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悪役令嬢と呼ばれたがそれより隣のカリスマがこわい【連載版】  作者: 良よしひろ
1.桜並木のオープニングだがそれよりここは校門前である
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ヒロインの世知辛い受験事情 2

ちまちま載せていくのは性に合わないことが分かりまして、長くとも切りのいいところまで載せていこうと思います。


桜並木の中、転んだ「彼女」を助け起こす。

これを「茶番」と言わず、何と言う?


「少々失礼では? 私だって助け起こすくらいしますよ」

「徒歩通学でしょ」

「たまたま、です。車から降りてきた御曹司が、平凡な女の子を優しく助け起こす、なんて。いかにも思い込みの激しい娘が食いつきそうな、いい演出だけれど。助け起こしたのは、人の道にのっとったんですよ」


 赤宗の、表面だけは柔らかな、しかし空々しい答えに、私は頭が痛くなりそうだった。大財閥の御曹司、恐らく海千山千のカリスマがまさか、「たまたま」など。意地の悪い考えがあるような気がしてならない。


 A子嬢が校門前に来たのは、入学式1時間半前。かなり早く来た、と言いたいところだが、そうでもない。

まず入学準備の諸先輩方、教職員が登校する。次に来るのが、新入生とその保護者だら、名門校への待望の入学だ、勿論他の入学者も保護者を連れ、大勢きていた。桜並木は、その向こうに校舎も見えて人気の撮影様のスポットになっていた。

その中には中学からの持ち上がりも大勢いる。「皇帝陛下」をよく知る、内部進学生が。


A子嬢の、あの自分の世界に入り込んでいたあざとい言動。

怪我もないのにあのタイミング。

きっちり手を握り込んでいた手。

まして、彼女が倒れ込んだのが、あの、赤宗の前。


明らかに赤宗を狙っている。「誰かしら…」じゃないだろ。わからなくとも、高級車で送迎される青年がタダモノであるはずがない。

 その場にいたほとんどが、「赤宗真輝」に気づいた。その「皇帝」の行く先を遮った少女にも。少女について、どのクラスでも今頃もちきりだろう。

 赤宗はそれよりも、と話題をかえる。


「それより、なぜ「彼女」が入学式に通っているか。それほどレベルの低い学校ではないと、思っていたのですが」

「…この場にいるということは、合格したということだよ」


 一応。


A子嬢は、ちゃんと、一度は落ちた。

 私と赤宗が考えたとおり、案の定、面接で学校名を豪快に間違えていた。面接をした副校長が訂正をする間もないほど、多分私に吐き出したのと同じくらいまくしたて、ラストで間違った校名を叫んでしまったらしい。


 新任説明会で職員室に来たときには、噂になっていた。

入試結果が出る前に、A子嬢の父親が乗り込んできたらしい。

寄付金を弾むぞ。悪い噂を流してやるからな。訴えてやる。

あの手この手、しまいに泣き落としにきた。

A子嬢は、父親と共に良実学園の入学を強く希望していた。

だが父親には予想外だったのが、A子嬢が他の学校に併願を出さなかったことだ。面接が終わってから一部始終を聞いた父親はさんざん併願を出すよう言ったが、まったく聞く耳持たない。運命なんだ、決まっていることだと繰り返して。

娘が高校浪人になると必死だったのだ。

 脅されても金を出されても揺らがなかった校長と副校長も、「高校浪人」と聞いて頭痛がするような顔になった。教育者としての優しさに、私はうっかりときめくかと思った。


 本来はそこまでで済む話。だが三月末、要らないドラマが生まれた。

瑠守良実は富裕層の人気校で、例年は辞退者も出ない。

だが今回、久方ぶりに入学辞退者が出た。親の栄転に従い引っ越すというめでたい話。

だが補欠合格枠の人も皆、他学への入学が決まっていたため、たった一枠の募集がかけられた。この学園は、学校運営と経営が分かれていて、経営側は金持ち学校なりの大金を動かすためか、かなりシビアな金銭感覚で、一人の枠も無駄にしなかったのだ。

そこにA子嬢が応募し、合格した。彼女の父親は寄付金を奮発した。事務方の見越した通りだろうか。学力は決して高くなかった。粘り勝ちだろう。

A子嬢はヒロイン補正だと思ってるかもしれない。金銭事情はともかくとして、彼女には校長たちの愛が骨身に沁みるまで感じていただきたい。


「生徒」の受験事情など、「他の生徒」に言えやしない。

と、思っていたのだが。


「聞いてるよ、親がごねたんだろう。併願もしないとはね、大した自信だ」


何故知ってる…。プライバシーの領域だ。

赤宗はしかし、モナリザの微笑みである。底が読めない。

しかしA子嬢はよく受験に成功したものだ。


私は彼女の「悪役令嬢」云々の発言を、ありのままに報告した。あの強い確信がどこから来るものなのか分からないが、ゲームと現実を同一視というのは、やはり彼女の将来のためにもならない。

A子嬢は桜井彩夢という。あやめ、期せずしてA子嬢だと思ったのは内緒。

 父親が乗り込んできたのもあり、中学にまで電話するなど素行調査に近いものもしたそうだ。生徒の安全を何より重視する学校法人だ、他の学校法人よりも丁寧であったと推測される。

結果、気の強い所はあるが、問題はなかった。

成績も愛想も良くて、学園の関係者や、怪しい人物などと接触している様子もなし。実家はそこそこの会社を経営している。「乙女ゲームに転生した」なんて言動は一切見せない。特に目立ったことはなく、不合格にする理由に至らなかった。


「誰にも接触していないのに、特に白井なんて、どこで知ったっていうのか…」


 私に対してなぜ、「逆ハー」なんて発言をする発想に落ち着いたのか。

 たまらずため息が出た。ここ何日か、ストレスで疲れが取れない。


「赤宗は、桜井…あー、「彼女」について確認された?」

「確認」


 赤宗の唇は弧を描き、赤宗はますます笑みを深めた。


「何か、あったかな?」


酷薄さが増し、声もぐっと低くなる。背筋が震えた。

なんで、あんなに怒ってたのに、「何もなかったこと」になってるの?


「ああ、受験のことですか。「彼女」も受験のストレスで一生懸命だったのでしょう。はこの学校にやってきただかり。受験の際のことで決めつけて行動するのは、良くない。長い目で見なくては」

「…うん、そう、だね」


今日の様子を見ると、A子嬢ーー桜井が乙女ゲームという発想を、「逆ハー」という「運命」を、捨てているように思えない。

だが「乙女ゲームに生まれ変わったと信じこんでいる」なんて馬鹿馬鹿しいこと、私の考えすぎかもしれない。実際レインボーズに手を出すかははまだ分からないし。


そう、ストレスで、冗談半分の想像にリアリティーを持ってしまったのかもしれない。

ネットやクチコミでこの学校について知って、友人にたまたまレインボーズのことを知って、憧れて、学校生活を想像して。

そう、それならあるかも。放ってる間に、彼女自身現実が見えて、冷静になって、「逆ハーなんて、そんなゲームみたいなこというなんて」と笑って忘れるようになって。それが一番平和だ。


なのに、何故こんなに怖いんだろう。


 赤宗はかつて、男子生徒に、「声かけ」をして態度を改めさせたが、彼女はどうなるだろう。

学園で生活することすら、いや社会的にも破滅させてしまうかもしれない。

 私がフォローするのはA子嬢は不本意だろうが、黙っていたらA子嬢のその後が転がり落ちてしまう。


 赤宗はずっと、微笑んだままだ。代わりに、赤宗は自分の腕時計を指した。


「黒瀬先生、時間は大丈夫ですか」

「え、うわ!」


 もう職員会議が迫っていた。思っていた以上に経っている。休憩しようとしてきたのに、むしろ心労が増したではないか。


「忙しそうだ」


 赤宗は涼しい顔だ。誰のせいでこうなったと。


「えーどーもね! 鍵かけるよ!」

「はいはい」


 素直に赤宗は腰を上げた。私の方がいなされている。出ていく赤宗に、私は念押しした。


「いいか、様子見、様子見だからな、様子見。手は出すなよ。今度、時間とって話そう」

「勿論。ああ、そうだ」


 赤宗は扉の所で振り返って言った。


「就職、おめでとう」


 実に、実に美しい微笑だった。


「ありがとうよ!」


 叩き付けるように返事すると、今度は声を出して笑い、赤宗は去った。


赤宗さんをラフで描いてみました。

物凄く後頭部が丸くなりました。


もともと四コマ書きなので文を書くのが慣れない。

文才を下さい。


2016.08.28 矛盾訂正しました。


2019.12.10 改訂

赤宗のホラー度上げたい…え、3年前…?

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