黄葉の言葉は、社交辞令の範疇だと思う。おべんちゃらだとしたってもう少し、気が利いているし、おざなりすぎだけれども。
社交辞令は「不誠実」だろうか?
黄葉は「はあ」と生返事だ。 反応もそりゃ鈍くなるものだ。
そのままふと沈黙が落ちた。
あんまりそれが続くので、私がA子嬢の様子を窺おうとしたほどで、黄葉も「あの…?」と訝しげな声を漏らした。
A子嬢はそれに対し、じれったそうに、今度は「黄葉くん、一緒にどっか行こうよ!」と言った。
…なんでそうなるの?
「学園の皇帝のことは「知らなかった」のに、「黄葉くん」は、名乗られなくっても知ってるんですね」
白井の小声のツッコミに、私は沈黙で答えた。その通りなので。
「えーと、オレ、これからちょっと赤宗と用があって、食堂行かなきゃだからさ」
黄葉が歯切れ悪く答える。赤宗はまたレインボーズを呼び出したらしい。最近頻繁に集会をかけているのを見かけているし、藍原もそういえばよく「赤宗とちょっと」と言って出ていく。
A子嬢も先ほど「レインボーズ」について聞いたばかりだ。幼なじみの集いに、首を突っ込むことはあるまい。
黄葉の気遣いの賜物である「さよなら」に、A子嬢はにこやかに告げた。
「じゃあ、一緒にローズヒップティー飲めるね!」
ぽかんとした空気が広がった。私も白井も顔を見合わせる。なんでそうなるの第2弾。
え? 今、黄葉、断ったよね? なんでお茶する流れになってるの? 話が全然読めない。
A子嬢の声は高らかに浮かれている。
「やだ、遠慮しないで? 誘いたかったんでしょ? そうね、あたしもこの後空いてるから!」
ややあってやっと気づいた。
A子嬢も一緒に食堂に行くと言っているのだ。
いやでも、どうしてそんな話になった?
「でもオレ、食堂ついたら、その…他の人はいつも遠慮してもらってるってゆーか」
「だって、あなたたちは帰ったら?」
黄葉の鈍い反応に対して、A子嬢は追い払うかのように取り巻きに言った。
おいおいおい、その子たちだけじゃないよ、あなたも邪魔だって言われてるんだよ、A子嬢。一緒にいた友達もどーすんのよ。黄葉の取り巻きのお嬢様方も良く黙っているもんだ。
女生徒たちがあわててA子嬢を問い詰める。
「ちょっと、わたしたちと帰るんじゃないの?」
「いつでも帰れるじゃない。ほっといてかまわないから」
もうトイレの私も白井も含めて、全員が絶句した。ほんとに、こんなあからさまな邪険って、ある?
今出てってもフォローのしようがない。もう回り気にせず職員室に帰ってやろうか。なんか疲れて立っていられなくて、トイレの入り口に項垂れかかる。
白井はむしろ私より淡々とした調子だった。けろりとして
「メンタル鋼だと、本人より見てる人たちが辛いんですね」
「白井、し!」
ふと視線を落とすと、ホールの床に黄葉やA子嬢よりも向こうにいる人影が、映り込んでいた。
「あ、黒瀬先生!?」
瞬間、私はトイレの入り口から飛び出した。
うわ、A子嬢距離感近い。まともに見た黄葉とA子嬢の距離は、50センチもない。ぐいぐいつめよっている。さしもの黄葉もたじたじだ。黄葉が連れてきた取り巻きが静かだったのは、別に心が広いわけでもなんでもなく、単純に怒り心頭で声も出なかっただけだ。物凄い険しさでA子嬢を睨みつけている。
私は廊下を競歩で進むと、A子嬢と、黄葉の間に割り込んだ。
「やあ黄葉元気してる?」
「あ、百合ちゃん」
A子嬢との間に距離が出来て、黄葉は明らかにほっとした。
私はそのままじりじりと後退して、後ろにいるA子嬢と、前の黄葉との間を空ける。「ちょっと何すんの!」「どきなさいよおばさん!!」など背後から凄まじい非難の小声が挙がるが、なんでしょう聞こえませんねえ。これ幸いと、黄葉はA子嬢と私から飛びのいてより大きく距離をとった。
「ちょうどいいや、購買でお茶買ってきて。持ってくるのはいつでもいいから、用事済んだらもってきて。藍原先生の隣の席ね」
「わかった!」
やったと言わんばかりの明るい顔をして、黄葉が元気の良い返事をした。私が小銭を何個か投げると、黄葉は片手で軽く受け取った。格好いいじゃないか、腹が立つな。
A子嬢は私の背中越しに無視されるのが耐えられなくなったのか、飛び出し私を睨みつけた。
「どいてよ、いい人ヅラして!」
本人はそれ以上のことをまくし立てたかったのだろう。ちょうど昨年度、廊下で私に啖呵を切った時のような。だが黄葉の前であることを意識したのか、私から視線をそらすと、満面の笑みで黄葉の方に向き直った。
「颯翔くん、大丈夫! あたしが助けてあげるね!」
彼女の目は使命感で澄んで明るく、そして冷静だった。それが、社交辞令の空気をクラッシュした場で、奇妙に浮いている。
私も、黄葉も取り巻きの女子もA子嬢と一緒にいた女性とも、その表情に気おされてしまった。
我に返るのは私が一番早かった。雰囲気に飲まれている黄葉を叱咤する。
「黄葉、ほら!」
「あ、はい!」
黄葉は踵を返し小走りに廊下の向こうに行き、取り巻きも慌ててその後を追う。A子嬢と一緒にいた女生徒たちも手を叩いて促した。
「あなたたちも、もう用事ないんでしょ。
世の中物騒なんだからさっさと帰んなさい。ほら行った行った」
A子嬢は、黄葉を捕まえそこなって気分を損ねたのか、さっさと踵を返しホール出入口に向かった。舌打ちは空耳だろうか。女生徒は私の方を見て会釈するとA子嬢の後を追う。
A子嬢の姿が完全に見えなくなるまで見送ると、ゆっくり振り向いた。
トイレの入り口から床にうつりこんで見えた通り、ホールの奥、二手に分かれた階段の上に、赤宗が立っていた。黙ってただ、小首を傾げ微笑んでいる。
私はひたすら首を振った。
だめ。手を、だすな。
赤宗の笑みが、ゆるゆると大きくなる。唇がゆっくりと動いた。
ざんねん。
赤宗はそのまま、二階から食堂に行ったようだった。
ただ美しいばかりの笑みを思い返すと、悪寒が走った。
A子嬢、この考えなし、軽挙。さっそく破滅フラグおったててんじゃない。とにかく怒鳴り散らしたい気持ちでいっぱいだ。
ふらふらになりながら職員室に戻ろうとして、持って帰るはずの課題がないので気づいた。
あ。白井。
気配を押し殺しつつもかすかに聞こえるトイレからの抗議の声に、私は慌てて踵を返した。
隠しキャラ登場。白、見た目のイメージは病院、薄幸の美少年。中身は、さて。
流れでトイレに押し込んでしまいました。なぜこうなった。
2019.12.14 改訂
2019.12.16 改訂