オープニングの傍ら
ここから新編になります。よろしくお願いいたします。
満開の桜が、花びらの雨を静かに降らせている。桜並木の向こうには、歴史ある校舎の瀟洒なデザインが見えた。
「ふふっ、楽しみで早く来ちゃった」
桜色がかった茶の髪を直しながら、夢見る瞳をした少女は、「ここに通うのね」と、形の良い桜色の唇を、期待でほころばせた。
その後ろではちょうど、校門の前に黒く光る車が横付けされ、中から怜悧な美貌の青年が、優美な仕草で姿を現した。
「真輝様」
「登校だけで十分だ」
青年の声はごく短く静かだったが、それでも圧倒的な存在感に満ちていた。運転手は無言で恭しく首を垂れ、登校していた生徒たちも畏怖の為か道を開ける。
そんな騒ぎを知らないかのように、桜色の美少女は、真新しい制服が嬉ししいのか、その場でくるくるとまわっていた。そして、いざ道を行こうとして、彼女は車から降りてきた青年の前に、盛大にすっ転んだ。
「いったあ!」
少女は涙目になって上半身を起こした。派手に転んだ割に汚れた様子もなく、怪我は見当たらないが、立ち上がることはない。彼女が丹念に足をさすっていると、すっと手が伸ばされる。
「大丈夫かい?」
「えっ…」
少女の目の前に、倒れ込んだ先にいた青年の、怜悧な美貌があった。
「あっへ、へーきですこれぐらい」
いいながら彼女は、青年の手をしっかり握りこむ。青年は薄い微笑みを浮かべ、彼女を助け起こした。
「気をつけて」
一際強い春風が、桜の花びらを巻き込み吹き上がる。青年の微笑が、桜吹雪に美しく映えた。彼は、そのまま静かな微笑みをたたえ、身を翻し悠然と校舎へと消えていった。
「誰かしら…」
少女はその背中が校舎に消えるまで、一心に見つめていた。
という一連を経て、校門前の周辺は今現在、大変ざわついている。
登下校中の児童生徒及び保護者の方々、教職員が、美少女を遠巻きにして、異様なものを見る目で見守っていた。
「一人で何やってたんだあの子」
「黒のベンツで登下校…」
「赤宗様の行く手に倒れこんだぞ…」
「陛下が助け起こされた…」
「恐ろしいことを…」
「こんな平たいとこで転ぶとか、ありえないだろ…」
動揺がさわさわと、静かに速やかに広がる。ざわめく人々の間、私は入学式用のコサージュを抱え、ひたすら気配を消して立っていた。
私一人が、この一幕を正確に把握している。でも何故だろう、まったく嬉しくない。ずっと人混みに紛れたまま、他人のふりをしたい。あの騒動の張本人二人の学年担当になるとか、考えたくもない。
なんだあの小芝居。なんだあの親切なカリスマ。なんだあれは。
溢れるツッコミが頭の中をぐるぐる回る。心中で大声で叫んだ。
何だ、あの茶番は。
目指せ、あとがきがオチ。
2019.12.10 改訂
教職員 8:00 集合(ただし大体は7:30には出勤済)
新入生 9:00 集合
のため、黒瀬は一番最初に登校したのがA子嬢ではなく緊張して早く来すぎた中2の少年(本来は8:30)なのを知っている