GIRLS ROCK WAR17.5話 優弥の独り言
俺の名前は三上優弥。日の出台南高校二年。身長179センチ、体重60キロ。血液型はAB。軽音楽部でHYENAというバンドを組み、ボーカルをやっている。HYENA はヴィジュアル系のバンドとか洋楽のオルタナ系、スピードメタル系のコピーをよくやる。ついでにドラムの早坂がパンクずきなのでたまにピストルズみたいなのもやる。とにかく、基本的に俺が好むのはダークでヘヴィなロックだ。
ちなみに俺はピアノも弾ける。ギターもちょっと。別に関係ないけど俺の親父はプロのピアニスト。母親は音大の講師。一応家は音楽一家だ。そういう関係で俺はベートーベンを崇拝している。
俺の彼女は増田リオという。同じ学年の隣のクラス。軽音楽部でポップス系のコピーをやるガールズバンドを組んでいる。リオはそこのギター。でも本当のアイツは思いっきりメタラーなギタリストなんだ。
はじめてリオを見たのはこの高校に入った入学式の日。出席番号の都合で俺はアイツの隣の席だった。ちなみに俺の前の席にはドラムの早坂が座っていた。こいつとは中学の時からのダチだ。
皆、席に着いて周囲を見回し新しい環境でそわそわしてる中、リオは一番最後に悠々と教室に入って来た。何となく入口を見ていた俺は、リオが入って来た瞬間はっと息を呑んだ。真っ白な肌に薄茶の腰まである髪の毛、でかすぎない身長なのに細長く見えるスタイル、でこぼこのはっきりした体のライン、高い腰の位置。そして明らかに他の女とは違う特別なオーラ・・・。俺はリオに釘付けになった。何が一番おかしいかって、皆、入学式の後で落ち着かない風なのに、リオだけ違った。アイツは伏目がちに足元に視線を落とし、全く周りを無視するかのように歩いてくる。しかも耳にヘッドフォン。完全にシャッター下りてる。普通、入学式にこれ着けないだろ。まるで、「私は友達いりません」って宣言して歩いているようなもんじゃねぇ?変なヤツ。
俺は吸い寄せられるように自分の傍に近づいてくるリオを見つめた。早坂も物珍しそうにリオを目で追っている。リオは真っ直ぐに背筋を伸ばしきれいに歩いて来る。そして俺の隣に自分の名前を確認すると、すとんと椅子に座った。座るとやたらと小さく収まった。
俺の無遠慮な視線に気付いたのか、ふいにリオは俺の方を見た。近くで見たアイツの顔は、猫みたいに可愛くて生意気そうな面。吊り上った目の中にでかい茶色の目玉が光っていた。その目力に俺は一発で射抜かれた。
可愛い・・・・・。イイ女ってこういう女の事を言うのかも。横から見た姿も後姿も全てが可愛い。トゲのある小悪魔のような可愛さ。声はどんなだろ。話してみたい・・・・・。
何とか話をするきっかけは無いか。俺はちらちらとリオを見ながら観察した。リオは授業中もよくヘッドフォンを着けていた。あれ、右手の指先で何かつまむ様にして弾いてる。こいつ・・・、ギター弾くのか?俺は思い切って話しかけてみた。
「何、聴いてんの?」
リオはビビったように茶色い目を白黒させた。まるで人見知りする幼児みたいに。俺は不審者じゃないっつーの。ふてぶてしそうな風貌と打って変わった怯えた態度。アイツはぼそぼそと答える。
「・・・・・Hardcore Superstar ・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
何だこいつマニアックだな。もしかして、メタラーか?
「・・・メタル好きなの?」
リオははにかむようにこっくりと頷いた。
根掘り葉掘り聞いてみると、ギターをやっていて軽音楽部に入るつもりだと言う。思わず早坂と目を合わす。やった。同じじゃん。仲間じゃん。
でも部活とはいえ軽音楽部で活動するにはまずバンドに入らなければ話にならない。しばらくしてからアイツはチェリッシュっていうギャルバンを組んで軽音楽部のライブに登場した。
曲は浜崎あゆみのコピー。悲惨極まりない演奏の中に、リオの放つ太っとく歪んだギターの音だけが一際目立って響いた。何だおい、うまいぞこいつ・・・。ギターを構える姿もサマになってる。そしてギターソロ・・・・・。げっっ、こいつ、ヴァンへイレンか?!イングヴェイか?!マジ指速えーっ!。動きもかっけぇー・・・。
キュイーンとビブラートを効かせたところで、首を反らせて思い切り気持ち良さそうな表情をしやがった。おいおい、女はそんな顔、人前でしちゃだめだろ。ヤバいぞ、お前。でも、マジ妖しい・・・・・。周りで観ていた軽音楽部の男どもは皆唖然としつつも意味ありげに顔を見合わせる。俺はリオから目を離せなかった。
チェリッシュの演奏が終わると、真っ先にリオに寄って行ったのは三年の沢村怜。こいつも相当うまいリオと同系列のギタリストだ。甘いマスクにへらへらと愛想がいいせいか、女に受けがいい。ついでに手も早いと聞いた。リオは早くもこいつが気に入ってるらしく、とたんに嬉しそうな笑顔を見せた。
リオと同じバンドのヴォーカルの木村カレン。こいつも同じクラスだ。
早坂はカレンがすぐに気に入ったらしい。それで、俺と早坂、リオとカレンという仲間がとりあえず出来上がった。俺たちは他の仲間も交えて何かとつるんでよく遊んだ。ピアスの穴も皆で一緒に開けっこしたりした。はじめ人見知り気味だったリオも、段々とノリが良くなっていった。笑った顔もイイ。にぎやかでよくしゃべるカレンと違ってリオはあまり口数が多いほうじゃない。一つ一つの言葉に重みがある。低くて柔らかな発声。俺はリオの声を聞くと、なぜか落ち着く。
リオは、ギターバカな上に、ハードロックの話題になると止まらなくなる。女のくせに、正真正銘のメタラー。そっち系の音楽は隅から隅まで網羅している。あのヘヴィでうるさい音がたまらなく燃えるんだと。俺もそうだが。しかも、
「あたしは男目指してるんだ。」
と言う。意味分かんねぇ・・・。しかも、人が「可愛い」と言うと口を尖らす。「かっこいい」と言ってやると喜ぶ。変な女。基準がいまいち分からねぇ。ちょっとがさつだが、どう考えたって女だろ、お前。少なくとも俺にはそうとしか見えない。時々男の真似事みたいな態度をとるけど、実は甘えん坊だという事は隠していてもアイツの素行から何となく窺える。でも俺はそれに気付かない振りをしてやってる。
そんなリオに俺はいつの間にかハマっていった。一緒に話してると楽しい。その大きな瞳を見てるだけで胸が高鳴る。俺は意図的に二人だけになるようによくアイツを誘って授業をサボった。屋上でごろごろしながら音楽の話で盛り上がる、俺とアイツだけの特別な時間。普通二人きりでそんな事をしてれば、少しは特別な感情が生まれてくるもんだろう。でも、鈍感なアイツにはさっぱりそんな気配は感じられない。あくまで俺は友達なんだ。
てか、ホントアイツは無神経なところがある。ギターという繊細な楽器を扱う人間とは思えないほど。例えば消しゴム。アイツはトロいんだか消しゴムをよく落とす。そしてそれを拾いに行く時、四つん這いになって人の椅子の下に手を伸ばしてまで取ろうとする。普通、傍にいるヤツに取ってもらうだろ?あの短いスカートで四つん這いになってみろ。男どもがその後姿に釘付けだ。しかもケツが上がってるし・・・。
何人の男がアイツのあの突き上げたケツをオカズにして抜いてるのかと思うと、俺はとても平静ではいられなくなる。
早坂が「おい、見ろよ」とニヤけながら俺に目配せをした。案の定、またしてもリオが例のポーズで消しゴムを探していた。男たちの食い入るような視線。バカリオ・・・。俺は思わず早坂の襟元を掴んで言った。
「見んじゃねぇ・・・・・。」
つい、低い声を出してしまった。いつもクールで通っている俺らしくもなく。俺の気迫に早坂はビビッてフリーズしていた。他の奴らも慌ててリオから目を逸らした。それでいい。早坂は俺の気持ちに気付いてしまったかもしれない。でもアイツは露骨にそれを口に出さない、そういう男だ。てか、俺が無言の圧力でそうさせているのか・・・?
とにかく、俺はリオの困った行動をフォローするがごとく、アイツが消しゴムを落とすたびに率先して取りに行った。そんな俺は少し妙なヤツに見えたかもしれない。でもそんな事、どうでもイイ。
「サンキュー、優弥。」
アイツは何も感じる風でも無く単純に喜んでくれる。俺はただの親切な友達。
リオの事が好きになればなるほど、俺は友達でいようと妥協してしまう。告ったところでダメなのは予想がついていた。気まずくなるなら友達でいいじゃないか。俺は他の女に気を逸らそうという気にはなれなかった。リオほどの女がどこにいる?それはムリってもんだろ。俺は無駄に労力を費やさない主義だ。
そんな不器用な俺を放っておいて、早坂はさっさとカレンと引っ付いた。置いていかれた俺。しかもリオは軽音の怜先輩に狙われてると噂で聞いた。でも、ある日を境に怜先輩はオレはリオの兄だと宣伝し、他の女と付き合いだした。わけ分かんねぇ・・・。でも、いい。とりあえずあんたはリオと下らねぇ兄妹ごっこでもしてろ。近親相姦しなけりゃそれでいい。
俺たちは適当に遊んで時々一緒にバンドを組んだり、一緒にサボったりして楽しく高校一年を過ごした。だが、二年になったらリオと俺はクラスが別れてしまった・・・・・。
とたんに焦った。いつも授業中そっと見ていたリオの横顔も後姿も、隣のクラスにわざわざ観に行かないといけなくなった。これはちょっと不自然。早坂、俺とクラス交換してくれよ・・・・・。
そこで俺は一念発起してリオに告白・・・、てゆーか「付き合わない?」と友達らしく誘ってみた。それがいけなかったのか、アイツ、「ライブのときステージの上から告ってくれたら付き合う」と言いやがった。ふざけんなよ、ぶん殴られてぇーのかこの女。マジ、ショック・・・。こんな仕打ち、あまりにひどくないか?それで、その夜俺は独り枕を濡らした。ハンパじゃなく悲しかった。俺の本気を踏みにじりやがって・・・・・。
でも、俺は充電期間を経てすぐに復活した。そして、アイツのリクエストに応えてライブのときステージの上から告ってやった。まいったかっ。結果は大成功。それでアイツがすぐ俺に惚れたなんて事にはならなかったが、一応リオは俺の彼女になった。俺の幸せな毎日の始まり。
俺たちの関係は何となくそれなりに密接になっていった。でも、リオと付き合い始めて四ヵ月後の夏、俺はマジで振られるかと思うような事件を起してしまった。ライブの打ち上げで酒に酔い、俺は嫌がるリオを無理矢理抱いてしまったんだ・・・・・。
それからしばらく、リオは俺に対して今までのように対応してくれなくなった。キスもだめ。「やべぇ・・・」俺はマジでもう終わりかと思った。生きた心地がしなかった。
でも、結局リオは許してくれた。体ごと俺を受け容れてくれた・・・・・。
俺はリオをまともに抱いた時、「好きだ」と言った。
俺の中でリオに対する例えようも無いほどの愛しさが突然込み上げて来て、無意識に口からそうこぼれた・・・。
でも、リオからの俺への愛の言葉は聞いた事が無かった。それでも俺は、リオが俺の事を好きになってくれているということは、アイツの態度から何となく感じ取っていた。
リオが俺に始めて「好き」と言ってくれたのは、アイツを抱くようになって一ヶ月くらいしてからの事だ。はじめ痛がっていたリオは段々とそれもクリアし、次第にイイ反応をするようになっていった。俺は最初から変わらないけど、アイツは違うみたいだ。回を重ねるごとにどんどん違う顔を見せるようになっていった。
新しいリオを発見するたびに、俺は興奮で背筋をゾクゾクさせる。そんなある日、アイツは俺の背中に短い爪を立てながら言ったんだ。「優弥、好きっ・・・」って振り絞るようにして・・・・・。
俺はちょー舞い上がった。言葉では言い尽くしがたいほどの幸福感・・・・・、分かるか?
とたんに俺の中で、リオをめちゃくちゃに壊してやりたいっていう妙な欲望がメラメラと燃え上がった。リオはその日以来、必ず俺に抱かれている時に俺に愛の言葉をくれるようになった。俺は決めた。コイツを身も心も骨抜きにしてやるって・・・・・。俺無しではいられない体にしてやるって・・・・・。
そして今、リオは俺の腕の中にいる。俺の胸に顔を乗せて無邪気な顔で眠っている。リオの添えられた指先が時々思い出したように動いてくすぐったい。もう朝だけど、昨日一晩中体が砕けるほど愛し合ったから全然寝ていなかった。
リオは俺の声が好きだと言う。ライブでよくやるハイトーンシャウトがかっこいいって。俺もリオのシャウトが好きだ。ベッドの中で聞く、あのすすり泣くような、呻くような甘いハスキーボイス。マジ、サイコー。それを聞くと俺はいつも頭に血が昇り、すぐに天国に行っちまう。
リオは俺に悦びをくれる。安らぎをくれる。自信をくれる。
どうしようもないくらいに好きなんだ・・・・・。
リオのいる世界が俺の全て。もし、リオがいなくなったら俺、狂うと思う。俺の体は、もうそうなってる。リオと二人で過ごした時間が俺をそう変えてしまったんだ・・・・・。
先の事なんて分からないけど、今が楽しければそれでいいじゃん?バンドやって、飲んで、騒いで、エッチして・・・・・、ロックな毎日送ろうぜ。俺たちだけの世界で・・・・・。
気が付くと、いつの間にかリオが俺の胸に頬を押し付けて、寝ぼけ眼で見上げていた。
「起きてたの?」
寝起きの擦れ声で俺が聞くと、リオはゆっくり上半身を起しながら顔を近づけ、俺たちは柔らかく唇を合わせた。
口を離すと、虚ろな目で視線を絡めながら微笑みを返し合う。
「優弥・・・・・。」
「・・・・・うん?」
「あのね、リオ・・・・・、優弥が大好き・・・・・。」
「・・・・・俺も・・・・・、リオが大好き・・・・・。」
ふぅん・・・、と小さく声を上げ、リオが切なそうに目を細め、俺を見た。
俺の指は無意識に、剥き出しになったリオの胸の先端を巧みに弄んでいた。
リオの顔を引き寄せ再びキスをすると、俺たちはそのまま二人だけの楽園に帰って行った。
Hardcore Superstar → スウェーデン出身のバッドボーイズ系R&Rバンド。メタルっていうよりはハードロック。でも70Sパンク風の曲もあり。
(最初ここに「インフレイムス」と入れていたんだけど修正させてもらいました。)
Hardcore Superstar 『Wild Boys』 →
http://www.youtube.com/watch?v=cAp-MmGsF3c&feature=related
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