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悪役令嬢と呼ばれたがそれより隣のカリスマがこわい【連載版】  作者: 良よしひろ
1.桜並木のオープニングだがそれよりここは校門前である
8/35

隠しキャラは隠すものだと生徒の言う

 これが中1週末の課題、これが高2中3の学年通信、これが高1の学年通信、1学年は30から35だから4クラスで、これは進路指導部通信で、これはPTAからのお知らせ両方中高用………待って? これ一人じゃ持てないやつ?


で、印刷して各クラスに配布し終わったら、今度は非常勤講師の方に高1の返却物渡されて、今廊下ふらふら歩いているところ。

下っ端だと、雑用ばっかり押し付けられて困る。

量はそんなにないが、落とさないように抱え直す。雑用って、なんでこんな、心に疲労がたまるんだろう。

 と、見たことのある後ろ姿が歩いていた。


「やあ、白井」

「黒瀬先生」


 明るい髪と目の色、線の細い、優しい顔立ちの青年が、柔らかい声で答えた。

 目立つタイプではないが、顔つきから聡明さがうかがえる。小緑や紫垣を見た後だと、華奢にさえ見えるので、時代が時代なら「結核を患った薄幸の美少年」に見える。

昨年から続いて、古典の担当になった白井だ。


「勧めていただいた小説、読んでみたんですけど」

「うん、どうだった?」

「面白かったです。

興味が出てきて。もう少し自分で古文の原文読んでみたいんです。先生のセンスにお願いしたいんですが。何かいいものないですか」


 こいつ、さりげなく持ち上げるの上手い。


「いいぞ! 頼んでおいた図書が準備室にあるはずだから。持ってくるよ」

「いえ、一緒に行きます」


 そのまま白井は、自然に通路側に立ち、ひょいと、私が手に持っていた提出物を持ち上げた。


「持ちます」

「ええ…ありがとう」


 白井の穏和な笑いが、暖かな空気に溶けていく。窓からの光が、明るく柔らかそうな髪できらきらと散らされる。


「……黒瀬先生、それはどんな感情の顔ですか?」

「浄化されそうの顔」


ジェントル白井って呼ぼう。

お言葉に甘えながら、最近読んだネット小説など、とりとめのない話をして廊下をいく。


 そういえばA子嬢は、彼を「レインボーズ」と、攻略対象だと言っていたのではないか。つまり、白井を狙っている?

…白井に限っては、見る目があると褒めざるを得ない。


優しく気立てが良く、賢く。髪の毛は柔らかなねこっけで、顔は整っていて清潔感があり、性格は芯が強く、前向きで努力家、距離感の取り方は上手く、相手の目を見て共感できる、聞き上手。笑顔はかっこいいというより可愛い系。教え子贔屓ではない。


「ネット小説も出版が増えたね」

「ネット小説自体が増えましたから」

「ジャンルも増えたしねぇ……これ、男の子に一度は聞きたいって思ってるんだけど」

「何です?」

「ハーレム欲しい?」


「何言ってるんだコイツ」って目で見られた。


「ハーレムになるネット小説って多いよね? ストーリー自体も面白いけど、人気ランキングも出版されて人気あるものも、形はどうあれハーレム要素あるよね?」

「それ聞いてどうするんです?」

「気になるんだよ。やっぱり男の子主人公だし、文体も男性向けな印象があるんだ。無自覚ハーレムなんていうのもあるよね」

「年頃の男に聞くんですか?」

「源氏物語話すでしょ、様々なタイプの女性が光源氏の奥さんになるっていうと、女子は「サイテー!」って言う子が多いんだけど、男子はニヤニヤ笑うんだよ。でも具体的には言ってくれないから…どうなの?」

「いや…俺は、複数に愛情を渡し合うっていうのは、俺には、難しいと、思うので…」


いいずらそう。そうだね、よく考えてみれば、自分の恋愛観をさらけ出すのと一緒た。照れるに決まっている。なるほど、よおし言い直そう。


「モテたい?!」

「………思春期の男子に聞きますか? やめておいた方がいいですよ」

「ゴメンネ!」


考えてみると確かにムゴイ質問だったかもしれない。ゴメンね!


「じゃあ知的好奇心で聞きますが、女性はどうなんですか? 逆ハーレムものもあったでしょう?」

「白井ってホントジャンル問わないね! スゴい!」


逆ハーレムかあ。小説であれば、ストーリー如何で読んだりするけれど。

ふと、A子嬢を思い出す。


「……男女関係ないのかな、モテたいって」

「先生はなかったんですか?」

「なかったなぁ。恋愛そのものが、よくわからないよ」


今でもそうだ。異性と付き合ったこともあるが、カップルだとかデートだとかそんな言葉がまるで浮かばないあっさりしたもので、いやもしかして付き合ったって勘違いなのかも? 恋愛というものは、それぐらい縁遠いものだ。

A子嬢は、そんなにモテたいのだろうか。

ふと、思い出す。なぜ、赤宗は。


「ついでに、もう一つ。何か印象的な出来事があったとして、その出来事を、「なかったように振る舞う」のは、何でだと思う?」

「話飛びましたね…小説の話ですか?」

「ああ、うん。まだいいところんだ。面白ければ紹介するよ」

「ヒーローがそんな行動を?」

「うん、……ヒーロー? うぅん、まあ」

「先生の方が数読んでいるでしょう? どんな展開になるとおもいますか?」


言われて、目をぱちくりさせた。その発想はなかった。

なんだか「小説のヒーロー」といわれた方がまだ、赤宗が近く感じる。育ってきた環境も、知性の程度も、おそらく全く違うが、「論理的に行動する人間」として感じられた。

そりゃ、この世は小説とは異なるけれど。でも、もし小説とするならば。


「……その方が、都合がいいから?」

「まあ、現実でもわざわざ「なかったことにする」なんて、都合がよくならなきゃしませんからね」

「なんで都合がいいの?」

「うーん、自分にとって利益になるか、相手の損になるか?」


当たり前のことが、私は分かっていなかったらしい。

赤宗の利益で、A子嬢の損になることって?

 よそ事を考えていたせいか、いつのまにか奇妙な沈黙が下りていた。

白井がとても、いいずらそうに、口を開いた。


「…レインボーズ、の様子は、どうですか」


 驚いた。顔を見上げると――最近の若者は背が高い、教え子のほとんどが、女子でさえ私より背が高い――白井は何故か、哀しそうだった。赤宗と反対だ、あいつはとても愉快そうにする、と頭をよぎった。


「………言いにくそうだな、レインボーズ」

「どうにも、一周回ってダサい感じが、とてもじゃないけど耐えられなくて」

「うーん辛口だよな! 白井って」


 白井は、容貌は線が細く色白で、病弱かつ気弱に見られるが、本人はいたって辛辣な健康優良児である。


「えー、レインボーズの様子? 相変わらずだよ。赤宗によく呼び出されているけど、嫌な顔一つしないし。

あいつら仲良いよな。こう、割り込めない雰囲気っていうのか」


 距離感おかしいその空間に、そこに私を巻き込むなという。


「なんだ、白井も、レインボーズのことは気になるのか?」


 言って笑って見せた私に、白井が躊躇いつつ口を開いた。


「黒瀬先生は、なぜ…――」


 だが白井の言葉は最後まで聞けなかった。進行方向、休憩室手前にある玄関ホールが、何やら騒がしい。


「ええ? 赤宗様のこと知らないの?」

「だあれ? その人」


あ、やべ。A子嬢じゃん。

 A子嬢のかつてのセリフが頭をよぎった。


「隠しキャラの白井」。


 二人を会せたら絶対面倒になる。

咄嗟に白井を廊下の外へと突き飛ばす。自分もその後を追って影に隠れる。

 A子嬢や、仲良くなったらしい生徒たちとの声が一際響いた。

 白井はいきなり突き飛ばしたにも関わらず、課題を抱え込み落とさないように踏ん張ってくれていた。


「…黒瀬先生」

「しっ! ちょっと静かに!」

「いいですけど」


 非難がましい目で見られた。


「先生は俺の学園生活を破滅させたかったんですか」

「えっ? あ、ホントだ!」


 ここ女子トイレだ。


 玄関ホールのすぐ横にある、来賓用トイレに飛び込んでいた。

トイレの中、はホテルかと思う程清潔で、きらきらしい様子だ。

だがトイレだ。

なんてアホな姿だ。これ見られてたら、白井も私も不味いじゃないか。早くもジェントル白井の二つ名を返上させてしまう。

 だが、A子嬢に攻略対象を出会わせるのもいかがなものか。

一緒にいるところを見られて、あの凄まじい憎悪の視線を送られるのも堪らない。隠しキャラは隠しておくものなのである。


「悪かったって」

「いいですけど。今出て行ったらそれこそ目も当てられないし」


 白井は肩をすくめ、私と一緒にトイレの入り口に立ち、見つからないようこそこそと、玄関ホールの様子を窺った。

 本校のホールは、迎賓館かと思う程贅を凝らした装飾で、天井は高く奥行きもあって広く、良く音が響く。

息を潜めると、A子嬢と他にいる女生徒との会話が、トイレの入り口間近にいる私にも、かなりはっきり聞こえてきた。

床もピカピカに磨いてあるので、彼女らの姿が反射して隠れたままで見える。

どうやら、A子嬢が赤宗について同級生に聞いているようだ。


「入学式で、あなたを助け起こしてくださった方のことよ」

「そんなに有名な人なの? 知らないわ、あたし」


 A子嬢の言葉に、女生徒たちは固まった。


「それはないですね」

「そうだね。赤宗、入学式で答辞読んでたからね」


知らないとおかしいね。

 白井のツッコミに私も頷いた。

 それに、赤宗財閥は日本の上流階級にあまりに有名だ。入学したばかりの子どもも、ハイ・ソサエティ出身であれば、必ず聞いたことがある。

さらに、授業や学園生活が始まれば、赤宗は噂の的だ、知らないはずがない。

「知らない」と答えるのは、「上流階級出身ではない」あるいは「社交が身に付いていいない」、「学校に友達がいない」というのと同様だ。

……黒瀬百合個人としては、「べつに出身も社交も友達も、これから手にいれればいいのでは?」と思うのだが、今時の若いヤツはそうもいかないらしい、大変そう。


 それでも、A子嬢に対して女生徒たちは丁寧に、事細かく教え込んだ。

赤宗が皇帝と呼ばれる、学園の絶対的君臨者であること。

文武両道で圧倒的カリスマであること。

それに対し分かっているのかいないのか、A子嬢は無邪気に「そうなんだあ」と相槌を打つ。その度に女生徒に呆れが混じる。

なんだろ、聞いててハラハラする。


きょとんとした風に聞き返しているが、A子嬢の声は、微かにだが演技を含んでいた。

同性に対して言うことではないのかもしれないが、女性は、こういう媚態を含んだ言動は、目の動き、声の作り方一つで、どうやったってわかってしまうものだ。

…これは、クラスで浮いてしまうだろうんだろうなぁ。友達、できづらいだろうなぁ。


この学園は中高合同校舎で、東棟と西棟で中高に分かれ、中央棟で連結している。その中央棟にホール、その横に、職員室と職員用休憩室がある。

人の目がなくならない限り、白井を出せない。善意で教材運びを手伝ってくれているだけなのに。……白井ゴメンね!

 もういいから、早くホールから出てくんないかな。休憩したいんだよ、先生は。そんなふうにまんじりともせずいると、何やら騒がしく人の多くなる気配がした。次は何だというのか。

 明るい能天気な声が響いた。


「あ、入学式の人だ」


 ぎょっとした。黄葉だ。足音や気配からして、黄葉以外にも何人かいる。衣擦れの気配は華やかだから、おそらく全員女子。

黄葉はレインボーズの中で一番派手な見た目をして、中3にして身長も日本人男性の平均以上ある。人当たりが良くはねつけるということをしないから、見た目につられて取り巻く女子も一番多い。

しかしなんで、よりにもよって、今ここで出てくるんだよ。タイミング選べよ。


「ああ、入学式で真輝くんに助け起こされていた子ですか」


白井が気がついて呟いた。


「知ってるの、白井」

「学年中もちきりでしたよ」


 やっぱりか。私は頭を抱えた。A子嬢悪目立ちだ。

 黄葉はそのまま、A子嬢と普通に話し始めた。

黄葉は、A子嬢のこと、赤宗から何も聞いていないのだろうか。

日頃、あれだけ距離感が近いレインボーズなのに。

もしかして、本当に私の言った通り、静観してくれているのだろうか。


「ふーん、真輝のこと知らなかったのか。珍しー。

でも真輝も手貸したくなるよね、お姉さんたち、魅力的で目を惹きつけちゃうし?」


 …このセリフ回し。「お姉さん」方にドギマギするぐらいの可愛げが欲しい。

 と。


「もう、そんなこと言って! 何なのあなた、いくらモテそうだからって、不誠実よ! 女の子に失礼でしょ!」


 A子嬢が叱りつけた。ぷんぷん、と擬態語が出てきそうな。続いて、達成感の滲む息をついた。

…うーん?

白井も傍らで首を捻る。私も無言で困惑。

 今の黄葉の言葉は、社交辞令の範疇だと思う。おべんちゃらだとしたってもう少し、気が利いているし、おざなりすぎだけれども。

社交辞令は「不誠実」だろうか?

黄葉は「はあ」と生返事だ。 反応もそりゃ鈍くなるものだ。


 そのままふと沈黙が落ちた。

あんまりそれが続くので、私がA子嬢の様子を窺おうとしたほどで、黄葉も「あの…?」と訝しげな声を漏らした。

A子嬢はそれに対し、じれったそうに、今度は「黄葉くん、一緒にどっか行こうよ!」と言った。


…なんでそうなるの?


「学園の皇帝のことは「知らなかった」のに、「黄葉くん」は、名乗られなくっても知ってるんですね」


 白井の小声のツッコミに、私は沈黙で答えた。その通りなので。


「えーと、オレ、これからちょっと赤宗と用があって、食堂行かなきゃだからさ」


 黄葉が歯切れ悪く答える。赤宗はまたレインボーズを呼び出したらしい。最近頻繁に集会をかけているのを見かけているし、藍原もそういえばよく「赤宗とちょっと」と言って出ていく。

A子嬢も先ほど「レインボーズ」について聞いたばかりだ。幼なじみの集いに、首を突っ込むことはあるまい。

 黄葉の気遣いの賜物である「さよなら」に、A子嬢はにこやかに告げた。


「じゃあ、一緒にローズヒップティー飲めるね!」


 ぽかんとした空気が広がった。私も白井も顔を見合わせる。なんでそうなるの第2弾。

え? 今、黄葉、断ったよね? なんでお茶する流れになってるの? 話が全然読めない。


A子嬢の声は高らかに浮かれている。


「やだ、遠慮しないで? 誘いたかったんでしょ? そうね、あたしもこの後空いてるから!」


 ややあってやっと気づいた。

A子嬢も一緒に食堂に行くと言っているのだ。

いやでも、どうしてそんな話になった?


「でもオレ、食堂ついたら、その…他の人はいつも遠慮してもらってるってゆーか」

「だって、あなたたちは帰ったら?」


 黄葉の鈍い反応に対して、A子嬢は追い払うかのように取り巻きに言った。

おいおいおい、その子たちだけじゃないよ、あなたも邪魔だって言われてるんだよ、A子嬢。一緒にいた友達もどーすんのよ。黄葉の取り巻きのお嬢様方も良く黙っているもんだ。

 女生徒たちがあわててA子嬢を問い詰める。


「ちょっと、わたしたちと帰るんじゃないの?」

「いつでも帰れるじゃない。ほっといてかまわないから」


 もうトイレの私も白井も含めて、全員が絶句した。ほんとに、こんなあからさまな邪険って、ある?

 今出てってもフォローのしようがない。もう回り気にせず職員室に帰ってやろうか。なんか疲れて立っていられなくて、トイレの入り口に項垂れかかる。

白井はむしろ私より淡々とした調子だった。けろりとして


「メンタル鋼だと、本人より見てる人たちが辛いんですね」

「白井、し!」


 ふと視線を落とすと、ホールの床に黄葉やA子嬢よりも向こうにいる人影が、映り込んでいた。


「あ、黒瀬先生!?」


 瞬間、私はトイレの入り口から飛び出した。

うわ、A子嬢距離感近い。まともに見た黄葉とA子嬢の距離は、50センチもない。ぐいぐいつめよっている。さしもの黄葉もたじたじだ。黄葉が連れてきた取り巻きが静かだったのは、別に心が広いわけでもなんでもなく、単純に怒り心頭で声も出なかっただけだ。物凄い険しさでA子嬢を睨みつけている。

 私は廊下を競歩で進むと、A子嬢と、黄葉の間に割り込んだ。


「やあ黄葉元気してる?」

「あ、百合ちゃん」


A子嬢との間に距離が出来て、黄葉は明らかにほっとした。

私はそのままじりじりと後退して、後ろにいるA子嬢と、前の黄葉との間を空ける。「ちょっと何すんの!」「どきなさいよおばさん!!」など背後から凄まじい非難の小声が挙がるが、なんでしょう聞こえませんねえ。これ幸いと、黄葉はA子嬢と私から飛びのいてより大きく距離をとった。


「ちょうどいいや、購買でお茶買ってきて。持ってくるのはいつでもいいから、用事済んだらもってきて。藍原先生の隣の席ね」

「わかった!」


 やったと言わんばかりの明るい顔をして、黄葉が元気の良い返事をした。私が小銭を何個か投げると、黄葉は片手で軽く受け取った。格好いいじゃないか、腹が立つな。

 A子嬢は私の背中越しに無視されるのが耐えられなくなったのか、飛び出し私を睨みつけた。


「どいてよ、いい人ヅラして!」


 本人はそれ以上のことをまくし立てたかったのだろう。ちょうど昨年度、廊下で私に啖呵を切った時のような。だが黄葉の前であることを意識したのか、私から視線をそらすと、満面の笑みで黄葉の方に向き直った。


「颯翔くん、大丈夫! あたしが助けてあげるね!」


彼女の目は使命感で澄んで明るく、そして冷静だった。それが、社交辞令の空気をクラッシュした場で、奇妙に浮いている。

 私も、黄葉も取り巻きの女子もA子嬢と一緒にいた女性とも、その表情に気おされてしまった。

 我に返るのは私が一番早かった。雰囲気に飲まれている黄葉を叱咤する。


「黄葉、ほら!」

「あ、はい!」


 黄葉は踵を返し小走りに廊下の向こうに行き、取り巻きも慌ててその後を追う。A子嬢と一緒にいた女生徒たちも手を叩いて促した。


「あなたたちも、もう用事ないんでしょ。

世の中物騒なんだからさっさと帰んなさい。ほら行った行った」


 A子嬢は、黄葉を捕まえそこなって気分を損ねたのか、さっさと踵を返しホール出入口に向かった。舌打ちは空耳だろうか。女生徒は私の方を見て会釈するとA子嬢の後を追う。

 A子嬢の姿が完全に見えなくなるまで見送ると、ゆっくり振り向いた。

 トイレの入り口から床にうつりこんで見えた通り、ホールの奥、二手に分かれた階段の上に、赤宗が立っていた。黙ってただ、小首を傾げ微笑んでいる。

 私はひたすら首を振った。


 だめ。手を、だすな。


 赤宗の笑みが、ゆるゆると大きくなる。唇がゆっくりと動いた。


 ざんねん。


 赤宗はそのまま、二階から食堂に行ったようだった。

ただ美しいばかりの笑みを思い返すと、悪寒が走った。

A子嬢、この考えなし、軽挙。さっそく破滅フラグおったててんじゃない。とにかく怒鳴り散らしたい気持ちでいっぱいだ。


 ふらふらになりながら職員室に戻ろうとして、持って帰るはずの課題がないので気づいた。


 あ。白井。

 気配を押し殺しつつもかすかに聞こえるトイレからの抗議の声に、私は慌てて踵を返した。


隠しキャラ登場。白、見た目のイメージは病院、薄幸の美少年。中身は、さて。


流れでトイレに押し込んでしまいました。なぜこうなった。


2019.12.14 改訂

2019.12.16 改訂

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