惚れない惚れ薬
※この小説はセリフのみで構成されています。
「先輩、失礼します。」
「おう、金子。よく来たな。」
「って、相変わらず汚い部屋ですね。
実験室ならまだしも、ここは一応応接室も兼ねているんですから、きちんと清潔に保って下さいと何度も……。」
「あーもー、うるせぇな!
おい、江田金子!この天才に説教なんざぁかましてんじゃねーぜ!
大体なぁ、こんな大学のハシのハシぃーに建てられた呪いだ何だって噂のあるくたびれた研究棟に誰が来るってんだよ。」
「先輩は間違ってます。」
「あぁ?」
「人が来ないのは噂のせいじゃなくて、実験中の先輩の態度があまりにキ○ガイじみているせいですよ。
開発した新薬でノーベル賞なんか取って若き天才だ何だと謳われて助手や彼女候補が大量に発生したにも関わらず、たった一年後にはその全ての人間から逃げられてしまったのが本当に噂のせいだと思っていらっしゃるのなら貴方は今すぐ精神科にでもかかった方が良い。」
「人の傷を抉ってくるのはやめろぉーッ!
ちくしょう、お前バカにしてんじゃねぇぞコラぁ!」
「してません。真実を述べたまでです。
そんなことより、珍しくも先輩の方から私を呼び出したということは、何かそれなりに大切な用があるんでしょう。
こちらも暇ではないので、早く話を進めてください。」
「ッチ。余計な口ばっか叩きやがって、金子てめぇ後で覚えてろよ。
……まぁ、いい。とりあえずソコ座れや。
飲みもんはコーヒーで良かったか。」
「え。いつもは自分の飲み物すら私に用意させる先輩がどうしたんですか。
一体どういった風の吹き回しですか。先輩明日死ぬんですか。」
「お前は毒を吐かんと死ぬ病気か何かか!?」
「もしくは、私に対して何か後ろめたいことがあって、事前に機嫌を取っておこうとか、罪悪感を少しでも減らしておこうとか、そういった魂胆で……。」
「…………。」
「……あぁ、はい。図星ですか。
まぁ、そういうことならいただいておきましょう。
濃いめのブラックでお願いします。」
「っだー、もー!!わぁーったよ!くそ!」
「おら!!これで文句ねぇだろ!!」
「ありがとうございます。いただきます。」
「おう。お前この俺に入れさせといて残したりすんじゃねーぞ。」
「はいはい…………って、アレ。意外と美味しいかも。」
「おい。アレって何だ。意外とって何だ。そして、かもって何だ。
天才の俺が入れたんだぞ、最高に美味いっつー感想以外ありえねぇだろうが!」
「そんなことより、先輩。用件は。」
「っだ!てめぇ!マジてめぇ!」
「で、用件は。」
「チッ…………用件な。
えーっと、あぁ、用件はそう。これだ。これ。」
「……いえ。あの、先輩。
そんな両腕を横に広げられただけじゃあ、さすがに分かりませんけど。
私エスパーでも何でもない一般人なので、言語で示していただきませんと。」
「あれ…………っかしいな。まだ効かねぇか?」
「はい?」
「えーと、お前。金子。」
「はい。」
「何か俺を見てこう、思うことないか。
もしくは、いつもとちょっと違う感情が湧いてきたりとかしてないか。」
「は?何です、それ?
先輩は口紅の色を変えた程度でいちいち男に今日の私どこか違うところなぁいぃとか何とか聞いてくるウザ系の女子ですか?」
「あ、これダメだわ。清々しいくらい効いてないっぽいわ。
あっれぇー、動物実験だって何度もしたんだがなぁ。」
「はぁ、なるほど。要するに先輩、人体実験ですか。私で。
先ほどのコーヒーがそうですか?」
「っげ。」
「へーぇ、本人の同意も取らずに薬を飲ませて……ねぇ。
これ、私。出るとこ出たら確実に勝てますよねぇ。
ね、犯罪者先輩。」
「い、いや!金子!これはだな!!」
「言い訳は結構。
それで、単刀直入に聞きますが……一体、私に何を飲ませたんです。」
「あ……う……それは、その……。」
「言えないのであれば、すぐに警察と病院へ連絡を入れ……。」
「待て!待ってくれ!言う!言うから!!」
「では、どうぞ。」
「………………れ……りだ。」
「聞こえません。」
「…………薬だ。」
「もう一度、もっと大きな声で。」
「えい、くそ!惚れ薬!惚れ薬だよッ!
あの飲用して最初に目にしたヤツに惚れるってぇ創作なんかで良くある例の薬だ!!」
「…………………………はい?」
「…………あーもー、ちくしょー。」
「あの、先輩。」
「何だ。」
「先輩。」
「だから、何だ。」
「これ、効果はどのくらい続くものなんですか。」
「……約十時間だ。」
「副作用は?」
「あるわけねぇだろ、俺の薬だぞ。」
「何の為に作ったんです。」
「基本的には動物の交配用だ。
絶滅危惧種だったり、愛玩動物だったり、あとはサラブレッドとか乳牛とか、これがあれば相性が悪くて種付けに失敗するってことが無くなるだろ。」
「それ、人体実験する必要がどこにあったんですか。」
「…………無い。」
「ですよね。じゃあ、どうしてそんなもの私に飲ませたんです。」
「それは……。」
「人間ならどうなるかって、最低最悪の軽い興味本位からですか?
普段から嫌なことを言われ続けて、その復讐でもしたかったんですか?
それとも先輩……私に愛されたかったんですか?」
「あぃっ!?ばっ!おまっ、バカ!バカいうな!
なな何で俺がお前なんかに!!」
「ふぅーん。じゃあ、それはもういいです。
ところで、先輩。
先輩は、どうして私に薬が効かなかったか知りたくないですか?」
「っえ…………え!?お前、分かるのか!?
おぉ、教えろ!何でだ!!」
「はい。じゃあ、まずちょっと先ほどのように両腕を大きく広げてみていただけます?」
「へ?……あぁ、おう。こうか?」
「えぇ、そうです。そのまま。」
「って、わぁああああああッ!
かっ!なっ!なんで抱きつっ!?っおま!?」
「おや?こうして欲しかったんじゃないんですか?
惚れ薬を飲ませた相手に向かって腕を開いて待つ意味、これ以外ないと思うんですけど。」
「まっ……!なっ……なな!」
「ふふ。先輩、真っ赤になっちゃって可愛いですねぇ?」
「っかわぁ!?」
「私が惚れ薬で変わらなかったのなんて、簡単ですよ。
だって、そんなもの飲まなくたって私は先輩を心底愛しちゃってるんですから。
元から惚れてるのに、これ以上変わりようないでしょう?」
「っえ………………………ええええええええええええ!!?」
「えぇ、えぇ。愛してますとも、先輩。
こぉんな卑怯で最低の手段を使って私の愛を得ようとするゴミクズみたいな神経していても。」
「おぅふ!!」
「入浴も洗濯もおろそかにして、ハエでもタカリそうなくらい全身臭く薄汚い姿でも。」
「ごふっ!!」
「本当は寂しがりで甘えたがりで天才だなんて呼ばれたくもないくせに、プライドばっかり高くてつい傲慢な態度を取っちゃってても。」
「うぐぁっ!!」
「未だに両親のことをパパママ呼びしていても、年齢イコール彼女いない歴でも、中学生の頃に初恋の相手からキモイと陰口を叩かれているのを聞いてしまい微妙に女性不審になっていても。」
「ぐわぁーーッ!いっそ殺せぇーーーーッ!!」
「はは、そんな勿体無いこと私がするわけないじゃないですか。
で、先輩。そろそろ返事が欲しいんですけど。」
「ああああああ…………って、は?返事?何の?」
「何のって、私いま先輩に告白してるんですよ。」
「どこがだよ!一万歩譲ったとしても強制羞恥プレイの逆セクハラだろ!
大体告白ってのはもっとこう、綺麗で純粋で神聖で!」
「妄想はいらないです。返事ください。」
「ぐぬぅっ!」
「付き合っていただけるんですか、いただけないんですか。」
「ぐぎぎ……。」
「旅館派ですか、ホテル派ですか。
マーメイドラインのシルクのドレスですか、文金高島田ですか。
一軒家ですか、集合住宅ですか。」
「おい何か話進んでる進んでる!!」
「あっと、これは失礼。やはり少し薬にやられているのかもしれません。
先輩を困らせたいわけではないので、返事は急がないことにします。」
「えっ…………あ、えっと、そうか。
その、何と言うか……すまん。」
「いいえ。先輩の性格は分かっているつもりですから。
そうだ、先輩。たくさん話してノドが乾いたでしょう。
私、何か飲み物入れて来ますね。」
「あ、おう。そうだな。頼むわ。」
「はい。すぐにお持ちします。」
「っって、ぎゃあああ!ハメやがったな金子ぉおおおおおおッ!!」
「飲み干してから気付く辺り先輩ですよね。」
完。